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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第四章 獅子と少年

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5.さらなる世界(中編1)

まだまだ続く世界の歴史のお話。

……面倒な方は流し読みしてください、いや、本当に。
 干し肉をかじって休憩した後、レイクさんの話が再び始まった。
 それはいいのだが、レイクさんはなにやら対抗心が燃え上がったらしく、先ほどまでよりもさらに饒舌に、さらにこんがらがった話をしはじめた。
 正直、僕もついていけているか心配なのだけどまとめてみようと思う。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

【この国の歴史3 流血の時代】

 建国の日を基準にこの世界では聖歴(せいれき)という年号が使われているらしい。
 先ほど建国より300年が経過した年に領主達が貴族位が与えられてたと言ったが、これは聖歴300年ということになる。
 だが、貴族と教会、王家の対立が決定的になったのは、それよりもさらに前の時代のことである。

 時に聖歴231年、後の世に愚王として伝えられる第8代国王ベルネトスが即位する。
 彼は、だんだんと無茶な要求をするようになっていった領主や教会の人々を次々に捕らえては虐殺した。

 彼の暴走はすさまじいもので、ちょっとでも王家を批判した人間は次々に(はりつけ)にされた。
 年月と共にそれは王の暴挙はエスカレートし、単に殺すのでは飽き足らずあえて肉体は傷つけず生きたまま天日干しにしてみたり、住民達に受刑者が死ぬまで石を投げるよう命令したり、赤ん坊を含む家族全員を馬で引きずって八つ裂きにしたり、およそ人間が考えつく悪夢の全てを行ったと言って良いらしい。
 しかも、権力者だけでなく無関係な住民まで虐殺したという記録もあるという。

 とくに父である先代王の死後ベルトネスの暴挙に拍車がかかり、少しでも意に沿わぬことを言えば王家派の貴族や親族すら次々と処刑した。
 レイクさんはハッキリとは言わなかったけど、先代王もベルネトスに殺された疑惑もあるらしい。

 しかし、このベルネトスの行動は領主達を王家に従わせるどころか、彼らの結束を固め王家との対立を深める結果になってしまう。
 それは当然のことで、領主にしてみれば理不尽な王家から自分達の身を守らなければならない。
 領主達は諸侯連立という組織を立ち上げる。
 それまでは、あくまでも領主達の上に王家がいたが、諸侯連立は王家とは別に、領主達だけで結束する組織である。
 教会をも味方につけて、領主達は王家と対決する姿勢を見せたのだ。

 怒ったのは国王ベルネトスである。
 自分こそが勇者キダンの血を引くこの大陸の絶対的権力者であると自負する彼は、さらに領主や教会を締め上げようとした。
 ついには国王は軍隊を動かし、内乱を呼び、大陸の大地や川は血に染まった。

 大地や川が血に染まったというのは比喩でもあるが、事実でもある。
 現に戦いの後河川が死体と血液で変色したり、土が血を吸いすぎたせいで畑の作物が育ちにくくなったという記録もあるらしい。
 少なく見積もっても、30年弱の間に大陸の人口が半減したというのだから恐ろしい話だ。

 大陸は血に染まり、人々は絶望に包まれた。
 これが世に言う『流血の時代』である。

 だが、そもそもこの戦い、王家に勝ち目はなかった。
 王家が専属で保有している軍事力は騎士か近衛兵のみ。徴兵を加えても1万人に満たない。
 一方、領主達はピンキリではあるが正規兵だけでも1つの領地に最低50人。徴兵を含めれば500人以上の兵力になりうる。
 諸侯連立全ての兵力をあわせれば10万以上である。

 しかも、ベルネトスの横暴に教会も自衛の手段として領主に味方した。
 教会は名目上兵站を持ち合わせないが、魔法の契約のほとんど独占している。
 この世界最大の軍事力は剣でも槍でも弓矢でもなく、魔法なのだ。

 なお、レイクさんの話を聞く限りでは今日(こんにち)になってもこの世界に銃や大砲は存在しないらしい。
 投石機はあるのだが、魔法にはとてもかなわない。
 むしろ女騎士ミリスが魔法を使えなかったというのが嘘くさく感じるくらい、魔法というのは絶対的な力を持つ。
 なにしろ、剣を持って『うぉぉぉぉー』とつっこもうとしたら上空から火の玉が落っこちてくるし、弓を構えて『はなてーーー』と射れば強風で矢が吹き散らかされるのだ。
 ……そう考えると、僕が契約した漆黒の刃の魔法は近接戦闘用という時点でとことん普通の戦いには使いにくいわけだが、それは今はさておいておこう。

 いずれにせよ、戦いは王家不利で進んだ。
 ベルネトスは負けを認めない。
 何しろ、彼はプライドと残虐性だけが肥大化した国王なのだ。
 しかも、苦言を呈する部下は全て皆殺しにしてしまい周囲にイエスマンしかいなくなっていたこともあり、大局を見ることが出来なくなっていた。

