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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 最終章 始まりの一歩

47/55

3.本物の戦士による本当の戦い

ラクルス村を再び『闇』が襲う。
相対するのは、盗賊女帝(ロバー・エンブレス)アル王女、少女騎士キラーリア、そして教会の教皇と枢機卿。
パドの眼前で本当の戦士の戦いの幕が開く。

レベルの違う戦いの中で、自分の存在価値を示せるのか!?
そして、自らの力不足を思い知らされるパドの前に再び誘いの魔の手をさしのべるのは――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

冒頭、少し時間が飛んでいます。
読者の皆様が読み飛ばしたのではなく、時系列を前後して書いたためです。

時系列通りだとダラダラした内容になってしまうのでこういう形にしましたが、わかりにくくなっているかもしれませんorz

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

大変お待たせいたしました。
なんと今回はこれまでで一番(たぶん)のボリューム七千文字!!

……すみません、あいかわらず短くまとめる能力が不足しています。
 今、ラクルス村ではすさまじい戦いが繰り広げられていた。
 アル王女とキラーリアさん2人の女戦士は遙か上空から攻撃してくる『闇』の指を避け続け、ヤツの気を引く。
 2人に気を取られる『闇』の隙を狙って、枢機卿が浄矢(パリフアロー)という魔法で上空の闇を攻撃。

「すごい……」

 戦場から少し離れた村の外れにいる僕は、3人の――特にアル王女とキラーリアさんの戦いにそれしか言うことができない。
 2人の戦いが高度すぎて1つ1つの行動の意味が理解できないのだ。

 ふと、前世のテレビでフィギュアスケートの国際大会を見たときを思い出す。
 解説者が『トリプルアクセル』とか『トリプルトルネード』とかジャンプの技名を瞬時に口にいていた。だが、僕にはどれも『すごいジャンプだ』としか思えなかった。
 すごいのはわかるけど、具体的に何がすごいのか、1つ1つの技がどう違うのかなんて素人が見てもほとんど区別がつかないものだ。

 アル王女とキラーリアさんの戦いはそういうレベルの世界だ。
 これが戦士による本当の戦闘(・・・・・)
 一挙手一投足、全ての行動に意味がある。
 できる限りの動きで、唯一の攻撃手段を持つが多々買い慣れていない枢機卿が攻撃しやすいように動いている。
 時に建物のかげに隠れ、時に飛び退き、時にあえて攻撃に突っ込み寸前で交わして相手を惑わす。
 その行動それぞれが、僕には理解しきれないレベルで高度に意味を持っているのだと思う。
 そうでなければ、これだけの時間、あの攻撃を避け続けることは不可能だろう。

 月始祭の日、僕が力任せに『闇』を殴りまくったのとは全く違う。2人の戦いに比べれば、あんなのは戦闘とはいえない。喧嘩かそれ以下の行動だ。
 常人ならば最初の一撃目に反応することすら難しいスピードの『闇』の指。
 それを避け続け、さらに枢機卿の魔法に当たる場所へ『闇』を誘導しているのだ。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 その戦いのさなか、村の外れ。
 僕とレイクさん、マーリさん、それに僕のお父さんが見守る横で、教皇の回復魔法――復活(レスレクション)の光にジラが包まれていた。

 他の村人達はすでに川の方へ逃げている。
 お母さんも村長が連れて行ってくれたらしい。村から追放を決めても、その期限が来るまではお母さんも村人だからと言い残したとか。

 ジラは『闇』の指に肩を貫かれたらしくかなりの重傷だった。
 お母さんと違って内臓には影響がない箇所だと思いたいが、それでもレイクさんの魔法――(ヒーリング)では助けられないような深手だった。

「しばらくすれば意識も戻るでしょう」

 やがて光が消え、教皇が汗をぬぐった。

「ありがとうございます」

 マーリさんが深々と頭を下げる。

「教会が人々を救うのは当然のことです。それより、貴方達も避難を。ここも安全とは言えません」
「はい。教皇様も……」
「いえ、私はここに残ります。戦闘はともかく回復魔法の使い手は控えていた方が良いでしょう」
「わかりました。その、ご無事で」

