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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第三章 獅子と少年

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30/92

30.僕が勇者? 一体どういうこと!?

猪突猛進のむちゃくちゃな王女様にラクルス村大混乱!!
 獅子(ライオン)を思わせる女戦士が実は王女様で、その王女様が領主様に斬りかかり、女騎士がそれを阻止し、学者っぽい眼鏡をかけた人がなにやら難しいことを言って、領主様を気絶させた。

 ……目の前で起きたことを順番に書くならそういうことになるわけだけど、総合して考えれば意味が分からないとしか言いようがない。
 一体、何が何だか分からない。

 あ、僕が『女王様』と『王女様』という言葉を逆に覚えていたことは見逃して。
 この村でそんな単語滅多に使わないし。日本語ならさすがに勘違いしなかった……と思うけど。

「ふむ、お前達、この豚を連れてとっとと領主館に戻れ」

 女戦士――じゃなかった、王女様が男の兵士達に命じる。

「し、しかし、護衛は……」
「お前達などモノの数にもならん。とっとと消えろ」

 顔を互いに見合わせながら、決心がつかない兵士達。

「ええい、とっととしろ。斬り殺されたいか」

 王女様のその言葉に、ようやく兵士達は豚領主を馬車に運び込む。

「馬を2頭ほど残しておいてくれますか?」

 眼鏡の男性の言葉に、兵士達は従った。
 豚領主を乗せた馬車と、余った馬たちを引き連れて村から出て行く兵士達。

 ……いいのかな? 王女様を兵士が残していって。
 いや、本当に朱黒髪の女戦士が王女様か、僕にはいまいち確信が持てないけど。
 どっちかっていうと、王女様と言うよりも盗賊の女(かしら)にすらみえるもん。

 と、眼鏡の男性がうずくまったままの長老の横で膝を下ろした。
 長老の肩に右手を当て、目をつぶる。

(ヒーリング)

 彼の右手が淡く光る。
 とても優しく、少し離れた場所にいる僕も気持ちいい力を感じる。

「……おおっ、これは……」

 長老がゆっくりと起き上がる。
 いわゆる回復魔法か。

「……まさか、回復の魔法とは……このような奇跡を私ごときが体験できるとは……恐れ多いことです」

 長老は心の底から感謝感激と言った様子だ。涙まで流して眼鏡の男性を見つめている。

(……いや、確かに回復魔法は感動的だけど、そもそも長老を痛めつけたのは彼といっしょにやってきた豚領主じゃん)

 僕は内心そうツッコむが、村人達は感動とともに口々にお礼を言う。

 身分が上の人に虐げられるのは当然、身分が上の人に助けられるのは感激するほどの奇跡。
 それがこの世界の常識なのだと改めて実感する。

「私の(ヒーリング)は傷を治しますが体力を奪います。家に戻って安静にされた方が良いでしょう」
「ははぁ!!」

 平服する長老。

「ですが、その前におたずねしたいことがあります。この村にパドという少年はいませんか?」

 ……え? 僕?
 まさかここで名前を呼ばれるとは思わず、ぽかーんとしてしまう。
 なんで、この人が僕の名前を知っているんだ?

「は、はあ、確かにおりますが……」
「その少年は今、ここにいますか?」
「はい。そちらの幼子です」

 その場の全員の視線が僕に集まっているかのようだった。

「ふん、そのガキか」

 王女様が村人をかき分けるように僕に近づいてくる。

 なに?
 一体どうなっているの?

 僕は思考も体も完全に固まってしまった。
 日本語で言えば『蛇に睨まれた蛙』、この世界の言葉で言えば『ドラゴンに睨まれたラビ』である。
 王女様の歩みはゆっくりしたものだが、それでも威圧感が凄すぎる。  

 いや、ほんと、マジで助けて。
 逃げ出したいけど動けない。
 立場上動けないというよりも、怖くて指1本動かないかんじだ。

「ふんっ」

 ビクビクしている僕の目の前に立つと王女様は一瞬鼻で笑った。

 次の瞬間。

 王女様はさっき1度鞘に収めた大剣を再び握り――僕の脳天に向かって斬りかかってきた。
 あまりにも唐突な刃に、僕は叫び声を上げることすら出来なかった。
 走馬燈を実感する暇も無く、僕は死を覚悟した。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「パドっ!!」

 お父さんの叫び声で我に返る。

 ……切られていない……?

