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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第四章 獅子と少年

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8.迫られし決断

パドくん、決断の時!!
 アル王女はもともと存在を抹消された王女だった。
 彼女が産まれた当時、王家、教会、諸侯連立の関係は緊迫しており、そこにメイドを4人目の(きさき)とすることなど出来る状況ではなかったのだ。
 下手をすれば母子そろって暗殺される恐れすらあり、結果妊娠したメイドは王城より放逐された。

 その後、いろいろあって、アルという少女は大陸一の盗賊団の(かしら)の義娘となり、大陸中に盗賊女帝(ロバー・エンブレス)と恐れられるようになった。

 ――って、イヤイヤ、ちょっと待って。

「いや、あの、盗賊? ろばーえんぶれす?」
「そこは今はどうでも良いことだ」

 僕の疑問の声をアル王女があっさり切り捨てる。

 いや、よくないから。
 盗賊団の(かしら)の娘って、尋常じゃないから。
 ある意味、王女よりもすごいからっ!!
『いろいろあって』ですまさないでっ!!

「まあ、もうすぐ夜ですので、そこは後日王女から直接聞いてください」

 レイクさんはそういうけど……

 盗賊女帝(ロバー・エンブレス)……あらためて、王女様の姿を観察する。

 獅子を思わせるような強いまなざし。
 露出の高い服からあふれ出る筋肉。
 そうであっても不自然な大剣。
 いきなり豚領主に斬りかかった無茶苦茶さ。

 ……うわぁぁぁ。
 確かに王女様ではなく盗賊の頭領だっ!!
 ものすごく納得できた。

 いや、もっと根本的なところが理解できないけどっ!!

 ともあれ。
 王はすでに高齢で子供は期待できない。
 諸侯連立派を除く王子・王女が殺された後、アル王女はあらためて王の子として城に迎え入れられた。
 諸侯連立の影響のない王族として呼び戻されたのだ。

 なお、アル王女の放逐、並びに王族復帰はガラジアル・デ・スタンレード公爵の手引きによって行われた。
 そのガラジアル公爵もアル王女王族復帰後に、謀殺されている。
 ちなみに、レイクさんはガラジアル公爵の右腕的な部下で、キラーリアさんはガラジアル公爵の一人娘らしい。

「以上、駆け足ですが、この国の歴史をご理解いただけましたか?」

 レイクさんが尋ねる。

「……正直、全部は覚えきれた自信はありませんけど……でも、まあ、だいたいはわかりました。
 だけど、それが僕とどう繋がるのかはさっぱりです」

 そう、実際、この国の歴史をいくら聞かされても、だからといってなんで僕の元にアル王女達が来たのか全く繋がらない。
 神託に基づいて僕を殺そうというなら、こんな話しを長々とするわけないし。

「そこで最初の話に戻るのですよ。パドくん、あなたに勇者になって戴きたいのです」

 ――やっぱり話が繋がらなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「先ほども言ったでしょう。王家が王家たる根拠は初代勇者キダンの子孫だからだと」
「それは、まあわかりましたが」
「しかし、今の王族に勇者足る力は無い。当然です。流血の時代を別とすれば戦争など起きていませんし、王に求められるのは政治力であって戦闘力ではありませんから」
「はぁ」
「アル王女は王家への復帰が認められましたが、だからといって次期女王になれるというわけではありません。このままならばテキルース殿下が次期国王になるでしょう。
 しかし、それでは困るのです。
 そんなことになれば諸侯連立によって王家は蹂躙され、やがて形骸化するでしょう」
「はぁ」

 演説のようにレイクさんが言い続けるが、正直、僕にはなんと答えたら良いのかわからない。
 そもそも、諸侯連立と王家の話とか、どっちがどっちを支配しようとただの村人――いや、追放宣言されたけど――である僕からすれば遠い世界の話だ。
 まあ、兄弟姉妹を暗殺したというテキルース王子が王様になるっていうのはあまり耳障りのいい話ではないが、だからといって僕には関わりない話だろう。

 そんな僕の考えを知ってか知らずか、レイクさんはさらに続ける。

「それを防ぐためには、アル王女こそが次期女王にふさわしいと証明しなければなりません」

(……それは無理なんじゃないかな)