 諸侯連立との和睦を家臣から進言されても、彼は封殺する。

『何故王たる(われ)が反逆者どもの言葉を聞かねばならん』

 幾度となくベルネトスが繰り返したとされる言葉である。
 彼にしてみれば、相手は『敵軍』ですらない『反逆者』なのだ。
 反逆者は『敵』とすら認められない。

 ベルトネスは『和睦案』を提示する部下を『反逆者に与する愚か者』と断罪し処刑していく。
 敗北して戻ってくる隊は『自分の顔に泥を塗った』として容赦なく斬り殺す。
 敗北の原因が自身の立案した無謀な作戦にあったとしてもだ。

 負け続け、処刑し続け、さらに反発した兵の離反が続き、気がつけば王国軍は2桁にまで減る。
 それでもなお、ベルトネスは自身の愚かさを認められない。

 1人の愚かな王によって、当家は危機に瀕していた。

【この国の歴史4 三竦みの時代】

 聖歴258年。
『流血の時代』は国王ベルネトスの死によって終わりを迎える。
 その死には未だ謎が多く、公式には暴飲暴食による病死と記録される一方で、諸侯連立や国王を止めるために王家に仕える大臣達、人間達の諍いによって大地が血に染まることに怒りを感じたエルフ族や龍族による暗殺説、さらには正気を失って自害したとする説まである。
 ちなみにレイクさん的には大臣達による暗殺説を推したいらしい。

 しかし、それで平和になったかといえばそうでもない。
 諸侯連立もしょせんは烏合の衆であり、王家という重しをつぶしてしまえば今後は領主同士での争いが始まってしまうのは明白であった。
 今の大陸の人間達にはこれ以上の戦乱を行う余力は無い。

 それ故に、断絶しかけた王家に次の王が立つことになる。
 ベルネトスによって彼の兄弟姉妹を含めた多くの王族が殺されていたが、教会によって密かに先代王の孫がかくまわれていたのだ。

 教会の後押しにより誕生した新王。
 以後3代50年にわたって王家は諸侯連立と教会の傀儡政権のような存在になる。
 結果だけを見れば、諸侯連立に魔法戦力という恩を売り、先代王の孫を保護して王家への影響力を増した教会が1番得をしたといえるかもしれない。
 邪推をするならさらなる深読みも出来そうだが、なにしろ200年も前のことなので今さら気にしても仕方が無いだろう。

 さらに時代は下り、聖歴299年新たに第12代国王が即位する。
 彼は諸侯連立や教会の王家のへの影響を排除しようと動く。

 流血の時代はすでに半世紀も前。12代国王が生誕するよりも昔のことだ。
 たしかにベルトネスは愚かな王だったが、この時代はむしろ領主達の方が暴走し始めていた。
 王家を蔑ろにするのみならず、無許可で独自に税を徴収し、軍隊を擁立。
 領主達がそれぞれ独立国家のような活動を見せるようになっていたのだ。

 中には領民を虐待し、無茶な税を徴収し、中には処女権の行使――つまり、領内の乙女達を人さらい同然に妾にする領主まで現れる始末。
 さらには領主同士での戦争まで起きた。
 50年前は国王が暴走して大陸中の民を苦しめたが、今度は領主達が暴走をはじめたのだ。

 12代国王は穏健であり、領主達との対立は好まなかったが民の苦しみを理解しようとする者だった。
 国王は歴代において領主に預けた権力の一部を返還するよう迫る。
 それに対抗するように諸侯連立は貴族位の授与を迫った。

『流血の時代』のあと、王家の力は相当抑えられている。
 なによりも、再び王家と領主の対決を誘発すれば、民はより苦しむことになる。
 王は領主の望みを叶えざるをえなかった。

 だが実のところ、民の支持を集めていたのは領主でも王家でもなかった。
 教会である。

『流血の時代』とその後の『貴族連立台頭の時代』、いずれにおいても教会は民の逃げ込み場として機能してた。
 国王の横暴に疲弊し、(いくさ)に疲弊し、領主の横暴に疲弊し、いつの時代も傷つき飢えた民達は教会を頼り、教会は逃げてきた人々に対して最低限の衣食住を保証したのだ。

 元々この世界において教会への信仰はそこまで深いものではなかったらしい。
 神様への信仰といよりも、僧侶グリカードや賢者ブランドへの尊敬によって成り立っていたといってもいい。
 あとは、多額の寄付と引き替えに精霊魔法の契約をさせてくれるという実務的な役割が評価されていただけだ。

 ところが、流血の時代から100年で教会への人々の信仰心は様変わりした。
 神の名において人々を救ってくれるありがたい存在になったのだ。
 しかも、この頃何度か大陸を襲った地震や大雨、洪水などの大災害を神託に基づいて警告し、多数の命を救ってみせた。

 人々が、ただ搾取ばかりすると映る王家や領主達よりも教会を信頼するのは当然のことだろう。
 結果として、以後、王家、教会、領主連立という3つの権力がが互いに三竦みの状態になる。
 表面上握手しながら、水面下で互いの利権や力を奪い合う状況が形成されたのだ。
長くなったので分けます。
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