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足音を鳴らし過去らが迫る

これから往くぞ、貴様の下へ

対する未来の返事は一つ

いつでも来いよ、我らが下へ



.hack//G.U.Chronicle
作:蒼乃黄昏



第五十四話 攻防


 熱狂、という言葉がある。

 文字通り熱に狂うことを指す言葉だ。

 『ここ』はまさにそれだと言えた。この場所自体が熱に浮かされ、歓声と罵声の溢れる異境へと変じている。

 周囲から響く音はいずれも声。怒号とも呼べる声の嵐だ。

 その中で、闘技場へと姿を現した三人は歩みを進める。

 言葉は無い。ここは既に戦場だ。必要以上の無駄口を叩くことはしない。

 ここ、アリーナは所詮、他人に言わせればただの模擬戦を行い、腕を競い合うだけの場所でしかない。

 上位ランカーでも無い限り、ここを戦場などと仰々しい呼称で呼ぶ者はいないだろう。だが、ハセヲにとっては紛れもなく戦場だった。

 一度の敗北も許されない、背水の戦場。三爪痕の情報を得るための、希少な機会。

 勝たなければならない。誰が相手であろうとも、必ず勝たなければならない。

 だからというべきか。ハセヲは相手が誰であるかを調べることはしなかった。

 知らなければならないのは相手の戦力、職業特性のみであり、相手が『誰』であるかを気にする必要性はなかった。

 確認事項は職業とレベルのみ。相手の名前など最初から見てはいなかった。

 故に、ハセヲは相見えて初めて知った。二回戦の相手が、会いたくもなかった見知った顔であったことを。


「久しぶりだねぇ……ハセヲ」


 舐めつけるような口調。

 今の今まで忘れていたが、相変わらず耳障りな響きだった。


「ちっ、お前らが二回戦の相手かよ」


 浅黒い肌の女剣士。その脇に控える肌白い斬刀士と巨漢の撃剣士の三人組。

 最後にやりあったPK集団の一味だ。


「おやぁ……今初めて知ったみたいな口調だねぇ。まさか、『死の恐怖』ともあろうPKK様が、対戦相手のデータの見方すら判らなかったのかい?」

「眼中になかっただけだ。生憎、オマエらのことなんて忘れちまってたもんでな」

「……ッ! テメェ……」


 女――ボルドーの顔が紅潮する。

 薄いプライドでも傷つけられたか、身に纏う不穏な空気が重みを増した。


「……殺してやる」


 唸るような声。

 だが有り触れた、ハセヲにとっては聞き飽きた台詞だ。

 豹を思わせる形相のボルドーを前にして、ハセヲは無感動に双剣を引き抜き、構える。

 六人が各々の武器を構えるのを待ち、絶妙のタイミングで実況が声を張りあげた。


「さあさあ皇宮トーナメント二回戦第二試合、試合前から早くも両者の間に火花が散っております! 因縁の対決か、はたまた闘争心のぶつかり合いか。どちらにせよ、この戦いはヒートアップが期待できそうです! さあさあ、それではぁ……!」


 六人全員が腰を沈める。

 その様は号砲を待つスプリンターそのものだ。

 両チームに様子見の気配は無い。誰もが開始直後から突撃する姿勢。

 張り詰める空気。瞳に篭る力。炸裂寸前の両足。全てが絶頂となったその瞬間、


「試合――開始だああぁぁぁ!!」


 号砲と共に飛び出す。

 踏み込む足は最初から全力だった。










      *****











 先制攻撃はハセヲ。

 六人の中で最も速く飛び出せたのは、最速を誇る双剣の特性あってのものだろう。


「シィ――ッ!」


 一瞬という機制に飛び込み、疾風を纏った袈裟切りからの連続攻撃。

 惜しくもボルドーの鼻先を掠めるに留まる。だが、単発では終わらない。返しの三撃目から右足を軸に身体を廻し、振り向きざまの四撃目。そのまま連続攻撃へと持ち込み、手数の応酬へと誘い込む。

