挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 最終章 始まりの一歩

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

43/92

43.騎士の本分

キラーリアさんの一人称。
時間は少し巻戻ります。
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(キラーリア 一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 アル王女、レイク、パドの3人が教皇達の待つ小屋の中に入り、私は小屋の前で見張りをすることになった。
 もっとも、敵がいるわけでもなく、実質相変わらず馬が逃げないように手綱を引いているだけなのだが。
 村人達も『ドラゴンの巣を炙って炎をあびる』のは避けたいのか、ほとんど寄ってこない。

 ……いや、正確には1人だけ私にまとわりついている子がいるのだが。

「なあ、さっきの答え聞かせてくれよ」

 そう言って私を見上げるのはジラ。
 他の子ども達はすでにどこかに行ってしまったのだが、この子だけは私から離れようとしない。
 大人達がなんどか引き離そうとしたのだが、私が『別に構わない』と言ったためか、彼も遠慮がなくなっている。
 実際、ただ見張っているのも暇だし。

「さっきの答えというと、パドを騎士にして欲しいという話か?」
「そう、それ。パドのやつこのままじゃ本当に村から追放されて飢え死にしちまうよ」

 さて、どう答えたものか。
 私たちはパドを勇者に仕立て上げることができないかとやってきたわけだが、それはまだ決定ではない。
 アル王女や教皇の判断次第では、パドを斬り捨てることも考えなければならない。
 だが、この純粋に騎士に憧れる少年の前でそんなことは言いたくない。
 私は彼の無垢な純粋さを好ましく思っている。今の段階で彼に軽蔑されるようなことは言いたくない。
 なにより、勇者育成学校や神託のことはそう簡単に話して良いことではない。

「残念だが、私にパドを騎士として取り上げるような権力はない。だが、アル王女に善処するように願い出ておこう」

 我ながら官僚的というか、持って回った言い方だ。
 こんな言葉では、むしろごまかそうとしていると感じるだろう。
 事実、ジラも納得していない表情だ。

「……ゼンショってなに?」

 ……官僚的とかいう以前の問題だったようだ。

「いや、つまりだな……」

 私はどうしたものかと空を見上げ――

「なんだ、あれは」

 ――ありえない光景に息をのんだ。

 空に、漆黒の人型が浮かんでいた。

「……『闇』」

 ジラが呟くように言う。
 ジラだけではない。村のあちらこちらで悲鳴めいた声が響く。
『闇』……あれが……
 漆黒の人型――『闇』は私たちの方を見下ろすと、白い歯を覗かせニヤリと笑みを浮かべた。

 次の瞬間。

『闇』が頭から急降下し、私たちに迫った。

「くっ」

 わけがわからないが、幼い頃からの訓練によって培われた反射行動で、私は剣を抜いて構える。
『闇』が右人差し指を私に突き出す。
 本能的な警戒心が働き、私はその場から飛び退く。
『闇』の指がありえない長さに伸び、一瞬前まで私がいた地面を突き貫いていた。

 2頭の馬が嘶く。
 私の手から手綱が放れたため、馬を拘束する物はない。
 しかし、訓練された軍馬達は恐怖に駆られながらもその場から逃げ出すことはなかった。

『闇』が地面から指を抜く。
 同時に今度は両人差し指を振り抜き、その指先が2頭の馬に向かって伸びる。
 憐れな馬たちは腹を貫かれ、小さく悲鳴を上げてその場に斃れた。

 漆黒の『闇』の指先から赤い馬の血液がしたたり落ちていた。

『闇』はさらに指を振り回し、今度は1番近くにいた人間――ジラを狙う。

(しまった!!)

 剣を抜くよりもジラを抱き寄せて飛び退くべきだったのだ。
 後悔するがもう遅い。
 戦士としての本能に身を任せて、騎士として助けるべき人民を見捨ててしまった。

「ジラ!!」

 私は叫び、ジラに駆け寄る。
 距離はせいぜい数メートル。
 一瞬でたどり着ける距離だが、この状況ではその『一瞬』が致命的すぎる。

 ジラに迫る『闇』の指先。
 私は剣先を伸ばし、それを払おうとする。

 が。

(手応えがない!?)

 私の剣先は確かに『闇』の指を払い――あるいは斬り落としたはずなのに、『闇』の指は止まらない。
 指が硬いとかそういうことでは無く、そもそも当たった感触がない(・・・・・・・・・)
 避けられたわけでもない。
 間違いなく私の剣は『闇』の指に当たったはずなのに、まるで空を切るのごとく一切の手応えが感じられなかった。

(これは……実体が無いのか!?)

 一瞬そう思うが、それならば馬の腹が貫かれるわけがない。

 ――いや、今はそんなことよりもっ!!

