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第二百十五話 マウリア映画その十
 何故か仏像が出ていた。その仏像は。
「あれってヒンズー教の像なんじゃ」
「だよねえ、あれって」
「どう見ても」
「何故仏像がいきなり多量に出て来るかわからないけれど」
「しかも踊ってるし」
 またしても主人公及びヒロイン達と共に踊っているのである。
「何でヒンズー教の像?」
「まさかと思うけれど」
「ですから仏教はヒンズー教の一派です」
 またこう言うセーラであった。
「ですから。あの像でもいいのです」
「ううん、何か全然理解できないし」
「そうよね」
「あの踊ってる仏像って何処から出て来たのかな」
「どっからともなく急に出て来たし」
 しかも野外で二人と一緒に踊っている。周りは百花繚乱だ。
「これって本当に豊穣の海?」
「極楽浄土の世界?」
「何が何だか」
「はい、豊穣の海です」
 セーラだけが言う。
「それ以外の何だというのでしょうか」
「全然豊穣の海に見えないし」
「これじゃあ金閣寺とかどうなるのかな」
「想像できないけれど」
「こうなりますが」
 言いながら出してきたのはその金閣寺の一枚の写真であった。何とそこにあったのは黄金に輝くタージ=マハールであった。
「これですよね、金閣寺」
「ええとね、これってね」
「タージ=マハールだから」
「それ以外の何でもないし」
「ちょっと」
 皆目が点になっていた。
「黄金なだけで」
「全然金閣寺じゃないんじゃ」
「忠実に再現しました」
 だがセーラはこう主張する。
「如何でしょうか」
「どう突っ込んでいいのかな」
「だよねえ」
「もう言う気力がなくなってきたし」
「私も」
 皆少しずつ疲れてきていた。
「マウリアのスケールというか凄さに」
「どう観ても三島の世界じゃないし」
「この映画だって」
 映画を観ても疲れるのだった。
「二十時間あるし」
「何でそんなにあるのかも知りたいけれど」
「四部を一作にまとめるのは」
「マウリアでは普通ですが」
 セーラだけが疲れを見せていない。全く平気といった顔である。
「それは」
「じゃあニーベルングの指輪も一気に観るとか?」
「まさかと思うけれど」
「あの大作も」
「私は今まで十回あの作品を観ました」
 そのニーベルングの指輪をなのだという。
「ですが四回に分けて観たことはありません」
「じゃあ一回で?」
「あの作品を一回でって」
「それをいつもだっていうのか」
「はい、あの映画はそうして観るべきではないでしょうか」
 今度は自説を述べるのであった。
「十五時間位なら一気に」
「いや、それはないから」
「十五時間一気にっていうのは」
「それに」
 さらに話す。二年S1組のマウリア出身者以外の面々でだ。
「あの作品って一作一作長いよね」
「ジークフリートとか四時間以上あるし」
「ラインの黄金でも二時間半はあるよね」
「全部で十五時間」
「一日で観られる気力体力は」
 普通の人間にはない。少なくともそうおいそれと聴ける作品ではない。ワーグナーの作品は一作一作がそうなのであるが特にである。
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