 マーリはジラを抱きかかえると、他の村人達向かった川の方向へと走り出した。

「え、えーっと、僕は……」

 正直、どう考えても僕も足手まといだと思う。
 漆黒の刃を構えてあそこにツッコんでも、僕が活躍できる絵が見えない。
 戦いのレベルが根本的に違いすぎる。
 月始祭の時にあられた『闇』は今回のヤツよりも弱かったのだろう。
 指も一本しか使っていなかったし。

「パドくん、あなたはこの戦いをよく見ておきなさい。あなたはアル王女や教会に自分の力の価値を認めさせなければならない。それができなければ、私も貴方をかばえませんから」

 レイクさんの言葉に、僕はあらためて自分の置かれた立場の難しさを感じる。

 アル王女の力強い剣。
 キラーリアさんのスピード。
 枢機卿の放つ攻撃魔法。
 肩を貫かれ半死半生状態だったジラを一瞬で治した教皇の回復魔法。

 こんな力を相手に、世界が滅びる可能性と天秤にかけても僕を生かす価値があると示さなくてはいけない。

 やっぱり無理ゲー過ぎるとしか思えない
 しかし、それでも。
 今はこの人達がこの村に居合わせたことに感謝すべきだ。
 そして、この戦いの行方を見定め、自分の成すべき行動を選択しなければならない。

「私も、ここから戦いの趨勢(すうせい)を見守ります。私も、自分が役に立つとアル王女に示し続けねばなりません。私には戦いは不得手ですが、ヤツを観察して正体や今後の対策を思考することは出来ますので」

 難しい顔を浮かべる僕にレイクさんは言った。

「じゃあ、マーリさんとお父さんは逃げてください」

 僕はマーリさんとお父さんに言う。

「だが、パド」
「お父さん、僕は大丈夫だから、ジラとお母さんを護ってください」
「……わかった。そうだな。お前は強い子だからな」

 お父さんはそう言って僕の髪をくクシャクシャとなでてくれた。

「行きましょう、バズさん。確かに私たちはここにいても邪魔みたいだし、ジラが目を覚ましたら水を飲ませてあげたいわ」

 マーリさんの言葉に、お父さんも頷いてくれた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

《以下、数十分前(キラーリアが『闇』の襲来を報告した直後)》

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 キラーリアさんが僕らに『闇』の襲来を告げた直後、僕は頭に血が上って小屋から飛び出してしまった。
 そこには確かに『闇』がいた。
 しかも、月始祭の時の『闇』とちがって、両手の指10本全てが僕に向かってきた。

 とっさに反応できず固まる僕。

「バカ、何をやっている!」

 僕の首根っこをつかんで、キラーリアさんが小屋と反対方向に飛び退いた。
 漆黒の指が一瞬前まで僕が立っていた地面に突き刺さる。
『闇』は漆黒の顔に浮かぶ瞳をギロリとこちらに向ける。

「パドっ、あれはお前が倒した『闇』と同じモノか!?」
「わ、わかんないです。似ているけど、消滅したはずだから……」
「同一個体かではなく、同じ性質の存在かを尋ねている!」

 一瞬意味がわからなかったが、すぐに理解する。同じ存在かどうかではなく、同じ種類かという意味だ。

「たぶん、同じです」
「なら、お前はあれをどうやって倒したんだ?」
「どうやってって……」

 僕はチラリと先ほどまでいた小屋の入り口を見る。
 アル王女、レイクさん、教皇や枢機卿がこちらの様子をうかがっている。
 教皇達に漆黒の刃のことをバラしてもいいのだろうか?

「剣はすり抜け、体当たりしても手応えすらない。お前はどうやってそんな存在を退けたんだ!?」
「すり抜けたって……現にあいつの指は地面に刺さっているし……僕が殴ったときはちゃんと効いたんです」
「ちっ」

 キラーリアさんは鋭く舌打ちする。
 どうやら僕の答えが彼女の望んだものと違ったらしい。
 おそらくは具体的な対策が知りたかったのだろう。
 とはいえ、僕にも答えようがない。

 剣がすり抜ける? 確かに月始祭の時、武器を使ったりはしなかった。
 だけど、僕の拳がすり抜けるようなことはなかった。
 一体どういうことなんだ?

