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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 最終章 始まりの一歩

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47/92

47.見定めた目標

未来に向け、パド、目標を見定める!!
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(パド視点 一人称)
(少し時間は巻戻り、『4.信じるべきモノ、疑うべきモノ』の直後より)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「パドくん、大丈夫ですか?」

 レイクさんの声にはっと顔を上げると、僕は黒い空間の世界から村外れに帰還していた。
 前回と同じく、時間は経過していない。
 太陽がまもなく沈む、その直前だ。
 それでも、僕が少し不自然な表情をしていたのはレイクさんや教皇も感じたようだ。

「はい、大丈夫です」

 僕は頷く。

「しかし、あちらは大丈夫ではなさそうですね……」

 教皇が『闇』と戦う3人の方を見て言う。

「それも大丈夫です」

 僕はいかにも自信満々とばかりに断言した。
 あいつと話して。
 いや、いろんなことを知って。
 僕の決意は固まっていたから。

「どういう意味ですか?」
「あの『闇』は僕が倒しますから」

 僕はそう宣言した。

 ……実際のところ、自信なんてない。
 あいつは『闇』に僕を殺さないように命令したとか言っていたが、あいつの言葉なんて信頼できない。仮に本当だとしても、流れ弾で死ぬなんてよくあることだ。

 だけど。

 それでもここは胸を張って断言しなくちゃいけない。
 自信満々に、僕に任せておけと。
 今はまだ虚勢に過ぎないけど。

「戦場に戻るというのですか? しかし、正直足手まといになりかねないと思いますが」

 レイクさんの言葉に教皇も同意する。

「そうかもしれませんが、それなら僕が『闇』に殺されるだけです。
 ここで何も出来ない子どもに、レイクさんもアル王女も用はないでしょう?」
「確かにそれはそうかもしれませんが……」

 レイクさんは肯定しつつも言葉を濁した。

「教皇様も、抹殺しようと思っていた子どもが死ぬならむしろ大歓迎じゃないんですか?」
「……人道的にはともかく、教会の代表としてはその通りといえますね」

 教皇も思うところはありそうにしつつも頷いた。

「これから見せますよ。アル王女にも、レイクさんにも、そして教会にとっても僕が必要な人間だと」

 表面上自信満々に言いう。
 もっとも、内心ではガクガク震えていることは、2人ならお見通しかもしれないけど。

「しかし、そもそも走ることもままならないのであれば、君が戦場に戻るまでに太陽が沈みそうですが」
「それも問題ありません」

 教皇の指摘に僕は言い切る。

「レイクさん、キラーリアさんの剣はお預けします」
「それはかまいませんけど」

 僕はレイクさんにキラーリアさんの剣を押しつけるように渡す。

 そして、腰を落とし両足に力を入れる。
 産まれながらに持っているチートの力。
 これまでできる限り押さえつけてきた呪いの力。

 200倍の力、それを最大限に。

 足下の地面が揺れる。
 動いていないから穴こそまだあいていないが、レイクさんも教皇も冷や汗をかいていそうな顔で僕を見定めていた。

「行きます!」

 僕は宣言すると、一気に飛び上がった。

 産まれたばかりの身体で軽くジャンプした時、僕は床と天井をぶち抜いた。
 それから3年。
 まだまだ幼児の体とはいえ、赤ん坊のころとは違う。
 しかも、今回は全力の力だ。

 僕は一気に空を駆ける。
 あっという間に上空10メートルくらいに達する。
 風を切り、空気の壁で身体が押される。

「わ、わ、わっ!?」

 後ろで騒ぐレイクさんや教皇。たぶん、僕が飛び上がったときに地面に穴があいて巻き込んでしまったのかもしれない。
 まあ、死ぬことは無いだろうし、2人とも回復魔法を使えるんだから自分でなんとかしてもらおう。
 今はそれどころではない。

 僕は戦場の途中の家の屋根に着地――しようとして、屋根も床も突き破って、家の下の地面にクレーターを作ってしまう。
 家は完全に崩れてしまった。
 この家はキドとその家族が暮らしている家だ。
 悪いと思うけど、僕が村を出た後はキドの家族にに僕らの家を使ってもらおう。

 家と地面にそこまでの破壊をもたらしながら、僕自身は土埃や木片をかぶっただけでかすり傷1つ無い。
 やはり、体の頑丈さにもチートがあるらしい。

 これなら行ける!!

