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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第四章 獅子と少年

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【インテリ文官】豚を黙らすいくつかの方法

インテリ文官、レイクさん視点です。
とりあえず、話が進まないので豚さんにはとっとと黙ってもらいましょう。
「……王女……様?」

 奇妙な沈黙が支配する中、ポツリとつぶやいたのは集まった村人達の中で、赤子を除けばもっとも幼そうな少年の声だった。

「え、えーっと、王女様って……王様の奥さん?」
「バカっ、それは女王様だ。王女様は王様の娘だ……あ、いや……」

 少年が続けた言葉を、隣の男性が訂正する。
 訂正した直後に、余計な口を開いたことを後悔しているようだったが。

 そして、場は再び沈黙。

「……はぁ」

 結局、再度場の硬直を解いたのは私――レイクのため息だった。
 私は剣をぶつけ合ったままのアル王女とキラーリア、それに泡を吹いている豚領主の元へと歩み寄る。

 近づいてみると、豚領主が股間をぬらしていることに気がつく。いや、この臭いは尿だけでなく固形物も漏らしたか?
 まあ、豚が何を漏らそうが知ったことではない。街で売れば、この村が全体が一月暮らせるであろう高価な布を使ったズボンがもったいないとは思うが。

「2人とも、無関係な村人には身分を明かさず『兵士』として振る舞うように申し上げましたよね?」

 私は鼻先を滑り落ちそうになる眼鏡を抑えながら言った。
 ドワーフ族にしか作れない視力を補助するこの工芸品は、私のような研究者にはありがたい道具だ。ドワーフ族の頭蓋骨が人間のそれよりも一回り大きいためか、少し下を向くとずり落ちそうになるのが玉に瑕ではあるが。

「いや、レイク、今回は私ではなくキラーリアのせいだろう」

 アル王女が言う。
 確かに王女の身分を明かしたのは、直接的にはキラーリアではある。

 が。

「どこの世の中に領主に斬りかかる兵士がいるのですかっ!!」
「……たとえば、軍事革命を起こそうとする兵士とか……」
「意味も無く革命を起こさないでくださいっ!!」
「……むっ」

 アル王女は不満そうな顔をしつつも押し黙る。

「キラーリア。あなたも何故、王女の身分を軽々しく口にしたのですか」

 アル王女を黙らせた後、キラーリアに向き直って言う。

「そ、それはとっさにと言うか、王女がいきなり斬りかかるか動転して……」
「騎士たるもの常に冷静にあるべし。あなたのお父様――ガラジアル・デ・スタンレード公爵は、生前私に常日頃ご教授くださいましたよ」
「……すまぬ」

 彼女が尊敬してやまない父親の名前を出すと、キラーリアも自分の非を認めた。
 ちなみに、この国では便宜上全ての貴族が騎士として扱われるが、ガラジアル公爵は戦場に出たことなど無い。先の言葉も正しくは『文官は常に冷静であるべし』という教えだったということは、私だけの秘密である。

「ふ、ふざけるなっ。いくら王女とはいえ、領主に剣を向けるなど許されてたまるかっ。我が一族は初代国王よりこの地を任され、統治権を有しておるのだっ!! このようなことをして、ただですむとお思いかっ!! そもそも……」

 アル王女が押し黙ったのを見て再び強気になったのか、豚が立ち上がりながら何かをわめき散らす。
 唾液だけでなく股間から色々垂れ流しながら叫ぶなど見苦しいのもほどがある。
 こんな豚の言葉をいちいち咀嚼していては、それこそ私の脳が腐る。私は途中から理解することを拒否した。

「ほらみろ、2人とも。こんな豚とっと切り捨てねば話が先に進まんぞ」
「それは同意しますが、いっていくらなんでも領主を殺すわけには……せめて剣を鞘に収めたまま叩きつけるくらいにしてください」

 アル王女の言葉に、キラーリアが提案する。

「ふむ、ならばそうするか」

 キラーリアの言葉に、アル王女は剣を鞘に収め再び振りかぶろうとした。
 ……いやいや、非常識な鍛え方をしている自分達を基準に考えないで欲しい。
 鞘がついていようがいまいが、普通の人間はアル王女の力とその大剣で打ち据えられたらなら死ぬだろう。 
 2人とも絶対に否定するだろうが、この女戦士達は極めて似た者同士である。