 内心僕は思う。
 確かに他の兄弟姉妹を殺したというテキルース王子が次期国王というのも問題だろうけど、いきなり領主に斬りかかるようなアル王女が次期王女というのもそれはそれで大問題だろう。

「何か言いたそうだな、パド」

 アル王女はジト目で自分を見る僕に言う。

「いえ、なんでもないです」
「明らかに、『お前が王女とかトンデモネー』っていう顔だっただろ、今のはっ!!」
「ま、まさかぁ、そんなことないですよ」

 殺気立つアル王女に向けて、曖昧な笑みを浮かべるしかできない僕。
 いや、本当に怖いから、この人の殺気。

「まあ、私も自分が王女にふさわしいとは思っていないがな。というか、自分が王の娘だなど、未だに信じられん」

 反射的に『そうですね』とうなずきそうになって、慌ててやめる。
 そんなことを言ったら本気で斬り殺されかねない。

 が、そんな僕とアル王女のやりとりを無視するかのごとく、さらにレイクさんは続ける。

「いずれにしても王族の権威を取り戻すためにガラジアル公爵は『勇者育成学校』計画を立ち上げました。
 先に言いましたとおり、流血の時代以降、王家が持つことができる武力は限られています。
 それは、勇者の末裔なら自分で自分の身くらい守れるだろうという難癖をつけられたからなのですが、ガラジアル公爵はそれを逆手に取りました。
 王家が勇者を育成するならば問題ないだろうという理屈です。
 全国から力自慢、技自慢、魔力自慢を集め、勇者として育成する。それは王家与えられた使命だと。
 あまりにも横暴が過ぎる諸侯連立に対抗するため、教会と事前に話をつけたことも大きく、アル王女の復帰と共に勇者育成学校は無事開校しました。
 すでに全国各地から生徒も集めています。将来的に、卒業者にはアル王女の補佐として動いてもらうわけです。
 そして、その力を持って、アル王女を女王にするというのが我々の目標です」

 レイクさんの長い話は、これで本当にようやく終わった。
 そして、僕の元にアル王女達がやってきた理由も、ようやく見えてきた。

「つまり、僕にも『勇者育成学校』に入って、アル王女が女王になることに協力しろってことですか」
「平たく言えばそうなりますね」

 ……なんでそれだけの説明のために、半日以上かかるのか。
 この世界の歴史とか、本当に必要だったのか。
 なんだか色々疑問も感じるが、今考えるべきはそこではないだろう。

「もし、僕が『はい』と答えたらどうなりますか?」
「このまま我々と一緒に来てもらうことになります。学校に入学して力と魔力の使い方を学んでもらうことが第一ですね」
「じゃあ、もし『いいえ』と答えたらどうなりますか?」
「そのときは……」

 言いかけたレイクさんを、アル王女が立ち上がり左手で押しとどめる。

 そして。

 アル王女はそのまま右手で大剣を抜き――そしてその切っ先を僕の額に向けた。

 その間、0.1秒以下。
 もう、勇者を育成する必要ないんじゃないかというレベルの剣術だった。

「その時はお前の胴体と頭を切り離して帰るだけだ」

 僕に剣を突きつけたまま語るアル王女の顔には、一切の笑みが存在しなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(ゴクリ)

 大剣の切っ先を突きつけられたまま、僕はつばを飲み込んだ。

 本能的に悟った。
 今、僕はパドとしての人生でもっとも重大な選択を迫られているのだと。

 アル王女は本気だ。
 僕がNOと答えれば躊躇なく僕の首を落とすだろう。

 レイクさんの話を聞いていてずっと不思議だったことがある。
 それは『何故、ただの村の子供にこんな話を聞かせるのか』ということだ。

 王家にまつわる流血を含む歴史。
 王家の内情。
 三竦みの状況。
 王子による他の王族殺し。
 メイドと王の娘が盗賊となり、そして再び王家に迎え入れられたこと。

 ――どれもこれも、無闇に広めていい話ではない。

 この世界にはマスコミはない。
 だから、王家の内情なんて、ただの村人は知りようがない。
 それこそ、王女様やそのお付きの人から話を聞きでもしない限り。

 それなのに、何故僕はこんな話を聞かされた?

