ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第三十二話 薬は恐ろしいその三
「思えば不思議だ」
「何が何だか」
「まあ気にしないで」
 それでもアンジェレッタだけは平気な顔をしていた。本人だけはである。
「大したことじゃないから」
「いや、充分凄いよな」
「全く」
 皆は納得しない。だからこそ言葉を続ける。
「ある意味セーラ以上に謎だよな」
「あれっ、そういえばセーラは」
 気付けば彼女もいない。そのことに皆気付いた。
「何処なのかしら」
「セーラならお寺に行ったぞ」
 ロザリーが説明する。
「ヒンズー教のな。何でも今日は外せないらしい」
「そうなんだ」
「はい。ですから分身を送ってきました」 
 突然ここでセーラの声が聞こえてきた。
「えっ!?」
 皆その声に思わず声がした方を見る。するとそこに確かにセーラがいた。
「たった今到着しました」
 セーラの分身はにこりと笑って述べる。外見は全く同じだ。
「たった今って」
「勿論私はわかっていますので」
「いや、それよりもさ」
「どうして分身したのか」
 皆はそもそも分身をしていること自体が理解不能だった。ジミーの風邪よりもこっちの方が問題であるとも言えた。少なくとも普通ではない。
「簡単なことです」
 セーラは平気な顔で言う。
「薬で分身しました」
「どんな薬、それって」
「絶対にまともな薬じゃないよな」
「ベッキーの妖術です」
 セーラの分身は答える。
「それでできた薬です」
「妖術って」
「何なんだよ、それ」
 さらに謎は深まる。少なくともここでも連合の常識とはかけ離れていた。マウリアの常識でもなさそうであった。
「ですから御気になさらずに」
「そうか」
「じゃあまあいいや」
 無理矢理納得することにした。いい加減考えても無駄だと思いだしたのだ。
 それで話はジミーの方に戻った。アンジェレッタもアンジェレッタで色々と風邪薬を出してきていた。そして不可思議な調合をはじめていた。
「これを混ぜていくとね」
 何か緑色の煙が出て来た。それも澱んだ緑だ。かなり嫌な色だ。
「そいじょそこいらの風邪なんか一発なんてなおるから」
「本当に?」
 ジミーはその不気味な煙を見ながら問う。
「何か」
「安心して」
 根拠のない言葉に聞こえた。
「明日から学校に行けるから」
「そうなの」
「なあ」
 薬の調合を見てロザリーがコゼットに囁いてきた。
「あれ、どう思う?」
「アンジェレッタの薬のこと?」
「ああ。かなりやばいだろ、あれ」
 彼女はそう見ていた。
「飲んだらそのまま昇天しそうだよな」
「確かにね」
 それにコゼットも頷く。
「あれはちょっと」
「だよな」
 ロザリーも真剣な顔で応える。
「あの煙は」
「煙だけじゃないわ」
「うっ」
 ロザリーだけでなく他の皆も声をあげた。異臭までしてきたからだ。
「こ、これは」
「本当にやばいんじゃないのか」
 皆その匂いを嗅ぎながら言う。
「だから安心してって」
 それでもアンジェレッタの言葉は変わらない。
「良薬口に苦しっていうし。私は薬のことなら何でもわかってるし」
「ううん」
「本当かな」
 それすらも信じられなくなってきた。
「緑色の薬ってなあ」
「それもああした緑は」
 草木の清々しい緑ではないのだ。ドロリとした、ヘドロを思わせる緑である。とてもいい緑には見えない。魔女の薬と言った方が近い感じであった。
「大船に乗ったつもりでね」
「泥船じゃなくて?」
 ジミーはアンジェレッタにそう返す。
「本当に大船?」
「信用してない?ひょっとして」
「いや、そうじゃないけれど」
 実はそうなのは内緒である。
「とにかく飲んで」
「何でしたら」
 何故かここでセーラの分身までやって来た。呼ばれもしないのに出て来たのだ。
小説・詩ランキングsite_access.php?citi_id=254078182&size=200cont_access.php?citi_cont_id=766008103&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。