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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第三章 獅子と少年

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1.襲来!! 獅子と豚

第4部開始!!

ようやく主人公とヒロインが出会います!!
村の外から獅子と豚が襲来し、物語は急転していきます。
「村人全員広場に集合?」
「ええ、とにかく急いで」

 村からの追放を宣告された翌日、お父さんと僕とで旅立ちの準備(といっても、私物なんてほとんどないけど)をしていると、村長の娘さんが僕らの家に駆け込むなりそう叫んだ。

「この状態のサーラや子どものパドもか?」
「そうよ、村の全員」
「そもそも我々は追放されるのではなかったのか?」

 彼女の慌てようにお父さんが尋ねる。

「あ、ひょっとして、村全体に追放のことを正式発表とか、それとも送別会とか……」

 深く考えず言いかけて、自分で『違うよな』と内心でツッコむ。
 それならこんなに慌てた様子にはならないだろう。

「領主様が村においでになったのよ。で、赤ん坊も病人も、半刻以内に村人全員広場に集合しろと」
「領主様?」

 僕は戸惑いの声をあげる。
 僕だけでなくお父さんも戸惑っている。

 領主様ってこの地方を治めている人ってことだよね。
 でも、産まれて3年間、そんな人がこの村に来たことなんてない。
 そもそも、アボカドさん以外の人が来ること自体珍しい田舎村なのだ。

 もちろん、この村でも年に2回、領主様に税を納めてはいる。だが、アボカドさんが代理で徴収していると聞いたことがある。
 もう少し詳しく言うと麦やなどの作物の一部をアボカドさんに渡してそれを税金の代わりにしているらしい。
 アボカドさんはこの山脈に点在する々で麦やその他の作物を徴収し、街でそれをお金に換えて領主様に納めるという形になる……らしい。
 彼は商人であると同時に徴税の請負人でもあるわけだ。
 現金収入のないこんな山奥の村に、お役人が半年に1回税を取りに来るなど色々な意味で非効率的すぎるからこんなシステムになっているのだろう。

「領主様がこの村に来ることなんてあるんですか?」
「俺が産まれてから一度も無い」

 お父さんが言う。

「ウチのお父さんが産まれてから一度も無いらしいわよ」

 村長が産まれてから――つまり、60年以上無かったと言うことか。

「わかったら急いで。他の皆にも伝えないと」
「畑や水くみの皆には?」
「それも何人か走らせているわ。もっとも、ジラあたりには出来れば戻ってきて欲しくない気もするけど」

 それだけ言うと、彼女は家から駆け出て行く。

「半刻で村人全員集めろなんて、無茶言いますね」

 僕はお父さんに言う。
 今日は違うが、月始祭の前のようにばらばらに狩りに出かけていたら集めるのに2刻はかかるだろう。
 しかも病人まで集まれなんて横暴だ。

「しかたがあるまい。領主様と俺達では身分が違う」
「身分……ですか」
「少しでも領主様の不興を買う――つまり機嫌を損ねれば、それだけで村人の首が飛びかねない。そのくらいの相手だ。お前もくれぐれも気をつけろ」

 絶対的な身分制度ってことか。
 ジラ達にには来て欲しくないというのは、子ども達はいつ失言をするかもわからないからってことかな。

 ――正直、身分制度というのは前世の記憶のある僕には理解しにくい感覚だ。
 日本では総理大臣の機嫌を損ねたとしても、それだけでその場で殺されるなんてありえない。テレビのニュースでは国の政治をガンガン批判していた。
 もちろん、あの世界にも酷い独裁国家があったし、昔の日本でも同じようにお殿様の言葉に農民が逆らうなんてできなかったらしいことも、知識としては知っている。
 前世で読んだファンタジー漫画にもそういう世界はあった。

 だが、それは知識にすぎない。
 どうしても、そういう産まれながらの絶対的身分差といった社会体制には抵抗がある。
 前世だけでなく、この村での生活でも身分差なんて意識せず暮らしてこれたことも大きい。

 ……が。

「わかったな、パド」
「はい」

 さすがにここで無意味に領主様に逆らおうと思うほど僕も馬鹿ではない。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 広場に着くと、村人の半数以上が集まっていた。
 全員膝をつき頭を垂れている。
 日本風に言えば土下座だ。
 この世界には頭を下げる文化はないと思っていたけど、こういう場合は別らしい。
 集まっていないのは畑で作業をしている人たちと、水くみ組の子ども達か。
 足に怪我を負っている村長も代表として一同の一番前で土下座している。つらいだろうになぁ。

 それ以外で最初に目に入ったのは立派な馬と馬車だ。
 馬車はアボカドさんが商売に使っている物を見たことがあるが、それよりもずっときらびやかで馬も力強い。
 軍馬なのかもしれない。

 そして、土下座をしている先には、ピカピカした宝石を身につけ、やたらと金色の刺繍の服が目立つおじさんがいる。趣味は悪いが高価な衣装だと言うことは分かる。
 この人が領主様なのだろう。すさまじく偉そうな態度だ。

