第二百二十一話 ニホンオオカミその二
「それにこうしてよく寝るし」
「警戒心とかは」
「それもね」
この言葉にもう出ていた。
「不安な感じだね」
「そうなんですか」
「いや、こいつは特別だろうけれど」
今目の前にいるそのニホンオオカミがだというのだ。
「ニホンオオカミは元々羊とかは大きな動物はあまり襲わないしね」
「狼にしては小さいからですね」
「うん、それに」
後輩の言葉に応えながらさらに話す。
「あまり群れないし」
「狼なのにですか」
「ニホンオオカミは特別なんだ」
二人にこうも話すのだった。
「家族単位で生活しているんだ」
「あれっ、そうなんですか」
「狼なのに」
「森にいるじゃないか」
やはりここに行き着いた。ニホンオオカミと森は切っても切れない関係にあった。森こそがニホンオオカミを生み育むものであった。
「だから群を作るのもね」
「ないんですか」
「それで」
「そうなんだ。平原だったら作れるけれど」
「随分変わった狼なんですね」
ナンシーはこのことをつくづく実感した。
「本当に」
「だからかなり特別な狼なんだ」
大学生は今はそのニホンオオカミを見ていた。
「狼って言っていいのか不安になる時がある位ね」
「そこまでなんですね」
「実際にこいつもね」
そのニホンオオカミ自身をまだ見ていた。
「外見はこうして怖そうだけれど」
「実際は違うんですか」
「犬より大人しいんだ」
そうだというのである。
「それに優しい性格でね」
「優しいんですか」
「子供とかには絶対に吼えないよ」
「そんなになんですね」
「人懐っこいしね。こんな優しい奴ははじめてだよ」
「そこまで」
「いい奴だよ」
それは確かだと言ってだ。実際にそのニホンオオカミを温かい目でも見ていた。そうしてそのうえで二人に話をしているのである。
そしてだ。大学生は言った。
「よかったら何時でも見に来ていいからね」
「はい、それじゃあ」
「その時は」
「狼を番犬みたいに使ってみる」
大学生はこのことも話した。
「今僕達がやってみてることだしね」
「それで上手くいってるんですか」
「いってるよ」
後輩の言葉ににこりと笑った返事が返って来た。
「充分にね」
「それは何よりですね」
「食べるものさえ充分にあれば」
その場合はだというのだ。
「狼は本当に有り難い存在だよ」
「エウロパの童話とかじゃ悪魔みたいですけれど」
「まあエウロパの連中は貧しかったから」
温厚で頭がいいことがわかる大学生だったがそれでもだ。エウロパに対してはまずは悪意から入るのがやはり連合の人間であった。
「それに我儘な連中だしね」
「だからですね」
「うん、勝手に狼を悪者にして」
そうだったというのである。
「それでああいう風に書いてたからね」
「けれど実際は狼は」
「いい生き物だよ」
大学生の目がこれ以上はないまでに細まった。
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