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第百七十三話 リハーサルその五
「そういうことなんだ」
「私最初ナンシー見た時の印象はね」
「堅苦しくて真面目なイメージだったんだね」
「そうなのよ。けれど」
 それはあくまで第一印象でしかないのだ。第一印象は第一印象に過ぎない。
「よく見てみるとね」
「確かに真面目だけれどね」
「実は気弱でね。あがり性で」
「そうそう」
 内面はかなり弱い彼女なのだ。
「実はね」
「気付いてまさかって思ったわよ」
 さらに言うアンジェレッタだった。
「あの時は」
「僕も。何か見ていて」
「意外だったわよね」
「そうだよね。ぱっと見には」
 ジョンも話を合わせていく。
「あれだよね。冷静沈着そうで」
「恋愛とかしませんって感じで」
「そうそう」
 これがイメージなのは事実だった。
「新聞部でもホープでね」
「そういうの見ていたら。どうしてもそう思ってしまうから」
「けれど実際はね」
「それ無理して作ってたから」
 そうだったのである。彼女の地ではなかったのである。今話されているのはその地である。それこそが一番問題であったのである。
「実際はすぐうろたえるし」
「芝居下手だし」
「舞台でのお芝居は上手いけれど」
 舞台での芝居と現実世界での芝居は違うというのである。
「それが自分では気付いてないって思うしね」
「すぐにわかるんだよね」
「目がすぐに泳ぐから」
 それだった。ナンシーの眼鏡の奥に秘密があるのである。
「もうね。すぐにね」
「そうそう。わかるから」
 まさにそれだと話すジョンだった。
「本人は演じているつもりでもね」
「アクトレスとしてはいいけれど」
 今のアンジェレッタの言葉もあくまで舞台にいる時の彼女である。
「実際はね」
「大根なんてものじゃないよね」
「そうなのよね。とにかく自分では気付かないのよね」
 ふう、と苦笑いと溜息を同時に出しさえする。
「中々ね」
「それに」
 今度はジョンが言うのであった。
「咄嗟のことに弱いよね、ナンシーって」
「予定外のことが起こるとすぐに狼狽するからね」
 そうした癖もあるのだった。何かと観察しがいのある彼女なのだ。
「もう見たら」
「あっ、こけたわ」
 ここで、であった。リハーサル中につまづいて前のめりにこけてしまった。それで思いきりどて、と前に崩れてしまったのであった。 
 そうしてだった。彼女は。
「痛い・・・・・・」
 泣きそうな顔で言うのだった。
「何でこうなるのよ・・・・・・」
「何でって」
「大丈夫?」
「こけたけれど」
「大丈夫じゃないわよ」
 その泣きそうな顔で心配して周りに来た皆に応える。
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