第百九十六話 豚肉は駄目その一
豚肉は駄目
蝉玉はスターリングのマルコムエックスの話を聞いたその日。部活のバスケ部の練習が終わってからそのうえで皆に対して言うのだった。
「ねえ」
「んっ、どうしたの!?」
「何かあったの?」
「あのね」
こう皆に話しはじめる。
「皆豚肉食べるわよね」
「ええ、まあ」
「そうだけれど」
皆はすぐに返事を返してきた。
「私豚好きだけれど」
「私も」
「スペアリブがいいわよね」
「豚バラ煮込みもね」
「そうよね。皆食べるわよね」
蝉玉も皆の話を聞きながら頷く。まだバスケの服を着ている。青い爽やかな格好である。
「豚肉は」
「私イスラムだけれどね」
一人の黒人の少女がここで言う。
「それでもね。食べるわよ」
「今時ね。ムスリムでも食べるわよね」
「そうそう」
「アッラーにお許しを言えばいいのよね」
このことは連合ではあまりにも有名だった。連合のムスリム達はアッラーに許しを言うことで豚肉なり鱗のない魚なりをふんだんに食べているのである。
「それでいいのよね」
「サハラとは違って」
「うん、そうよ」
その黒人の少女も皆の言葉に応える。
「ちなみに私日本人だけれどね」
「日本だったらお魚も多いしね」
「食べてるよね」
「うん、今日もお魚らしいから」
黒人の少女はまた言う。
「鰻だって」
「鰻ね。あれもいいわよね」
「美味しいわよね」
「今じゃどんな宗教でも皆色々なものを食べてるわよね」
蝉玉がここでまた言った。
「本当に皆色々」
「ユダヤ教徒の人は別だけれどね」
「食べ物じゃないけれど同性愛だっていいしね」
「別に」
「そうよね」
蝉玉は話を聞きながらまた述べた。
「別にもうそんなのないわよね」
「そう、ないわよ」
「ねえ」
「今時は」
「マルコムエックスみたいなことって食べ物でもないのね」
このことをあらためて思ったのだった。
「豚肉食べたら駄目とかそういうのは」
「まあマウリアじゃ牛肉駄目だけれどね」
「菜食主義者多いらしいわね、あそこ」
「そうそう、だからスリムな人が多い」
マウリアの肥満率は連合より低い。
「鶏肉がメインらしいし」
「あれも宗教からだからね」
「ヒンズーね」
「連合にはヒンズー教の人殆どいないし」
あくまでマウリア限定の宗教なのである。地域宗教と呼ばれているものだ。
「牛肉はまあ関係ないわね」
「連合だしね」
「あれはね」
「しかし連合は」
そのことをあらためて話す。
「そういう戒律って殆どないわよね」
「どのお肉もお野菜も好きなだけ食べられる」
「もうどんなものもね」
「何でも」
「そうよね」
また話す蝉玉だった。
「それはないし」
「蝉玉は中国人だから豚肉好きよね」
「そうよね」
「ええ、それはね」
蝉玉は皆の問いにこくりと頷いて答える。
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