第二十三話 想い人はその三
「春香に近寄るならば死あるのみだ!」
「おい、そこまで言うのかよ」
流石にジョルジュも言葉もなかった。
「じゃあ春香ちゃんに近寄る奴は」
「全員俺が倒す!」
「ううん」
「こんな調子です」
「大変ね、何か」
「はあ」
「けれど」
だがここで明香は二人に聞かれないようにポツリと呟いた。
「私、わかる」
「!?」
最初にそれに気付いたのは彰子であった。
「何か言った?」
「いえ」
だが明香はそれを否定した。
「何も」
「そうよね。気のせいよね」
「もう兄さん」
春香がいい加減困った顔で兄に対して言う。
「私はいいから。もう止めてよ」
「んっ、いいのか」
「別にジョルジュさんだって悪気があってやったわけじゃないんだし」
「そもそもまだ何もしていないよ」
「やる気はあっただろ!?」
「まあ確かに」
洪童のこの言葉には答える。
「それはそれで」
「やっぱり許さん!」
「だからいいから」
結局怒る兄を必死に止める。
「学校行きましょう。ここで騒いでいたら遅刻しちゃうわ」
「ああ、わかった」
妹に言われては流石に弱いらしい。テンションが徐々に静かになってきていた。
「じゃあ行くか。ジョルジュ」
しかしジョルジュにまた顔を向けてきた。
「一応釘を差しておくがな」
「おいおい、俺って信用ないんだな」
「誰だろうが春香に近寄る男は死あるのみ!」
「けれどさ」
ここでジョルジュはふと言った。
「女の子だったらいいのかい?」
「ビアンカとかは駄目だぞ」
「やっぱり」
明香はそれを聞いて呟く。
「そうなるのね」
「春香にはそのままで奇麗なままで御嫁さんになってもらいたいんだ」
「そう言ってもいつも何かどっかの漫画の主人公みたいなお婿さんの話ばっかりなんですよ」
春香がまた困った顔を見せてきた。
「そんな人実際にはいないのに」
「所謂無敵主人公みたいな人?」
「そのままです」
春香はさらに困った顔になっていた。
「そんな人有り得ないのに」
「そうよねえ」
彰子もその言葉に頷く。
「やっぱり人って色々と欠点があるものだから」
「それに兄さん自分に勝たないと付き合いを認めないって言うのに」
「それで勝ったら?」
「絶対勝つまで交際を認めないって言います」
「どうしようもないのね」
「はい。兄さん喧嘩は大したことないのに生命力は異常に強いから」
要するに最悪のパターンである。洪童は体格のせいもありあまり喧嘩は強くないのだがそれでも妹が関わるとなるとどんな相手に対しても立ち向かうのである。
「だから」
「ううん」
「わかるわ」
明香はそれを聞いてまた誰にも聞かれることなく呟いた。
「その気持ち」
「それで結局私の彼氏は」
「困ったわねえ」
「春香に近付く奴は何人たりとも俺が許さん!」
洪童は相変わらず叫んでいた。
「若し交際を認めて欲しかったら俺を倒せ!」
「誰もそんなこと言ってねえよ!」
いい加減うんざりしてきたジョルジュがたまりかねて言い返す。
「いい加減にしろ!」
「その目は狙っている目だ!」
「何処ぞの格闘漫画みたいな台詞言ってんじゃねえ!」
「けれど。その通りよ」
何故か明香はこっそり洪童の言葉に賛同していた。
「私だって。姉さんには」
「!?」
そんな妹の強い決意ものんびりした姉には。何も届きはしないのであった。
想い人は 完
2006・12・15
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