 反射的につぶっていた目をゆっくり開くと、王女様が持つ大剣の(きっさき)は、僕の額から数センチのところで止まっていた。

 …………

 しばし、沈黙。
 睨み付ける王女様と、息をすることすら忘れかける僕。

 やがて。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 僕の止まっていた息が荒く再開される。

「ふむ」

 王女様は僕に突きつけていた大剣を鞘に収めた。

「まあ、小便を漏らさなかった分、豚よりマシか」

 王女様は僕を見下ろしたまま言う。

 ……いや、実際のところ、ズボンに染みになるほどじゃないだけで少しチビっているけどね。 

 今更になって、恐ろしさが実感される。
 それは『闇』とはまた違った形の恐怖だった。

「アル王女」

 気がつくと王女様の横に金髪の女騎士がやってきていた。

「ふん、今回は止めなかったのだな」
「ええまあ、とりあえず王女から殺気は感じられませんでしたから」

 嘘つけっ!!
 あれで殺気がないとか。
 もしそれが本当なら、王女様が殺気全開にしただけで一般人は気絶するぞ。

「パド。私たちが用があるのはお前だ。一緒に来い」

 僕の動揺を無視したまま、王女様は僕に向かってそう言い放つ。

 ……はい?
 一緒に来い??

 まるで話が見えない。
 誰か詳しく説明してください、本当に。

「……はぁ」

 僕が動けないでいると、いつの間にか長老の側から近くやってきていた眼鏡の男性がため息をつく。

「アル王女、その説明で理解できる人間はいないでしょう」

 ……というか、説明あったっけ?

「パドくん。私たちはあなたをスカウトしに来たのですよ」
「スカウト……?」
「そうです。この国を救う勇者候補として、あなたには『勇者育成学校』の生徒になっていただきたいのです」

 ……はい?
 勇者育成学校?
 なに、それ?
 この人達、日本語で言うところの中二病?

「え、えーっと、あの、勇者……ですか?」

 僕は混乱しながら尋ねる。

「その通りです。この国は新たなる勇者を求めています
 かつてエーペロス大陸から魔なる存在を排除し、勇者と呼ばれた初代国王キダン・カルタ・レオノル陛下のように」

 説明――というよりも演説をするかのように両手を広げしゃべり出す眼鏡の男性。

 いや、勇者って……
 確かにこの小さな村でも勇者キダンが初代国王だってことくらいは伝わっている。
 国の歴史というよりは、『物語(サーガ)』みたいな扱いだけど、ジラをはじめとする少年達はカッコイイ勇者物語にあこがれている子が多い。
 ただ、それはあくまでも自分達の生活とは関係ない『英雄談(ヒロイック)』に過ぎない。
 ほとんど神話みたいなものだ。
 王様が初代勇者だったなんて、僕は今の今まで作り話だと思っていたのだが史実なのか?

「あなたは勇者となれるだけの力を秘めているはずです。そして、私たちは勇者を欲しています」

 そう言われても、勇者とか王家とか僕には関係ない。

 ……いや、いま考えるべきことはそこじゃない。
 この人達は知っているんだ。
 僕の呪い(チート)を。

 でも、何故だ?
『闇』との戦いを見ていた?
 それとも誰かから聞いた?

「これはあなたにとっても悪い話ではありません。このままではあなたは数日中に必ず殺されることになりますが、私たちならばそれを阻止することが出来るからです」

 唐突に話が飛ぶ。

 必ず殺される? 僕が?

