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さあ、謳えよ諸君



幕開けだ



.hack//G.U.Chronicle
作:蒼乃黄昏



第十五話 疑問


「……何故だ」


 先程から脳裏に浮かぶのはその一語のみだった。

 何故、と疑問が絶え間なくハセヲを苛む。

 落ち着けとハセヲは自らに言い聞かしていた。こういうワケのわからない状況下では、まず冷静になるのが大切だ。

 そうだ、まずは落ち着いて一つひとつ確かめていこう。

 俺は『月の樹』のアイツに、無理矢理ここに連れてこられた。連れてきたのは向こうの方であり、俺はこんなトコには来たくなかったのだ。

 つまり、目的を持って俺をここに連れてきたアイツが、先導する立場のはずだ。だと言うのに――


「……何故なんだ」


 落ち着いて考えても答えは出ない。それどころか、むしろより一層疑問は強くなり、ハセヲ精神を確実に蝕んでゆく。

 どうしてこんな事になったのか、なんの理由で俺がこんなことをしなくてはならないのか。何故――


「ハセヲさん、よろしく御願いしますっ!!」

「頑張ってね、二人とも」


 何故――無理矢理連れて来られたはずの俺が"アトリを特訓している"のか。


「何故だあぁぁー!!」


 ハセヲの叫びは虚しく月夜に響き渡った。事の始まりは、数十分前に遡る。




          *****




「攻撃は俺とアンタでやろう。オマエは回復と援護だ」


 それがハセヲの提案だった。

 戦闘経験がまるで無く、アトリは戦力としてはアテにならない。しかし、それでも回復と援護能力に特化したハーヴェストだ。低レベルエリアでは呪紋を唱えるだけでも十分であり、後衛に徹させるのが得策だと判断した。前衛はハセヲとヴェラの二人が担当する。


「はい、頑張ります!」

「分かったわ」


 少々慌て気味な返事と、落ち着き払った返事が返ってくる。

 ヴェラの先程のゴブリンを倒した呪紋の威力から察するに、この程度のフィールドなら十分戦えるくらいの実力はありそうだ。落ち着いた物腰といい、まず初心者ではない。これでなんとかなるだろう。

 それにしても、連れて来られたはずの俺が何故、こんなことをしなくてはいけないのか……激しく疑問だが今は放置しよう。考えるだけで頭が痛い。


「それじゃ、行きましょうか」


 ヴェラが先を促し、三人は先程のゴブリンどもが守っていた橋を渡る。このエリアはいくつかの小島で構成されているフィールドだ。獣神像は恐らく一番奥の小島にあるのだろう。


「ところでハセヲさん、『月の樹』のギルド名の由来って知っていますか?」


 唐突にアトリが聞いてきた。

 例の『月の樹』のご説明とやらか……先程までアタフタとしていたクセに、こんな時だけハキハキとした口調になる。


「興味ねえ」

「まあまあ、聞いておいて損は無いですよ。ハセヲさん!」

「たしか……ギルドを運営している七人の幹部PC名が、全員「木」の名前から由来されているのよね。『七枝会』だったかしら?」

「そ、そうです。よくご存知ですね」

「ええ、昔に勧誘されたことがあったからね。その時に色々と話を聞いたの」


 柔らかに微笑んでヴェラは答える。端々に大人の物腰を感じさせられる仕草だった。

 だが、その挙動の一つ一つに、どこか不自然さを感じる。何が不自然なのかは分からない。しかし、何故か自分たちとの相違点、違和感を感じる。

 まあ……そんな事を気にしていても仕方がない。今はさっさと獣神像へと辿り着き、クリアするのが優先事項だ。


「さっさと行くぞ」

「あっ、待ってくださいよぉ、ハセヲさーん!」

(聞いてられるかよ)


 無視して突き進んでいくが、しばらくもしない内にモンスターと遭遇した。今度は……ゴブリン二匹に、狼型モンスターの「リウファング」がいた。


「モンスターだ……、今度は逃げ回ったりすんじゃねえぞ」

「は、はい!」


(……ホントに大丈夫かよ)

 明らかに強張った返事が返ってくる。横目で様子を伺えばどこか引け腰だった。


「そんなに怖がらなくても大丈夫。私もついてるから、ね?」


 優しく声をかけるヴェラ。その声を聞いて、僅かなりともアトリは緊張を解いたようだった。それでもガチガチのままだったが、多分解いたはずだ。


「んじゃ……いくぜ!」


 地を蹴り出し、一気に間合いを詰める。まず、最初の狙いはゴブリン。雑魚どもに狙いを定めて集中攻撃で倒し、しかるべき後にリムファングを倒す作戦だった。

 敵に気づかれた様子はない。そのまま双剣で不意打ちを仕掛ける――


「ギッ、ギギィ!?」


(ちっ!)

