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実験体~人ニ戻リタイ~

作者:henka
「えぐっ、えぐっ、うぅ……」
「ほらほら、泣くんじゃない。まだ実験は済んでいないんだ。君はフルトランスする能力を持っているはず。さぁ、早く獣になりたまえ、実験体二○三号」
 鉄の鎖に繋がれた僕に、白衣の男は優しく語りかける。男は手に持った注射器を僕の腕に打った。
「ウゥゥ……ガア゛ア゛ア゛ア゛ー!」
「素晴らしい……獣化できるとは光栄なことなのだよ。その能力が無い私は君が羨ましくて仕方がない」
 男は体が壊れそうなくらい変化している僕を恍惚とした目で見ている。それは悪寒がするほどの恐ろしく嫉妬した笑みだった――


 僕は改造されてしまった。もうヒトじゃない……バケモノだ。僕はこれまで普通に学校に通って、良い子として過ごしてきた。なのに学校の帰り道、急にこの男が指揮を取る集団に捕まったのだ。気が付いた時、僕は白い部屋に入れられ、両手両足を鉄の鎖に繋がれていた。

「ようこそ、獣人研究所へ」
 男はそう言って、鎖に繋がれた僕に冷たく微笑んだ。
「な、なんだ、これは! おいっ、放せよ!」
 僕は状況が飲み込めず、男に向かって叫んだ。
「威勢がいいことは良いことだ。しかし、実験が終わるまで君を解放することはできない。病院に保存されている血液からの遺伝解析の結果より、君には半獣化ハーフトランス完全獣化フルトランスする能力が備わっている可能性があることがわかっている。君は獣に変身したことはないかい?」
 男が何を言っているのか理解できなかった。
「獣に変身……? あるわけないだろ! 冗談はよせよ。早くこの鎖を解いてくれ」
「そうか……まだ目覚めていないのか……獣化できるなら話は早かったのだが……目覚めていないとなると……早く目覚めさせる必要があるな……」
 男はブツブツと何かを呟いている。
「アレを持ってきてくれ」
「はい。すぐにお持ち致します」
 男は後ろにいたメガネの男に命令した。

「私は残念ながら君と違ってヒトだ。しかも純血種……私は獣化能力が欲しい。これは我が一族の悲願……私は君に期待しているよ」
 男が侮蔑にも似た冷たい笑みを僕に向ける。
「博士。お持ちしました」
「ありがとう。暴走する可能性もあるから、外に出さないように警戒態勢を万全にしておいてくれ」
「わかりました」
 博士と呼ばれた男は注射器を手に取ると、それを僕の腕に刺した。
「これは獣化促進剤だ。これまで数百人調べた結果、これで獣化能力の目覚めを促すことができるとわかっている。私の予測では君はコウモリに変身できる素質があるはずだ。さぁ、私に見せてくれ」
 透明な得体の知れない液体が僕の体の中に入っていく。体が拒絶したように熱くなる。僕は、気が狂いそうだった。
「やめろ……うぐあぉぅ……ぎいやぁぁぁぁぁぁああああー」
 これが、僕が捕まった最初の日の出来事だった……


 あれからどれくらい時間が過ぎたのか、真っ白な何もないこの部屋ではわからない。定期的に食事をさせられ、何時間置きかに注射を打たれる。男は僕を実験体二○三号と呼ぶようになった。
 男が言ったように、僕の体は少しずつコウモリに近付いていっている。手の指がとてつもなく長細くなり、指と指の間は水掻きのような膜で繋がっている。顔の先端が少し出っ張り、耳が小さくなった。毎回注射を打たれるたびに、少しずつ、少しずつ、コウモリに近付いていく……男曰く、僕は異常に変身経過時間が長いらしい。普通は一本打てばすぐに獣化するのに、僕はほとんど獣化しなかった。そこで長期に渡って、少しずつ獣化させていくとの話だ。
 初めの頃拒絶していた僕は、徐々にその生気を失っていった。