 ハセヲに一呼吸遅れる形で飛び込んできたのは肌白い剣士――ネギ丸だ。


「もらったぁー!」


 威勢良く、ハセヲに対してがら空きの胴体に切り込むネギ丸。だが、その両者の間に、


「させるか……ってんだよ!!」


 突くようにして差し込まれた幅広の剣に阻まれた。盾のように翳された大剣に、ネギ丸の剣が弾かれる。

 大剣の担い手はスケアクロウ。前のめりの姿勢のまま無理矢理に大剣を振りかぶり、大振りで薙ぎ払う。

 ネギ丸は咄嗟に長剣を盾にして構えるが、止まらない。

 薙ぎ払われた一撃はネギ丸の身体を人形のように弾き飛ばす。

 その直後、薙ぎ払われた大剣がスイングの終着点に達する瞬間。攻撃直後の硬直を突く絶妙なタイミングで敵の撃剣士――グリンがスケアへと大剣を振りかぶる。

 身の丈よりも巨大な大剣による全力攻撃。回避など到底不可能なタイミング。完全な無防備状態のスケアに向けて、即死の大剣は全力を以って脳天直下の軌道をなぞり、振り下ろされる――!


「“輝跡の征矢レイザス”――!!」


 必殺の筈の一撃。だが、それはスケアの背後、グリンの斯界から死角となっていた領域から飛来した一本の光矢によって阻まれた。

 光矢は大剣の一撃とその威力を相殺させ、霧散し、しかしスケアに体勢を立て直す時間を与えた。

 続くグリンの第二撃はスケアの大剣と鍔迫り合う形となり、スケアの隙を突こうとして再度突撃してきたネギ丸は、目前に立ちはだかるメイプルによって阻まれる。

 試合開始直後の激突。時間にしておよそ十秒足らずの攻防。だがその十秒足らずの時間は、観客を更なる熱狂へと誘うに余りあるものだった。


『す、素晴らしいいぃぃ! 試合開始直後から三者三様に入り乱れての攻防から一転、それぞれ一対一の状況へと移行しました! 僅か十秒でこの駆け引き! そして剣戟と光の奏でる合唱! これは一時も目の離せない戦いだああ―――!!』


 ここぞとばかりに絶叫する実況。

 その実況の声さえ掻き消すほどの怒号。

 一呼吸を置いて、熱に浮かされた、罵声にも似た歓声が響き渡った。


「心強い仲間をお持ちのようだねぇ……! 『死の恐怖』は誰ともつるまないんじゃなかったのかい!?」


 剣戟の鳴り響くやり取りの中、ヒステリックにボルドーが叫ぶ。

 相変わらず口の多い女だと思考しつつ、ハセヲは更なる攻撃に出た。

 現在の状況として、ハセヲとボルドー、スケアとグリン、メイプルとネギ丸、の三組がそれぞれの相手と戦っている構図となる。

 スケアに関しては問題は無い。実力もさることながら、同じ撃剣士との戦いだ。以前戦った際にはあまりにも実力差がありすぎた為にあの撃剣士グリンの力量を図ることは出来なかったが、スケアであればすぐさまやられてしまうといった事態にだけはならないだろう。

 問題はメイプルだ。単純な火力では六人の中で最強を誇る魔導士ではあるが、その力は仲間のいる状況でこそ真価を発揮するものだ。

 相手が鈍重な撃剣士であれば翻弄することも可能だろう。だが、相手は斬刀士。突出した能力こそ無いものの、万能を誇る前衛職業だ。その実力が均衡している場合、初撃で決められなければ一気に倒される可能性が高い。

