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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です

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4.転生して3年。チートのせいでお母さんが笑ってくれない

大きすぎるチートをもらって3年間苦労したパドくん。
なんとか日常生活はできるものの、その力をもてあましがち。
そして、お母さんが……
 僕がこの世界に転生してから、3年と3ヶ月が経った。
 この世界での僕の名前はパド。名字はない。
 ラクルス村に住む他の村民も、名字を持っている人はいない。
 もしかすると、この世界全体に名字というものがないのかもしれない。

 あの真っ白な世界で、おねーさん神様は転生先を『剣と魔法の世界』と言っていた。
 でも、3年経って僕は思う。
 あれはウソだ。
 だって、3年生きて、剣も魔法もまだ見たことないもの。

 いや、この世界のどこかには魔法があるのかもしれないし、鉄はあるから剣をもつ兵士とかも街に行けばいるのだろう。
 だけど、この村には魔法使いも剣士もいない。
 魔法の石とか、そういうファンタジーな要素なんて全くない。
 武器という意味では、村の門番は木刀を持っているけど、それが使われたことなんてない。
 お父さんは弓矢を使うけど、ウサギや狸に似た小動物を捕らえるためであって、戦いに使うわけじゃない。
 ちなみに前世のような電化製品もない。

 簡単に言ってしまえば、ラクルス村はのどかな田舎村である。
 村人50人、みんな家族みたな環境。
 村の外との交流は、月1回やってくる商人のアボカド親子を除けば、ごくまれに旅人が訪れる程度だ。
 村から出て行く者もほとんどいないし、僕もこの村で大きくなって、村の誰かと結婚して、子どもを作って、やがて老いていくのだろうと思う。

 でも、僕はそれをつまらない人生だなんて思わない。
 何もできなかった前世とは違う。
 外に出て歩くこともできるし、大人になることも出来る。
 今はまだ水くみに参加するくらいだけど、いずれはもっと仕事をまかされるようになるだろう。

 この世界全体が『剣と魔法の世界』だろうと、僕は『村人その1』でしかない。
 魔法も剣も関係ない。
 僕がほしいのは魔法じゃない。
 剣を握って冒険したいわけでもない。
 普通の村人として、家族と暮らしていける幸せこそが、僕に必要なものだ。 

 だから、僕はそのためにがんばらなくちゃいけない。
 今度こそ、幸せな人生を送るために。
 前世の家族のためにも。
 今生の家族のためにも。
 たとえ、今のお母さんが僕のことを嫌いだったとしても。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おはようございます」

 僕はそう言って寝室から食卓に向かった。

「おう、おはよう」

 食卓の椅子に座ったお父さんが答える。
 家には2つの部屋がある。
 1つが寝室、もう1つが食卓のある部屋だ。
 僕が産まれた直後、床に穴を開けてしまったのは寝室の方。
 今では穴はふさがれている。

 僕はゆっくりと自分の席へと向かう。
 慎重に、慎重に、1歩ずつ足を前に出す。

 家の中を歩くときは慎重に足を動かさなければならない。
 僕の力は日に日に大きくなっている。
 少しでも余分な力を入れてしまうと、また床に穴を開けてしまうだろう。
 外で歩くときだって、あまり力を入れすぎると地面がへこむくらいだ。
 まして、走ったりジャンプしたりなんて、どうなってしまうか怖くてできない。

 自分のチートについては誰にも話していない。
 もし話したら、みんなきっと怖がるから。

 この3年間、僕は『力を増やすこと』ではなく『力を抑えること』に一生懸命だった。
 歩くときは足を大きく上げず、ソロリソロリと動く。
 走ったりジャンプしたりは絶対にしてはいけない。
 物をつかむときはそーっと、慎重に行う。間違っても握りしめたりしない。
 そして、できる限り人に触らないようにする。
 それでも何度も物を壊してしまって、ごまかすのに大変だった。

 自分の椅子――といっても丸太を切ったままの簡素なものだが――にたどり着くと、お父さんが僕を持ち上げて椅子に座らせてくれる。
 3歳児の背丈では椅子に座るのは難しいのだ。
 無理によじ登ろう力を入れたらとしたら、椅子を破壊してしまいかねないしね。

「母さんはもうすく戻ってくるからな」
「はい」

 村の中で竈があるのは村長の家だけだ。
 というより、むしろ村長になると竈のある家の管理を任されるというのが正しいらしい。
 村長とその家族は村人全員の食糧を管理し、食事を配給する役目を持っている。
 毎朝お母さんが3人分の食事を村長の家に取りに行っている。

 と。

 お母さんが帰ってきた。
 手には壺が2つ。

「おかえりなさい」

 僕が言うが、お母さんはこちらをチラっとみただけで何も言わない。
 分かっている。
 返事がないのはいつものことだ。
 お母さんは僕を嫌っているのだから。

 お父さんが食器とスプーンを並べると、お母さんは黙ったまま壺から麦粥と野菜汁を配った。
 この世界にはパンもあるが、村人の口に入るのは月に1回の月始祭だけだ。
 朝晩の食事は麦粥と野菜汁がほとんどで、夜、たまに果物がつくくらいだ。
 ちなみに、昼食はない。

