第25話 大ちゃん
俺は非情なる現実を受け入れるのに1分ほどかかった。
目の前にいる、この爆乳女王は…男だったのだ。
いや、身体は素晴らしい女性だ…でも魂は男なのだ。
神よ…貴方はいったいどれほどの試練を私にお与えになるのですか。
女王改め、大ちゃん(ちゃん付けで呼ぶことにした)は、最初俺を神聖なる何かと思っていたらしいが、俺がこの世界にきた経緯を話していくうちに、どんどん態度が砕けていった。
今は転生前、大ちゃんもラノベ好きではあったのだが、TS物は苦手意識があって読んでいなかったこと。
おかげで転生したら女の子の赤ちゃんで、TS物のラノベも読んでおくべきだったと酷く後悔した話を聞いている。
女性に転生してしまって、いろいろ大変だったそうだ…しかも王族だしね。
途中、成長していく自分の胸のことを思い出しながら話す大ちゃんは嬉しそうだった。
出産の大変さを語る大ちゃんの表情は真剣だった。
さて、ようやく話が出来る相手が見つかり、しかもそれがこの世界の女王様なのだから、俺は様々なことを聞きまくった。
(ふ~ん、聖樹の祝福ね…ニニが作ったお茶は聖樹の祝福を受けていて、とんでもなく効果が高いと…ニニが聖樹草を盗んだ罪は、聖樹の祝福のおかげでチャラってわけね)
(そういうこと。この世界では聖樹の祝福を受けているなんて、まさに神器!って感じなのよ)
(聖樹ってあの遠くに見える巨大な木のことだよな?)
(ちょっと違う。あれは聖樹王って呼ばれている木だよ。聖樹は、聖樹王の木の根から生えてくる小さな木のことを言うんだ)
(聖樹王の木の根ね…あの巨大な木の根がこの大地に張っていると)
(う~ん…というよりも、聖樹王がこの大地そのものなんだよ。)
(ほえ?)
(こっちの世界の言葉を直訳して聖樹王って言ったけど、私達の世界での言葉なら「世界樹」ってものに近いんだよね、あれは)
(あ~世界樹って俺も最初に思ったよ)
(この世界はね3っつに分けられているの。私達が住んでいるこの大地を中間に、聖樹王の頂上にも大地があるとされているんだ。そして、逆に私達が住んでいるこの大地の地下…そこにも大地が存在していて地下世界と呼ばれているのよ)
(あるとされているって、聖樹王の上に大地があるのか分からないのか?)
(あると思うけど見た人はいないの…今の時代にはね。大昔に「大罪の日」と言われる事件が起こって、私達人間は罪をおかしたことで聖樹の祝福を受けられなくなり、天界への道も閉ざされてしまった…というわけなの)
(いろいろ大変なんだな)
(天界も、私達が住む地上界も、悪魔が住む地下世界も、全て聖樹王が大地を作って支えていると言われているわ)
(悪魔?地下世界には悪魔がいるのか?)
(ええ…いるわ…いっちゃんも(大ちゃんは俺のことを「いっちゃん」と呼ぶのだ!)悪魔に会ってると思うけどね)
(え?俺が?!)
(ゴブリンロードが悪魔達が作ったと鑑定された大剣を持っていたんだけど…記憶にない?)
(あ~!あの豚人間か!あれが悪魔なのか?!)
(そうよ…ベルゼブブの部下ね。たぶん相当弱い部下だったと思うわ。あの場所から1番近い穴は「小穴」だから)
(次から次へと知らない言葉だらけだな…)
大ちゃんから聞いた内容を要約するとこうだ。
いまこの世界はピンチらしい。
聖樹の祝福が受けられない中、地下世界から悪魔が侵攻してきている。
悪魔は聖樹王の木の根に空いた「穴」からやってくる。
「穴」は大きさで分類されて「小穴」「中穴」「大穴」と呼ばれている。
悪魔は強い個体になるほど、身体が大きくなるらしい。
つまり強い悪魔は小穴からは出てこない。
確認されている中穴は5個。
そして大穴は2個…だったのか最近新しい大穴が発見されて3個になったそうだ。
この新しい大穴のことは、一部の人間達しか知らない秘密なんだそうだ。
そしてこの世界に侵攻している悪魔の親玉がベルゼブブという悪魔らしい。
豚と蠅の王なんだって。
なんか汚い悪魔王だな。
(小穴は10個ぐらいあったかな?私が女王になる前は、小穴はすぐに塞いでいたから。)
(今は塞がないのか?っていうか塞げるのか?)
(小穴をすぐに塞いでいたから…被害は大きくなっていたのよ。考えてもみてよ。実戦経験の無い騎士や戦士が、いきなり中穴、大穴からやってくる大物と戦えると思う?)
(なるほど…)
(小穴と中穴に関しては、私達で対処可能な強さの悪魔しか出てこれないの。だから私達で管理して、戦士や騎士を育てているのよ)
(穴の塞ぎ方は?)
(穴の奥にある「境界線」を聖樹の木で塞いで特殊な魔法を施すの。その特殊な魔法を使える人間もマリアだけになってしまったわ…聖樹を切れるのもナールだけだし)
(マリアっていつもやってくる巨乳神官だろ?ナールって誰だ?)
(最初の謁見の時に、後からやってきて、いっちゃんを抱きしめて泣いてた人よ)
(あ~あのドアーフ!…ん?ドワーフ?…あれ?どっちだっけ?)
(ドワー…あれ?ドアーフ…あれあれ?…どっちだっけ?)
(大ちゃんも曖昧だなおい!ナールって人はドアーフなのか?)
(ナールはドワーフ…みたいなものね。この世界では「聖樹の狩り手」と呼ばれる人達よ。最も、実際に聖樹を狩ることが出来るのはナールしかいなくなってしまったけどね)
(つまり、穴を塞ぐにはマリアとナール…どちらかが欠けると無理ってことか)
(そうなのよ。聖樹を運んでいる時に…いっちゃんを失くしてしまった罪でナールは処刑されるかもしれないところだったのよ~。本当に頭の痛い問題だったわ)
(処刑?!なんで?ナールがいないと困るんだろ?)
(そこは…この世界もいろんな勢力がいるってことよ。1枚岩では無いわ)
女王の苦労は多そうだ。
(ところで大ちゃん…話し方がすげ~女っぽいんだけど)
(あ~それはほら…元は42歳のおっちゃんだけど、もう30年以上女性として生きているからね…こうして日本語で話すのは久しぶりだけど、どうしても女っぽくなっちゃうわね~)
ちなみに聞こえてくる声は女王の声そのもの…つまり女性の声だ。
魂は42歳のおっさんだというのに…声と身体は爆乳美女そのものだ。
(大ちゃんの身体すごいよね…)
(ん?まぁ~ね~。素材は最高でしょ!…もしかして、いっちゃんておっぱい星人?)
(い、いや!そんなことは…あるけど…ま~男は全員おっぱい星人だろ?星の大きさにこだわりはあったとしても)
(そうだよね~…ねぇ、いっちゃんを胸で挟んであげようか?)
俺に鼻があるなら、間違いなく赤い何かが飛び出していたと思う。
思うが…そう思ってしまうことに戸惑いもある…目の前の爆乳美女はおっさんなのだ。
爆乳美女はおっさん…意味不明な言葉だ。
意味不明なのだが…星はある…そう星はあるのだ!それも巨星が!
俺は…大ちゃんに「お願いします」と一言呟いた。
ステータス
以心伝心な木の棒
状態:怪しい女王の以心伝心な木の棒
レベル:1
SP:0
スキル
日本語