 ぎりぎりの距離で気づかれた。もう止まれはしない。そのまま双剣を打ち据える。敵が鈍かったおかげで防御されることなく、その一撃はゴブリンを捕えた。


「――“ザンローム”――」


 続いてヴェラの詠唱の完成を背中越しに聞く。

 魔力の流れは鋭さを秘め風を成し、リウファングをも巻き込んでゴブリンを包み、切り裂いた。。

 ゴブリンは突風の中へと消えたが、リムファングは無理矢理に突破し、勢いよく飛び出してきた。

 ゴブリンどもを倒しきれたかどうか確認を取りたかったが、そんな暇を与えてくれはしない。リウファングは身体を畳み込むように小さく構えたかと思うと、弾けるようにして突撃してきた。

 回避しようとするが想像以上に速い。否、想像以上に自分の反応速度が遅い。


(くっ、まだ慣れきっちゃいねえか)


 昨日の戦闘で大分慣れたと思ったが、いまだイメージと実際の戦闘力とに差異があるようだ。

 到底回避は間に合わない。双剣を構えて防御。

 ドリルのようにして回転しながら突っ込んできた。突風を纏ったかのような牙が、防御を貫いてハセヲを捕らえる。


「リ、“リプス!”」


 意味ある言の葉は力を生み、優しき光となってハセヲを包み込む。儚げに光が消えると共に、ハセヲの傷もまた消えていた。

 少々……いや、大分慌て気味なのが気にかかるが、とにもかくにもアトリは自分の役割を果たした。

 ハセヲは至近距離のリウファングの顎を膝で蹴り上げ、無防備に晒された腹部へと双剣を突き立てる。

 だが、いまのレベルの貧弱な一撃では倒し切れはしない。

 つくづく自分の今の力量に落胆するが、悔やんでも仕方がない。一撃で倒せないのならば、二撃三撃と倒れるまで攻撃を打ち込むのみだ。

 再び襲い掛かろうとするリウファングの機を制し、初撃を一閃。


「“疾風――”」


 続く動きで身を回し、逆手に持った右の刃を突きたて、そこから逆回転に身体を回した勢いで左の刃の三撃目を浴びせる。


「“――双刃!”」


 攻撃をまともに受けたリウファングは長い悲鳴を響かせ、動かなくなった。

(あとはゴブリンども!)

 ザンロームで倒しきれたか確認を取れていない。咄嗟に振り向き、見ると一匹はヴェラと近接戦闘に入っていた。

(もう一匹は――どこだ!?)


「キャアァ!?」


 悲鳴の元へと振り向く。確認する間も惜しみ疾駆。

 視界に入ったゴブリンはかなりのダメージを受け、自暴したかのようにアトリへと剣を振るっていた。アトリは――やはり逃げ回っていた。

(やれやれ……)


 心中でため息をつきつつも、アトリとゴブリンとの間に身体を捻じ込み、アトリへと振り下ろされた短剣の一撃を受け止める。そこへ――


「リ、リ、リ……“リプス!」


 混乱の極みに達した主の詠唱に応え、優しき光が生み出された。

 光はそのまま主の意思に忠実に従い――\\"ゴブリンを"包み込み、癒した。


「…………は?」


 なんか背中越しに「あっ、あっ、ま、間違――」などといった声を聞いた気がする。

 ……気のせいだと思いたい。いや、気のせいのはずだ。いくらなんでも、そんな馬鹿な真似をするわけがない。

 しかし、ハセヲのそんな淡い希望は裏切られ、ゴブリンのダメージは綺麗さっぱりと消えて全快していた。先程とは打って変わった、気力の満ち満ちた攻撃をハセヲへと繰り出してくる。


「なにやってやがんだテメェはぁー!!」


 全快したゴブリンとハセヲとの一騎打ちが終わったのは、それから十分後のことだった。





小説初執筆の身ですが、ハセヲと三爪痕の物語を語らせてもらいたいと思います。よろしければ、ご意見ご感想をよろしく御願いします。











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