「おまちください。その豚は私が黙らせますから」

 私がアル王女の前に出る。

「む? まあ、確かにその豚ならひ弱なお前でも殴り勝てそうだが……」
「こんな豚を黙らせるのに暴力など必要ありません」

 私はそういうと、豚領主に向き直ってにっこりをほほえんだ。

「あー、領主殿?」

 私が話しかけると喉が渇かないか心配なほどにつばをまき散らしていた豚領主の言葉が一瞬とまる。

「な、なんだ、たかが文官がワシに領主たる意見しようというのか」

 実は侯爵位を持つ私は彼よりも身分が上なのだが、それはまあいいだろう。

「あなたは先ほど、彼ら農民を国王陛下の所有物だとおっしゃいましたね?」
「そ、そうだったかな。よく覚えておらんが、もしそうだとしたらなんだというのだ?」

 少し前の自分の言葉も覚えていないらしい。

「間違いなくおっしゃいました。だとすると、つまりあなたは国王陛下の所有物を足蹴にする権限がご自分におありだとお考えなのでしょうか?」
「……は?」

 理解できないらしい。

「わかりませんか? あなたの理屈だと、あなたが足蹴にしたそちらの老人は国王陛下の所有物。いくら領主でも陛下の所有物を足蹴にするとは……いやはや、これは問題ですな」
「……そ、そのようなつもりは……」
「それに、陛下は人々を自分の持ち物だと考えるほど傲慢なお方ではありません。仕えるべき陛下の人となりについて領民に誤解を与える言動をするなど、領主とはいえゆるされるものではありませんな」

 私の言葉にぽかーんと口を開けたまま突っ立つ豚領主。
 反論の言葉を探しているのかもしれないが、こんな豚が即座に反論の言葉を思いつくこともあるまい。よしんば反論してきたとしても、私は正論から屁理屈までありとあらゆる方法で10倍はやり返せる自信がある。
 ……というか、そもそも私の言葉を理解できる脳みそがこの豚にあるかどうか疑問である。

「さらに申し上げるのであれば、あなたは先ほど『農奴』とおっしゃいました。
 しかしながら、先代国王の御代に奴隷制度の禁止を全国の貴族や商人に発布したはずです。その程度のことも認識していない者が南部中央の領地を納めるとは、我が国にとってゆゆしき自体。もしやこの地では未だに奴隷を使っているのではないでしょうな?」

 ちなみにこの豚領主含め、この地の貴族達が奴隷解放に応じていないことを私は知っている。
 一応、名称こそ使わず使用人としているようだが、給金の支払いも休日も外出の自由もない扱いは事実上奴隷と変わらないだろう。
 調査するまでもなく、公然の秘密として耳に入ってきたことである。

「このことは国王陛下にご報告させていただかざるをえませんな」

 私がとどめの一言を言うと、豚領主は口を開いて何か言葉を紡ごうとし――しかし何も言えずにアワアワという言葉にならない声にを出すのみだった。。
 国随一の学者にて文官だと自負している私に、豚ごときが議論で勝てる道理がないのだ。
 この様子だと、奴隷以外にもたたけばいくらでも埃がでてくるのだろう。
 まあ、現在の我々の立場で本当に陛下に報告するのが妥当かどうかはまた別問題なのだが、今は豚が黙ってくれればそれでいい。

 などと考えていると……

「う~ん」

 ついに豚が目を回して倒れた。
 ……というか、そのまま気を失った。
 脳みその血管が切れていなければ良いのだが……いや、アル王女ではないが、このまま事切れたらそれはそれで祝い酒を飲むのも良いかもしれない。
 私は下戸なので葡萄ジュースあたりにしておくが。

 ともあれ、もう豚に用はない。
 私はアル王女とキラーリアの方に振り返った。

「と、このように暴力に頼らず論理的に話せば、無駄に恨みを買うこともなく黙らせられるかと」

 私が言うと、2人はあきれた表情を見せた。

「……お前のやり方も十分恨みを買っていると思うぞ」
「いっそ切り捨てた方が後腐れが無かったような気すらします」

 口々に言うアル王女とキラーリア。

「何故ですかっ!? 暴力より論理で打ち勝つ方が良いでしょう!!」

 2人の理不尽きわまる評価に、私は空高く響き渡る抗議の声を上げたのだった。
トンデモなのは王女さまだけじゃなかったっ!!

というわけで、この3人のトリオはどこか色々ズレていますな。

内訳は

◎気にくわない存在(もの)はぶった切る王女様
◎信念が強すぎて周りが見えなくなる女騎士
◎一見すると常識人だが、頭でっかち&毒舌な上にナチュラルに腹黒な文官

……こんなかんじでしょうか。
非常識人間とくくれば3人とも似た者同士ではあります。
……この非常識トリオにパドくんが入って、非常識カルテットのできあがり?

文中さらっとでてきたガラジアル・デ・スタンレード公爵については外伝の方をご参照ください。
http://ncode.syosetu.com/n8810dl/

ちなみに、前章でパドくんが理解できなかった3つの単語のウチ1つは『農奴』だったわけです。
そりゃあ、村の子どもが耳にする言葉じゃないですよね。
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