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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第三章 戦傷の覚悟

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2.友達だろ!!

またしても久しぶりの更新となってしまいました。
本当に申し訳ありません。

今回は当初の予定には全くなかった章。
『キャラが勝手に動く』という現象を強く実感した章でもあります。

細かいことは、後書きの方で。
 後悔、自己嫌悪、悲しみ、絶望、嘆き。
 負の感情が自分を支配する。

 月始祭から3日が経過しても、お母さんの心は元に戻らなかった。
 僕はお母さんにたくさん話しかけようとして――早くも初日の夜には話題がなくなった。

 お母さんが何も反応しないからというのもあるが、何よりもお母さんと共通の話がない。
 3年間一緒に暮らしてきたはずなのに、僕はお母さんのことを何も知らないと思い知らされた。
 仕方が無いから、2日目は僕自身のことを話した。
 桜勇太としての11年間、パドとしての3年間。
 だけど、その話題も昨日のうちに尽きた。

 今朝からは話すことが思い浮かばず、僕は黙ってただお母さんの近くに座っていることしかできない。
 お母さんは感情無く微笑み続けているだけだ。

 汚い話をするなら、便意を訴えることも我慢することもないため、今は服の下に赤ん坊のように布おむつを着けさせている。
 今の僕にできることは、せいぜい食事の世話と汚物に汚れた布おむつの洗濯くらいだ。
 日本と違ってこの村では布も貴重品なので、汚れたからといって捨てるわけにはいかない。
 実は僕が着ている服だって、村の他の子が着ていたもののお下がりだったりする。

 何もできない自分、何もできなかった自分。
 自分自身に腹がたち、目指すべき幸せを失った喪失感。

 負の感情が僕の気力を萎えさせる。
 いっそのこと、あのニヤニヤ顔のむかつく少年と『僕の命をやるから村とお母さんを救ってほしい』と取引すれば良かったと思えてくる。
 まあ、あいつがその取引に応じたかどうかはわからないけど。

 負の感情に飲み込まれつつある僕は、お母さんとは別の意味で心を壊しかけているのかもしれない。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 お父さんが村長に呼び出されてからしばらくしたあと。
 家の外で何か言い争う声が聞こえてきた。

 なんだろう?
 そう思いつつも、外に確かめには行かなかった。
 正直、そんな気力が無かったというのが正しい。

 すこし言い争いや物音が聞こえた後、家の扉から小さな人影が飛び込んできた。

「パド!!」
「ジラ? どうしたの?」

 息も絶え絶えという様子で家の中に駆け込んできたジラは、これまで見たこともないくらい必死の形相を浮かべていた。

「追放って、村長が、お前と、お前のお母さん、だから、伝えようと……」

 文法が無茶苦茶な上に、単語に脈略がなく何が何だかわからない。

「え、えーっと、とりあえず落ち着いて、椅子に座ってください。水飲みます?」
「それどころじゃねーんだよ。今、村長とお前の父ちゃんが話していたの聞いたんだ。お前とお前のお母さんを村から追放するって。だから、伝えようと持って」

 今度はちゃんとした言葉だった。
 言葉としてはきちんとしている。
 が、理解が追いつかない。

 え、なに?
 追放、僕とお母さんが?
 どういうこと?

 キョトンとしている僕に、ジラがじれったそうに言う。

「だから、お前とお母さんに村から出て行けって、村長が言っていたんだよ」

 え、えーっと、それは……

「それはどういう……」

 僕が言いかけたとき、家の中にさらに3人の人間が入ってきた。
 厳密に言うと、サンのお父さんが家の中に入ってきて、その腰にサンとキドがしがみついて抑えているようなかんじだったのだけど。

「あ、あの、これは一体……?」

 理解が全く追いつかず、僕は呆然とするしかなかった。
 この騒ぎの中でも、お母さんは表情一つ変えずに微笑み続けている。

「ジラ!!」

 サンのお父さんが叫ぶんでジラの肩をつかむ。

「わっ、わっ、ごめんなさい」
「その話は後だ。今の言葉は本当か?」

 頭にげんこつを落とされるとでも思ったのか、眼をつぶって防御態勢に入るジラに、サンのお父さんは真剣な顔で尋ねる。
 ジラはうなずく。

「お前達も聞いたんだな?」

 キドとサンをふりほどいて尋ねた。
 2人も肯定する。

「そうか……」

 サンのお父さんは苦しげな顔をし、次に僕とお母さんに同情するような、申し訳なさそうな、複雑な表情を浮かべた。 

 僕もようやく頭の中が整理できつつある。
 村長は僕とお母さんを村から追い出すことを決めた。
 ジラ達はそれを聞いて、こうして知らせに来てくれたのだ。
 サンのお父さんを押さえ込んでまで。

 理由は――たぶん、3日前のこと。

『闇』は僕を狙っていた。
 もし、また同じようなヤツが襲ってきたらと考えたのかもしれない。

 もちろん納得なんてできない。
 僕が追放されるだけならともかく、なんでお母さんまで。
 お母さんには何の罪もない。
 今のお母さんは何もできない。
 村から追放なんて、死ねと言っているようなものじゃないか。

