第16話 借金
昼間に学校に行った日の翌日…いつもの日常が戻ってきた。
早朝の牛乳配達→朝食→お仕事→帰宅して夜ご飯→夜の学校→就寝。
寝る前のニニとのお話タイムが待ち遠し俺である。
そして俺のレベルも1つ上がった。
昼間に学校に行った帰りにだ。
別に空は飛んでいなかった。
それでもレベルは上がった。
なぜだろう。
レベルが上がる法則を考えていたら、イベント発生です。
昼間に学校に行った日から3日後。
ニニはまた俺を連れて出かけた。
あれ?今日も昼間の学校なのか?と思っていたら…本当に職場に俺を連れて行った。
連れて行ったというよりも…俺が必要だったと言うべきだろう。
きっと、ここはニニにとっても新しい職場だと思う。
なぜなら、ニニも不慣れな様子だからだ。
キョロキョロして緊張している。
物がどこに置いてあるのかもちゃんと分かっていない。
まさに新人の初日といった感じだ。
さて、そんなニニの新しい職場ですが…ここは郵便屋さんのようです。
魔女の郵便屋…危機一髪だな!
ニニは空を飛べることを仕事に生かそうと考えた結果、郵便屋で雇ってもらうことに成功したのだろう。
重い荷物なんてなく、手紙をあちこちに運ぶ仕事だ。
空を飛んであちこち手紙を届けることが出来るなら、これほど効率的なことはない。
初日の今日は地図とにらめっこな時間が多くて、効率的かといえないかもしれないけど、それは少し慣れたら問題ないはずだ。
ニニは頑張り屋さんだからな!
でもなニニ…この仕事をするのに一つ足りてないものがあるんだ。
…お金に余裕が出来たら黒い猫飼おうな!
さて、空を飛ぶ郵便屋さんを始めたニニだけど、ニニ以外に空を飛んでいる人を見ることはほとんどない。
まったく無いわけじゃない。
たまに見かけるんだけど…ニニみたいに高く飛んでいない。
それに、ちょっと飛んではすぐに着地している。
たまに、遠くに見える城?のような大きな建物から、何かが飛び立っていくのが見えるが、それはニニよりもさらに高いところを飛んでいるし、ものすごいスピードで何なのかよく分かっていない。
…そういえば、川に流される木の棒だった時に、ここが異世界だと判断するきっかけとなった、あの巨大なジンベイザメに翼が生えた生き物が空を飛んでいるところに遭遇しないな。
あれはいったい何だったんだろう。
さて、ニニと一緒に夜の学校に行く時は空を飛んでいたわけですが、昼間にこうして飛ぶと、この世界のことがいろいろ見えてきます。
見えてきた中でも一番の驚きは…遠くに見える城のさらに遠くの向こう側に見える…信じられないぐらいに巨大な木。
木…なんだろうか?…見えているのは木の幹と思われる部分なんだよね。
宇宙…がこの世界にあるのか知らないが、木は空高くまで伸びていて、上の部分は目視では見えない。
あそこまで巨大な木があるとしたら、太陽の光を遮るはずなんだけど…そんなことは無いし。
ゲームやラノベ知識からいくと「世界樹」という言葉が思い浮かぶ。
ま…あれが木だったらね。
近づいてみたら、超巨大な建造物の可能性も…あるのか?
郵便屋さんで働き始めて1週間ぐらい経った時…イベント発生です。
早朝の牛乳配達から帰ってきたらお母さんが起きてこない。
部屋に行くとお母さんは吐血していた。
ニニはすぐにお母さんの引出しから薬ビンのような物を取りだす。
お母さんの背中をさすって、荒い息を吐くお母さんに薬ビンを渡す。
お母さんも薬を吐きださないように…呼吸を整えながら…ゆっくりと薬ビンに入った液体を飲んでいく。
薬を飲み終えたお母さんはすぐに落ち着いた。
顔色も良くなっている。
ニニも安心した様子だ。
お母さんをベットに寝かせると、ニニは朝食をお母さんの部屋に運んであげた。
空になったビンを見つめるニニ。
引出しの中には…空になったビンしかなかった。
たぶん…最後の薬だったのだろう。
ニニはお母さんをベットに休ませたまま、仕事に向かう。
郵便屋の前に、お母さんの職場と思われる所に寄った。
そこは見た感じクリーニング屋さんのように見える。
お母さんはここで働いているのだろう。
頭を下げて事情を説明しているニニ。
ニニの話を聞いている中年おっさんは、笑顔でニニの言葉を聞いてくれた。
見た感じ人の良さそうなおじさんだ。
事情を分かってくれる良い人なのだろう。
ニニは郵便配達をしている間も心ここにあらずだった。
仕事が終わると急いで戻って、お母さんの体調を気遣っていた。
夜の学校の授業の間も…心ここにあらずだった。
きっとお母さんのことが心配なんだろう。
しかも薬が切れてしまったのだ。
牛乳配達や郵便配達でニニの収入は増えているはずだ。
牛乳配達の初日…朝食がきっといつもより豪華だったのは、空を飛んで牛乳配達を3回も出来たから、いつもより多く賃金をもらえたからのはずだ。
俺を使って空を飛ぶことで、ニニの仕事効率は抜群のはず。
なら賃金もそれに比例して増えているはずだ。
事実、ニニは余った賃金を家の壺に入れて貯金している。
だから、俺は薬だって買えると思っていた。
でも現実はそう上手くいかなかった。
翌日…ニニが郵便配達から帰ってきてすぐ…まるでどこからかニニが帰ってくるのを見ていたかのようなタイミングで男が二人やってきた。
ニニは貯金していた壺を持っていた。
男達にその壺の中に入っていたコインを全て渡した。
男達はそれを受け取りコインを数えると、紙を1枚出して何かを書いてニニに渡してすぐに去っていった。
去っていく男達に、ニニは何か言おうとしたように見えた…でもニニの口から言葉は何もでなかった。
空になった壺の中身を虚ろな表情で見るニニ。
あの男達は…借金の回収にきたのだろう。
ニニ達には借金があるのか。
生活に苦しくて借金をしたのか…借金のせいでこのような貧乏暮らしになったのか。
知ることは出来ないが…せっかく頑張って貯めたお金が無くなったことは事実だ。
壺の中身を見ていたニニの表情が、何かを決心したような表情に変わる。
俺はそれが何を意味するのか…分からなかった。
ステータス
ちょっと魔力通な木の棒
状態:空飛ぶ少女のちょっと魔力通な木の棒
レベル:3
SP:2
スキル
魔力:レベル1