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リリヤ

 第四奴隷リリヤは森の中にいた。


「遅い! 動きが丸見えですの!」


 木の上から飛びかかって鋭い爪を振り下ろしてくるサルの攻撃をよけて、そのまま手を触れて奴隷カードで剣を生成。

 無限の魔力でサルの体の内側から剣を作り出し、結果的に急所である心臓を貫通する。


「ウキー」

「ウキャキャキャ!」


 仲間の敵討ちのつもりなのか、左右から同じサルがリリヤを挟み撃ちした。

 振り下ろされる爪は空気を裂いて、背筋が凍るような音をだす。


「その程度やられるリリヤではありませんの」


 リリヤはしゃがみ込んで、地面に手を触れる。

 持っていた奴隷カードのブラックカードが光り、地面からニョッキと二振りの剣が生えるように飛び出た。

 飛び込んできたサルにジャストミート。サルはまるで早贄の如く串刺しにされ、ぐったりと動かなくなった。


 サルはこの三匹だけではない、まだまだ他にもいる。

 森の中、四方八方から集まってきて、リリヤを取り囲んだ。


 リリヤはすっくと立ち上がった、片手に奴隷カード、片手を腰にあてて傲然と佇む。


「いくらでも来るがいいの、リリヤはお兄ちゃんの奴隷、サルごときにケガすらしてやるつもりはありませんの」


 その台詞は強い自負と、それ以上に責任感を感じさせるものだ。

 顔の造形に幼さが少し残っていて、それがアンバランス差を出している。


 サルが一斉に襲いかかってきた、リリヤは一歩も引かず、主人から預かった無限の魔力と戦闘スタイルで、一匹残らず全滅させたのだった。


     ☆


「で、では、もうこの世に邪神はいないんですか!?」


 サルから戻った五〇人近い人間に事のあらましを説明したリリヤ。

 この世界は一度邪神に滅ぼされたが、救世主が現われて世界が救われた。


 邪神によって命を落とした人間はシュレービジュというサルのモンスターに姿を変えられて、自分はそれを人間に戻す仕事をしている、と。


「厳密にはまだいるんですの、でもお兄ちゃん――新しい神様に力を封印されてもう何も出来なくなってるんですの」

「「「おおおおお」」」


 五〇人の人々から歓声が上がった。

 老若男女様々だが、いずれも邪神が支配する世界の恐怖をしり、挙げ句の果てに命を奪われた人間だ。

 邪神が倒れたと聞かればこのような反応をするのは当然だ。


「でも、いくら邪神は倒れたっていっても」

「ああ、俺たちが住んでるところは」

「俺……住んでる街を三つも邪神に滅ぼされた。三回も滅ぼされて逃げて、最後は……」


 歓声のあと、人間たちは一斉に落ち込んだ。

 これも無理からぬ事だ。

 シュレービジュになった人間は全員、戦火の中に死んでいったものだ。

 大半の人間は故郷を失う中か、失った後に死んでいる。


「それも大丈夫ですの」

「どういう事ですか?」

「こういう……ことですの」


 リリヤは奴隷カードを使い、木の家を一軒だした。

 奴隷カードを使って素材無しにものを作るとき通常の十倍の魔力を要するが、彼女の主は無限の魔力を得ている。

 すなわちどんなに作っても魔力がなくなることはない。


 リリヤは木の家を作り、五〇人の前にだした。


「なんだそれは」

「一瞬で家?」

「ま、魔法なのか?」

「これがお兄ちゃん――神様の力ですの。神様は言いましたの、サルから戻った人間は、生活が軌道に乗るまで最低限衣食住を保証するですの。リリヤはそのためにやってきたの」

「「「おおおおお」」」


 再び歓声があがった。

 直前までの落ち込みが、リリヤが見せた力によってまとめて吹き飛ばされてしまった。


     ☆


 森を出て、川の近くで街を作ることにした。

 人間は日々の生業に水をかかすことが出来ない、例え最初に奴隷カードの力で何もかもを揃えられたとしても、その後の自活のためには水源が近くになくてはならない。


 リリヤはなん百なん千人もサルから戻った人間を救い、いくつも街を作ってきた。

 新しい街にふさわしい土地はすぐにみつけ、そこで街を作り出した。


 家を作り、服を作り、食物を作る。

 主の方針とおり、最低限の衣食住を揃えるために彼女は一生懸命あれこれ作った。


「リリヤ」

「割り込みダメですの、順番をまもるですの」

「こっちの方が重要よリリヤ」

「重要でも順番を――ってリーシャですの。どうしたんですの?」


 話しかけてきたのはリーシャ、奴隷の先輩だ。

 リーシャの足元に光る渦があって、瞬間移動のゲートでやってきた用だ。


「どうしたんですの?」

「ご主人様がよんでるわ。今夜はリリヤにそばにいてほしいって」

「お兄ちゃんですの……?」


 驚くリリヤ。が、主の命令とあらばそれはあらゆる事に優先する。


 しかし、こうして人々の新しい街を作ることもまた主の命令。

 リリヤは二つの間で板挟みにあった。


「ここは任せて。街を作るのは私にも出来るけど、ご主人様が今日よんでるのはリリヤだけ」

「いいんですの?」

「ご主人様の命令は絶対。それにこういう時はお互い様よ」

「――はいですの!」


 リリヤは大きく頷いて、リーシャが現われたゲートに飛び込もうとする。


「あ、ちょっとまって」


 リーシャはリリヤを呼び止めた。


「なんですの?」

「いくら何でもその格好では失礼よ」


 格好、といわれてリリヤは自分の格好をみた。

 確かにひどい格好だ。

 エターナルスレイブのトレードマークにもなっている草色のドレスは返り血にまみれ、さらには街作りで泥だらけになって、あっちこっち破けている。


 控えめにいってホームレスのような格好だ。


 それを指摘したリーシャは奴隷カードを出して、使った。


 魔法の光がリリヤを包み込み、彼女の衣服をかえた。


 草色のドレスから、貴族のような上品なドレスに。


「これで行きなさい。ご主人様をちゃんと喜ばせてあげるように。一番大事な事――分かってるわね」

「――はいですの!」


 先輩奴隷に言われて、リリヤは得心した顔をして、ゲートに足を踏み入れた。


「頑張ってくるですの」


 そう言ってゲートに入り、、主の元に向かう。

 第四奴隷は、小さなお姫様のように、笑った。

新しい連載はじめました。

スライムの皮をかぶったドラゴン、ダンジョンを作るところは魔力チャージと似てます。

こちらも読んでくれたら嬉しいです。

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