 僕がそこまで考えたときだった。

「今戻った……って、ジラ達もいたのか」

 お父さんが帰ってきた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「お父さんっ!!」

 僕は叫んだ。

「本当なんですか、ジラ達の言っていること、その、僕とお母さんが追放って……」

 お父さんは眼をつぶり苦悶し、そしてやがてうなずいた。

「事実だ。さっき、村長に直接言われた」
「そんな……」

 僕は次の言葉が出てこない。

「なんでだよ、なんでそうなるんだよ!!」

 代わりに叫んでくれたのはジラだった。
 ジラは肩を怒らせ、涙を流し、僕に背を向けお父さんの方に振り返った。

「バズさんはそれで納得しているのかよ!! 自分の子どもと妻だろ。2人を村から追い出して、それでも平気なのかよ!!!」

 お父さんはジラの言葉を黙って聞く。

「俺は、俺はこんなの、こんなの、絶対許せない!! 俺が父親だったら、パドを村から追い出したりしない!!!」

 喉が枯れんばかりに叫ぶジラ。

「ジラ!!」

 叫んでジラの頬を打ったのはキドだった。

「なにすんだよ!!!」
「一番つらい人が誰だか、少しは考えろ」

 キドの言葉にジラが押し黙る。

 ジラは両手を下ろし、僕の方を振り返る。
 その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

「だって、だって、パドは村を護ったんだ。なんで大人はそんなこともわからないんだよ」

 ジラはうつむく。

 両手を握りしめ、涙を流す。

 やがてジラは右手を振り上げた。
 ジラの拳が、僕の頬に飛ぶ。

 ……って、なんでだよっ!!

 そう思いつつも、僕は何日か前の水くみ道中と同じように抵抗することもなく殴られた。
 今回は倒れずにすんだのは、ジラが手加減してくれたからだろうか。

「お、おい、ジラ?」

 さすがにここでジラが僕を殴るとは思っていなかったらしく、キドが戸惑いの声を上げる。

「ほら見ろ、俺が殴ってもパドは何もしないじゃないかっ!! パドが危険なヤツだったら、俺はとっくにあの黒い刃でぶった切られてる!!」

 それは5歳の幼児とは思えないほどに理にかなった発言だった。
 僕が痛い想いをしたことを除けば、ジラの立場でもっとも説得力のあるやり方だったかもしれない。

「ジラ、お前の気持ちはわかった。だがここは1度引いてくれないか」

 お父さんがジラに言う。

「だけどっ!!」
「俺も一緒に村を出て、2人を護ることにしたから、俺を信じてくれないか」
「……そんなの……」

 なおも言葉を紡ごうとするジラに、僕が言う。

「ジラ、お願いです。まずは僕とお父さんとお母さんの3人で話をさせてくれませんか?」
「……パド……」

 ジラは僕の瞳をのぞき込む。

「ジラ、まずは家族で話させてやろう」

 キドが言う。

「……………………わかった」

 長い沈黙の後、ジラはようやくうなずいた。

「ジラ、心配してくれてありがとうございます」

 僕が言うと、ジラは目をそらし、背を向けた。

「……そういう言葉使うから、お前の言葉はうさんくさいんだよ。仲間にそんな言葉使いするなよ」

 僕は息をのむ。
 今更ながらに気づいた。
 丁寧な言葉使いをしても、必ずしも皆に受け入れられやすくなるわけじゃないと。

 今更、こんなギリギリになって気づくなんて、本当に僕は大馬鹿だ。

「ごめん」
「謝るなよ」

 ジラは振り向きもしない。

「うん、ジラ、ありがとう。本当に感謝してる」

 僕は初めてジラに敬語ではない言葉でお礼をいった。

 ジラは僕に振り返り、涙でぐちゃぐちゃの顔に笑みを浮かべた。
 お母さんが今浮かべている偽物の笑顔とは違う、心からの笑みだ。

「気にすんな、パド。俺達は仲間……友達だろ!!」
「うんっ」

 ジラ、本当にありがとう。
 君のおかげで、僕も3日ぶりに心から笑顔を浮かべることができたよ。

 サンのお父さんに伴われ、ジラ達3人は立ち去った。

 ――そして、家の中には僕とお父さんとお母さんの3人だけが残された。
本当は家族の会話もこの章で一気に描こうと思っていたのですが、頑張ってくれたジラくんのためにも、そしてパドやお父さんの決意を描くためにも、章を分ける必要があるだろう判断しました。

あえて告白しますと、ジラくんは当初のプロットにはかけらも存在しないキャラでした。
というか、最初に登場させた時点では僕の中での扱いは『村の子どもA』でしか無かったのです。本当に。

それがまさか、ここまで自分の意思を持って動き回ってくれるとは。
作者にとっても誤算でした。

物語の本筋(旅立ち後)の話にいつまでもたどり着かないという意味ではマイナスですが、村での話に深みを与えるという意味ではプラスになったかなと思います。

よく言われる『キャラが勝手に動く』という状態ですね。
脇役Aとしてあまり計画をせずに登場させた子だからこそ、走り回ってくれて作者としてはうれしい限りです。
本当、彼の存在がなかったらこの一連の村編はもっと動きのない話になるところでした。

今では、作者的にジラくんが一番描いていて楽しいキャラになりつつあります。
ちなみに二番目に描いていて楽しかったのは稔くんで、3番目はガングロ神様に悩まされる中間管理職な神様課長さんだったりします。

……脇役ばかり楽しんで書いてどうする(;^ω^)

……ま、まあ脇役はどう動こうと本筋のプロットから外れにくいので自由に書けるというのもありますね。

ということで、次回は家族3人の話し合いという、また地味ーなお話になりそうです。
その分、さらに次に用意しているキャラは派手な活躍をしてくれそうだと思っているのですが。
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