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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です

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【家族の問題・農村編2】我が家の息子は『いい子』すぎる?

お父さん視点その2です。
パドくんという『転生者』の思考回路の『不自然さ』がだんだんと出てきます。
「そこっ!!」

 テルが俺に断りもなく、草陰に向かって矢を放った。

「キュンッ」

 悲鳴のような動物の鳴き声がする。
 テルが駆け寄り、倒れた動物を持ち上げる。

 どうやらテルが仕留めたのはラビのようだ。
 ラビは小型でピンク色の草食動物で、足が速く耳がいい。
 それを1発で仕留めるテルの腕前は、まあさすがだと言うべきなのだろう。

 が。

「バカもんっ」

 俺はテルに駆け寄りげんこつを落とした。

「なにするんだよ、バズさん」

 俺に頭を叩かれた11歳になったばかりの少年はそう言って恨めしげに俺を見た。

「リーダーは俺だ。許可なく矢を放つな。もしも草陰にいたのが人間や猛獣だったらどうするつもりだ!?」
「ちゃんと、小動物だってことは確認したよっ!!」

 テルは口をとがらせる。

「そういう判断を勝手にするなと言っているんだ」
「でもっ」
「『でも』ではない。それにその先は沼地だ。もし矢が沼に落ちたら回収が困難になる」

 矢は貴重品だ。
 特に(やじり)に使われる鉄は村の中で作ることができない。
 無駄になくすわけにはいかないのだ。

「ちゃんと命中したんだからいいじゃないかっ!!」

 テルはまだ不満げだ。
 無理はない。
 テルは今月の月始祭で11歳になったばかりだ。
 つまり、先月までは年少組をまとめるリーダだったのだ。
 しかし、11歳になって大人達の中に入ったとたん、一番下の立場になってしまう。
 俺も当時は年長者に反発したものだ。

 テルは弓が上手く11歳としては異例なことに狩りへの参加が認められた。
 今も俺が気がつかなかったラビに目をつけ、1発で仕留めて見せた。
 年頃の少年が調子にのってしまう気持ちは理解できる。
 そんな少年の出鼻をくじく意味でも、村1番の狩人である俺と組むことになったわけだ。
 まあ、俺より先にテルが獲物を見つけてしまったのでその思惑は外れてしまったのだが。

「とにかく、弓を放つ前に俺に一言告げるように」
「そんなことしていたら逃げられちゃうじゃん」
「それでも、だ!!」

 テルはそれ以上何も言わなかったが、顔には不満があふれている。
 頭ごなしにしかるばかりでは余計反発するだけだろう。

「とはいえ、いまの弓は上手かったな。さすがだ」

 俺がにっこり笑って言うと、テルもようやく笑顔になった。

「でしょ、でしょ? 今日は、もっとたくさん捕って見せるよ」

 簡単に調子に乗るテル。
 うーん、これでよかったのだろうか。
 ともあれ、仕留めたラビはテルが背負うかごに入れて、狩りを続けた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「よし、このくらいでいいだろう」

 ラビを3匹、レコというラビを茶色くしたような動物を2匹、コックという鳥を2羽仕留めたところで、俺は言った。

「えー、まだ昼間じゃん。もっと獲ろうよ」
「山の恵みは有限だ。獲り過ぎてはいけない。他の者の分も合わせれば明後日の月始祭にはもう十分だろう」
「ちぇっ、もっと獲りたかったのに」

 そういいながら、弓を構えてみせるテル。さすがに矢はセットしていないが。

「まあ、そういうな。テルのおかげで今回は手早く仕事を終えられたんだから」
「え? そうかな。ははっ」

 褒めるとすぐに笑う。
 わかりやすい子だ。
 うちの3歳の息子よりもずっと素直に感じる。

 ……

 ……息子……か。
 先月まで年少組のリーダーだったテルと2人だけになれたのはちょうど良い機会かもしれない。

 俺は適当な大きさの石に腰掛け、気になっていたことを訪ねる。

「なあ、テル、うちの息子はどうだ?」
「え? パドのこと?」

 テルも俺の向かい側に座った。

 パドは3ヶ月前から年少組の1人として水くみ作業に参加している。
 つまり、先月と先々月はテルの元で毎日働いていたわけだ。
 親として、つい様子を訪ねたくなる。

「いい子だと思うよ。ライと違って初日から文句も言わずに働いていたし」

 この村では月始祭の日にその月に産まれた者の年齢が上がる。
 聞くところによれば、都会の貴族達は産まれた日にちに一人一人盛大な誕生会を行うらしいが、そんな余裕はこの村にはない。
 ライというのはパドよりさらに1月前に月始祭で3歳になった男の子だ。