 魔導士という職業は、共闘する仲間がいてこそ力を発揮できる職業だった。

 だが、ハセヲはメイプルの援護ではなくボルドーへの追撃を選択した。

 人数が減ればそれだけ不利になるチーム戦では矛盾したように思えるこの選択は、しかし英断とも言い換えられるものだ。

 メイプルがやられれば確かに不利にはなる。だが、ルールではリーダーを倒せればその時点で勝利となる。

 他の二人に構う必要はない。あくまでリーダーである自分が倒されることなく、敵のリーダーであるボルドーを倒せばいいだけの話なのだ。

 だからこその追撃。

 だからこその、現状の継続。

 たとえメイプルがやられてしまっても、リーダーであるボルドーさえ倒せば勝ちである以上、この選択は一概に誤りだとは言えない。

 この選択の成否は結果によって語られるものだ。故に、ハセヲはこの選択を成すものとするべく疾駆し、嵐のような剣戟を放ち続ける。

 他の二人に構うコトはない。意識を割くことさえしない。無いものとして、ハセヲはボルドーとの戦闘に集中する。

 その根拠。三対三の状況下で他の二人を無視して戦うことの出来る理由。

 それは――


『二人は任せて。私とスケアで倒す。ハセヲは、リーダーに集中してて』


 確かな記憶として残っていた、その言葉だった。









      *****










「おうおうおう……、まさか俺の相手を一人でやろうってかぁ? キヒヒッ」


 メイプルと対峙したネギ丸がねめつける様な視線と共に言う。

 凄んではいるものの、三流の匂いが消えないような陳腐な台詞だ。

 外見を伴って失笑を呼ぶ具合ではあったが、メイプルにそのような余裕は無かった。

 自身の能力は把握している。

 攻撃力だけを取れば自分が最強であることも、遠距離攻撃を行なえるのが自分だけであることも、そして自分の能力は仲間と戦って初めて真価を発揮できるものであることもよく分かっている。

 無論、自分がやられれば戦況が不利になることも分かっている。

 なにせ勉強したのだ。ネットを介して情報収集をして、アリーナ上級者の戦闘方法の観察をしたり、明らかに勝てないような相手と戦ってその戦術を盗んだりと、時間の許す限りあらゆる勉強した。学校の期末テスト前ですらこれほど必死になったことはないだろう。

 そうして集めた知識はこの状況が不利であることを雄弁に語っていた。

 だが退くことは出来ない。

 倒れることも許されない。

 『任せて』と口にした以上、それは守らなければいけない約束なのだから。


「“憤怒の爆炎バクドーン”!」


 先手を切る。

 魔を通した言霊に応じて呼び出された火球は計五発。

 確かな威力を持って降り注ぐ火の球は、しかし、


「うぉっとぉ!」


 五発中、実に四発を回避された。

 当たった一発ですら、かすり傷。些細なダメージを与えた程度でしかない。

 腐ってもPKK集団の一味。その直属の部下だということだろう。それなりの実力はあるらしい。

 俊敏性を活かし、間合いを詰めてくるネギ丸を見つつメイプルは距離を計り、それぞれの位置を把握する。

 彼我距離、残る間合いはおよそ十足分。放てる呪紋は二つがいいところという状況。間合いに入り込まれれば魔導士である自分の敗北は確実のものとなる。故に、勝負は自ずとその二つの呪紋にかかってくる。

 一発目。最初に選択した呪紋は――


「“神風の恩恵ザンローム”――!!」


 持ちうる呪紋の中で、最も広い範囲を攻撃可能な竜巻呪紋。

 ネギ丸は横っ飛びで回避しようとするが、それすらも飲み込み、疾風の刃が身体を切り刻む。

 だが、弱い。

 効果範囲の大外。威力の中心地から遠く外れたその位置では倒すことはおろか、十分なダメージを与えることさえ望めない。せいぜい数秒足止めをする程度のもの。ネギ丸にとっては、時間稼ぎでしかない攻撃だった。

