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第百六十七話 酒のないロシアその一
                 酒のないロシア
 遂に当日となった。遂に文化祭がはじまったのだ。
「ロシアの喫茶店!?」
「どんなのなんだ?」
 他のクラスの面々はそれを聞いてまずは首を捻った。
「お酒が出るとか?」
「それもウォッカ」
 誰もがウォッカを最初に連想するのだった。
「それがお店に出るかな」
「喫茶店でも」
「そうよね」
 やはり皆それを考えるのだった。ウォッカをである。
「やっぱりそれが出るのかしら」
「お茶にそれが入ってるとか」
 皆その話をしていた。そうしてその店に向かうのだった。
「さて、と」
 ウェイトレス姿のアンネットが店でスタンバイしていた。しかしその姿はウェイトレスというよりはメイドであった。黒と白のコントラストと長めのスカートがまさにそれである。頭にある白い覆いがさらに彼女をメイドらしく見せているのであった。その彼女がいた。
「皆驚くわよ」
「驚くのね」
「そうよ」
 楽しげな顔で隣にいるペリーヌに応える。彼女もメイドそのもののウェイトレス姿である。
「絶対にね」
「けれどメニューは普通よ」
 ペリーヌは今の彼女の言葉にはこう返した。
「ごく普通のじゃない。あんたが言うロシアのスイーツじゃない」
「それに驚くのよ」
「何でなの?」
「それはもうクラスで少し話してることよ」
 そうだというのである。
「もうね」
「というと」
 アンネットの今の言葉を聞いて勘のいいペリーヌはすぐに察した。
「あれね」
「そう、あれよ」
 アンネットの笑みはさらに誇らしげなものになっていた。
「あれがないからよ」
「あれのイメージって強いのね」
「それを逆手に使うことこそが重要なのよ」
 そうだともいうのである。
「それが今回の秘策なのよ」
「秘策ね」
「さて、それで驚かせて」
 まずは驚かせることからなのであった。
「そこからさらに仕掛けるわよ」
「わかったわ」
 頷くペリーヌだった。
「それじゃあそれに乗るわ」
「そうしましょう。じゃあね」
「ええ、それじゃあ」
 こうしてスタンバイする彼女達だった。そして遂に最初の客が来た。
「いらっしゃいませ」
「ようこそ」
 女組だけでなく男組も挨拶をする。彼等もウェイターというよりは執事の格好をしている。こういう格好にしているのは客受けを考えてである。
「こちらです」
「どうぞお座り下さい」
「あれっ、メイド喫茶?」
「執事喫茶?」
 皆それを聞いてまずはそれをイメージした。
「ここって」
「ロシア喫茶じゃなくて?」
「ロシア喫茶よ」
 アンネットがにこりと笑ってまずはそのメイドや執事にしか見えない彼等にこうイメージを抱いた客達に対して言ってみせた。
「ここはね」
「ロシア喫茶ねえ」
「じゃあお酒?」
「ウォッカ出るの?」
「出ないわよ」
 こうも客達に答えるのだった。
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