第二十一話 痛み
午前二時。
いつもならベッドに入り、まどろみの中にいるであろう真夜中。
しかし、部屋の主はベッドの中ではなく床の上に寝転んでいた。
――否、のた打ち回っていた。
「が……ぁ……!」
全身を這いずり回る痛みに、苦悶の声が漏れる。
いっそ大声で喚きまわってしまいたかったが、運が悪いことに今日も母が帰宅している。叫んで気取られるわけにはいかなかった。
「ぃ……っ! ぁ、あ……!!!」
痛みは突如としてやってきた。
あの後、傷痕に飛ばされた地底湖で転送機を見つけ出し、俺たちはタウンへと戻った。
色々と調べたいことはあったが、既に時間も時間であったので落ちるログアウトすることにした。
そうしてログアウトを行い、現実へと戻った途端―――痛み(それ)は来た。
全身を襲う脱力感、そして強烈な眩暈。
それはまだマシだった。問題ないとは言わないが、まだしも耐え切れるレベルだった。しかし……
「はっ……はぁ、はぁ……ぎっ、あ……!!」
この、右腕を縛り付ける痛みだけは許容できるものではなかった。
まるで鋼鉄線でガチガチに縛られた上に、内側から串刺しにされていくような痛み。
のみならず、灼け尽くように熱い。実際に燃えてしまうのではないかと危惧するほどの、灼熱感。
「あ、ぐっ……や、ばい……、な……」
いや、やばいなんてもんじゃない。明らかに、これ以上なく明らかに、異常だった。
痛みは大分治まってきてはいるのだが、それでもこのザマだ。
痛みが襲ってきた瞬間は本気でやばかった。気絶しないでいられたのが不思議でならない。
「くっ……はぁ……! ぐ………いや……違う、か」
馬鹿馬鹿しい。気絶など出来るワケが無い。
あの時の痛みであれば、気絶した瞬間に意識が叩き起こされただろう。
あの痛みを感じながら気を失い続けられるとは思えない。もし、そんな奴がいるならば鈍感の域を超えている。是非とも神経系の病院を紹介してやるべきだ。
「………なんとか、収まって、きた、な」
少なくとも馬鹿みたいな皮肉を考えられるレベルにまでは落ちて来た。
壁時計を見上げると二時十分を指していた。ログアウトしたのが、たしか十一時前……約三時間もの間のた打ち回っていた計算になる。
「……もう、こんな時間か、よ」
全身汗まみれ。勝手に出てくる悲鳴をかみ殺すために食い縛っていた為か、今度は顎が外れそうに痛む。握り締められていた右腕は所々が痣になっていた。
「……これも、アレの後遺症なのか……?」
昨日もログアウトをした後、倦怠感が纏わりついていた。
しかし、あくまで体力の激しい消耗だけで、ここまでの痛みを感じることはなかった。翌日にはほとんど回復し、筋肉痛があっただけだったのだ。
あれは……三爪痕の攻撃によるなんらかの影響が原因だったはずだ。他に原因が考えられない。
一日立てばそれも無くなるとタカをくくっていたのだが、まさか治るどころかここまで悪化するとは想像だにしなかった。想像できるワケがない。こんな……狂おしいほどの痛みを。
「とりあえず……飯食って、風呂入らないと……」
いつも夕飯は途中で休憩がてらに食べるか、『The World』を終えてから食べるようにしていた。
今日はたまたま母に食事に呼ばれたが、こんな状態を見せるわけにはいかない。扉越しに声をかけてくる母に、爪が食い込むほどに拳を握り締め、どうにか平静を装った声で返答することが出来た。
服は汗で完全に湿気ている。この姿で寝れば確実に風邪を引くだろう。身体を動かすのも苦痛だが、仕方がない。
軋む身体に鞭打ち、階下へと降りていった。
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