 時間経過と共に呪紋の効力が薄れ、ネギ丸は竜巻の効力圏内から飛び出す。

 更に詰められた間合いは五歩。続くメイプルの第二撃、残された最後の機会に選択された呪紋は――


「“輝跡の征矢レイザス”――!!」


 メイプルの持ちうる、最強最速の攻撃呪紋。

 力持つ書物から溢れる魔力は光となり、光は撃滅の矢と化して標的へと疾駆する。

 呪紋が完成するまで、更に詰められた間合いは残り三歩。目と鼻の距離。前もって来ると分かっていても容易に回避を許さない、必殺の閃光。


「ひゃはっ、どこ狙ってんだよぉ!?」


 だが、それは目標へ向け的確に放たれた場合の話だ。

 見当違いの方向に放たれた光矢はネギ丸に撃滅の効果をもたらすことなく、疾駆の勢いでその背後へと消え去っていく。

 避ける必要さえなかった。足止めにもなりはしない。最短距離を突っ走ってきたネギ丸は見下すかのような視線の下に、詠唱直後のメイプルへと長剣を振り下ろす。

 かくして長剣は硬直状態に入ったメイプルの脳天へ向け振り落とされ――金属音と共に弾かれた。


「……へっ?」


 間の抜けた声がネギ丸の口から洩れる。

 ネギ丸は、敵をしとめた際の小気味良い感触と悲鳴を聞くはずだった。

 だが両手に伝わった感触は鉱物に弾かれた響きであり、耳に届いた音は悲鳴ではなく甲高い金属音だった。

 何故だといぶかしむネギ丸の視線の先。そこには自身の長剣を弾いた鉱物、幅広の大剣と、


「おいおい、どうした。――笑えよ?」


 猛禽類を思わせる壮絶な笑みを携えた、スケアクロウの姿。


「ひ、ぁっ……!?」


 咄嗟に飛びのくネギ丸。だが、遅かった。一瞬と呼べる程度の時間差は、しかし手遅れとも言い換えれる差だ。

 剣の腹で足元を払われ、背中から地面に落ちる。それを見下ろすスケアの表情は、まさに肉食獣のそれだった。


「グ、グリン、なにやって……!?」


 見回し、スケアと戦っていたはずの相棒を探す。

 グリンは後方の壁付近にいた。攻撃を喰らって吹き飛ばされでもしたのか、ようやく起き上がったところだった。

 助けろ、というには余りにも遠すぎる距離。ネギ丸は血の気が引くのを感じながら、グリンが吹き飛ばされた位置が先程の呪紋の軌跡上であることに気づく。


「まさか、さっきの呪紋の標的は俺じゃなくて……?」

「うん。スケアと戦ってた相撲取りみたいな人を狙って撃ったの」


 どこか寒気を催させるような笑顔を浮かべつつ、メイプルが言う。


「そ、そんな真似できるわけねぇだろぉがぁ!? 自分と関係ないところで動き回ってる相手に当てれるワケが……」

「ああ、動き回ってる相手ならそうだろな」


 メイプルに代わって答えるスケアの身体は、よく見ればネギ丸と同じように幾つかの裂傷を帯びていた。

 疾風系呪紋に見られる裂傷。ダメージとしては些細なものだが、それは神風の恩恵ザンロームの効果範囲内にいたという証だ。つまり、それはスケアと鍔迫り合っていたグリンもまた効果範囲内にいたということであり、


「うん。だから、神風の恩恵ザンロームで足止めしといたの。動いてたら当たらないかもしれないけど、動かない敵になら当てれるでしょ?」


 それはまた、最初からグリンだけに的を絞っていたという事実を指す。

 そもそも、もとより彼女にはそれしか選択肢がなかったのだ。

 一対一では敗北は濃厚。それを判っていてわざわざ真正面から挑むなど無謀でしかない。

 故に、一対一の状況を回避することこそが彼女の当初からの目的。

 全ては布石と知識によるもの。そして、グリンを弾き飛ばせば必ずや助けてくれるだろうとの信頼を預けられたスケアとの信頼関係による成果だ。


「ま、そういうわけだ。つまりはゲームオーバーっつうことで……」


 言うと、スケアは大剣を大きく振りかぶり、


「バックスクリーンまで吹っ飛んどけ!」


 力任せのフルスイング。大振りの一振りはネギ丸の身体にジャストミートし、致死のダメージと共に場外にまで吹き飛ばした。









      *****









「ネギ丸……!?」


 攻防を重ねているボルドーの顔に驚きが浮かぶ。

 ハセヲは自分の背後で繰り広げられている四人の戦いに変化があったことを、その表情から読み取った。

 察するに、恐らくは二人のうちどちらかを倒したか、もしくは有利な状況下で押しているといったところだろう。

 後顧の憂いはない。

 ハセヲは執拗なまでにボルドー一人に狙いを定め、逃すまいと追撃を重ね、連撃を成す。


「こ……のっ! しつこいねえ!」


 相変わらず口の減らないボルドーと対照に、ハセヲは口を利かずにただ攻める。

 余裕が無いとは自覚しているが、必死という言葉を持ってして攻める以外にハセヲの選択肢はない。

 負ければ終わりのトーナメント。しかも三爪痕の情報を……半年かけても終ぞ手にいれることのできなかった情報を得られるかもしれないのだ。負けることなど許されず、苦戦すら論外。

 だからこそ――


(こんな所で、テメェらなんかに負けてられねえんだよ!)


 突き放すかのような一撃。ボルドーの長剣が弾かれ、たたらを踏む。

 
「くっ……! オマエ、いつの間にこんな……!?」


 答えることはしない。構わずに双剣を打ち込む。

 正面からの刺突。

 下方からの切り上げから返しとなる打ち下ろし。

 続き左翼からの横薙ぎに加え、回転の勢いをそのままに逆手に持った右の刃を叩きつける――!


