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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第四章 獅子と少年

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7.さらなる世界(後編)

大変長らくお待たせいたしました。
レイクさんによる歴史の授業最終幕です。
 すでに夕方をすぎ、崖の向こうの空は紅く染まり始めていた。
 前世で病室の窓から見えた夕焼けは、こちらの世界の方がずっと明々(あかあか)しく感じる。
 前世の太陽とこの世界の太陽との差なのか、それとも単に窓越しかどうかの差なのかはわからないけど。

「パドくんの言うとおり、今の王家、諸侯連立、教会の関係は歪んでいます。そして、だからこそ1年前あの事件が起きたのです」

 レイクさんの話はいよいよ佳境に入った。

【王子・王女の変死】

 先代の王の時代、いよいよ3者の緊張関係は極限状態に陥った。
 そこには王家が制定した『奴隷解放宣言』が関係しているらしい。
 聖テオデウス王国の歴史において、奴隷という存在は大きな意味を持つらしい。
 が、今はそこまで解説している時間がないので、省くとのこと。

 いずれにしても、先代の国王の御代(みよ)に極限まで緊張した王家、教会、諸侯連立の関係を解消するため、現国王は諸侯連立とある合意をする。
 国王と諸侯連立代表の娘の婚姻である。

 それまで、国王との婚姻は伝統的に国王派の貴族――即ち初代国王キダンの血を引く貴族が推薦する娘、教会が推薦する娘、それぞれ1人ずつを迎え入れていた。
 王家と教会は、少なくとも諸侯連立ほどには仲が悪くなかったのだ。

 しかし、いよいよ諸侯連立との対立が避けられなくなった現国王は、彼らの意を汲む形で3人目の妻を迎え入れた。
 これで事態は改善するかと思われたが、実際にはさらに混迷を極める。
 それまで政治の場でおきていた権力争いが、王家の家族間で勃発し始めたのだ。

 そして、6年前事態は最悪の展開を迎える。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 当時、国王には6人の子どもがいた。
 その中の3人が相次いで変死したのだ。
 さらには、幼い国王の孫達までもが亡くなった。

 (おおやけ)には病死として発表されているが、レイクさん曰く、相当きな臭いらしい。
 なにしろ、亡くなった王族達は、同時期に急激な嘔吐や血便などの同じ症状で一気に衰弱死したのだ。

「でも、同じところに住んでいたなら病気がうつったって可能性もあるんじゃ……」
「それが、別のところに住んでいた方もいるのです。しかも、同じ場所に住んでいた従者達には一切症状が見られませんでした」
「なるほど」
「なによりも亡くなった王族は、伝統貴族から推薦された王妃と教会から推薦された王妃のお子様とその子ばかり。諸侯連立推薦の王妃のお子様方には全く異常がありません」

 要するに、状況をみれば、諸侯連立推薦の王妃から産まれた王子・王女達だけを残して、他の王子・王女達が次々と亡くなったということだ。
 確かに、普通に考えれば怪しい。

「さらに、伝統貴族にて、現国王の右腕ともいわれたガラジアル・デ・スタンレード公爵も、翌年同じような症状で亡くなりました」
「そこまで情報がそろっていて、なぜ病死ってことになるんですか? そりゃあ、証拠はないのかもしれませんけど……」
「いいえ、むしろ証拠はありました」
「え? それってどういうことですか?」
「諸侯連立から推薦を受けた王妃――キルース・ミルキアス・レオノル様が内々にある毒物を手に入れていたという証拠を、ガラジアル公爵が見つけたのです」
「毒物っていうと、つまり……」
「お察しの通り、亡くなった王族方と同じ症状を引き起こす毒です」

 真っ黒じゃん。
 直接証拠はなくても、完全にその王妃様が犯人じゃん。

「しかしながら、キルース王妃は亡くなった王族方とほとんど接触していません。しかも、直接口から摂取させなければ効果がありません」
「つまり、毒物を入手はしたけど、それを使う機会はなかったってことですか?」
「その通りです。しかも、王家の方々が口に入れるものは、食物であれ、水やお茶、酒、さらには薬であっても、必ず毒味が行われます」
「毒味って、つまり他の人が先に食べてみて、口に入れて大丈夫だって確認することですよね?」

