第二十八話 素直じゃないのかそれともその四
「それで?」
「うん、実はな」
「彼女から何か言ってきたの?」
「そんなのはいつもだ」
「いつも」
ビアンカの動きがさらに止まる。かなり真剣なものになっていた。
「いつもなのね」
「ああ、あれだこれだと言われている」
「そうなの」
「知っていると思うが」
「まあね」
真剣な顔で頷く。その表情は変わりはしない。
「一応は」
「それがどうしてかわからないのだ」
彼は言う。
「僕が何かしたのか?彼女に」
「それははっきり言うけれど」
「うむ」
ビアンカの言葉を待つ。
「何もしていないわ」
「そうだな。やはり身に覚えがない」
「そこなのよ」
「!?」
ビアンカの言葉に目を向けてきた。
「そこなの。わからない?」
「どういうことなのだ、一体」
「だからね、身に覚えがないんでしょ」
「うむ」
その言葉に再び頷く。
「そこなのよ。わからないかしら」
「言っている意味がわからないのだが」
彼は戸惑いながら述べる。
「どういうことなんだ、一体」
「だからね、ギルバート」
ビアンカは汲んで聞かせるようにしてギルバートに対して語る。顔も真剣なものになっていた。
「何もしていないのよね、アンに」
「意地悪も何もしない。僕はそういうのは嫌いだ」
生真面目な彼らしいと言えばらしい。
「わからないかしら」
「わからないとは」
余計に話が見えなくなってきているといった顔になっていた。ビアンカはそれを見てこれはまだ駄目だと思った。
しかしそれは顔には出さない。あくまでその顔を崩すことなく話を進めるのであった。
「いい?」
「うむ」
またビアンカの言葉に頷く。
「アンの様子をよく見ることよ」
「アン君の」
「そう。そうしたらわかると思うから」
言いながらどうせ駄目だろうとは思っていた。だがそれでも言ったのである。
「いいわね?」
「やってみる」
ギルバートはそれに頷く。彼はわかったつもりであった。
「アン君の様子をだな。わかった」
「ただし」
ここで付け加えてきた。
「彼女鋭いから気をつけてね。見破られたら終わりよ」
「わかっている。それは気を着ける」
「本当によ」
くどいまでに念を押す。
「本当に気を着けてよね」
「うん。よくわかった」
そこで頷いて顔をあげ立ち上がってきた。
「邪魔をした。それじゃあ」
「まあアンもさ」
「むっ!?」
その言葉にまた動きを止めてきた。そのうえで問う。
「どうしたというんだ!?それで」
「見ていればわかるよ」
ビアンカは述べる。
「よくね。じっくりと時間をかけてね」
「じっくりとか」
「焦ったらね。かえって駄目になるから」
語るその口元が笑ってきていた。
「いい?」
「余計にわからなくなった」
ギルバートはまた言った。
「何が何なのか」
「だからよく見ていけばいいから」
リラックスしてきたのかまた牛乳を飲みはじめた。やはり凄い吸引であった。
「いいわね」
「わからなくなったがやってみる」
そう言うしかなかった。今のところは。
「それでいいんだな」
「そういうこと。じゃあね」
「うん」
ギルバートは屋上を後にする。こうしてビアンカは一人になった。
「やれやれ」
一人になるとふう、と息を吐き出してから言った。
「アンも大変ね。これは」
ギルバートではなくアンを気遣う。これはどういうことだろうか。不思議と言えば不思議であった。
「あんなに鈍感だとね。まあ男って鈍感だけれど」
ビアンカが言うと意味深な言葉になる。それが持ち味だった。
「どうにもね」
食事を終え教室へ向かう。そこへマルコとセドリックがやって来た。
「あのさ」
「委員長のことよね」
「あっ、わかる?」
「顔に書いてあるわ」
楽しそうに笑って二人に返した。
「どう?ギルバートのことだからもうじっと見出したりしてるんでしょ」
「その通り」
「流石にわかってるね」
「あれでかなり単純だからね」
彼女はもう全部お見通しなのであった。だから笑っているのだ。
「それでよ」
「うん」
そのうえで話は続く。
「どうなるかな」
「さてね」
ビアンカはマルコの言葉に楽しそうに首を傾げる。
「とんでもないことになるかもね」
「どうかな。アンも素直じゃないし」
「これからってことね、本当に」
「そうだね」
またビアンカの言葉に頷く。それからまた言うのであった。
「さてさてあの二人」
「これから面白くなりそうね」
種は撒かれた。後はそれがどうなるかであった。話はこれからであった。
素直じゃないのかそれとも 完
2007・1・9
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