第二百二十話 また鉢合わせてその一
また鉢合わせて
何とかアンとギルバートのいるオペラハウスの前から逃げ去ったナンシーは。肩で息をしながらデートの相手の後輩に対して言うのであった。
「これでね」
「大丈夫ですか」
「ええ、そう思うわ」
こう彼に答えた。
「完全ね」
「ええと、ここですけれど」
後輩は彼女の言葉を聞きながら周囲を見回した。そこは。
「サッカーグラウンドのところですね」
「あっ、そうね」
ナンシーも言われて周囲を見回すとだ。確かにその通りだった。実際にグラウンドではサッカー部の面々がランニングをしていた。誰がどう見てもサッカーの練習場である。
そこが何処かわかってだ。ナンシーは言うのだった。
「ええと」
「どうされますか?」
「デートを再開させましょう」
落ち着いた声になっての返事だった。
「これでね」
「再開ですか」
「そう、再開よ」
そしてだった。変装用の帽子とサングラスを取ってコートも脱いでだった。完全に元の自分に戻った。ついでに声も元に戻っていた。
そしてだ。ナンシーはその姿でまた話した。
「サッカーの練習を見ながらね」
「わかりました」
「やれやれね」
完全に落ち着いた言葉だった。
「一時はどうなるかって思ったわ」
「あの、先輩」
後輩はそのナンシーに告げた。練習はあまり見ていない。その分彼女を見ている。
「ちょっとですね」
「ちょっと?」
「焦り過ぎなじゃ」
こう言うのだった。
「幾ら何でも」
「そうかしら」
「そう思います」
実際にそうだともいうのであった。
「だってそこまで変装していたら」
「ばれないっていうのね」
「普通そうでしょ」
彼は現実から物事を考えて述べていた。
「違います?そんなの」
「甘いわよ」
しかしであった。今のナンシーはだ。その現実、もっと言えば常識が通じなくなってしまっていた。かなり焦ってしまっているからである。
「それはね」
「甘いって」
「人間何処からか見破られるかわからないのよ」
「そうなんですか?」
「007を見なさいよ」
この時代の連合では何故か日本のスパイになってしまっている。日本政府の特殊耕作機関に勤めているジェームス=ボンド=タニザキとなっているのだ。
「いつも相手を些細なことから見破るでしょ」
「エウロパのスパイをですよね」
「それと同じよ」
そうだというのである。
「だからね。私もね」
「それで注意してるんですね」
「そういうことよ」
こう後輩に話すのだった。
「何でばれるかわからないし。ましてや相手はクラスメイトだし」
「けれどそれでも」
「だから。相手は全員007なのよ」
こうまで言う。
「ばれる危険は考えておくべきなのよ」
「はあ、そうなんですか」
「その通りよ。ばれたら困るから」
何故困るかというとだ。自分が交際相手を持っているということがばれてしまうと恥ずかしいからだ。だからこう言っているのである。
「だからね」
「わかりましたって言うべきなんですね、ここは」
「そうよ、わかってね」
まさにその通りであった。
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