 レイクさんは頷いた。

 あれ、でもさ。

「でも、アル王女はさっき普通に干し肉食べてませんでした?」
「まあ、アル王女は何を食べても死にそうもありませんし」

 僕の疑問にさらっと毒舌で答えるレイクさん。
 いや、まあ、それは僕も同意するけど。

「でも、毒味役は無事だったと」
「そうなります」

 確かに、それじゃあ、キルース王妃が犯人だなんて言えない。

「ですが」

 レイクさんが言う。

「亡くなった王族方が唯一毒味せずに飲んだものがあります。
 第2王子テキルース・ミルキアス・レオノル様がご兄弟に贈呈した葡萄酒です。テキルース殿下はキルース王妃が最初に産んだお子様です」

 同じ重さの金と等価といわれる高級な葡萄酒で、しかも第2王子自らが他の王子・王女達に送ったものとなれば、毒味も省かれたのだ。
 第1王子の幼い子ども達も、薄めた上で火にかけてアルコールを飛ばして飲んだらしい。ちなみに、毒は温めても効果は変わらない性質の物だ。
 むろん、キルース王妃が産んだ他の王子・王女達にもその葡萄酒は送られているが、それぞれが別の瓶に入っていた以上何の意味も無い。

「それってつまり……王妃様が入手した毒を使って、第2王子が他の兄弟を……」

 言いかけた僕の口を、レイクさんが右手で封じる。

「実行するところは誰も見ていません。直接の証拠は何1つありません」
「そんなこと言ったって……」

 いくら母親が違うと言っても、王子・王女様同士は兄弟だ。
 兄弟姉妹で毒殺なんて酷すぎる。

「王様は何もしなかったんですか?」
「国王陛下も内心では察しておられたのでしょう。だからこそ、ガラジアル公爵へ内々に調査するように命じました。その結果は今言ったとおり、キルース王妃が毒物を入手し、テキルース王子が葡萄酒を王子達に送ったことが判明されたのです」
「それで、王様はどうしたんですか?」
「検討した結果、国王陛下は亡くなった王族方を病死と発表せざるをえませんでした」
「どうしてですか?」
「それは、『真相を国王陛下が告発する(・・・・・・・・・)ことこそが諸侯連立の最終目的(・・・・)である』とガラジアル公爵が気づかれたからです」

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「意味が分からないという顔をされていますね」

 レイクさんがニヤっと笑いながら言う。

「いや、だって、意味がまるで分からないです。もし――仮にですけど――本当に第2王子が他の王子・王女様達を殺したのだとしたら、それは諸侯連立のためですよね?」
「そうなりますね」
「その真相を暴くことが、どうして諸侯連立の最終目的になるんですか?」

 その僕の問いに、レイクさんは今度は優しげな笑みを浮かべた。

「パドくんは素直なやさしい子ですね」
「は、はあ、ありがとうございます」

 突然の言葉に戸惑う僕。

「しかし、こういった平和な村で暮らすならともかく、政治の世界では『やさしさ』は『弱さ』になります」

 そして、レイクさんは語り始めた。
 もしも、王様が真相を暴露したら――つまり、キルース王妃や第2王子の犯行だと発表したらどうなるか。

 それはつまり、国王が自分の子どもを兄弟殺しとして告発するということだ。
 もしそうなれば、王家の弱体化を狙う諸侯連立にとってはこれ以上ない好機になる。

 民衆に対してこう訴えれば良い。

 ――親族同士で殺し合うような王族にこの国を任せておけるのか。
 ――民衆の苦労も知らず、権力争いに明け暮れる王族など、もはや勇者キダンの意思に反する存在ではないか。

「そんな無茶苦茶な。そんなことを信じるほど皆バカじゃないと思いますけど」

 僕は思わず叫んだ。
 国民だって、今の話を全部聞けば誰が悪いかなんて分かる。

「残念ながら、そうはいかないんです。多くの国民はキルース王妃が諸侯連立から推薦された王妃だということすら知りません。現に、パドくんだって、今お后様が何人いるかなど知らなかったでしょう?」
「それは……まあ、そうですけど……」
「おそらく、国王陛下が第2王子を告発した場合、国民の目から見れば王家内部の権力争いで殺し合ったという漠然とした情報だけが出回るでしょう。いえ、間違いなく諸侯連立がそう情報が広がるように画策したはずです。
 王の直接の言葉など王都の外までは届きませんし、教会は政治信条を人々に伝達してはならないという大義名分がありますので」

 レイクさんのいうことは、きっと正しいのだろう。
 この世界に民間のマスコミなんてほとんどない。
 テレビも新聞も、転生してから1度も見かけたことがない。もしかしたら、王都だけの新聞くらいはあるのかもしれないけど。
 そもそも、村長以外の村人のほとんどは文字を読むことすらできない。

