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第二十五話 手綱は誰の手にその三
「不吉な影が見えます」
「またかよ」
 ルシエンはその言葉に顔を顰めさせた。
「一体誰がさっきから」
「私です」
「私ですって一体・・・・・・んっ!?」
 その場に急に姿を現わしたのは。何とセーラの従者の一人ベッキーであった。三人が話している席にまるで霧の様に姿を現わしたのである。
「なっ、ベッキー」
「何時の間に」
 ルシエンだけでなく他の二人も彼女が姿を現わしたのを見て驚きの声をあげた。
「私に聞こえないものはありません」
「いや、それ答えになってないから」
「それでいて妙に納得できるがな」
 トムとマチアはそれぞれ言う。
「ルシエンさん」
「俺かよ」
「はい、貴方に不吉なものが見えます」
 ベッキーは何か怪しげな水晶球を出してきて述べる。
「これはまるで。この世の終わりのような」
「あんた、占い師だったのかよ」
「はい」
 ベッキーは彼の言葉に頷く。
「これもまた魔術の一貫なのです」
「魔術ねえ」
 何か話が急に妙な方向にいっている気がしたがそれでもその話を聞くことにした。というよりは妙に気になって離れられないのである。
「今日の夕方ダンプに撥ねられます」
「っておい」 
 あまりにもダイレクトな占いなので思わず突っ込みを入れた。
「滅茶苦茶不吉じゃねえか。洒落になってねえぞ」
「だから申し上げたのです」
 ベッキーは言う。
「このままですと貴方は全治半年の大怪我です」
「生きてるのかよ」
「サイボーグになって」
「・・・・・・どっちにしろ碌なもんじゃねえな」
 本当に不吉な内容なので言い返す言葉もない。
「ですがそれから逃れる方法もあります」
「あるのか」
「はい、あります」
 ベッキーはその言葉に返してきた。
「それはですね」
「ああ」
 固唾を飲んで彼女の話を聞く。とりあえず難を避ける為にはどんなことでもするつもりであった。
「今日のお昼に食堂でカレーを食べるのです」
「おい」
 それを聞いて思わず聞き返した。
「何だそりゃ」
「ですからカレーを食べるのです。それも超激辛カレーを」
 ベッキーは言う。
「三杯食べるのです。そうすれば貴方は難を逃れられます」
「どういった原理でそうなるんだよ」
 あまりにも訳がわからないのでまた聞き返した。
「カレー食って交通事故を避けられるのかよ」
「その通りです」
 ベッキーはそれでも言う。
「わかりましたね。ダンプに撥ねられなくなければ」
「何かな」
「とりあえずさ」
 それを聞いてトムが言ってきた。
「お昼になったら食堂行こう」
「そうだよな。まずはそれだ」
 マチアもトムの言葉に頷いてきた。
「食べて難を避けよう」
「ああ。しかしよ」
 ルシエンはそれでも腑に落ちないものを感じずにはいられなかった。それでまたベッキーに対して言ってきた。
「カレーを食うんだよな」
「そうです」
 返事は変わらない。
「それも超激辛カレーを」
「何かわからないけれどわかったよ」
 その言葉にまた頷く。
「じゃあお昼な」
「はい」
「それでさ」
「何か」
 ルシエンはまだ引っ掛かるものがあったのでまたベッキーに尋ねた。
「それって日本のカレーなのか?」
「いえ」 
 その言葉には首を横に振るベッキー。そして言う。
「カレーといえばカレーです」
「ああ、そういうことか」
 マウリア人が言うカレーとはマウリアのカレーである。連合各国のカレーはカレーではないと主張する。それがマウリア人のこだわりであった。
「わかったよ。じゃあ昼にな」
「わかりました」
 こうしてルシエンはカレーを食べることになった。話は何か訳のわからない方へと流れていく。そしてそれを誰も止めようとはしない。
 お昼である。ルシエンは食堂にいた。
「超激辛カレー下さい」
「あいよ。日本風かい?」
「いえ、マウリアの」
 やたらと巨大で洒落た内装の食堂であった。床は木でありそれが木製の椅子やテーブルと実によく合っていた。
 ルシエンは今その食堂の中にいた。他のクラスメイト達も一緒である。
「じゃあよ」
 彼はテーブルにそのカレーを持って来て座ってから言った。
「食べるか」
「はい」
 それにベッキーが最初に答えた。
「それでですね」
「まだあるのか」
「はい。これをカレーにかけて下さい」
「タバスコかよ」
 ルシエンはベッキーが手に持っているものを見て顔を顰めさせてきた。
「これとですね」
「ああ」
 嫌な予感をそのままに話を聞く。
「これと」
「コチュジャンに」
「これです」
 次は唐辛子そのものであった。
「これを全部かけて下さい」
「・・・・・・ちょっと待て」
 いきなりカレーに思いきり入れてきたので思わず声をかけた。
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