 僕が困惑している間にも、『闇』は動き出す。今度はは右手の指をアル王女達に、左手の指を僕らに向かって伸ばした。

「くっ」

 キラーリアさんは僕を抱えてその場を飛び退く。

「あ、あの、僕、邪魔なんじゃ?」

 どう考えても重りにしかなっていない。

「子どもを放り出して傷つけるミスを2度もできるかっ!!」
「あの、それってどういう……」

 キラーリアさんはそれには応えない。
 応えたくないというよりは、今はそんな問答をしている場合ではないと思っているのかもしれない。

 一方、アル王女達に目を向けると、『闇』の5本指をアル王女が掴んでいた。
 あの高速で伸びる指を掴むとか、ハッキリ言って人間業ではない。
 どうやったらあんなことが出来るのか。

「アル王女、そいつに触れるのですか!?」

 キラーリアさんが叫ぶ。

「どういう意味だ?」
「私の剣も体当たりも全く手応えがなかくすり抜けたのです」
「なに?」

 さすがにアル王女も訝しがる顔をした。

「なんだ、それは?」

 アル王女が問い返す気持ちもわかる。
 キラーリアさんの言葉の意味がわからない。
 何か勘違いしているのではないか?

 僕が考えている間も、闇は左手の指を、今度はアル王女に向けて放つ。
 自分の右指を掴んで離さない、彼女を先に倒そうというのか!?

「枢機卿、迎撃を!!」
「は、はい。炎矢(フレムアロー)!!」

 枢機卿の構えた杖から炎の矢が飛び出し、『闇』の胴体に突き進む。

 だが。
 炎の矢はまるで何もないかのごとく『闇』の体が存在しないかのごとく反対側の地面に突き刺さる。。
 効かないのでも避けたのでもない。すり抜けたのだ。

「ばかなっ!!」

 枢機卿が毒づく。

「ちっ」

 アル王女は舌打ちして、掴んだ『闇』の指を離して飛び退く。
 間一髪、アル王女は逃れるが、背後の小屋が無残に打ち砕かれた。
 小屋の木片や砂煙が舞い、一瞬視界が遮られる。

 アル王女は避けらようだが、レイクさんや教皇達は!?

「アル王女、私たちのことも考えてください!!」

 砂煙の中からレイクさんの抗議の叫び。

「うるさい。とっさにそこまで面倒見れるかっ!!」

 などと言っているうちに砂煙は収まる。
 どうやら教皇達も砂と細かい木片をかぶった程度だけで無事らしい。もともと、アル王女だけを狙ったのだろう。

『闇』は再び、アル王女に向けて10本の指を伸ばす。

「ちっ!!」

 アル王女は大剣を抜き、それを打ち払おうとする。
 が。

「なんだと!?」

 今度は『闇』の指がアル王女の剣をすり抜けた。

「冗談ではないぞっ!!」

 叫びつつも剣での迎撃はあきらめ、その場から再び飛び退けるアル王女。

「おい、本当に手応えすらないぞ!!」
「だからそう言っているじゃないですか!!」

 アル王女の叫びに、キラーリアさんも叫び返す。

「枢機卿、攻撃魔法を!!」

 一方、教皇が枢機卿に再度攻撃を促す。

「しかし、魔法も先ほど効かなかったのでは?」
「今度は浄化属性の矢を」
「え、しかし……」
「早く」
「は、はい。浄矢(パリフアロー)!!」

 戸惑いつつも唱えた枢機卿の叫び声に会わせ、今度は光の矢が『闇』の胴体に向かって突き進む。
 光の矢が『闇』の背にあたる。今度はすり抜けることもなく、『闇』が憎々しげに枢機卿を睨み付ける。
 思わず身構える枢機卿と教皇。
 だが、『闇』は攻撃を仕掛けることなく、上空へと飛んだ。

「逃げるか!?」

 アル王女が叫ぶが、『闇』は上空20メートルほどでたゆたっている。

「やはり、そういうことですか」

 教皇が納得したように頷く。

「1人で理解してもらっても困ります。説明してください!!」

 キラーリアさんが教皇に叫ぶ。

「ヤツはゴーストと似た性質の存在だと考えられます」

 教皇の説明は以下の通り。

 剣がすり抜け、さらにキラーリアさんが体当たりしても効果がなかった。さらには精霊の力を借りて魔力を物理現象に返還した『炎の矢』もすり抜けた。
 その一方、アル王女は『闇』の指をつかむことができ、ゴーストのような霊体を浄化するための『浄化の矢』は効果があった。

