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第三十話 秘密の花園その二
「携帯でメール打ってるよ」
「そうなの。何かねえ」
「彼氏にだね」
 彼は言った。
「これは予想だけれど」
「待ち合わせね」
 カトリは自分達もそうなので言う。
「それの変更ってところね」
「多分」
「じゃあさ、マルティ」
 カトリはそこまで話したところで彼氏に声をかけてきた。
「何?」
「私達もここから消えない?」
「何でまた」
 問い返す。
「だってよ。彼女に気を使わせてるじゃない」
「そうか」
「そうよ。それじゃ気分が悪いわ」
「そうだけ。けれど」
 しかしマルティはここで意外なことを言うのであった。カトリはそれに顔を向ける。
「どうしたの?」
「僕達のことも別に秘密じゃないけれど」
「そうね」
 カトリは少し苦笑いを浮かべてきた。それから述べた。
「それでも少し秘密になってるわね」
「どうしてかな」
「やっぱり恥ずかしいわよ」54
 苦笑いを浮かべたままこう述べてきた。照れ臭さもそこには混ざっていた。
「皆に堂々と言うのは」
「そうか」
「私はね。だから」
「少しずつわかればいいか」
「そう思うけれどね」
「そうだね、それでいいね」
 マルティもそれに頷いてきた。
「けれど」
「けれど?」
「ナンシーはそうは思っていないみたいだよ」 
 相変わらず必死でメールを打っているようであるナンシーをまた指差した。
「ほら」
「ううん、意外と言えば意外ね」 
 カトリは言う。
「あの娘がそうしたところあるなんて」
「結構アンに似てるかな」
 マルティは考えながら述べた。
「そういうところって」
「どうかしら」
 それを聞いてカトリも考える顔になってきた。
「その辺りは」
「ツンデレって言うのなら似てると思うけれど」
「タイプは違うけれどね」
 ツンデレと言ってもそれぞれタイプがある。アンのそれは素直ではなくナンシーのそれは二人きりになると態度が変わるというものである。それぞれ全く違うのだ。
「言われてみればそうかも」
「そうだろう?けれどあれだと」
 彼はさらに言ってきた。
「ばれるよ、すぐに」
「ばれる?」
「うん、だってあんなにわかりやすいから」
 彼は述べる。
「すぐにさ」
「ううん」
 カトリはそれを聞いてまた考える顔を見せてきた。
「意外と不器用なのよねえ」
「そうそう」
 マルティはその言葉に頷く。
「本人が思っている以上に」
「わからないのかしら」
 それでもカトリはそれを不思議に思う。
「あれでわからないって」
「本人がそれを認めないだろうね」
「困ったものね」
 ふう、と溜息を出す。
「自分でわからないと。周りはすぐわかるのに」
「自分では案外わからないものなんだよ」
 マルティの言葉はかなり哲学的であった。そこが実に意外で面白いものであった。
「ナンシーだってそうだよ」
「そうなの」
「そうさ」
 彼は言う。
「それにしても」
 マルティはもう一つ思うところがあった。
「ベッキー今度は何処にデートに行くつもりなんだろう」
「どちらにしろ私達がいないような場所でしょうね」
 それだけははっきりとわかった。
「けれどそこにもね」
「だろうね。僕達もそうだったし」
「本人がそれに気付かないのが」
「困ったものだよ」
 ナンシーは後輩の彼氏とメールで必死にコンタクトを取った。その後のこっそりとした打ち合わせの後で二人だけでデートに出るのであった。表向きは新聞部の取材である。二人は一応表向きはコンビを組んでいるのだ。ナンシーが彼の指導役ということであり厳しく教育している、ということになっている。皆そう思っているが実際は違うのである。
「はい」
 今日の取材の途中でナンシーは彼氏にあるものを差し出してきた。それはソフトクリームであった。コバルトブルーのアッカド原産の青梨を使ったソフトクリームである。
「駆って来たわ」
「あ、すいません」
「私のおごりよ」
 ナンシーは彼氏を見上げて言ってきた。
「どうぞ」
「何かいつも悪いですね」
「いいのよ、それは」
 そっと彼氏の右手に自分の左手を絡ませて言ってきた。
「だって先輩だから。それはいいのよ」
「そうなんですか」
「それよりね」
 ナンシーは身体をそっと寄せてきて言う。
「今日のデートだけれど」
「はい」
 彼氏はそれに頷く。
「公園なのよ」
「公園ですか」
「お花畑が凄く綺麗でね」
 彼女は言う。
「それを取材しに行くのよ。それでね」
「写真部の人にも来てもらえばよかったですね」
「駄目よ」
 何故かそれはすぐに断ってきた。
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