 村では男の子が3歳になると年少組の水くみ作業に参加させる。
 といっても、3歳児を水くみの戦力として期待しているわけではない。
 村の一員としての自覚をつけさせることが目的だ。
 3歳児に持たせるのはコップくらいの小さなバケツである。
 リーダーが見て体力的にきつそうなら一往復で家に帰らせることもある。

「そうか」

 俺はホッと胸をなで下ろす。
 やはり、親としては息子が子ども達の中で上手くやれているかは気になるのだ。
 うちは――色々あったし。

「ただ……」
「ただ?」

 テルは言いにくそうにしている。

「気になることがあるなら言ってくれ」
「なんていうか……あいつ、いい子すぎるんだよな」
「いい子すぎる?」
「なにか遠慮しているって言うか……いや、いい子なのはいいんだけどさ……普通3歳だったらもっと、なんていうか……その、わがままっていうか、自分勝手っていうか……」

 テルの言葉は煮え切らない。
 が、言いたいことは分かる。
 実のところ俺も感じていたことなのだ。

「子どもらしくない?」
「そう、それ。だって、あいつ俺みたいな年上だけじゃなくて、ライにまで敬語つかうんだぜ。他の子達は村長以外に対して敬語なんてほとんどつかわないのに」

 そう。確かにその通りだ。
 パドはいつも敬語でしゃべる。
 だが、テルがそうであるように、この村では敬語を使う習慣などほとんどない。
 一応、村長や商人アボカドなどに対しては敬語を使うが、それだってパドほど徹底してるわけではない。

「それにさ、全然はしゃいだりもしないんだ。川についても水遊びとかしないし」
「水くみで水遊びしちゃだめだろ」

 一応ツッコんでおく。

「いや、まあ、そうだけど……でも、ほら、チビ達ってやっぱり川まで行ったらはしゃぐじゃん。特に初日はさ。でも、あいつはそんな様子を全くみせなかったんだよね」
「うーん……」
「ケンカとももいっさいしないし、『疲れた』とか『もうヤダ』とかわがままも言わない」
「……ふーむ……」
「だから、いい子だよ」

 確かに、それは『いい子』としか表現のしようがない。
 ……が……しかし……

「それじゃあ、他の子と壁ができるんじゃないか?」

 俺が気になったのはそのことだ。

「まあ、ね……みんなの輪の中からは外れているかもれない。俺もなんとかしたかったけど、なにしろ『いい子』だから……」

 テルは困惑した表情を浮かべる。
 確かに。
『いたずらっ子』や『サボる子』なら注意も出来るが、『いい子』だからという理由で注意することは難しいだろう。

 家でもパドは不自然なほど『いい子』だ。
 3歳児とは思えないくらい、いろいろなことによく気がつく。
 今日だって、かたくなに話をしようとしないサーラの心を、なんとか解きほぐそうと苦心しているように見えた。
 それも、無理のない範囲でだ。
 とても3歳児ができる気の使い方ではない。

 家でも走り回ったり飛び跳ねたりは決してしない。
 一時(いっとき)は足腰が弱いのではないかと疑ったくらいだ。
 幼児ならもっと、父親や母親に向かって飛びついてきたりしそうなものだが、一つ一つの動作を常に慎重に行っているかのようだ。
 そのわりに物をよく壊すのがご愛敬ではあるが。

「俺のせいかな……」
「え?」

 ポツリとつぶやいた俺の言葉に、テルが反応する。

「いや、なんでもない。そろそろ村に帰ろう」

 さすがに11歳の少年にこれ以上いうべきではないと気づき、俺は言葉を飲み込んだ。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 帰り道、俺は家族のことを考えていた。

 パドが産まれた日、サーラは恐慌状態におちいった。
 産まれたばかりの赤ん坊が立ち上がったなどというありえないことを叫ぶサーラに、俺は――俺達、他の大人は、それは夢だろうとなだめた。
 実際そう考えるのが普通だった。

