第二十五話 手綱は誰の手にその二
「馬を射てどうなるかだ」
「メイミーか」
「あそこのお姉さん達は人気が高いだろ。メイミーはそれをいつも気にしている」
「そういやそうだな」
それも言われてやっと気付く。
「だったら下手に矢を射たら」
「かえって藪蛇か」
「そうだ。若し狙うのなら慎重に行けよ」
「直接行った方がいいんじゃないの、それじゃあ」
トムは話を聞いてふと思ったことを口にした。
「メイミーは手強いよ、そう簡単には」
「直接行って陥落させる自信があるならいいぜ」
ルシエンはまた笑みを浮かべてこう言ってきた。
「それでできるんならな」
「随分意地悪い言い方だね」
「そうかな。けれどメイミーは確かに手強いな」
「ああ」
「どうこうすることも出来ないかも知れない」
「何だよ、それって」
マチアはあらためて口を尖らせてきた。
「結局駄目って言ってるのと同じじゃないか」
「だからよく見ろって言ってるんだ」
ルシエンは口を尖らすルシエンにまた言った。
「その馬にしろだ。絶対に射抜く方法があるんだからな」
「そうか」
「そうさ。急げば回れ」
また諺が出された。
「慎重に行くのも大事だぜ」
「わかったよ。じゃあここは落ち着いてか」
「そういうことだ。まあ頑張りな」
「けれどさ、ルシエン」
ここでトムがルシエンに声をかけてきた。
「何だ?」
「何か凄いしっかりしたこと言うけれどさ。今」
「ああ、そうだろ」
その言葉に不敵に笑って返してきた。
「ルシエン自身はそうじゃないよね」
「むっ」
「あっ」
その言葉を聞いてマチアも気付いてきた。二人は同時にルシエンを見やってきた。
「そういえばそうだな」
「そうだろ?いつもアンネットに突撃して」
「将を射るには、って言ったらこの場合はやっぱり」
「おいおい、俺の言葉を聞いていなかったのか」
しかしルシエンはまたしても不敵に笑って言葉を返してきた。
「さっき自信があればって言ったよな」
「うん」
「そういえばそんなことも言ったな」
二人の返答はそれぞれであった。これが個性というものであろうか。
「俺は自信があるんだよ」
ルシエンは遂にと言うべきかやはりと言うべきか堂々と胸を張り腕を組んでこう豪語してきた。
「アンネットを彼女にする絶対の自信がな。だからダニーにアプローチしたりとか策は用いないんだよ」
「じゃあ絶対にアンネットの彼氏になるってこと?」
「そうだ」
トムの問いにも絶対の自信が見られた。
「何があってもな」
「そうなんだ」
「しかしな」
マチアはそんな彼に対していささか冷めた言葉を投げ掛けてきた。
「そう上手くいくかな」
「いく」
その返答もこれまた絶対の自信に満ち溢れていた。
「何があってもな」
「ふうん」
「そうなのかな」
しかし二人の言葉はどうにも懐疑的なものであった。それでもルシエンの態度は不変であるのがかえって物凄い。
「とにかくだ!」
彼はまたしても力説する。
「アンネットは俺のものだ!俺以外の誰にも渡さない!」
「何かそこまで言われるアンネットって」
「かえって幸せかもな」
「まあここで俺に愛されてるから幸せだって言えば傲慢かな」
「誰だよ御前ってなるよ、それ」
「同感」
トムとマチアはそれぞれそう突っ込む。
「ただでさえ暴走する傾向があるのに」
「さらにそんなこと言ったらよ。何者だって思われるぞ」
「何か俺って誤解受け易い方か?」
「自分でわからない?」
トムがまた言う。
「わからないからそうなんだと思うけれど」
「これはいけませんね」
「っておい」
ルシエンは今聞こえた言葉に突っ込みを入れる。
「いきなり声色使って言うなよ」
「いや、僕何も言ってないよ」
「俺もだ」
二人はそれを否定する。
「けれどよ、今」
だがルシエンはそんな二人に対して言い返す。
「今聞こえたからよ」
「だから何も言ってないって」
「俺もだ。気のせいだろ」
「そうかな」
とりあえずその言葉に納得しようとした。だがそこでまた聞こえてきたのであった。
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