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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第三章 獅子と少年

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31.崖の上にて、色々びっくり

崖にて。
本格的な話題の前に、びっくりなお話いくつか。
「ふひぃ、ふひぃ、まだつかないのですか?」

 先日お父さんと一緒に向かった崖への森。
 僕が先導し、王女様は元気よく着いてきているのだが、レイクさんは息も切れ切れといった様子。

 ……本当に体力ないな、この人。
 たぶん、水くみ作業させたらライよりも先に音を上げるんじゃないか?
 手助けしたいけど、僕が下手に彼の腕を握ったりするとレイクさんが骨折しかねないしなぁ。
 かといって、女王様は手を貸すつもりなんてなさそうだし、そんなことを頼む勇気は僕にはない。
 まあ、健康な大人なんだから頑張ってもらおう。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 で、崖に到着。

「うむ、ここか?」
「はい。景色もきれいですし、村からも離れていますし、ちょうど良いかと」
「確かに風も気持ちいいな」

 と、僕と王女様が話す後ろで。

「村から離れすぎでしょう。というか、今歩いてきたところは道とは言いません。なにもこんなに歩かなくても良いではないですか」

 レイクさんはへたり込みながら言う。
 ほとんど酸欠状態。
 大丈夫かな。
 村人の感覚なら、方角さえ分かればジラでも上れる程度の坂道なんだけど。

「他に適当な場所を知らなかったので。それに、ほら、ここからだと(みやこ)がきれいにみえるでしょう?」

 かつてお父さんと2人で眺めた遠き街を見下ろす景色。
 それを示しながら僕がそう言うと、王女様とレイクさんは顔を見合わせた。

「……あれは、私たちが昨日滞在したテルグスの宿場町だよな?」
「ええ、そうですね。ここからでは(みやこ)はおろか、豚領主の居城も見えないかと……」

 ……え?

「ふむ、まあ、景色が良いことには変わらんが」
「とはいえ、わざわざこんなに歩いてまでという気も」
「まあ、風は気持ちいいからかまわんがな。
 ……うん? パドどうしたんだ、そんなうずくまって落ち込んで」

 2人の会話に倒れ込みそうになった僕に、王女様が尋ねる。

「いえ、なんでもないですヨ。ただ、自分と自分の父親が情けなくなっただけですヨ」

 お父さん、僕はもう立ち直れないよ。
 ある意味、前世と今生あわせて1番ショッキングな事実だよっ!!

「何を落ち込んでいるのかは知らんが、とりあえずそれは最優先の話ではなかろう。時間は有限だ」

 それは、まあその通りだ。いつまでもこうしているわけにもいかない。
 僕は立ち上がり、他の2人とともに適当な石に腰掛けた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「念のため、音声遮蔽魔法を使います。私を中心に半径3メートルほどの円の中の音が外に漏れないようにする魔法です」

 わざわざ僕に解説してくれるレイクさん。
 この人、いろいろな魔法が使えるんだね。

「……あれか、私はあまり好きではないのだがな。
 なぜかしばらくすると息苦しくなるし、せっかくのこの風も届かなくなるし。
 どのみち誰もいないのだから魔法を使うことはないのではないか?」

 王女様が言う。

「まあ、念のためですよ。遮蔽(ブロック)

 レイクさんが魔法を唱えると、辺りの風がやんだ。
 それ以外に見た目の変化はない。

「これで、何を話しても他に漏れることはありません」

 なるほど、確かに内緒話には便利な魔法だ。
 あれ、でも?
 これって、音声遮断というよりは空気遮断というほうが正しくない?
 風が消えているし、しばらくすると息苦しくなるっていうのも空気の循環が無くなればそうなるだろうし。

 そう考えて言おうかと思ったのだけど、冷静に考えてみるとこの世界で『空気』とか『気体』とか『酸素』とかを意味する単語なんて知らないぞ。

「あの、これって音だけじゃなくて、風というか、回りの……うーんと、煙……じゃなくて、その、風の元? いや息をするためのものを遮断しているんですよね?」
「……どういう意味です? 遮断しているのが音ではないとは?」
「その、だから、僕たちは周囲の煙……じゃないけど、周囲にただよっている透明なものを吸ったり吐いたりしているわけで、それが風になったりもするんだけど、そういうものをとどめているんじゃないかと」

『空気』とか『酸素』とか『気体』とかいう意味のこの世界の単語が分からないので、我ながらわけのわからない言葉になってしまう。
 当然、レイクさんと女王様も『コイツは何を言っているんだ?』といった表情だ。

「レイク、パドは一体なにを言いたいんだかわかるか?」
「……もしかして、エーデルのことかもしれません」

 しばらく首をひねったあと、レイクさんは言った。

「なんだそれは? 聞いたことも無いぞ」
「この世界全てに充満している無色透明な存在のことです。
 私たちはそれを吸ったり吐いたりして命の糧としており、また、風はそれが動くことで巻き起こるとか」
「なにやら難しそうな話だな」
「ええ、宮廷学者の一部が唱えている仮説に過ぎません。無色透明なものが存在することを証明するのは、そう簡単ではありませんし、一般の……というか、貴族王族であってもそうそう思いつく話でもありません」

 あれ? ……なにやら大変な話になってきた。
 ひょっとして、この世界では空気――レイクさんの言葉を信じるならこの世界ではエーデルっていうらしいけど、ほとんど存在すら知られていない?
 そんなことってあるの?

