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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第四章 獅子と少年

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9.そして世界は踊る

第4章、最終話。

アル王女は何故女王を目指すのか。

そして、ラクルス村を襲った『闇』の正体に迫るアル王女とレイク。
自分が信じていたモノが崩れていくパド。

さらに――
「ですから、それは王家と諸侯連立の……」

 僕の疑問に対しアル王女が答える前に、レイクさんが言いかけた。

 が。

「黙っていろ、レイク」

 アル王女の大剣が、今度はレイクさんの額の前へと走った。

「パド、その質問の意図はどこにある?」

 レイクさんに切っ先を向けたまま、アル王女は横目で僕をにらむ。

「僕にとって、諸侯連立と王家がどうあろうとどうでもいいんです。だって、僕の家族の幸せとは関係ないことですから。
 それはアル王女にとっても同じだったんじゃないんですか? いきなり自分は王の子どもだなんて言われたら、普通は困惑したり、自分を捨てた王様を恨んだりすると思います。
 アル王女だったら、王様とレイクさんとキラーリアさんを斬り捨てて高笑いする方が似合っています」

 沈黙。
 ひたすら沈黙。
 それは1分だったか、10分だったか、1時間だったか。

 おそらく、実際には1分程度だろう。

 だけど、僕にはとても長い時間に感じられた。

「ふっ、ふはははははっ」

 やがて、アル王女は天を見上げて高笑いを始めた。

「その通りだ。パド。私にとって王家など反吐が出る相手だし、諸侯連立は小便をひっかけてやりたい相手だ。教会に至っては今すぐ総本山に殴り込みたいくらいに嫌いだ。
 どれもこれも滅ぼしてやりたいよ」

 アル王女の言葉に、レイクさんは顔をゆがめる。
 が、口には何も出さない。
 おそらくレイクさんもアル王女のこの本音は理解しているのだろう。

「だが、それでも私は女王になりたい理由がある。
 なにも、この国の未来を案じているわけでも、王として国を牛耳りたいわけでもない。
 私が女王になろうとする理由ははもっと個人的なことだ」
「個人的な理由?」
「この国の王のみが使える魔法。究極の解呪法を手に入れるためだ」
「カイジュホウ……?」

 僕が惚けた顔をしていると、アル王女が今度は自虐的な笑みを浮かべた。

「私はな、あと5年で死ぬんだよ。そういう呪いがかかっているんだ」
「呪い……?」
「15年前にな――まあ、詳細は割愛するが、私は呪いをかけられた。20年後に死ぬという呪いだ。
 代償としてこんな大剣を軽々と振り回す力も手に入れたがな。
 しばらくは気にもしなかったが、さすがに死期まで5年となるとな。命も惜しくなってくる。助かる手段が見つかればなおさらだ」

 助かる手段――それが王家の解呪法ってことか。

「だが、今の国王は年を取り過ぎて大がかりな魔法を使えないらしい。他の王子や王女が王になっても私の呪いを解くわけがない。ならば私が女王になるしかないだろう?
 どうだ、パド。これが私の目的だ。
 こんな私的なことで女王になろうなどと言う女には従えないか?」

 アル王女が皮肉気な笑みを僕に向ける。

 なるほどね。
 王家がどうこうとか、国のためにとか、そんな言葉よりもよっぽどわかりやすい。

 はっきりいって、僕やアル王女にとってレイクさんの歴史授業なんてどうでもいいんだ。
 500年前の勇者がどうあろうと、僕らの生活には何の関係も無いことなんだから。

 それよりも――『解呪法』か。
 もしかすれば、それさえあれば――

「さっきも言いましたけど、僕には王家も諸侯連立も教会も関係ありません。政治なんて興味もないです。
 だけど――自分が生きるために呪いを解きたいという貴女(あなた)の気持ちはわかりました。
 そして、もしもその時僕の望みも叶えてくれると約束してくれるなら、僕も貴女(あなた)に協力します」
「お前の望み?」
「王家の解呪法が手に入ったら、僕のお母さんを助けてください」

 僕の言葉に、アル王女は困惑顔を浮かべる。

「どういうことだ?」

 そして、僕は語った。
 月始祭での出来事を。その結果お母さんがどうなったかを。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「つまり、お前の母親がその『闇』に呪いをかけられたということか?」

 僕の説明を聞き終えたアル王女が首をひねる。

「そうだという確信はありません。単純に怪我や出血のせいかもしれないですし」
「レイク、どう思う?」

 アル王女がレイクさんに尋ねる。

「お母さんの状況をもっとよく見てみないとなんとも言えません。私は魔法の専門家でも医療の専門家でもありませんし。
 それよりもむしろ、その『闇』とやらの方が気になります」
「確かにな。真っ黒な空飛ぶ人型(ひとがた)など聞いたこともない」
「さらに気になるのが、パドくんに契約を持ちかけたという存在です」
「確かに、限りなく怪しいな。タイミングが良すぎる」

 どうやら2人とも僕の告白を疑っていないようだ。

「確かにタイミングが良すぎるとは僕も思いました。たぶん、ずっと僕のことを見張っていて、『闇』にお母さんが傷つけられたのを見て、今なら僕と交渉できるって考えたんだと思います」

 僕のその言葉に、2人は意外そうな顔をする。

「まあ、パドくんのいうような可能性も0ではないでしょうが……」
「パド、お前は頭が良いのか悪いのかよく分からんヤツだな」

 え、なに?
 僕、何か間違えている?
 だってあいつが現れたのは明らかに狙ったタイミングだったじゃん。

「そうですね……では、パドくん、たとえ話をしましょう。
 砂金を1袋持っている冒険者と、水筒に水をたっぷり持っている商人がいたとします。
 商人が『砂金全てと水を交換したい』と旅人に持ちかけたらどうなりますか?」

