第百七十四話 本番の舞台裏その八
「まさかと思うけれど」
「まさか?」
「あんたひょっとして」
怪訝な顔で返していた。
「私をそういう目で?」
「だったら面白いかもね」
アンジェレッタは今のナンシーの言葉に満面の笑みで返した。
「それもね」
「それもねって」
「安心して。それはないわ」
その笑みのままでの言葉だった。
「私もノーマルだから」
「そう、よかった」
ナンシーはそれを聞いてまずはほっとした。
「だったらいいけれど」
「それでもよ」
しかしアンジェレッタはここでこうも言うのであった。
「女房役にはなりたいわ」
「女房役に?」
「そうよ。女房役にね」
それになりたいというのである。
「なりたいわね」
「そうだったの」
「意外かしら」
「意外っていうか」
ナンシーはこれまでの焦った様な顔からきょとんとしたものになっていた。
「キャラじゃないんじゃないの?」
「そうかしら」
「女房役っていうよりは」
アンジェレッタのその小さな身体を見て言う。やはり誰が見ても小柄である。
「娘さんって感じよ」
「ストレートね」
「だって本当にそう思うし」
そのことを収めることはしなかった。
「私はね」
「そうなの。私は子供なのね」
「性格はともかくね」
そちらは子供ではないというのである。
「しっかりとしたね」
「その言葉は嬉しいわ」
「けれど女房役って感じじゃないわ」
このことをまた言うのだった。
「どうもね」
「そうなのね」
「そうよ。やっぱりね」
ナンシーはさらに言う。
「だから女房役って言われても」
「けれどどうだったかしら」
「あの背中を押してくれたこと?」
「そうよ。それはね」
そのことはどうかというのである。
「どうだったかしら」
「有り難う」
これが返事だった。
「あの時ああしてくれて」
「それが返事ね」
「そうよ」
まさにそれだというのだ。それがナンシーの返事だった。
「おかげでおどおどしていたのがなくなって」
「演技できたでしょ」
「満足にね。アンジェレッタのお陰でね」
「それでいいのよ」
アンジェレッタはナンシーの言葉をここまで聞いて満足した微笑みで笑った。
「それでね」
「そうなの」
「それでだけれど」
ここまで話してさらに言うアンジェレッタだった。
「後は何があるかわかってるわね」
「何がって?」
「キャンプファイアーよ」
それがあるというのだ。
「キャンプファイアー。わかってるわね」
「ああ、そうだったわね」
ナンシーはアンジェレッタの言葉でそれを思い出した。実は彼女に言われるまでそのキャンプファイアーのことは完全に忘れてしまっていたのである。
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