第三十一話 破天荒な兄その五
「だったらどうやって投げているのよ」
「目で合図するんだ」
「目で」
「ああ。俺が目で次のボールを言う」
「ふんふん」
パレアナとフローネはその話を聞いて頷く。何か話が一段上になってきていた。
「それでフランツは目で返事をするんだ。これでいいんだ」
「いいんだ」
「何か凄いですね」
「俺も実際にこんなことができるとは思わなかった」
タムタム自身もそれを言う。
「サインを出すのが普通だからな。しかしこいつとならできる」
「俺もだ」
フランツも言ってきた。
「俺達の間には何も要らない。サインなんてのはな」
「目と目でというわけだ」
「成程」
「そういうわけだったんですか」
「そうだ!」
フランツはまたしても大声で力説してきた。
「この俺のボールを受けられるのはタムタムだけだ!」
「確かに俺以外には無理だな」
それにタムタムも頷く。
「実際に俺もここまでのピッチャーは見たことも会ったこともない」
「俺達は何処までも!」
またしても力説する。かなりうざくもある。
「投げ続ける!」
「ということだ」
「だったらさフローネちゃん」
パレアナはここまで聞いてフローネに声をかけてきた。
「はい」
「一回やってみる?こいつに目で語り掛けるの」
「何か話がエスパーみたいですね」
「若しかしたらできるかもよ」
結構投げやりな感じである。そんなことができる人間はごく一部しかいないのがわかっているからだ。タムタムはキャッチャーとしては高校の中でもトップクラスとされている。そんな彼だからこそできることなのだ。
「諦めます」
フローネはあっさりとそれを断った。
「無理っぽいですから」
「そうなの」
「けれど」
しかし彼女は言う。
「何か負けたくなくなりました」
「馬鹿兄貴に?」
「いえ、タムタムさんにです」
「俺にか」
「はい。やっぱりお兄ちゃんのことよくわかっているんですよね」
「まあな」
彼はその質問にも答えてきた。
「バッテリー組んでるしな」
「私ずっと一緒にいてそれですから。やっぱり」
「まあ息合わせるのが大変な男だけれどね」
パレアナはまたしても横目でフランツを見てきた。
「家族でも難しいのはわかるわ」
「はい。けれど」
それでもフローネは決心したのであった。
「タムタムさんみたいに上手くやれるようになりたいです」
「物凄い暴れ馬を馴らす感じね」
パレアナはフランツを馬に例えてきた。しかも暴れ馬に。
「難しいわよ」
「わかってます、今までで」
これまでの生活はやはり伊達ではない。フランツの破天荒さはもう彼女も身に沁みてわかっている。だがそれでもあえてしようというのである。
「それでも。やってみます」
「やるのね」
「はい、タムタムさんに負けられません」
「俺か」
タムタムは妙な感じに思わざるを得なかった。
「何かな」
「まあいいじゃない。目標にされてるんだから」
「そう考えるといいか」
「そういうこと」
結局話はフローネの家族としての意識になった。それにしてもどうにも扱いの困る兄であった。フランツ本人には自覚がないのであるが。
破天荒な兄 完
2007・1・25
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