 通用した攻撃とそうでない攻撃の違いは何かと言えば、攻撃に宿る魔力の有無。

 アル王女は仮にも初代国王キダンの正当な血筋であり、人よりも体内の魔力は多い可能性がある。あるいは、かけられている呪いの影響もあるのかもしれない。

 一方、キラーリアさんは剣術は優れていても魔力はほとんどない。
 キラーリアさんのお父さんも王家の親戚筋らしいが、個人の差もあるらしい。
 そして、2人の持つ剣は名刀ではあっても魔力剣ではない。

 また、炎矢(フレムアロー)の炎は魔力を物理現象に変換して放つが、浄矢(パリフアロー)は魔力の塊そのものを矢にして放つ魔法である。

 魔力の伴わない物理攻撃は効かないが、魔力の宿った攻撃は通じる。
 これらはゴーストをはじめとする霊体によく似た性質である。

(いや、そもそもこの世界にゴーストって実在するの!?)

 おねーさん神様は死んだ1歳以上の人間の魂はそのうち消滅するって言っていたけど。
 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

「ですが、奴がゴーストだとは思えません。
 漆黒のゴーストなど聞いたことがありませんし、それならば私の浄矢(パリフアロー)なら一撃で消滅するはずです。なによりも、その性質故にゴーストの攻撃で物理的な破壊は起きないはずです」
「ですから、ゴーストに似た性質(・・・・)と言ったのです。似た性質と同一の存在とでは言葉の意味が違いますよ」

 枢機卿の疑念に教皇が応える。

「しかし、そもそもあれは一体何なのですか。私も歴史の勉強はしています。あんな存在、長い王国史にも記載されていませんよ」
「確かにそれはそうですね。あるいは勇者キダンがアルダット山脈へとおいやったという魔物の一種かもしれません」
「確かにキダンが戦ったという魔物の正体は歴史書のなかで不自然に隠されている部分がありますが、現在のアルダット山脈にあんな存在は……」

 言い合う教皇と枢機卿。

「申し訳ないがここは教会の説法会場でも学校でもなく戦場です。問答は後にしていただきたい」

 教皇と枢機卿の議論を止めたのはキラーリアさんだった。

「確かにな。ヤツの正体を探るなど生き延びてからの話だ」

 アル王女も同意する。

「ですが……」

 枢機卿がチラリとキラーリアさん――というよりも、未だにキラーリアさんに抱えられている僕を見る。

「教皇猊下、パドくんのことはこの戦いが終結してから改めてということにさせて戴きたい。なんにせよ、ここで我々が死んでは意味がありませんし、他の村や町などにヤツを趣かせるわけにもいきません」

 レイクさんが言う。

「確かにその通りですね。枢機卿、今はアル王女と協力してヤツを倒すことだけを考えてください」
「了解しました」

 さすがに優先順位は理解しているのだろう、教皇と枢機卿も納得したようだ。『とりあえずは』かもしれないが。

「来るぞ!!」

 上空の『闇』が10本の指を大地に立つ僕らに向けて伸ばす。
 アル王女とキラーリアさんが飛び退き、それぞれ2本の指を避ける。
 ちなみに僕は未だキラーリアさんに抱きかかえられた重り状態である。

浄壁(バリフウォール)!!」

 一方、残り6本の指に襲いかかられた教皇達を枢機卿の魔法が弾く。
 光の壁は『闇』の指でも突破できない様子だ
 無駄を悟ったのか、闇は一端、全ての指を縮めた。

「やはり、浄化系の魔法は効果があるようですね」

 教皇が言う。

「しかし、これではこちらの攻撃が届かん。魔法もこの距離では避けられてしまうだろう」

 アル王女が苦々しげに叫ぶ。

「いえ、そうとは限りません。枢機卿、もう一度先ほどの魔法を」
「え、あ、はい。浄矢(パリフアロー)

 キラーリアさんの指示で枢機卿は浄化の矢を上空に放つ。
『闇』のスピードならば十分避けられそうなのに、片手に命中する。

「なるほど、ヤツは戦い慣れてはいないようだな。とっさの動きや判断力は森の獣の方が上なくらいだ」

 アル王女が納得したように言った。

「とはいえ、空中からの高速攻撃はキツイぞ。レイク、お前も魔法で攻撃できないのか!?」
「私は攻撃魔法なんて使えませんよっ!! まして、浄化系列の魔法はは教会が秘匿してるんです」