 僕は再びジャンプする。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 2度目のジャンプで、僕は戦場へと舞い戻る。

「う、うわぁぁぁぁ」

 枢機卿が『闇』の攻撃に悲鳴を上げていた。
 ヤバイ、どうやら本当に彼の魔力がなくなったみたいだ。
 防御魔法が発動していない。

 だけど、僕の着地地点は枢機卿の前。

「刃よ!!」

 叫ぶと同時に、僕の右手から漆黒の刃が伸びる。
 本当は叫ぶ必要ないけど、勢いとかっこつけというヤツだ。

 着地寸前に、『闇』の指先を切り落とす。
 そのまま地面に降り立ち――やっぱりクレーターをもう1つ作ってしまった。
 枢機卿と一緒にクレーターの中に落ちる。

『闇』に浮かぶ表情が意味するのは、驚愕か、それとも別の感情か。

 漆黒の刃は引っ込めてある。月始祭の時のことを思い出せば、この魔法の連続使用は200倍の魔力をもってしても、30分ももたないはずだからだ。

「あ、ああぁぁぁっ」
「大丈夫ですか? もう心配ありません」

 なにやら混乱して口から泡を吹く枢機卿に、僕は精一杯の笑みを浮かべてみせる。

 意識したのは前世で読んだ漫画の中のヒーロー。
 彼らがピンチに陥った人間助け出した時に浮かべていた表情を思い出して。

 我ながら、無理がある演技かもしれないけど。
 それでも、ここは演出が大切。
 僕の笑みが巧くいったかどうかわからないけど、枢機卿は少しだけ落ち着いたようすだ。

「あ、はい……大丈夫……」

 枢機卿は震えながら答えた。
 その表情には怯えが混じる。

 彼が怯えている相手は『闇』だけではないと思う。
 僕の力にも怯えているのだろう。

 現実はヒーロー漫画とは違う。
 人々は颯爽(さっそう)と現れたヒーローを手放しで絶賛したりはしない。
 いきなりこんなクレーターを作ってみせる幼児なんて、恐ろしくて当たり前だ。

 それでも。

「あとは僕が戦います」

 そう宣言して、『闇』と向き合う。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 はっきりいって恐い。
 月始祭のときはお母さんが殺されかけて頭に血がのぼって感じなかったけど、やっぱり命がけの戦いは本能的な恐怖を感じる。

 それは当たり前のことだ。
 僕は訓練を受けた兵士でも戦士でも騎士でもない。
 200倍の力をも生まれ持っただけ(・・)のただの子どもなんだから。

 それゆえに、キラーリアさんに逃げろと言われた時、何も考えず素直に従ってしまった。
 足手まといだという言葉にすがってしまった。
 思考を放棄し、責任から逃れようとしてしまったのだ。

 でも、それじゃダメなんだ。
 誰かに頼っているだけのヤツなんて、誰にも必要とされないに決まっている。
 それだけは、闇の世界のあいつが言った言葉が正しい。

 だから、僕は戦わなくちゃいけない。
 自分の力の有用性を王女たちにも教会にもに示すために。
 僕が生き残り、お母さんを元に戻す道があるとしたらそれしかないのだから。

 思い返してみれば、前世と今生通して僕は誰かに指示されるがまま生きてきた。

 我儘を言っちゃいけない。
 人に迷惑をかけちゃダメだ。
 大人の言うことを良く聞いて良い子にしなくちゃいけない。
 病気で迷惑をかけ続けた桜勇太も、チートで迷惑をかけそうなパドも、できる限り自分の気持ちを我慢して、人の言葉に従わなくちゃいけない。

 常に自分にそう言い聞かせつづけてきた。
 自分の気持ちを抑え、わがままを言わず、やりたいことをずっと我慢していた。
 自己主張を極力抑え、大人にとって『理想的な良い子』であろうと努めてきた。

 桜勇太として11年。
 どんなに病気で苦しくても我慢した。

 痛いとか苦しいとか思っても、『自分は病気で、家族や病院に迷惑をかけているんだから』と言い聞かせて、ただひたすらに耐え続けた。
 ゲームやテレビだって、自分から希望して持ってきてもらったわけじゃない。
 与えられたからやっていただけ。
 体調が悪くなってきたからやめようと言われれば、素直に従った。

 我儘を言わない『()い患者』であろうとした。
 病気だし、病室から出られないのだからと言い訳にして、自分ではなにもしようとしなかった。
 でも、それは本当に正しかったのだろうか?