 メタボを通り越して豚かと思うほどに体も顔も太っている……なんてことを声に出したらそれだけで首が飛ぶんだっけ。危ない危ない。

 その横には女性の兵士が2人。

 1人は金髪。鎧を着込み腰から剣を下げ、背筋をピンと伸ばした直立不動。
 王様の横で警備していてもよさそうな立派な様相だ。正直、豚領主よりもよっぽど威厳がある。
 カッコイイなと純粋に思う。

 もう1人の女性兵士は……本能的な恐怖を僕に感じさせる。見た瞬間に背筋が凍りそうなほどだ。
 無造作な朱黒(あかぐろ)い短髪は獅子(ライオン)を連想させる。
 鎧は身につけていない。それどころか、腰と胸に最低限の布を巻き付けているだけだ。
 腰から大ぶりの鞘に入った剣を無造作にぶら下げている。

 普通、女性がこんなに露出度の高い格好をしていたらちょっとエッチな格好ってことになるのかもしれない。
 だけど、胸より腹筋の方が目立つ日焼けした肉体からは威圧感の方が遙かに勝っている。
 相撲を取ったら、僕のチートの力をもってしても負けそうな気がする。さすがに気のせいだと思いたいけど。

 他に、いかにもファンタジー世界の兵士といった姿の男達が10人くらいいるけど、たぶん女性2人が豚領主の護衛の中心だ。
 武道の心得など何もない僕から見ても、2人は明らかに異質な兵士だった。騎士と呼んだ方良いのかもしれないけど、よくわからない。

 それにしても、獅子(ライオン)が豚を護るってなんの皮肉だろうか。思わず噴き出しそうだ。
 ……あ、これも声に出したら大変だよな。うん、黙っておこう。

 そういえば、剣と魔法の世界に転生して3年ちょっと。
 村の中では剣も魔法も見かけないなぁと思っていたが、ここ数日でいきなり両方とも目撃したことになる。別に望んでいなかったけど。

 豚領主と兵士達以外にもう1人、眼鏡をかけた男の人もいる。
 眼鏡ってこの世界にもあるんだね。
 やせ細った身体はどうみても戦闘員ではない。小さなナイフっぽい物を身につけてはいるが、武器というよりも作業用の道具だろう。
 たぶん、豚領主の手助けをする大臣か学者かかな?
 あれ? 大臣は王様の部下で、領主の部下なら大臣っていわない? よくわからないや。
 どのみちこれは日本語の話であって、『領主』や『兵士』はともかく、『大臣』とか『学者』とかを意味するこの世界の単語なんて聞いたことないけど。

 ……などということを立ったまま考えていると、シャツの裾を引っ張られた。
 見ると、お父さんとお母さんも他の人と同じように土下座している。
 お母さんは自分の意思では動かないから、お父さんが小声で指示したのだろう。

 僕も慌てて土下座する。
 豚に土下座なんてバカバカしいって思わなくもないけど、自分の首は大切だ。というか、豚はともかく獅子(ライオン)には逆らう気がしない。

「おい、まだ村人全員集まらんのかっ!!」

 豚領主が不機嫌そうにつばをまき散らす。

「申し訳ございません。川に水をくみに行っている子どもや、畑で作業中の者が戻るには……」
「黙れ、このXXがっ!!」

 叫び声と共に、土下座したまま言いかけた村長の顔を、豚領主の右足が踏みつける。
 比喩(ひゆ)ではなく、脳天を踏み地面に押しつけてグリグリやりやがったのだ。何の躊躇(ちゅうちょ)もなく。
 ちなみにXXの部分は僕の知らない言葉だ。
 まあ、どう考えても悪口だろうけど。

「誰が口をきいて良いと言った。貴様らのような○○の声など聞いて高貴なワシの耳が腐ったらどうしてくれるのだ!?」

 理不尽すぎることを叫び立てながら、豚領主は村長の頭をさらに足蹴にする。ちなみに○○の部分は別の知らない言葉。こちらも悪口だと思う。

「そもそも、あの大穴はなんだ。貴様らなど国王様の所有物の◎◎に過ぎんのだぞ。貸し与えられた土地にあのような大穴を開けるとは。学のない愚民の勝手でこんな勝手が許されると追うのかっ!!」

 先日の戦いで僕が開けた穴を指さしながらわめき散らす豚領主。もちろん、その右足は未だ村長の頭を踏み続けている。
 ああ、子どもが理解してはいけない汚い単語(?)を一気に3つも聞いてしまった。記憶の彼方(かなた)に押しやりたい。

 ――いや、単語の話はどうでもいい。
 なんなんだ、この豚領主――いや、豚は。
 老齢で、しかも昨日は熱があったという村長にあんなことをしたら死んじゃうかもしれないじゃないか。
 いや、そうでなくても、こんな理不尽な理屈で人間を足蹴にするなんて――