 アル王女の問いにレイクさんが応える。

「別に秘匿しているわけではなく、あわれな霊魂を消滅させる魔法を無闇に広めることを望んでいないだけです」

 教皇がレイクさんに反論する。

「なら、教皇、お前がやれ!!」

 いくらなんでも教皇を相手に『お前』はまずいと思うが、状況が状況だけにツッコむ者はいなかった。

「いえ、実は私も攻撃系の魔法はほとんど学んでいません。通常の状況下なら枢機卿に護衛してもらえばすみまますから」
「ちっ、役に立たん奴らだ」
「面目ありません」

 アル王女に暴言を浴びせられても頭をカキカキしながら謝る教皇。
 僕を抹殺しに来たなどというから、怖い人かと思ったけど、案外懐が広いのかもしれない。

「しかたがありません。私とアル王女でヤツの攻撃を引きつけます。攻撃は枢機卿が」

 キラーリアさんが言う。

「おい、キラーリア、騎士が王女に囮役を手伝えというのか?」
「ええ、お願いします。私は指を掴むこともできないので」

 からかうようなアル王女の言葉に、キラーリアさんが言う。

「ふっ、いいだろう。攻撃ができんのはストレスがたまるが、逃げろなどと言われるのはそれ以上の屈辱だ」

 アル王女はそういうと大剣とその鞘を地面に放り捨てた。

「なぜ、剣を捨てるんですか!?」
「すり抜ける武器など重りにしかならん。キラーリア、お前も重りは捨て置け」

 レイクさんの言葉に、アル王女がいう。

「ですが、この剣は父から譲り受けた先祖代々伝わる大切なものです」
「なら、もう1つの重り(・・・・・・・)に預けておけば良いだろう」

 言われたキラーリアさんは、抱えた僕を見下ろす。

「……パド、自分で逃げられるか?」

 キラーリアさんが僕に問う。

「はい。っていうか、僕は戦わなくて良いんですか?」
「お前が以前の『闇』を退けたことは事実なのかもしれんが、戦い慣れない子どもをこれ以上かばう余裕はない」
「……わかりました」

 キラーリアさんは僕を地面に下ろし、自分の剣を僕に渡す。
 僕の背丈ほどもある剣は、本来なら3歳児が持つには重すぎる。
 チートの力がある僕は簡単に持ち上げられるけど、左手がないので掴みにくい。
 結局、持つというよりは抱きかかえる形になった。
 あんまり力を入れると折ってしまいかねないのが怖いけど。

「先ほども言ったが、この剣は我が家の家宝であり、私の父の形見だ。戦いが終わるまで預けるから大切にしてくれ」
「はい!」

 僕は頷いた。

「村人は西に逃げた。パド、それにレイクと教皇もそちらに向かった方が良い」

 正直、東西南北という表現は村ではほぼ使わない。
 だが、村人が逃げる場所ならわかる。

「川の方ですね」
「川の方角は知らんが、西とは太陽が沈む方向……向こうだ」

 キラーリアさんの指さす先で夕日が沈もうとしていた。

「レイク。村の子ども――ジラという少年が闇の指で重傷だ。回復魔法をかけてやってくれ」
「ジラが!?」

 僕は思わず叫ぶ。
 お母さんに続いてジラまで……
 反射的に、僕はお母さんのように心を壊したジラの姿を思い浮かてしまう。

「急げ。ここにいても邪魔だ。ジラの治療も早いほうがいい。」

 僕はうなずき歩き出す。
 レイクさんや教皇と合流し、川の方角へむかう。

「パドくん、歩くのではなく走るべき状況だと思いますが」

 教皇の言葉はもっともだが、そうもいかない理由がある。

「僕が走ると地面に大きな穴が開くんです」
「なんとまあ……200倍の力とはそれほどのものなのですね」

 僕の返答に教皇はなにやら思考する。
 そんな危ない力を持った子ども、やっぱり抹殺すべきだとか、そういうことを考えているのだろうか。

「僕は走れませんが、2人は走って逃げて良いですよ」
『ではそうさせてもらいましょう』

 こんな時だけ教皇とレイクさんの言葉が一致し、2人は僕をおいて駆けだした。
 ……いや、別に良いですけどね。
 僕も地面を崩さないよう慎重に――しかしできる限り急いで西へ向かう。