 僕は、両親や弟に手紙の1つも書かなかった。
 手紙を家族に届けてもらうなんて我儘だと思ったから。

 その結果、僕はあの世界で何も残せなかった。
 死んで転生する寸前になって、言葉を届けることができない状態になって初めて弟に泣き叫んだ。

 今考えれば、『紙と鉛筆をちょうだい』、『家族に手紙を届けて』と看護婦さんに頼むのは、なんでもないことだったじゃないか。
 家族に手紙を書くことすら遠慮するなんて、『何でも我慢する良い子』じゃない。ただの『何もしようとしない馬鹿な子』だ。

 転生してからだってそうだ。
 呪い級のチートの力を認識したのはいい。
 それで誰かを傷つけないように気を使うのもいい。

 だけど。
 なんで『僕はもっと大きなバケツで水を運べます』って言わなかった?

 水くみに全力を注いでいなかったのはジラやサンなのか?
 ジラやサンは確かによく文句を言っていたけど、少なくともサボってはいなかった。

 僕は本当はもっと働けるのにそれを隠していながら、自分は頑張る良い子だと思っていた。
 でも、本当にサボっていたのは、余力がたくさんあるのに普通の3歳児と同じ仕事をすれば十分だと考えていた僕の方じゃないか。

 自分がチートで楽をしているのを棚上げしてジラやサンに偉そうに説教していたのだ。
 ジラが僕をぶん殴りたくなるのも当たり前のことだったのだ。

 月始祭の後、何故自分の力を使って壊れた家の修理を手伝うと言わなかった?
 もし、僕が自分の力を存分に発揮していたら、村長だってこれからの村のために僕の力を必要だって考えてくれたかもしれない。
 そうすれば、村から追放するっていう決定はしなかったかもしれない。
 僕が村から追放されたのは、村長のせいでも『闇』のせいでもなく、僕が自分の力を村のために使おうとしなかったからだ。

 これまで、僕は自分の意志を抑えることが正しいと思ってきた。
 自分の意見を言うのは我儘なことで、我慢するのが良い子だと。

 でも違う。
 そんなのは良い子じゃない。
 ただ、何も主張せず、ただ誰かに求められるまま行動するというのは、責任を放棄して逃げているだけなのだ。

 ジラは、僕のために大人達を振り切って駆け寄り、僕の代わりに大人達に怒鳴ってくれた。
 村長は、犠牲を払っても村を護ろうとしていた。
 アル王女は、生きるために女王になろうとしている。

 みんな、自分の行動が正しいかどうかなんて分からず、それでも自分で正しいと思うことを精一杯やろうとしている。

 レイクさんの難しい話なんて僕にはよく分からない。
 だけど、自分の価値を自分で証明できないようなヤツに誰も期待なんてしない。
 そんなヤツ、誰も助けようなどと思わない。

 今、僕はとても不安だ。恐い。
 それはこれから戦いが始めるからというだけじゃない。

 自分の意志で行動しているからだ。
 言い換えるならば、行動の責任を取らなくちゃいけないからだ。

 キドの家を壊してしまった責任。
 村にたくさん穴をあけて、他の建物にもダメージを与えた責任。
『闇』との戦いは任せろと宣言した責任。

 今、僕が『闇』と向かい合っているのは、まぎれもなく僕自身の意志によってだ。
 その結果の責任は全部僕がとらなくちゃいけない。

 恐い。
 恐くて恐くてたまらない。
 今からでも逃げ出したい。

 でも、ここで逃げ出したらもう誰も僕を護ってはくれない。

 村長はもう僕らを護りきれないと判断した。
 お母さんは心を失った。
 お父さんには教会を敵に回して僕を守り切る力なんてない。
 アル王女は僕が役に立つと示せなければ僕を殺す。
 そして、教皇はそもそも僕を抹殺しようとしている。
 真っ黒な世界のあいつに護ってもらおうなんて考えたくもない。

 もはや僕を護れるのは、僕自身しかありえないのだ。
 そして、僕が死ねばお母さんを治すこともできなくなる。

 だから。
 僕は逃げない。
 もう、決定を他人任せになんてしない。
 逃げる場所なんてもうどこにもない。

 僕がこれから目指すべきは『良い子』なんかじゃない。
 自分の意志で立ち上がり、戦い、行動し、その責任をとることができる人間だ。

 それは、例えば『勇者』と呼ばれる、そんな存在だ。
パド(勇太)くんはこれまで常に『受け身』でした。
大人の言うことを効く我儘の言わない良い子。

だけど、彼がほんの少し我儘を言って稔くんやご両親に手紙を書いていたら。
ジラくんと一緒に我儘を言ってみる程度の度量があったら。
お父さんやお母さんに転生してきたけど親子でいてって我儘を言えたら。

……きっとこれまでの話は全く違う展開だったんだろうなとか、そんなことを思いつつ。

次回は、今度こそパドくんの戦いを描きます!!
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