 確かに、村から追放されれば生きていくことは難しいかもしれない。
 あるいは、また『闇』の仲間が襲ってくるかもしれない。

 しかし、どちらも『必ず殺される』と確信を持てるような話ではないだろう。

「お話の途中で申し訳ありません。息子が殺されるというのはどういうことでしょうか?」

 混乱する僕の横から、お父さんが平伏したまま尋ねる。

「パドくんのお父さんですね。その疑問はごもっともです。
 が、ここは人の耳が多い。あまり多くの人の耳に入れるべきではない話もあるのです。パドくんのためにもね。
 まずは、1度パドくんと私たち3人だけで話をさせてはいただけませんか?」

 眼鏡の男性はあくまでも丁重な物腰でお父さんに言った。

「しかし、パドはまだ3歳の幼子です。はたして皆様と満足な会話が出来るかどうか。せめて私も一緒に話をお伺いすることは出来ませんか?」
「確かに、3歳では説明を理解するのは難しいでしょう。普通の幼子なら(・・・・・・・)ね」

『普通の』というところで、アクセントを強めて眼鏡の男性が言う。

 その言葉で僕は確信する。
 この人は僕の力だけでなく、前世のことも知っている。
 だとしたら、『闇』との戦いを見聞きしただけではないはずだ。

 お姉さん女神様と関係があるのか?
 それとも、黒い世界で僕に契約を持ちかけたあのニヤニヤ顔の幼児と関係があるのか?
 あるいは、まさかこの人も他の世界からやってきた転生者なのか?

 わからないが、何故知っているのか、そして、どこまで知っているのかは確かめるべきだろう。
 僕が数日中に殺されるという理由も含めて。

「わかりました」

 僕は言った。

「パド、本当に1人で大丈夫か?」

 僕は心配そうなお父さんに笑顔を向ける。

「うん、話を聞くだけだから」

 我ながら笑顔には無理があったような気もするけど。

「では、どこか他の人の目と耳がない場所に案内していただけると助かります」
「じゃあ、僕の家に……」
「できれば、村の外で」

 ……村の外……水くみの川原……はダメだな。
 ジラ達に会うとさらに話がやっかいにりそうだし、今日の水くみ作業にも差し障る。
 とすると……うーん、他は……

 と、考えて、良い場所を思いつく。
 お父さんと僕が互いの秘密を明かしたあの崖ならどうだろうか。

「じゃあ、少し森の中を歩きますけど大丈夫ですか?」
「森の中ですか。馬は通れますか?」
「それはちょっと……無理だと思います」
「そうですか」

 眼鏡の男性が少し嫌そうな顔をする。
 が。

「かまわんぞ。所詮子どもがたどり着ける程度の場所だろう。レイクもたまには歩いて体を鍛えろ」

 渋る眼鏡の男性――レイクさんというらしい――に王女様が言う。

「はあ、まあやむおえないですね。しかし、馬を放置するわけにはいかないでしょう。この村で馬を管理できる技能がある方はいますか?」

 村人達が顔を見合わせるが、誰も名乗り出ない。
 それはそうだ。
 この村では動物なんて飼っていない。一時的に預かるだけとはいえ、馬の世話なんてどうしたら良いのか分からない。
 軍馬に万が一があったらあの王女様に斬り殺されかねない。

「しかたがありませんね。馬は私が見ておきます」

 そう言ったのは金髪の女騎士だった。

「キラーリアを村に残すと、我々の護衛がいなくなりますが」

 レイクさんが少し躊躇を見せる。

「ふん、私に護衛が必要だというのか?」

 王女様が自信満々に言う。

「むしろ、怒りにまかせて誰かれ構わず襲いかかる王女様から私を護衛していただきたいのですよね」

 ため息交じりにレイクさんが言う。
 物腰や言葉遣いでごまかされそうになるけど、王女様にここまでいうこの人って案外毒舌家なのかもしれない。

「今、この場で斬っても良いが」
「それはご勘弁」

 王女様も本気ではなかったらしく、僕に向き直る。

「では、行くとするか。案内を頼むぞ、パド」
「わかりました」

 僕は応えて立ち上がった。
 王女様の大剣を向けられても腰が抜けなかったことは褒めてもらったもいいと思う。わりとマジで。
長ったらしいであろう、貴族っぽい名前を考えるのが面倒くさいからという理由で、登場人物達にことごとく『豚』とか『豚領主』とかいわれまくったまま退場させられた領主様を、なにげにちょっとかわいそうだなとか思えてきたのは作者だけかしら。

ともあれ、次回は例の崖でこの世界と大陸、そして歴史のお話です。
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