「ですが、仮にエーデルが存在したとして、それがどうして音の遮断と結びつくのかは全く見当がつきませんが。
 パドくん、どうしてそんなことを考えたのですか?」

 レイクさんは腰をかがめてググッと僕に顔を近づける。
 眼鏡がずり落ちそうだけど、気にしていないみたいだ。
 興味津々といった様子だ。
 この人、やっぱり学者気質なのだろう。

「え、えーっと、そのエーデル? っていうのが音を伝えるから? あと、エーデルの循環が出来ないところで息を何度もしていると、そのうち二酸化炭素が増えて……」
「ニサンカタンソとは?」
「いや、あの……」

 ひい、どんどんドツボにはまっている気がする。
 それにしても、まさかこの世界で空気の存在が一般的な知識ではないとは。
 そりゃあ、村の中で単語を聞かないわけだ。

「レイク、今問題なのはそこではないだろう」

 レイクさんの好奇心に追い詰められる僕をみかねたのか、女王様が言った。

「ま、まあその通りですね。実際、エーデルの存在の賛否は宮廷学者の間でも割れていますし、これ以上その議論を続けるべきではないでしょう」

 レイクさんはずり落ち書けた眼鏡を指で直しつつ、腰を上げる。

「しかし、それとは別に今の話で私は1つの確信を持ちました」
「確信? なんのことだ?」
「エーデルが実在するかどうかは確かに今はどうでも良いこと。
 しかし、そんな仮説自体が幼児に思いつく事柄ではありません。
 やはり神託の通り、この子の魂はどこか別の世界からやってきた存在なのでしょう」

 レイクさんの言葉に、僕は反論することが出来なかった。
……まだ、情報交換は始まったばかりです。

崖から見える景色(街)のことでパドくんが落ち込んだ理由は第1章の『僕の秘密、お父さんの秘密(中編)』をご参照ください。
そりゃもう、息子としては、色々ショックすぎるわ……

ちなみに、この設定は『僕の秘密、お父さんの秘密(中編)』を書いていた時点で考えていたものです。
正直、作者的には途中連載中断とかあって、なかなかネタばらしできなくてストレスでした(^O^;)

もちろん、ギャグというだけでなく『村人でしかなお父さんが想像するよりも、世界はずっと広い』ということを表しているシーンでもあります。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

一方、空気の概念がこの世界人々に知られてないというのはちょっとびっくりでしょうか。
近年のファンタジー小説などではこういう話はあえて出さないようにしていると思います。
本筋とかんけない部分で変に説明的になってしまいますから。
実際、僕も書いてみて『そういう考え方がない』という説明を書くのが思いの外難しいのだなと実感しました。

今回、僕がこの設定を出したのは竹河聖先生の名作ファンタジー小説『風の大陸』のオマージュだったりします。
中学時代に『風の大陸』のなかで『(作中世界では)空気が存在するという知識がない』と書かれていて、なんか妙に自分の中二病をくすぐられて興奮しちゃいまして。
いつか、自分がファンタジー小説を書くなら是非採用したいネタだって思っていました。

そして、今回『レイクさんがパドくんの何気ない言葉で、彼が転生者だと確信する』というシーンを書こうとして、じゃあ、当時の僕の中二病を刺激したあのネタを使ってみるかと採用させていただきました。
もちろん、竹河先生のようなスマートで分かりやすい書き方など僕に出来るわけもなく、自分の力不足を実感しましたが。

ちなみに、『空気』の概念を知らない人間が自然とその存在を実感するのは、結構難しいらしいです。
作中にも書かれているとおり、無色透明な気体ですから。
気体という概念自体、液体や固体に比べて理解するのが難しいのかもしれません。

日本でも江戸末期(18世紀)くらいまで、少なくとも一般的な概念では無かったようです。
ヨーロッパではもう少し前から知られていたと思いますが、この世界ではまだ研究段階の化説ということになります。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ともあれ、次回から具体的な世界の有り様が見えてきます。
別名、レイクさんによる長い授業、開始です。
……ちょっと読むのが大変かも。
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