 しかしサーラからすれば、俺やみんなの反応は『誰も自分の言うことを信じてくれない』という不信感を呼び起こすものだったようだ。

 今思えば、あの時点で家族の中に不協和音はあったのだが、俺はそれを軽視してしまった。
 しばらくすればサーラも夢のことなど忘れるだろうと深く考えなかったのだ。
 妻の気持ちよりも部屋の修繕作業を優先してしまった。

 一方、サーラは息子を恐れ、母乳を与えたがらなかった。
 これにはさすがに俺もいらつきを感じた。
 自分が産んだ息子に母乳を与えたがらない母親など聞いたことがない。
 サーラの母も怒りを感じた様子でサーラをしかった。

 しぶしぶサーラはパドに乳を吸わせたが、そこでまた事件が起きた。
 サーラは乳房に痛みを訴え悲鳴を上げ、息子を放り出すように床に置いた。

 俺もサーラの母も唖然とした。
 確かに初めて乳を吸われれば多少の痛みを感じることはあるのかもしれない。
 だが、それにしても自分の子どもに対してこの対応はないだろう。

 俺とサーラの母は彼女をしかりつけて、もう1度乳を吸わせるよう命じた。

「いやよっ!! もう、イヤ!!」

 サーラはそれに叫んで抵抗した。
 俺は生まれたばかりの息子が哀れになった。
 産まれてすぐ、母尾にこんなに拒否されなければならない理由がいったいどこにあるのか。

 俺とサーラの母とでしかりつけるように説得し、なんとかもう再度パドに乳を吸わせた。
 今度はサーラも痛がることもなく、パドはようやく母乳を飲むことができた。

 だが、さらに問題が起きる。
 数日後、サーラが2度と子どもを作りたくないと言い出した。
 それはつまり、俺との夜の夫婦生活を拒否する言葉だった。

「わかった。そのかわりパドの面倒はきちんと見るように」

 腹立たしかったが、正直その数日の騒ぎでサーラに対して魅力を感じなくなっていたのも事実だった。
 そういう意味では、俺としてももうサーラを抱きたくなくなっていた。

 とはいえ、である。
 俺も健康な男だ。
 子が生まれてしばらくすれば妻と夜の営みを再開できるだろうと思って、妊娠中は自分の欲求を抑えていたのだ。
 それができなくなったとなれば、感情とは別に体は欲求不満を覚える。

 それでもパドが産まれてから1年は耐えた。
 サーラもそのうち心変わりするだろうと。

 だが、サーラはいつになっても俺に体を預けない。
 俺の欲求はたまる一方で――しかし、そんな相談、村人達にはできない。

 色々とたまっていた俺は、9ヶ月前、アボカドが連れてきた旅の女性に事情を打ち明けた。
 我ながら情けない話だが、村人に言えないなら2度とこの村には来ないであろう旅人にぶっちゃけてしまおうと考えたのだ。

 ミーラというその女性は美しかった。
 田舎村の女とはまるで違う、都会の女だった。
 ごくまれにこの村を訪れる旅人は、女であっても冒険者だったり兵士であったりと男勝りばかりだ。

 しかし、ミーラは違う。
 服装も、肌の艶も、言葉遣いも、何もかもが村の女達とも冒険者とも全く違う魅力を持っていた。
 村から出たことがない俺の目には天女にすら思えた。
 結婚する前、サーラを美しいと思っていたが、ミーラを前にしてはかすんでしまう。
 俺が妻に夜を拒否されているとミーラに話したのも、あわよくば……という思いがあったことを否定できない。

 そして――夜の森で、俺とミーラは一晩だけ間違いを犯した。
 誰にも見つからない思っていた。

 だが、俺とミーラが行方不明になったことは、村人達の不安をかき立てたようだ。
 アボカドは村にとって大切な商人で、その連れのミーラに何かあっては大変だと。
 俺たちの不義を疑ったと言うよりは、森の中で獣にでも襲われたのでは無いかと考えたのだろう。
 そうとは知らない俺とミーラは、熱い夜を過ごし――最も佳境のタイミングで捜索隊に見つかった。