「では、日々の恵みに感謝して食べよう」
「はい、いただきます」

 お父さんの言葉に僕も答える。
 だけど、お母さんは何も言わない。目も合わせない。
 僕にも、お父さんにも。

 僕はもう、数日単位でお母さんの声を聞いていない。
 こうなった責任は僕だ。

 僕が産まれた日。
 産うんだばかりの赤ん坊が立ち上がっているのを目撃したお母さんはパニックになった。
 あの頃は言葉がわからなかった。
 後から聞いた話も総合すると、僕を産んだお母さんが疲れすぎて見た幻だろうということに、一応話はまとまったらしい。

 だけど、お母さんはそれでは納得できなかった。
 何しろ自分の目で見たことなのだから。

 そのため、お母さんは僕を遠ざけたかがった。
 母乳を吸わせることすらいやがっていた。
 さすがにお父さんやおばあちゃんが説得して母乳はもらえたが、チートな力で強く吸いすぎたのでお母さんはまた悲鳴を上げた。
 二度目以降は母乳を吸う力をできるだけ調整したけど、お母さんは赤ん坊の僕におっぱいを吸わせることを恐れた。

 母乳を吸わせる必要がなくなると、お母さんは僕に触れたがらなくなった。
 僕も、下手に抱きついたりしたら、チートな力で怪我をさせるかもしれないと恐れ、両親やおばあちゃんからできるだけ離れるようにしていた。
 結果、家族の関係もあまりうまくいかなってしまったと思う。
 それでも、少しずつだけどお母さんとも打ち解けていけるだろうって思っていた。

 9ヶ月前、家族の関係が決定的に壊れたあの事件が起きるまでは。
 幼い僕には細かいことは知らされなかったけどなんとなくわかる。
 お父さんが浮気したのだ。
 それも、商人のアボカドさんが連れてきた旅人の女性と。

 ラクルス村で暮らす人々はみんな家族同然だ。
 だからこそ、浮気というのは、前世の世界以上にゆるされないこと――らしい。

 しかも、アボカドさんは村にとって大切な人だ。こんな辺境の村にやってきてくれる商人は他にいない。
 彼がいなくなれば塩や鉄などの、村では自給できない生活必需品が手に入らなくなってしまう。
 そんな大切な人が連れてきたお客さんにお父さんは手を出したのだ。
 当然、村中がひっくりかえしたような騒ぎになった。
 お父さんは罪人として裁かれることとなった。

 裁判所なんてないから、村で問題が起きたときは村長を中心に村人全員で対応を決める。
 細かいことは知らないけど、離婚とか村追放なんて話も合ったらしい。
 とりあえず、アボカドさんの取りなしもあり、そういうことは避けられたみたいだけど。

 それ以来、お母さんは僕だけでなく、お父さんのことも露骨に避けはじめ、家の中では会話しなくなった。
 しかも、それからしばらくしておばあちゃんが体調を崩し、あっさり亡くなってしまった。
 それ以来、残された家族3人は、どうにもギクシャクしたままだ。

「わぁ、すごい、今日はお芋が入っているよ」

 僕は野菜汁をスプーンですくいながら、意識的に明るい声で言った。

「おお、俺のにも入っていたぞ。サーラ、お前のにも入っていたか?」

 家族の会話を取り戻したいという僕の思いをさっしたのか、お父さんがお母さんに言う。

 が。
 お母さんは完全に無視して黙々と食べ続ける。
 うーん、どうしたものか……

 ここ数ヶ月、僕はできるだけお母さんに明るい話をふっているのだけど、お母さんはいつもこんな調子だ。
 会話に参加するどころか、目を合わせようとすらしない。
 普通ならお父さんが一喝するところなのだろう。しかし、なにしろ浮気という負い目があるのでお父さんも強く言えないようだ。

 ちなみに、麦粥や野菜汁にはほとんど味付けはされていない。
 香辛料はとても貴重品で、月始祭以外では村人の口に入ることはない。
 ただし、塩だけはほんの少しだけ入っているらしい。
 健康のために最低限の塩分は必要だと、村人達も経験的に知っているからだ。
 村の貴重な現金収入の半分近くは塩に変わるそうだ。

 ぶっちゃけ、この村の食事は、普通の現代日本人には耐えられないものだと思う。
 米どころかパンも魚も肉もほとんど食べられない。
 僕がそこんな食生活に耐えられるのは、前世での僕も似たような食生活だったからだ。
 桜勇太の身体(からだ)は肉も魚も受け付けなかったし、ご飯もお粥でなければ食べられなかった。
 しかも最後の半年はそれすら難しく、栄養のほとんどを点滴でまかなっていた。

