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第百五十八話 モーツァルトその一
                    モーツァルト
 マチアがモーツァルトに向かおうとしていたその頃。春香の話が完全に終わっていた。
「願掛けだったのか」
「ああ」
「そうよ」
 皆がクラスで洪童に話していた。彼はそれを聞いて頷いていた。
「それでな。話は上手くいったからな」
「オペラの方はね」
「大成功だったよ」
「それで成功か」
 洪童はそれを聞いて述べた。
「よかったよ、それだったらな」
「それで冷麺だけれど」
「食べ方はどうなの?」
「俺考えたんだけれどな」
 ここで言う彼だった。
「あいつにはいつも願掛けしてもらいたいんだけれどな」
「願掛け?」
「それなの」
「ああ、それならいつも鋏使わないで冷麺食べるだろ?」
 だからだというのである。彼は。
「それならな。それに尽きるだろ」
「ああ、そうだな」
「確かにね」
 皆彼のその言葉に対して頷く。そうしてそのうえで言うのだった。
「彼氏ができますようにって」
「そう御願いしたらいいわね」
「それは却下だな」
 今の皆の言葉には顔を顰めさせて返す洪童だった。
「あいつに彼氏ができたら」
「おい、駄目なのかよ」
「どうだっていうのよ」
「その彼氏はまず俺と勝負してもらう」
 こんなことを言い出す彼であった。
「この俺とな」
「それかよ」
「勝負って二十世紀中頃の日本の漫画?」
 所謂熱血漫画である。その時代にはよく不良番長やそうした存在がよく出ていたのである。この時代も不良といえばそうした格好をしている者もいる。
「あの下駄にやたらとぼろぼろの超長ラン着て」
「それと帽子?」
「ああ、それだよ」
 まさにそれだと語る洪童である。
「それで俺と勝負してやる」
「それよりあんたは」
 アンがここで彼に容赦のない突込みを入れた。
「自分の彼女作ったら?」
「うるせえ」
 今のアンの突っ込みにはこれ以上はない憮然とした顔で返す洪童だった。
「俺のことは放っておけ」
「放っておけっていうけれど」
 しかしアンはまだ言う。やはり彼女の方が上だった。
「あんた生まれてこのかた彼女できたことないでしょ」
「だから俺のことはいいじゃねえか」
 洪童の機嫌はさらに悪いものになってきていた。
「そうだろ?そんなことよりもよ」
「はいはい、春香ちゃんね」
 アンもいい加減呆れて彼に返した。
「彼氏ができたらってことね」
「まず俺に勝って」
 とにかくそれが前提なのだった。
「そのうえで生涯の伴侶にしないと駄目だ」
「生涯の伴侶ねえ」
「また随分と言うね」
 皆今の彼の言葉を聞いてこれまた呆れてしまった。
「じゃあ若しその彼氏が浮気したら?」
「どうするの?」
「殺す」
 今度は一言であった。
「何があっても殺す」
「殺すって」
「何よ」
 皆今の彼の断言にこれまでで最も呆れてしまった。そのうえで彼に言葉を返した。
「本気なのはわかるけれど」
「この場合本気になったら駄目じゃない」
「駄目とかそういうのじゃねえよ」
 しかし彼はまだ言うのであった。
「そんなな。春香を裏切る奴はな」
「許さないっていうのね」
「絶対に」
「ああ、絶対にだ」
 そこには鋼鉄があった。鋼鉄の意志である。
「そんな奴は十三番目の殺し屋を雇って始末してやるからな」
「やれやれ」
「春香ちゃんも大変ね」
 皆洪童の今の言葉を聞いて呆れ返ってしまった。
「こんな兄貴だと」
「これからが大変ね」
「もっともだ」
 しかし当の彼はさらに言うのであった。
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