第二十七話 草原の料理その五
「ないわよ、それも」
「うわ」
「それはかなり」
「シンプルだったのよ」
ナンは少し楽しそうで、それで寂しそうな笑みを浮かべて言ってきた。
「草原の生活は」
「そうだったのか」
「あれだけの大帝国を築いたから凄い贅沢してるかと思ったけれど」
「確かにそういう時もあったかも知れないわね」
遠い昔の話であるように感じられる。実際にそうなのであるがどうにもやりきれなさも感じさせるものであった。それが草原らしいと言えばらしかった。
「けれどね」
彼女は言葉を続ける。
「ずっと素朴な生活をしていたのよ、私達モンゴルの御先祖様って」
「ふうん」
「草原でね。その血が私にも流れているのよ」
「何か急に街中にいるような気分じゃなくなってきたな」
ダンはそこまで聞いて言ってきた。
「草原にいるみたいだ」
「そうだね」
ジョンがそれに頷く。
「何かね」
「ううん、私はそうじゃないけれどね」
ナンは二人の言葉には苦笑いで返した。彼女の感性は違うらしい。
「やっぱり草原は違うのよ」
「そうか」
「うん。広くてね。何もなくて」
言いながら上を見上げる。まるでパオの天井の上にあるものを見ているかのように。
「青い空と緑の草原が何処までも広がっていてね。夜は星空が」
「綺麗ね」
「綺麗よ。本当に広くて」
ナンの目は今その空と草原を見ていた。見ているだけで優しい気持ちになるようであった。
「凄いんだから」
「この星にはそうした場所ないのよね」
彰子がぽつりと述べた。
「残念だけれど」
「そうね。けれど」
ナンはそれを聞いたうえでまた言う。
「それでもいいよ。だって」
「だって?」
「草原はいつも一緒だから」
声が懐かしむものになった。
「私とね。いつも一緒なのよ」
「心にか」
「うん」
今度はダンに答える。
「そうよ。いつも一緒」
笑顔になっていた。その顔が実に明るい。まるで大空の太陽のように。
「心にね」
「そうか」
「いいわね、そういうのって」
パレアナはその話を聞いてにこにこと笑っていた。
「魂の故郷ってわけね」
「いいこと言うわね」
これにはナンやジュディだけでなくクラスの皆も感心する言葉であった。
「それって」
「だってね」
パレアナは顔を赤くっせていた。結構酔っているらしい。しかしいい酔い方であった。
「ナンの顔見てたら」
「そうなの」
「そうよ。そう思えるわ」
「有り難う」
ナンはあらためて彼女に礼を述べた。
「そう言ってもらえると有り難いわ」
「いいわよ、それは」
だがパレアナはそれには笑って返す。
「別に。思っただけだし」
「けれどね」
「それより飲みましょうよ」
しんみりとしたところでジュディが言う。いいフォローであった。
「細かいことは忘れてね」
「そうね、皆で」
「パーーーーーーッとね」
後は皆にで華やかにであった。馬乳酒は皆の心をも楽しくさせる魔法の飲み物となったのであった。
草原の料理 完
2007・1・5
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