「オオォ……!!」


 知らず放たれた咆哮と共に繰り出される双剣。

 実に四十五度目の切り結びの末、遂に長剣の防御を貫き通した双が、気を纏い叩きつけられる。


「破裏――剣舞!」


 炸裂し、円形状に広がる気の波動。長剣を弾かれ、足元をすくわれたボルドーはその波動の前に立ち尽くすことしか出来ない。

 目を剥いたボルドーを睨みつけたまま、ハセヲは双剣を光に還す。

 続く動作で背中越しに引き抜くのは死臭を帯びた凶器の大剣だ。いつかの、『死の恐怖』として最後にPKKをした時の焼き直しのように、ハセヲは大剣を振り上げ――


「壱刹・双月――!」


 大剣は主の意志の下に、必殺の威を果たした。

 天高く掲げられた剣が落とされ、爆音が砕け散る。

 その音を最後に会場からあらゆる音と動きが失われた。

 試合開始より一分三十六秒。ようやくハセヲの身体は疾駆の流れから解き放たれ、同時に他の人間の動きもまた止まる。

 一分三十八秒。誰も動かない。誰も微動だにしない。会場を包んでいた怒号さえ静まり返った。

 一分四十一秒。まるで何かから解き放たれたかのように、大剣に切り裂かれたボルドーの身体から力が失われ、ゆっくりと背後に崩れ落ちていく。

 一分四十三秒。ボルドーが地に倒れると同時に、会場に再び音が生まれた。

 ――歓声の響きだ。









      *****







『決まったあああああぁ! 勝・者・決・定いぃぃ! 勝利者を宣言しようとする私の声が会場の皆さんには届いているでしょうか!? それほど見応えの在ある、素晴らしい試合だったと実感しております! その激戦のを制した勝利者の名は、『ハセヲチーム』だああぁぁ!!』


 観客の歓声に負けじと声を張り上げる実況。

 充実した試合を見届けた観客の多くが声援を送り、勝者を称えている。

 ……初めての気分だった、と言ってもいい。

 いや、正確には一回戦で一度経験している。だが、実感として得られたのはこれが初めてだった。

 初心者の頃は戦闘を行なうたびに無力感だけを経験した。『黄昏の旅団』が解散した頃は力を追い求める様を罵られた。PKの頃は勝つたびに数多の怨嗟を受けた。『死の恐怖』と呼ばれるようになってからは、畏怖と憎悪の感情ばかりを浴びせかけられた。

 そんなハセヲにとって、『The World』でこれほど多くの人に称えられるのは、認められるのは……初めての経験だった。


「――――」


 想いを振り払うように頭を振って、スケアとメイプルへと向き直る。

 スケアが幾分ダメージを受けていたものの、二人の顔には笑顔が浮かんでいた。

 牙を剥くような笑顔とはにかむ微笑。対照的とも思える両者だが、何故かそれで釣り合いがとれているような気さえする。

 ネギ丸の姿は無かったが、グリンは両の足で立っていた。こちらもスケアと同程度のダメージを受けていたようだが、それだけだ。この二人を相手にしてそれだけのダメージで済ませたとのは賞賛に値するだろう。


「さすがだなー、ハセヲ。一対一でマジに決めちまうなんて」

「すごい強そうだったのにね、あの人」

「……たいしたことねえよ。誰かさんのおかげで、他の二人を気にする必要がなかったからな」


 言うと、二人は快活な笑みでハイタッチをした。身長差のせいで、メイプルがジャンプしてようやく届いたタッチだったが、そんな様子さえ今は何故か誇らしげに見えた。

 やがて転移の光に包まれ、熱気に包まれた会場から外へと転送されていく。

 その直前、ハセヲは未だ響く歓声を、己の耳にしかと残した。

 一時的な感傷だ。いずれ忘れるだろう。

 けれど、覚えておきたいと、そう思った。何故か、そう思った。

 ハセヲの率いる、アトリ、スケア、メイプルの『ハセヲチーム』が破竹の勢いで勝ち上がり、決勝戦へと駒を進めたのは、その五日後のことである。








少々、いやかなり、もといとてつもなく久々の更新となる第五十四話「攻防」でした。

現実あってこそとは自分でも感じてますので、ひっそりと更新をしていく予定です。終わりを見据えてはいるので、もうしばらく付き合っていただければ嬉しく思います。

ご感想の返信も先程致しました。同様に遅れまして、ご感想を送っていただいた方々には申し訳なく思います。遅筆でありながらも見続けてくれている読者様は、本当にありがとうございます。そしてすみません。











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