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第二百二十二話 蒼き狼と白き牝鹿その二
「それはね」
「そうね。モンゴル人だけね」
「あの生活って楽しいのに」
「不便じゃない?」
 ナンシーは怪訝な顔でナンに問うた。
「ゲルって要するにテントよね」
「ええ、そうよ」
「テント暮らしって。毎日だと」
「全然。携帯もパソコンもテレビもあるし」
「そういうのはあるのね」
「家具だって本だってあるし」
 普通にこう言うナンだった。
「それにおトイレはね」
「外でするのよね、確か」
「そうよ。外でね」
 実際にそうだというのだった。
「外でしてるわ、いつもね」
「公衆トイレよね」
「ええ、そこでね。それが近くにないと」
「その場合はどうするの?」
「携帯トイレがあるから」
 そうしたことはいつも考えての遊牧であるのだ。
「だからそれもね」
「平気なのね」
「そういうこと。もう全然平気よ」
「食べ物もあるしね」
「お金はカードで振り込んでもらえるし」
 実家からである。
「だから全然平気よ。それに気が向けばその度にね」
「移動するのね」
「それができるから」
 いいというのである。
「遊牧っていいわよ」
「ううん、そうなのね」
「それで狼よね」
 ナンはこの話に戻してきた。
「狼のことよね」
「そうそう、狼だけれど」
「モンゴルじゃ一番人気のある生き物よ」
 ナンは今度は純粋な笑顔になった。子供が好きな動物を語る、まさにそうした顔になってそのうえで話をするのであった。
「ダントツでね」
「ダントツでなの」
「鹿と並んでね。つまりはね」
「御先祖様ってことね」
「そういうこと」
 まさにそれであった。
「だからだし。それに」
「それに?」
「格好いいからね」
 それも理由であった。
「だからなのよ」
「ううん、成程ね」
「だからモンゴルじゃね」
「ええ」
「狼に家畜を食べられても」
 それでもだというのだった。
「それはいいのよ」
「いいの?大切な家畜なのに」
「狼に食べられるのは天の鳥分与」
 それだというのだった。
「だからそれでいいのよ」
「かなり独特な考えね」
「そうでしょ。それはよく言われるわ」
「モンゴル人ってとにかく狼が好きなのね」
「大好きよ」
 好きどころではなかった。大好きであった。
「本当にね」
「やっぱりそうなのね」
「狼が一番なのよ」
 それは一番だというのだ。
「モンゴルじゃね」
「虎とか豹はいないの?」
「ああ、森の生き物ね」
「モンゴルにもあるわよね、森」
 ナンシーはナンにこのことを尋ねた。
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