 唐突に始まったレイクさんのたとえ話に僕は困惑する。

「え? 砂金と水なんて交換するわけないと思いますけど……」

 この世界で金がどれくらい価値があるかは知らないけど、さすがに水筒の水と交換するほど安くはないだろう。

「普通はそうですね。しかし、もしもそこが砂漠で、旅人が水をもっておらず近くに水辺もなく、あと半刻も水を飲まなければ死んでしまう……そんな状況だったらどうですか?」
「そりゃあ……まあ、水がほしいかな……?」
「その通り、水を砂金に交換したければ、水が貴重な場所に行けば良い。砂金がなくても人間は死にませんが、水がなければ人は死ぬのですから」

 まあ、理屈はわかる。

「だから、あの場合も、魔法がなければお母さんが死ぬ状況をあいつは待っていた……ってことじゃないんですか?」

 僕の言葉に、レイクさんは首を横に振った。

「確かに、この問いの表向きの意味は物の価値は状況によって変わると言うことです。が、さらに裏の意味があります」
「裏の意味……」
「それを理解するには、大前提としてそもそも砂漠を旅する者は水を多めに確保しておくのが当たり前だということに知らねばなりません」
「それは……まあ、そうかもしれませんけど……」
「旅人は十分な水を持っていた。しかし、それを失った。おそらく事前に何者かに襲われて水樽を破壊されたのでしょう」
「はぁ……」
「その旅人の前に狙い澄ましたかのごとく、水を持った商人が現れた――パドくん、(きみ)はそれを偶然だと考えますか?」

 そこまで言われ、ようやく僕はレイクさんが何を言いたいのか気がついた。

「つまり……商人が事前に旅人を襲っての水樽を破壊した……?」
「ええ。砂金は盗まれないように警戒しても、水樽は警戒していなかったのか、していても防げなかったのでしょうね」

 つまり――

「『闇』は、僕に魔法の取引を持ちかけたアイツが操っていたってこと……」
「もちろん、確証はありませんがね」

 背中に嫌な汗が流れる。
 自分が考えていたことが根本的に間違っていたのではないかという疑い。

 言われてみれば当然の考え方だ。
 僕は『狙ったタイミング』だと思っていたけどそれどころじゃなかった。
 確かにあれは『作られたタイミング』だったのだ。

 あの幼児姿が浮かべた嫌らしい笑み。

『闇』に僕や僕の家族を襲わせ絶体絶命の状況を作り出し、その上で『魔法をあげるよ』とささやく。
 いかにもアイツがやりそうなことじゃないか。

 いや、それどころか『闇』の気持ち悪い笑みと、アイツの笑み、今となってはものすごく似ていた気すらする。

 そうだ。
 冷静に考えてみれば当たり前じゃないか。

 家族の命と引き替えに魔法を与えるなんて、そんな交渉が仮にも成立しかけたのは、お母さんが死にそうだったからだ。
 そんな状況、『狙った』というよりも、『作られた』という方がずっと納得がいく。

「しかし、そのガキはそうとうなやり手だな。あえて『家族の命』というパドが絶対にうなずかないであろう条件を先に提示しておいて、まるで譲歩するかのように片手をよこせば良いと言うなど」
「確かに。少なくとも精霊との魔法の契約において、精霊側が譲歩するなどありえませんからね。最初から家族の命というのはハッタリだった可能性も高いですね」

 アル王女とレイクさんの話を聞きながら、僕はガタガタと全身が震えるのを防げなかった。

 あの時、僕はアイツと交渉しているつもりだった。
 その結果、家族の命は許してもらうという譲歩を勝ち取ったのだと。

 だけど、それも全てアイツの手のひらの上だったのか?
 最初から、アイツは僕の左手を奪うことが目的で、『闇』もその為に用意された駒で……

 だとしたら、僕は……ただ、アイツの上で踊って、村を壊し、お母さんの心を壊し……

 そこまで考えて、僕は気づく。

 お母さんの心が壊れたのは『闇』の呪いのせいでも、怪我や出血のせいでもなく、アイツと契約して僕が使った回復魔法の(・・・・・・・・・・)せい(・・)ではないのか。

 もしかすると、レイクさんやアル王女もその可能性まで考えているかもしれない。
 言わないのは僕に気を遣っているからか?

 僕はその場にヘナヘナと膝をつく。

「はは、はははっ……ははははは……」

 口から妙な笑いが漏れる。

「お、おい、パド?」
「パドくん?」

 突然狂ったように笑い出した僕に、2人がいぶかしげに声をかける。
 だけど、そんなことはどうでもよかった。

 なんだよ、そうかよ。
 結局、やっぱり全部僕のせいじゃん。
 1人で踊って、1人で周りを傷つけて。

 だが、僕の周囲の状況は、これ以上僕が悩み続けることすら許してくれなかった。

「……バカだ、僕は」

 僕がそう言って天を見上げると、そこには――

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 力なく見上げた先に――僕は信じられない者を見つけた。
 村の方向の空に、人が浮いていた。

 それは、『闇』、王女一行に次ぐ、ラクルス村という小さな村への3つめの来訪者――教会総本山からの使者だった。
ということで、パドくんとアル王女の出会い……という名目でのレイクさんによる歴史授業が展開された第4章はこれで終了です。

パドくんは相変わらずorzな状況ですが、教会から訪れた存在がさらに状況を混迷させます。

次回は例によって追録。
アル王女、キラーリアに次ぐもう1人のヒロイン(?)がパドの元へ!?

……しっかし、こうも主人公がいい目に合わないというのはエンタメ小説としていかがなモノだろうかと自分でも思います。
なんつーか、流れでそうなってしまっているのですが、ここらへんは今後(次回作含む)の課題ですね。
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