 私はジラの方へ歩みを進める。
『闇』の指を止められないならば、彼を避難させなければならない。

 ――だが。

 私が伸ばした手よりも一瞬早く、『闇』の指先がジラの右肩に突き刺さった。
 馬たちと同じように、ジラの身体が斃れる。
 彼は悲鳴すら上げない。

(バカな)

 実体のない指が肉体に突き刺さるわけがない。
 しかし現実に『闇』の指は私の剣はすり抜け、ジラや馬の身体には突き刺さった。
 そんな攻撃がありえるというのか。

『闇』の指がスルスルと縮まり、ジラの肩から抜ける。
 ジラに駆け寄り抱きかかえると、まだ息はあった。
 だが、このままではいずれ――

(レイク)

 応急処置でどうにか出来るレベルではないが、レイクの回復魔法なら助けられるかもしれない。
 ――ならば、今やるべきことは、小屋の中のアル王女達に状況を伝えること。
 もちろん、これだけ騒動になればアル王女達も何事かと確かめようとするだろうが、警告されずに迂闊に出てくれば、その場で一突きなどということになりかねない。
 なんとしても『闇』の襲来を伝えなければ。

 だが、『闇』は小屋の前に陣取り、こちらを見ながらニヤニヤ(わら)い続けている。
 攻撃してこないのは私を挑発しているのか、嬲っているのか、それとも別の理由があるのか。
 いずれにしても、私1人ならば小屋の中まで駆け抜けることもできるかもしれないが、ジラを抱えて走るとなると難しい。

「ジラっ!!」

 そう言って叫び声を上げたのはマーリ。
 いつの間にか近くまできていたらしい。
 いや、マーリだけではない、周囲には村人達が集まっている。

「バカ、マーリ、皆も逃げろっ」

 私の叫びに、マーリは首を横に振り、私にジラを駆け寄り抱きかかえようとする。

「何を……」
「ジラは私が見ます。私たちには戦う力はありませんから。貴方が掴むべきはジラではなく、剣です」

 言われて初めて、ジラを抱えた時点で自分の剣を地面に落としていたことに気がつく。

 そうだ。
 私は何だ?
 私は騎士。
 戦うこと、戦い護ることが私の使命。

「わかった。ジラと共に避難していてくれ。レイクならば彼を治せるかもしれない」

 私はそう言って剣を持ち、『闇』と相対した。
 マーリはジラを抱きかかえたまま、ゆっくりと戦場から離れる。
『闇』はマーリを睨む。

 私は『闇』に向けて正面から突き進む。
 さすがに『闇』もマーリ達から私へとターゲットを変更した。

『闇』の右人差し指が私に向かって伸びてくる。
 剣では防げない。
 理屈は分からないが、先ほどと同じ結果になるだろう。

(ならばっ!!)

 私は小さく左に進路を変えて『闇』の指を避ける。
 大きくは避けない。避けるのは最低限でいい。
 大きく飛び退けばそれだけ隙が生じる。
 その攻撃は避けられても追撃は避けにくくなってしまう。

 案の定、今度は『闇』の左人差し指がが私に伸びる。
 だが、それも、私は最低限の動きで躱す。今度は上半身を右にそらすだけですんだ。

『闇』は漆黒の顔に、しかし明らかに不快な表情を浮かべた。
 今度は左右合計10本の指を次々に繰り出してくる。
 だが、その悉くを私は紙一重で躱す。
 いくつかは私の服や皮膚を浅く切り裂いているが、かすり傷程度だ。

(思った通りだ)

 こいつは確かに身体能力は高い。
 おまけにどういうわけかこちらの剣は通用しない。

 だが。

 こいつには大きな弱点がある。
 知性があるのかどうかは分からないが、フェイントを使うことも、私が逃れようがない攻撃を仕掛けることもできない。
 有り体にいって戦闘センスは素人同然だ。
 これならば攻撃を避けることは可能だ。

 むろん、一般人――いや、普通の戦士ならばそもそも一撃目を避けることすら難しいだろう。
 しかし、あいにくと私は普通の戦士ではない。
 力はともかく素早さには自信がある。
 これまでの訓練で培ってきた身体能力と反射神経は、この程度の攻撃に捕らえられるほどもろくはない!!
 一切の怪我をしないように避け続けるのは不可能でも、致命傷を避けるならばどうにでもなる。

『闇』の胴体まで、あと1歩。
 私は剣を構え、ヤツの胴体へと斬りかかる。

 が。

(やはりダメか)

 私の剣が――いや、私の身体全体が、まるでそこに何もないかのごとく『闇』をすり抜けた。
 どうやら、本当にこちらの攻撃は一切効かないらしい。

 だが、これでいい。

 闇の胴体の後ろにはアル王女達がいる小屋がある。
 私は小屋に駆け込み叫んだ。

「アル王女!! 『闇』が現れました!!」
「なんだそれは!?」

 アル王女の言葉を待たず、小屋の入り口へ走ったのパド。

「待て、パド!!」

 今飛び出したらパドが危ない。
 私は慌てて彼の首根っこを掴もうとするが、1歩遅い。

 パドは小屋の外に飛び出してしまった。
再びラクルス村に襲来した『闇』
攻撃の効かない相手にどう立ち向かうか。

そして、貫かれたジラは助かるのか!?

次回、アル王女達と教皇達が手を結び、『闇』との戦う!!
そして、パドの前に再びヤツが現れる!!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇
※ちなみに『ドラゴンの巣を炙って炎をあびる』というのは『藪をつついて蛇を出す』とほぼ同じ意味のこの世界のことわざです。
わかりにくくてスミマセン。
なお、この世界に蛇がいないわけではありません。蛇以上にドラゴンの方が恐い世界なので、ことわざもそうなったようです。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