 前世では食事をおいしいなんて思わなかった。
 むしろ、食べることはおっくうにすら感じていた。
 実際、食事をしてもすぐに吐いてしまうことも多かった。

 パドの身体は食事を受け付ける。
 お腹がすくし、もっと食べたいと思う。
 前世で満足に食べられなかったからこそ、今生での食生活を楽しめる。
 食べ物を身体が受け付けるというのは、とても幸せなことだと思う。

 後は、お母さんが笑ってくれればいいのに。

 僕の思いに反して、微妙に気まずいままで朝食が終わる。
 お母さんに何度か話しかけてみるけど、ことごとく無視された。
 それでも、僕はあきらめない。

 僕は幸せにならなくちゃいけない。
 それは家族みんなを幸せにしなくちゃいけないということだ。
 だから僕は、お母さんとお父さんと僕の3人が笑いあえる日がくるまであきらめない。
 あきらめちゃいけないのだ。

 とはいえ、今日はもう時間だ。

 僕は椅子から降りて部屋の隅の小さなバケツを手にした。
 取っ手を握るときも慎重に。
 取っ手も木でできているので強く握りすぎると割れてしまう。
 実際、僕はこの3ヶ月で3回も取っ手を壊している。

「お父さん、お母さん、水くみに行きます」

 僕はそう言って、頭を下げた。
 頭を下げてすぐ『またやっちゃった』と思う。
 この村には挨拶の時に頭を下げる習慣はない。
 これは前世からの癖で、みんなが不思議そうな顔をする。

 もっとも、ベッドから動けなかった僕は、前世でも腰を折り曲げる挨拶なんてしたことはないんだけどね。
 それでも、テレビや看護師さんの挨拶なんかを見ていたからどうしても頭を下げてしまうクセが抜けないのだ。

「ああ、行っておいで、気をつけてな」

 お父さんが言う。お母さんは黙ったままだけど。

「お父さんは今日は狩りですよね?」
「そうだ。明後日は月始祭だからな。できるだけ大きな獲物を捕ってくるから楽しみしていろ」

 月に1度の月始祭では村の中心で肉や魚が焼かれる。
 さらに、麦パンも配られる。
 村人みんなが楽しみにしているイベントだ。

 何しろ、パンや肉が食べられるのは月始祭だけ。
 どんな肉が食べられるかは弓矢を持つ狩人の腕にかかっている。
 お父さんの弓矢の腕前は村1番らしい。

「はい、お父さんも気をつけてください」
「ははは、息子に心配されることはないさ。なあ、サーラ?」

 お母さんはそれにも答えない。
 食器を洗った後、今はもくもくと矢の整備をしている。

『やることはやるけど、あなた達と話はしたくない』

 お母さんの全身がそう言っているようだった。

「では、行ってきます」

 僕は家の外に出た。
 前世では出ることができなかった広い世界だ。
 緑のにおいは気持ちいい。病室の中の薬においとは違う。
 下水道がないから排便のにおいも混じっているけど、それも含めて生きていると実感できるにおいだ。

 地面の上は、家の中に比べれば少しだけ歩くのが楽だ。
 力を入れても崩れる心配はあまりない。
 それでも油断して力を込めると地面に穴が開くけど。

 広場に向かって歩くと、村のみんなが挨拶をしてくれる。

「パドちゃん、おはよう」
「今日はいい天気ね」
「水くみがんばってね」

 本当ならそれらに挨拶を返したいのだけど、僕は口ごもってしまう。

 この3年ちょっとで分かったことがある。
 どうやら僕は、前世の若者言葉で言うところの『コミュニケーション障害』らしい。
 どうしても他人から1歩引いたところに自分を置いてしまう。

 前世の記憶があるからか。
 前世で11年、まともに誰とも話さない時間がほとんどだったからか。
 それても今生でお母さんとうまく話せないからか。

 自分でもよくわからないけど、誰かと打ち解けるのが苦手なのだ。
 変な言い方だけど、ある意味で、僕がこれまでに打ち解けて話せたのは、あのガングロおねーさん神様だけなのかもしれない。

 それは子ども達とでも同じで。
 どうしてもみんなの輪の中に入れない。

 そのために、この日、僕は水くみ作業中に問題を起こしてしまうことになるのだった。
剣と魔法の世界のはずなのにパドくんが産まれた山奥の村にはそんなものない!! という衝撃展開(;^ω^)

とはいえ、今後もちろん、剣も魔法も登場しますのでご安心を。
それはつまり、この村の中で平凡な村人として幸せになるというパドくんの願いがかなわなくなるということでもあるのですが……

しかし、とりあえず今のパド君の悩みはお母さんのことですね。
産まれたばかりの赤ん坊が立ち上がるのを見たら、やっぱり怖いですよね……
お母さんもそれじゃあいけないとも思っていることでしょう。

さてさて、パドくんはどんな問題を起こしてしまうのでしょうか?

※異世界言語と日本語の問題について昨日、少し活動報告に記述しました。
 ご興味にある方はお読みください。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/643208/blogkey/1395834/
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