「君は本当に特異だな。私が見てきた中で最も変身速度が遅い。しかし一方で一部獣化した姿をずっと維持している。実に興味深い。君を詳細に研究すれば、新しい変身薬が開発できる気がする。そして今度こそ私もその能力を……」
 男は嬉しそうだった。
「それじゃあまた、実験体二○三号。キミ、後はよろしく頼むよ」
「は、かしこまりました」
 男はそう言って、近くにいたメガネの男に声を掛け、部屋を出ていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 体の変化が苦しくて、汗、涙、涎……いろんなものが出てしまう。こんな姿、誰にも見られたくない。
「……」
 メガネの男は、獣化促進剤を打った後の僕をいつも無言で血液採取する。
 ここに来る人達は皆、悪魔だ。
「はぁはぁはぁ……ぐあっ!」
 また少し、体がコウモリに近付いた。足が異様に細くなったのだ。
「はぁはぁはぁ……!」
 体が変化する苦しみの中で僕は気付いた。足が細くなったことで、足が鉄の鎖から外せると……
「ぐあぁぁっ!」
 僕は足を鉄の鎖から抜くと、すぐに血液採取しているメガネの男の顔面を蹴った。鋭い爪で引っ掻かれたメガネの男はその場で血まみれになった。


 ドクン ドクン ドクン


 不思議と、ヒトの血を見ていると、力がみなぎってくるようだった。血を舐めたい……僕は何故かそう思うようになっていた。
「ウガアアアァァーー!!!」
 僕は信じられない力で、両手に付いた鉄の鎖を破り、倒れた男の血を啜った。
「オイシイ……」
 血を飲むと僕は再び体が熱くなった。
 体の変化の苦しみに耐えると……
「戻っ……てい……る?」
 しかし、感動に浸る暇は無かった。僕は真っ赤に染まった部屋を抜け出し、外に逃げた。

 僕が捕まっていた研究所は森の中にあった。僕は他の研究員に見付からないように森の中を何日も何日も彷徨い、ようやく見覚えのある景色へと辿り着いた。
「帰って……帰って来れた……」
 日常がこんなにも眩しいものとは思わなかった。僕は見知った道で大声で泣いた。しかし、体は既におかしくなっていた。
「っぐ!」
 手が細長く伸び始める。またコウモリに変化し始めたのだ。ちょうどその時、見知らぬ女性が道を通りかかった。ちょうど僕の口には牙も生え揃っていた。
「!」
「え……きゃあああああー!」
 僕は女性を襲い、血を啜った。すると、体が人に戻っていく。これで確信した。僕は吸血鬼になってしまったんだ。

 人なんか襲いたくない。しかし、人の血を吸わなきゃ人の姿に戻れない……理性と本能に苦しめられ、研究所を抜け出しても地獄だった。
 このまま僕はどうにかなってしまうかもしれない。でも、その前に会いたい人がいる。美吉……僕の幼馴染みだ。
 僕は十分に吸血し、人の姿を保ったまま美吉の家のインターホンを押した。
「はーい」
 すると、すぐに彼女は外に出てきた。
「! ケン……ちゃん……?」
「美吉……」
「いったい、今までどうしていたのよ? 服もボロボロで……突然行方不明って聞かされて……心配したんだから……」
「ごめん。僕もいろいろあったんだ」
「……とにかく、うちにあがって。中で話そう」
「……それはできない」
「どうして?」
「僕はもう……人間じゃないんだ……」
「どう……いう……意味……?」
 美吉は泣きそうな目で僕を見つめる。僕もその顔を見て泣きそうだった。
「僕は吸血鬼にされた。理性があるうちにちゃんと言いたい。僕はずっと美吉が好――!!」
 告白しようとした瞬間、突然背中に強い痺れを感じた。
「よし、実験体二○三号を捕まえたぞ」
 後ろから男の声がした。
「え……ケンちゃ……ん……」
 黒い服の男達が美吉にスタンガンを当てる。
 僕は男達に連行される幽かな意識の中、涙しながら思った。
 美吉、今までいろいろ付き合ってくれてありがとう、と……

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