『闇』はそんな僕らをほとんど無視して、再びアル王女と枢機卿へ攻撃を仕掛ける。
 どうやら、この2人が1番危険だと判断したらしい。

「おい、こちらを無視するな!!」

 キラーリアさんは叫び、アル王女の前に立ちはだかる。

「お前にあの指は止められんのではないか?」
「掴むことは出来なくても、私に突き刺されば1度は王女をかばえます」
「ふんっ、余計なお世話だ」

 叫びあいつつも、2人とも指を避ける。

浄矢(パリフアロー)

 枢機卿の魔法が再び放たれるが、さすがに今度は『闇』も避ける。

「枢機卿、無駄うちをするな。貴様の魔力がなくなれば勝機がない。我らがヤツの気を引きつけたところを狙え」

 アル王女が叫び、3対1の本格的な戦いが始まった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 村の外れまでたどり着くと、レイクさんと教皇がいた。
 僕を待っていたというよりも、走り疲れて息が切れたらしい。

 初老の教皇はともかく、レイクさんは本当に体力なさ過ぎである。

 と。
 森の木陰から2人お父さんが飛び出してきた。

「パド!! 無事だったか」
「お父さん!!」

 お父さんの顔を見て、僕は思わずその胸に飛び込みそうになる。
 ――自分のチートの力を思い出して立ち止まったけど。

 さらに2人はジラの母親が息子を抱きかかえて現れる。
 どうやらジラは気を失っているようだ。

「ご無理を承知でお願いいたします。この子を診てはいただけませんか。」

 ジラの母親がレイクさんに言う。
 ジラのシャツの肩口は大きく切り裂かれている。代わりの布を巻かれているが、血痕でどす黒く変色していた。

「わかりました。傷口を診せてください」
「はい」

 マーリさんが布を取り、ジラの傷口があらわになる。
 大きな刺し傷があり、出血もまだ完全には収まっていない。

「レイクさん、ジラは助かりますか?」
(ヒーリング)を使うしかありませんが……しかし……」

 僕の問いにレイクさんは難しい顔を浮かべ口ごもる。
 幼い頃の桜勇太が『僕はいつ退院できるの?』と尋ねるたびに医者さんや看護婦さんが浮かべた顔だと同じだ。

 その表情を見ただけで、僕は理解できてしまった。。
 ジラが助かる見込みは薄いと、レイクさんは判断しているのだ。

「くそっ、なんでだよ。なんでジラが……」

 僕は泣きたくなる。
 これも僕が転生を願ったからだっていうのかっ。

「とにかく回復魔法を使ってみましょう」
「お待ちなさい」

 ジラの肩に伸ばそうとしたレイクさんの手を、教皇が止める。

「貴方の使える回復魔法は(ヒーリング)だけですか?」
「はい」
「ならばやめておいた方が良い。(ヒーリング)は怪我人の体力を代償に傷をふさぐ魔法。この子どもはすでに大量の血液を流し、体力を消耗しすぎています。(ヒーリング)では治しきれませんし、逆に体力を奪って死期を早める結果に繋がりかねません」
「ですが、このままでもこの子は助からないでしょう」
「ええ、ですから私が治癒します。攻撃魔法は苦手ですが、回復魔法は枢機卿よりも得意なんですよ。
 お母さん、息子さんを地面に寝かせてください。抱かれたままでは怪我人ではない貴女にまで魔法がかかってしまう。ただし、傷口を開かないよう、ゆっくりと」
「え、は、はい」

 マーリさんは戸惑いつつも、教皇に言われるがままジラを地面に寝かせた。

「では……」

 教皇はジラの肩に手を置き、その魔法と唱えた。

復活(レスレクション)

 ジラの体を優しい光が包み込んだ。
 レイクさんによれば、この魔法を使える魔法使いは大陸中を探しても片手で数えられるほどしかいないという。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ジラの治療が終わり、お父さんとジラを抱えたジラのお母さんが立ち去った後。
 僕とレイクさんと教皇の3人は村の外れの高台から戦いの行方を見護り続けていた。

 この世界での僕の視力はけっこう良いと思う。チートというほどではないが、ここからでも戦いの様子は概ね観察できる。

 アル王女やキラーリアさんは少しずつ傷ついていた。
『闇』の攻撃が何度かかすっているのだ。
 とはいえ、全てかすり傷のようだ。
 あれだけの動きを繰り返しながら息も上がっていない。
 やはりこの2人、常人ではない。

