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第百八十七話 入部その五
「実はね」
「それでおわかりになられるんですね」
「ええ、そうなの」
「私の声の域も」
 話が戻った。そうしてだった。
「おわかりになられて」
「今丁度レッジェーロの娘が一人しかいなくて」
「それで私をスカウトってなったんですね」
「そういうことね。歌手って中々揃わないのよ」
 先生の顔が困ったものになる。少しずつ曇ってもきている。
「こういう言葉があるのよ」
「はい?」
「ワーグナーを演奏できる指揮者は常に何人もいるのよ」
 そうした指揮者はだというのだ。言うまでもなく指揮者はオペラの中でも非常に重要な位置にある。オーケストラの演奏を指揮するからだ。
「けれどね。歌手はね」
「そうはいかないんですか」
「これはテノールの話だけれど」
 これも明香と同じ言葉だった。先生に自覚はないが。
「歌手は五人とはいないのよ」
「歌手はですか」
「そう、ワーグナーを歌えるテノールはね」
 それはだというのだ。
「いないのよ」
「世界に五人といないのですか」
「これは地球の頃のお話だから」
「今はもうちょっとですね」
「それでも一つの惑星に五人いるかどうかでしょうね」
 どちらにしても非常に少ないというのである。
「ワーグナーのテノールを全て満足に歌える人は」
「そんなに少ないんですね」
「そうなの。歌手はそれだけ少ないのよ」
「そうなんですか」
「確かな歌手はね」
 それはだというのだ。
「特に学園の歌劇部だとね」
「余計にですか」
「明香ちゃんにしても」
 他ならない彼女の妹のことも話に出て来た。
「よくいてくれたって思ってるわよ」
「よく、ですか」
「そうよ、よくよ」
 こう姉である彰子に話す。
「よくいてくれたわ」
「明香も」
「コロトゥーラはワーグナーテノール、ヘルデンテノールと同じ位貴重なのよ」
 先生の言葉はかなり深刻だった。そうだというのだ。
「だから余計にね」
「有難いんですか」
「有難いわ。それに貴女もね」
「私もなんですか」
「オーケストラのメンバーもそれは同じよ」
 彼等もだという。先生はあくまで人材を求めている。そうした意味では先生はかなり貪欲である。人材収集という面においてはである。
「それはね」
「皆ですか」
「何かが一つ欠けても駄目なのよ」
 条件はさらに厳しいものになっていた。
「一つでもね」
「一つでも」
「そう、そして彰子ちゃんもその一つになってね」
「わかりました」
 先生のその言葉に頷いてであった。
 そのうえで練習に参加する。ジャージ姿になって舞台で歌うとだった。
「へえ、流石は」
「スカウトされただけはあるよね」
「確かにね」
 周りの皆も彼女のその歌を聞いて言う。
「上手いし」
「声も綺麗だし」
「声量もあるし」
 声量もいいというのだ。声量は歌劇場で歌う場合にはどうしても重要になってしまう。声量が小さいと果てまで届かないからだ。
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