 答えは簡単だ。

 話した後『味方に引き込む』か『無理なら殺すか』という選択肢を持っていたからだ。

 僕の額に切っ先を向けるアル王女の行動は、豚領主に対するそれとは違って最初からの予定通りなのだ。
 レイクさんが慌てた様子も見せずに僕とアル王女を観察していることからもわかる。

(どうする!? どうしたらいい!?)

 どうするのがベストなのか。
 もちろん、『はい』と答えれば今すぐ殺されることはないだろう。

 ――だけど、それが正解なのか?
 言われるがまま、剣で脅されてうなずくのが正しいのか?

 王家だの勇者だの、僕には関係ないことだ。
 権力争いなんて巻き込まれたくもない。
 僕はお母さんを助けて家族で幸せになりたいだけだ。

 ここで脅されるがままにイヤイヤうなずいた先に、僕の望む世界があるとは思えない。

 だったらどうする!?

 逃げる?
 戦う?

 僕は産まれてこの方走ったことがない。
 少しでも力を入れすぎると地面に大穴を開けてしまうからだ。
 しかも、背後は崖。
 逃げられるわけがない。

 戦うのはもっと論外だ。
 たしかに僕は200倍の力を持っているのかもしれないし、漆黒の刃の魔法もある。
 だけど、アル王女に勝てるとはとても思えない。
 僕がほんの少しでも敵対行動を見せた瞬間に、僕の頭は胴体と離れて地面に転がる。
 万が一勝てたとしても、ただの村人が王族と敵対して生きる道なんてない。

 逃げるのも戦うのも無理。
 ならば選択肢は頷くか殺されるか。
 その二択なら、やっぱりここはおとなしく頷くしかないのか!?

 レイクさんは諸侯連立に対抗するために活動しているという。
 あの豚領主みたいなのがこの国の支配者になるのは確かにぞっとしない。
 そういう意味では協力してもいいかもしれない。

 だけど、それにしても話が大きすぎる。
 これまで前世の病室と、ラクルス村しか知らない僕には、王家だの領主だのとてもついていけない話だ。
 レイクさんのように、国のために戦おうなんて思えない。

(……あれ?)

 自分の思考に少しだけ違和感を覚えた。

 僕にとって王家やら諸侯連立やらはどうでもいい話だ。
 なぜなら、僕はただの村人だから。

 じゃあ、ただの盗賊だったというアル王女にとってはどうなんだ?
『実はあなたは王女です』といわれたからといって、いきなりレイクさんに協力するだろうか?

 そもそも、話を聞く限りでは、アル王女とその母親は王家の都合で放逐され、王家の都合で再び呼び戻された。
 王家の身勝手に人生を翻弄されたということだ。
 しかも、それを行ったのはレイクさんの元上司でキラーリアさんの父親。

 アル王女の性格からしたら、『ふざけるな』と言って王様とレイクさん達を斬りとばしそうじゃないか。
 例え国中を敵に回しても自分の剣1つで運命を切り開く、そんな姿こそがアル王女にはふさわしく感じる。

 なのに何故、アル王女はレイクさん達に協力している?

 女王になりたいから?
 それもあるかもしれないが、アル王女は我欲はあっても権力欲はそこまであるようには見えない。

 そうだ、変なんだ。
 今までの話を総合すれば、アル王女がレイクさんと一緒に僕をスカウトしに来るわけがない。
 アル王女にそんなことをする動機なんてないのだから。

「1つだけ聞かせてください」

 僕はもう一度ゴクリとつばを飲みんでから言った。

「なんでしょうか?」
「レイクさんにじゃない、アル王女に聞きたいんです」

 アル王女の目をじっと見つめたまま、僕は言った。

「いいだろう、その質問に意味あると私が思えたなら答えてやろう」

 アル王女は大剣を僕の額から離し、言った。

「アル王女は何故女王になろうとしているのですか?」

 僕の質問にアル王女は満足気にニヤっと笑った。
今回ぶっ飛ばしているっぽい、アル王女の話は外伝でそのうち書かせていただきます。
あと1話で第4部終了です。

……いえ、本当は今回で終了の予定だったんですけどね……あとちょっとだけください……
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