 アル王女は何度かヤツの指を掴み、その瞬間を狙って枢機卿が放った浄矢(パリフアロー)もヤツの胴体に何発か命中している。

「3人ともすごいですね」

 これならあの3人で『闇』を倒せそうだ。
 せっかく修繕が始まっていた建物や畑が荒らされていくのは見ていて辛いが、今はヤツをなんとかすることが第一だろう。

「いえ、このままではまずいです」

 だが、レイクさんは僕ほど楽観していないらしい。

「どういうことですか?」
「2人はともかく、枢機卿はの魔力はもはや限界でしょう。
 それに、彼はゴースト退治などはしたことがあっても、このような命がけの戦いはほとんど経験がありません。体力はまだしも精神的にどこまでもつか」

 答えたのはレイクさんではなく教皇だった。

「それに、まもなく日が暮れます」

 レイクさんの言葉に夕日を振り返れば、すでに半分以上が山の陰に隠れている。完全に日が沈むまで、たぶんあと5分くらいだ。

「ええ、私の推測通りヤツがゴーストに近い性質を持っているとしたら、夜になれば力が上がる可能性もあります。ゴーストの活動時間は夜間ですから」

 教皇が言う。

「それ以前に、体から光を発するゴーストとは違い、相手は漆黒の存在です。パワーアップするかどうかはともかく、闇に紛れれば浄矢(パリフアロー)で狙うことも、攻撃を避けることも今よりもずっと難しくなる。もちろん『闇』も夜目が利かない可能性もありますが」

 レイクさんの言葉ももっともだ。
 月と星の光だけで『闇』の動きを捕らえるのは難易度が高すぎる。
 あるいはアル王女とキラーリアさんならなんとかするかもしれないが、枢機卿には無理だろう。

「ここで枢機卿や王女を失うことは私としても避けたいですね」

 教皇が苦々しく言う。

「しかし、我々に出来ることはなにもない。いまさら逃げることも難しいでしょうし、攻撃手段もありませんから」

 攻撃手段。
 レイクさんと教皇にはない。

 だが、僕にはある。
 アル王女以上の魔力を持つ僕の拳はヤツに効く。
 そして、漆黒の刃は月始祭の時の『闇』を倒せた。

 僕は、本当にここにいても良いのか?
 本来なら、僕こそがあそこで戦うべきなんじゃないのか?

 ――だけど。

 キラーリアさんははっきりと足手まといだと言った。
 事実、僕には闇が放つ10本の指を避けることなんてできない。
 そして、ヤツが上空にいる以上、拳も漆黒の刃も当てることは不可能だ。
 アル王女のように高速でせまるヤツの指を掴むような反射神経もない。

 もし僕が戦場に戻っても、ヤツの指に貫かれるだけ。
 それはわかっている。

 ――だけど。

 僕は右手を握りしめる。
 そして、手首からなくなった左手を見る。

 もし。
 もしも漆黒の刃を枢機卿の魔法のように上空までとばすことが出来たら。
 そういう魔法が使えたら。
 あるいは、教皇のように空を飛ぶ魔法が使えたら。
 右手、あるいは左腕と引き替えにそんな魔法が手に入るなら――

 僕がそこまで考えたときだった。

 ――周囲が暗闇に包まれた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 一瞬、太陽が完全に沈んだのかと思ったが違う。
 月や星の光もなく、風や木々が揺れる音もない。

 そして、僕の目の前に見覚えのある幼児姿がいた。

「やあ、また会えたね、パドくん。それとも桜勇太くんと呼んだ方が良いかい?」

 そいつは――左手首と引き替えに僕に漆黒の刃の魔法を渡した存在は――『闇』とよく似たいニヤニヤ顔で僕に話しかけてきた。
というわけで、パドくん再びヤツと対峙。
はてさてどうなることやら。

次回は早めにお届け――できればいいなぁ(←願望)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

『魔法を授けるときくらいしか彼のような存在が人間に接触できない』という設定を乗り越えてどうやってパドくんをもう一度彼に会わせるか頭を悩ませました。
……正直、この設定あまり深く考えずにノリで書いてしまったモノだったのですが、まさかこんなところで足を引っ張るとは(←無計画)
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