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第三十話 秘密の花園その五
「壁に耳あり障子に目あり」
「何処に誰がいるのかわからない、ですか」
「そういうことよ。とにかく仕事を終わらせたら」
「ここでデートですね」
「ええ、いいわね」
 あれこれ言っている間にも書いている。その速さはやはり尋常ではない。
「よし」
 そして遂に声をあげた。
「終わったわ」
「相変わらずの速さですね」
「文章が自然と頭の中に浮かんでくるのよ」
 ナンシーは彼氏にこう述べた。
「自然にね」
「凄いですね。僕はとてもそんなには」
「まあ馴れよ」
 またこう述べてきた。
「そういうこと。いいわね」
「馴れですか」
「とにかくこれも経験だから」
 そしてこうも言う。とにかく彼女にとっては造作もないことなのである。
「書いていけばいいわ。そうすれば普通に書けるようになるから」
「ですか」
「それでね」
 話は続く。
「書けたわ。それでわかるわね」
「ええ」
 彼はその言葉に頷く。
「それじゃあ」
「ええ、デートよ」
 ナンシーは立ち上がって言ってきた。
「いいわね」
「はい。じゃあまずは」
「あっち行きましょう」
 すぐに彼と手を絡み合わせて声をかけてきた。その間の時間が全くない。見事なまでの速さであった。
「あのお花畑のところ」
「チューリップのところですね」
「そうよ」
 彼氏の言葉にこくりと頷く。
「そこで二人ね。並んで」
「はい」
 妻唱夫随と言うべきであおるか。完全にナンシーのリードであった。けれどナンシーは彼にべったりと寄り添っている。そこが普通の妻唱夫随とは違っていた。もっとも実際にこうしたカップルは多いのかも知れない。特に男の場合は口では色々なことを言っても実際は妻や彼女に頼りきりというのが多いのである。
「行きましょう。いいわね」
「わかりました」
 ナンシーの言葉に従う。こうしてチューリップのところに向かう。
 様々な色のチューリップが咲き誇っていた。二人はその中を進んでいく。
「どう?」
 その中でナンシーは彼氏にそっと囁いてきた。
「いいでしょ」
「ええ」
 彼氏はその言葉に頷く。丁度横に白いチューリップがあった。
「白ですね」
「白だけじゃないわ」
 ナンシーは言ってきた。
「赤だってあるし黄色だって」
「色々あるんですね」
「オレンジも。青も」
 青いチューリップは品種改良の結果である。これが完成するまでに実に多くの労力と技術が消費されているのである。これは青い薔薇と同じだ。実は青い花というのは少なく人工で造られたものも多いのである。元々チューリップや薔薇には青い色素を抑える要素がありその辺りが厄介なのである。
「紫だってあるわよ」
「そうですね。あっ」
 ここで彼はふと思った。それでナンシーに対して言ってきた。
「そうだ先輩」
「どうしたの?」
「お花の中ですよね」
「ええ。だから来たんだけれど」
 言うまでもないことだ。しかしそれでも彼は言う。そんな彼を見て彼女はキョトンとしてしまった。それでついつい言うのであった。
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