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第二十八話 素直じゃないのかそれともその三
「普通は気付くよな」
「絶対にね」
 セドリックはマルコに答える。
「誰が見たってわかると思うけれど」
「わからないのはあいつだけだな」
「そうみたいだね」
 セドリックの声は呆れたものになっていた。もうギルバートは教室から出てしまっている。
「あんなに鈍感だったなんてな」
「アンも大変だね」
「しつもあいつで問題があるんだけれどな」
 マルコは腕を組んで難しい顔で首を傾げていた。
「素直に言わないから」
「そうだね、本当に素直じゃないよね」
「全く。どっちもどっちだよ」
 マルコはあらためて述べた。
「ややこしいことこの上ないっていうか」
「どうしたものかね」
「そのうちどうにかなるだろうね。なるんだったら」
 マルコの言葉はかなり投げやりなものであった。
「見ている方が疲れるけれど」
「けれど楽しいね」
「まあそれはな」
 セドリックのこの容赦のない言葉には思わず笑ってしまった。
「見ているぶんには」
「本人は必死だけれどね」
「しかしあれだけ必死でも」
 腕を組んで首を右に捻る。
「わからないんだね。それで気付かない」
「そういう場合は立ち止まればいいんだけれどね」
 セドリックは言う。
「そうすれば周りが見えるようになるから」
「そうか」
「そうだよ」
 彼はマルコにもそう述べる。
「サッカーだってそうでしょ?ピンチの時こそ落ち着いて周りを見ろって言われない?」
「確かに」
 その言葉に頷く。
「コーチにな。いつも言われるよ」
「そういうことだよ。スポーツだってそうだし」
「フランツは別だけれどな」
「彼はまたね」
 またしても辛口の言葉が出て来た。
「言ってもわからないんじゃなくて頭の中に入らないから」
「難儀だよな、本当に」
 フランツがかなりあれなのもまたクラスでは常識である。考えるという機能が元々インプットされていないのではないかとさえ言われている。そうした男なのである。
「あいつもまた」
「まあ彼にはタムタムがいるけれど」
 名キャッチャーである。野球はピッチャーだけでするものではない。キャッチャーも重要なのだ。バッテリーの相性でそのピッチャーの能力や成績が大きく変わることもあるのである。
「あいつも大変だな」
「何とかなってるみたいだよ。ピッチャーとしての能力は高いから」
「僕だったらあいつのリードは嫌だな」
 マルコは言う。
「サイン覚えそうにないから」
「そうだよね、絶対に」
「どうやってリードしているんだろうな」
「それも謎だね」
 謎がまた一つ出たがそれは解決されない。ギルバートはそのまま一直線にビアンカのいる屋上へと突き進んでいったのであった。まるで疾風のように。
「何の用?」
 彼女はそこの日の当たりのいいところに座って昼食を食べていた。各種のパンと牛乳といったよくある組み合わせのメニューであった。
「相談したいことがある」
 ギルバートは彼に述べてきた。
「いいか?」
「何?言っておくけれど」
 彼女はパックの牛乳をストローで飲みながら話を聞いていた。何か飲む早さが尋常でないように見えるのは気のせいであろうか。
「告白とかなら受け付けないわよ。他を当たって」
「いや、それはない」
 ギルバートはそれはきっぱりと断ってきた。
「安心してくれ」
「そう、面白くないわね」
「今何て言った?」
「ああ、気にしないで。それでね」
「うん」
「何について相談してきたの?」
「うん、実は」
「まあ座って」
 ここでビアンカはこう声をかけてきた。
「どっちにしろ落ち着いて話しましょう」
「あ、ああ」
「まあ好きなところにね」
「わかった。じゃあ」
 彼女の前に腰を下ろした。そのうえで向かい合ったまま話をはじめた。
「実は人間関係のことで悩んでいる」
「その暑苦しさのせいで?」
「君もきついな」
 ビアンカの言葉に顔を顰めてみせる。
「セドリックと同じことを言うな」
「だって本当じゃない。少しは涼しくしたら?」
「・・・・・・まあいい。それでだ」
「ええ」
 それは有耶無耶になって話が続けられた。かなりギルバートの思うように話を進めようとしているのがわかる。
「アン君のことでな」
「アンのことで」
 それを聞いたビアンカの目の動きが止まった。そしてギルバートの目を見た。牛乳を飲む動きまで止まっていた。それから見るにビアンカはそこにかなり重要なものを見ているかのようであった。
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