 僕は拳を握りしめ、立ち上がりそうになった。
 その僕の肩をお父さんが抑える。

 僕が思わずお父さんの方を見ると、お父さんは首を横に振った。
 余計なことはするなってことか。
 確かに、ここで僕が声を上げてもどうにもならない。

 チートの力で暴れれば兵士全員殺すことも出来るかもしれない……獅子(ライオン)には勝てる気がしないけど。
 だが、勝ち負けの問題じゃないことは理解できる。
 僕は人を殺すなんて出来ない。いや、仮にここで豚領主含めあいつらを全滅させたとしても、豚領主の跡継ぎかなにかに村は潰され、村人全員打ち首だろう。
 そんなことをするのはただのバカだ。

 だけどっ。
 このまま村長が痛めつけられるのを見ているのが正しいのか!?

 自問の末、かろうじて僕が動くのをやめたのは、お父さん以外の村の皆――お母さんを除く大人達が屈辱に震えながら、それでも土下座をしたままだったからだ。

 今動いてはいけない。
 どんなに理不尽だったとしても。

 いくら豚のごとく太った醜い男でも、僕たちはただの農民で相手は領主様なのだ。
 この世界では天と地ほど身分に差がある。
 仮に――仮に、村長がこのまま殺されたとしても、村人が領主様に抗議することなどできない。それがこの世界の現実(ルール)だ。

 でも、そんなのって……

 そこまで、僕が考えたときだった。
 動いたのは僕でも、村の他の誰でもなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 風が吹く。
 朱い風が。

 いや、それは風じゃない。
 獅子(ライオン)だ。

 違う。
 朱黒髪の女戦士だ。

 まるで一陣の強風に思えた。
 そのくらい、駆ける彼女は敏速だった。
 神速とすら言えるかもしれない。

 彼女は村長を踏みしめる豚領主に駆け寄る。
 駆け寄りざまに鞘から大剣を抜き放った。
 その抜き身の大剣は、豚領主の頭から真っ二つに切り落とそうとする。

 疑問を抱く間も、悲鳴を上げる間もなかった。
 周りの誰もが動けなかった。

 僕も。
 村の皆も。
 村長も。
 兵士達も。
 豚領主も。

 誰も動けなかった。

 ――いや、違う。

 朱き獅子(ライオン)以上のスピードで、豚領主の元へ駆け寄った者がいた。
 金髪の女兵士――いや、女騎士。
 もはや、風としてすら認識できないほどのスピード。

 彼女は豚領主の頭上に迫った朱黒髪の戦士の大剣を、鞘をつけたままの剣で受け止めた。

 ……といったような、2人の行動を僕が認識できたのは後で冷静に振り返ってからだ。
 あまりにも高度な剣士同士のやりとりは、何1つ訓練していない僕がリアルタイムで理解できるものではない。
 そのときの僕がはっきり認識できたのは、豚領主の頭の上で2本の剣が交差したシーンからだ。

「ひ、ひぃぃぃぃ」

 豚領主が情けない悲鳴を上げてその場に尻餅をつく。
 あ、立派なズボンの股間あたりが湿っていく。漏らすほどの恐怖だったようだ。無理もないけど。

 いずれにせよ、赤黒髪の女戦士が豚領主に斬りかかりそれを別の女騎士が受け止めるという、完全に理解の範疇外の出来事を目の前にして僕たちは唖然とするしかなかった。
 村人だけではない。10人ほどいる男の兵士達も同じ様子で身動き一つ出来なかった。

 しばしの沈黙の後。
 ――いや、あるいは領主が自らの汚水でズボンを濡らしてから1秒ほども経っていなかったのかもしれないが。

「なぜ止める。キラーリア」

 いずれにせよ、赤黒髪の女戦士が不快そうに言った。

「誰彼構わず斬りかかる癖はいい加減におやめくださいと申し上げたはずです。我が一族に伝わる剣の鞘も、さすがに50回以上もアル王女の大剣を受け止めそろそろ亀裂が入りつつあります」

 金髪の女騎士が言う。

 誰彼構わずって、さすがに領主に斬りかかるというのは、構わなすぎじゃないか?
 50回あんなことをしても大丈夫な鞘って何でできいるんだ?
 そもそも、彼女たちはこんなことを50回以上繰り返しているっていうの?

 ……いや、1番の問題はそれらのどれでもない。

「……王女……様?」

 あまりにも場がシーンとなっていたために、ポツリとつぶやいた僕の言葉は意外なほど皆の注目を集めてしまったのであった。
ごめん、前書きで嘘ついた。
さすがにこの二人をヒロインと呼ぶのは、作者としてもいろいろな意味で抵抗があるわ……(;´∀`)

ま、まあ、薄暗い雰囲気と物語の枠組みをぶっ壊すインパクト重視のキャラにしたつもりではあります。
……パドくんと対になるヒロインは別途出てくると思うよ、きっとっ!!
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