 翌日、村は大変な騒ぎになった。
 不倫というだけでも問題なのに、その相手が村にとってなくてはならない存在であるアボカドが連れてきた旅人だ。
 サーラは離婚したいと訴えたし、俺を村から追放するべきだという意見もあった。

 離婚についてはサーラの母が取り直してくれた。
 夫を拒否し続けた娘にも大きな責任がある。それに孫はまだ幼い。父親が必要だと。

 また、アボカドも俺をかばってくれた。
 後でこっそり聞いた話だと、ミーラから俺をかばうように頼まれたらしい。

 本音では村長も、力があり弓も上手い俺を追放などしたくなかったのだろう。
 結局、俺はサーラとミーラに謝罪することで許された。
 ミーラは翌日、アボカドとともに村を去った。

 俺は対外的には許された。
 しかし、それ以来夫婦仲は冷え切っている。
 浮気されただけでなく、『夜の営みを拒否する妻』として村中に知れ渡ったこともショックだったようだ。

 浮気事件以降は夜の営みどころか、日常生活でもサーラは常に俺を拒否している。
 サーラの母が死んだ後にいたっては、妻の声をほとんど聞いていないくらいだ。

 俺たちの家族は壊れかけていた。
 3歳パドがどこまで理解しているかは分からない。
 だが、両親の不仲と、母親が自分に対して向けている感情はなんとなくは感じているのだろう。

 パドは確かに『いい子』だ。
 しかし、『いい子』すぎる。

 不自然なほどにパドが『いい子』に育った理由は、きっと、両親のギクシャクした関係のせいなのだろう。
 一家の(ちょう)として、この状態がよくないことは理解している。
 理解しているが、どうしたらいいのか分からない。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「バズさん、どうかした?」

 黙り込んで歩く俺に、テルがいぶかしがる。

「いや、なんでもない」

 おれは俺は無理に笑顔を作って返した。
 家族のことは家族のこととして、今は狩りに初参加したこの少年の面倒をきちんと見なければならないのだから。

 やがて村に着き、獲物を村の広場に持って行く。
 今回の狩りは4組に分かれておこなったが、他の者達はまだ戻っていなかった。
 俺たちが戻ったことに気がついた村長がやってくる。

「ごくろうさん、テル、初めての狩りはどうだった?」

 村長が獲物を集めながら訪ねる。

「めっちゃ楽しかったですよ。バズさんがうるさかったけど」
「おいおい」

 口をとがらせるテルに、俺は笑う。

「弓が上手いだけでは狩りはできん。年長者の言うことは聞くものだぞ」
「はーい」
「返事はもう少しまじめにせい」
「はい」
「……まあ、いいだろう。バズにも話を聞きたいが、それは後にしよう。バズは家に急ぎ戻ってくれ」

 村長の言葉に、俺は嫌な予感を感じる。

「何かあったのですか?」
「いや、パドが水くみの最中にジラとケンカしたらしくてな。少し怪我もしていたから早く戻ってやれ」
「なんと、わかりました。獲物はお任せします」

 俺は慌てて家に向かって走る。

 ジラか……
 少し口が悪くてけんかっ早い、5歳の男の子だ。
 息子が年上の子とケンカして怪我したというならば心配ではある。
 しかしその一方で、俺はある意味安堵を覚えている部分もあった。

(なんだ、パドもケンカするんじゃないか)

 子ども同士のケンカというのは、成長過程で必要なことだ。
 必要以上に『いい子』に思えるパドも、他の子とケンカすることもあるのだというのは、むしろ父親としては安心するくらいだ。
 いくらケンカっ早い子が相手と言っても、子ども同士のでそこまで大けがと言うこともないだろうし。

 ――そう思っていられたのは、家に帰って話を聞くまでだった。
 当時の様子を理解した俺は、父親として息子のことが本当に不安になるのだった。
ちょっと退屈な話が続いているかもしれません。

ファンタジーなバトル展開も用意している--といか、物語全体として本筋はそういう話にしたいのですが、なかなかそこまで進みません( TДT)
パドくんは今のところ自分の力を抑えることに終始していますが、いずれそうは言っていられない事態になります。

退屈な話が続いてしまっているのは、どうしても村での日常と、『転生者』であるパドくんの『不自然さ』を描きたいからなのですが、読者に飽きられないよう頑張りたいと思います。
+注意+
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