 だけど。
 それにしたって、兄弟を殺した第2王子を許すなんて。
 そんなの……

「王様はそれで納得したんですか?」

 僕は無意識のうちに責めるような口調になってしまっていた。

「親として、あるいは1人の人間としては納得されていないでしょう。ですが、国王としては納得できないからと悪手を行うことはできません。
 正義と政治判断は根本的に別のものなのです」
「でもっ……」
「それに、国王陛下がそう判断した理由は他にもあります」

 なお言いつのろうとする僕を遮り、レイクさんは続けた。

「もしも第2王子を告発すれば、第2王子を裁くことになります。3人の兄弟と甥や姪を殺した第2王子はまず間違いなく極刑にせざるをないでしょう」
「それは、そうなると思いますけど……でも、自分の子どもや孫が殺されたんですよ!?」

 自分の子どもが殺されたとわかっているのに、それを病死と発表するなんて酷すぎる。
 僕が憤っていると、レイクさんが諭すように僕に言った。

「パドくん、第2王子もまた、国王陛下のお子様なんですよ」
「あっ……」

 当たり前のことを指摘され、僕はハッと息を飲んだ。

 そして、思う。
 自分の子ども達が殺し合うなどということは、親にとっては最大の苦しみなのではないかと。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ……この世界に僕の兄弟はいない。
 だけど、もしも僕に弟か妹がいて……あるいは、兄か姉がいて、僕と兄弟が殺し合ったりしたら、お父さんはどう思うだろう。

 それはあり得ない想像だ。
 そもそも兄弟がいないし、しかもただの村人の子ども同士が殺し合うなんてことあるわけがない。

 でも、それでも。
 もしもそういうことがあったら。

 ……きっと、お父さんはとてもとても悲しむ。
 悲しんで悲しんで、自分を責める。

 ――そして、もし本当に殺し合いになって誰かが生き残ったら。

 きっと。お父さんは生き残った子を全力で護ろうとするだろう。
 正義かどうかなんて関係ない。
 親だからだ。

 そして――もしも。
 もしも、桜勇太と桜稔の兄弟が互いに憎しみあっていたら、きっと前世の両親も悲しんだと思う。

 僕は桜勇太としての生前、弟のことなんてほとんど意識していなかった。
 会ったこともなかったし、自分の病気のことだけで精一杯だった。

 ――でも。

 もしかしたら、僕が稔のことを何も考えていなかったということは、僕の中で弟は存在しないのと同じことだったんじゃないだろうか。

 転生直前に見た両親を力強く抱きしめていた稔。
 僕は彼を心の中で殺していたも同然だったんじゃないだろうか。
 もしかすると、そのことで僕は前世の両親を苦しめていたのかもしれない。

(稔は僕のことをどう思っていたんだろう?)

 やっぱり、僕と同じように意識していなかったのかな?
 それとも――

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「パドくん?」

 自分の思考の仲に入り込んだ僕に、レイクさんが声をかける。

「大丈夫ですか?」
「……はい、その、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ、子どもには少し刺激の強すぎる話でしたね」

 ともあれ、ここまでの話は分かった。

 王家、教会、諸侯連立という3者が微妙な関係で権力争いしている中、6年前に諸侯連立派の王子によって他の派閥の王子・王女達が殺されたということだ。
 胸くそ悪い話だけど、理解は出来た。
 それがどうして僕が勇者になるなんていう話につながるのかは未だに見えないけど。

 ……って、ちょっと待ってよ。
 だとすると……

 僕はレイクさんの横に座るアル王女を見る。

 王子・王女は諸侯連立派以外全て殺された。
 だとしたら、今生きている彼女も諸侯連立派の王女ということになる。
 だけど、もしそうなら、レイクさんがこんな話をすることを許すわけがない。

 僕のその困惑を察したのか、ずっと黙っていた王女様が口を開く。

「私の母は王家に仕えるメイドだったそうだ」

 ――そして、最後の話が始まった。
 それは、国王の血を引きながら、盗賊に身を落としたアル王女の物語だ。
ここまでお疲れ様でした。
歴史の話というのはなかなか理解しずらく、書いていても疲れましたが、読んでいても大変だったと思います。

全然理解できないよという方もご安心ください。
現在、王家の一覧とこの世界の年表を画像データとして分かりやすくまとめる作業を行っております。

次回、アル王女の話のあと、そちらも付属させていただきますので、それをご覧いただければ少しは分かりやすくなるかなと思います。
また、細かい歴史とかはあくまでも『舞台背景』です。
詳細を理解しないと今後の物語が楽しめないというわけでもありません。
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