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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第三章 戦傷の覚悟

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【子ども達】純粋な抵抗

母親の心と右手を失い、失意のまま家に閉じこもるパド。
ジラはそんなパドを励ましたいと、仲間達を説得する。

だが、子ども達の思いとは裏腹に、大人は残酷な現実と向き合っていた。

※今回6000文字超えています。
『闇』が襲来した月始祭から3日目の昼。

 村の雰囲気は暗く、しかもピリピリと緊張感が続いていた。
『闇』がまた現れるのではないかと恐れながらも、復興作業を進めなければならないからだ。
 のんびりしている暇はない。
 家の壁や屋根が壊れたまま、雨期や冬を迎えれば凍え死ぬ者も出るかもしれないのだから。
 崩れた畑も、できれば雨期の前に直せるところは直さなければならない。

 そういった作業に人手が必要なのに、怪我をして動けない人もいる。
 村の指導者である村長も足を怪我して立ち上がることもままならないらしい。

 そんな中、キドは年少組の子ども達を引き連れ、いつもの川で水くみをしていた。
 もっとも、メンバーは月始祭前と比べて2人少ない。
 具体的にはライとパドがいない。

 ライは村長の命令で水くみから外された。
 正体不明の『闇』の襲来の後、また同じような存在(もの)が襲ってくる可能性が否定できないからだ。
 元々水くみの戦力にならない3歳のライを、子ども達だけの作業に送り出すのはもしもの時にまずいという判断である。
 本当は大人がついて見守りたいのだろうが、村全体の被害が大きすぎて人員を割けないらしい。
 キドは、村長にもしも少しでも異常があったらバケツを投げ捨ててでも村に逃げ帰るように念を押されている。

 一方パドも3歳には違いないが、ここにいない理由はそれだけではない。
 あの戦いの後、パドの母親が心を失った。
 同時に、パドも酷い落ち込みで家から一歩も外に出ようとしないのだ。

 大人達は子ども達に言う。

『今は放っておきなさい。悲しいときに下手に近づかない方が良いから』

 だけど、キドは思う。
 たぶん、それは大人達の本音ではない。
 あの時異常な戦いを魅せたパドを、大人達は『闇』と同じくらい――あるいはそれ以上に恐れているのだ。
 だから、子ども達をパドに近づけたくないのだ。

 そうでなければ、どうして人員が足りないと言いながらパドの家の周囲を村の男が交代で警備する必要なんてない。
 まして、自分達がパドの家に近づこうとしただけで血相を変えて怒るわけもない。

 村の暗い雰囲気は子ども達にも伝染する。
 普段なら明るく冗談を言い合ったりする休憩時間も、みんなほとんど口をを開かない。
 休憩の意味がわかっていないかのごとくはしゃぐはずのジラすら、うつむいてじっと押し黙っている。

 ジラの右手は木の枝を布で巻き付けて固定されている。
 頭から地面に埋まったパドを助けようとして、蹴飛ばされて骨折したらしい。
 それだけでも、パドの力が普通ではないことがわかる。

「ジラ、腕は痛くないか?」

 ずっと沈黙しているのもなんだと思ったのか、サンがジラに話しかけた。

「別に痛くな……くもないけど、大丈夫」
「もし、痛いようだったら村にいても良いんだぞ」

 キドの言葉に、ジラは首を横に振る。
 腕を骨折している上にまだ5歳のジラも、ライと同じように参加しないで良いと村長に判断されていた。

 だが、ジラは自分から作業に参加すると言い張った。
 これまでののジラなら怪我をしていなくてもサボろうとしたくらいなのに、一体どういう風の吹き回しなのか思う。

「パドやライの分も俺が頑張らないとダメだから」

 今日のジラの様子を見る限り片腕できるかぎりの作業をしようとしている。
 とても先日わがままをいいまくったあげく、パドに言い負かされて殴りとばした子と同一人物に思えない。

「そ、そうか……うん、そうだよな」

 サンがジラの様子に戸惑いつつも同意する。

「確かにな。みんなで頑張らないとな」

 キドは他の子達も見回しながら言った。
 みんな、神妙そうな顔でうなずく。

 ジラだけではない。
 あの戦いは子ども達の中に不安を植え付ける同時に、大きな責任感を芽生えさせたようだ。

 それからまたしばらく沈黙が流れ――
 やがて、今度はジラから口を開いた。

「なあ、みんな、俺らでパドになにかしてやれないかな」

 その言葉に、キドも含めみんな顔を見合わせる。

「何かって……どういうことだよ?」

 子ども達のうち1人が尋ねる。ジラの次に小さい8歳の子だ。

「あいつ、落ち込んでるからさ。なんか、励ますっていうか……」

 ジラの言葉に、みんな少し考える。

「でも、お父さんが放っておけって、なあ?」
「うん、それに、パドの家に近づいたら怒られるし……」
「そうだよね……」

 子ども達が口々に言う。

「でもさ、やっぱりおかしいだろ。
 パドは村を護ってくれたんだ。あのチビのパドが、俺たちのために命かけて戦って。パドのお母さんがあんなことになって。それに、パドも右手がなくなってて。 
 それなのに励ますこともダメだなんて、やっぱりおかしいじゃん」

 ジラの言葉は拙い。拙いなりに必死にうったえようとしているのがわかる。
 だが、子ども達の代表として、キドは素直にうなずくわけにはいかなかった。

「大人達がパドに近づくなって言っているのは、たぶんパドの力がなんなのかわからないからだと思う。
 俺から見てもパドのあの力は――やっぱり恐いって思った。大人達がどうするか決めるまで、俺達があんまり騒がない方が良いと思う」

 ジラはパドの力を恐いと考えていないようだが、キドは正直恐いと思う。
 きっと、未知の力への恐れというのは年齢とともに上がっていくのだろう。
 だから、大人達はキド以上にパドの力を恐れているのだ。

「恐いって……なんでだよ?」
「いや、だってさ、お前の腕だってパドに蹴られて……」
「わざとじゃないじゃん」
「それはそうだけど」
「なんだよ、みんなしてあんなチビを捕まえて恐いとか。俺が殴ってもパドはなにもしなかったじゃないか」

 その言葉に、みんなシーンと静まる。

 ジラの言っていることは正しい。
 正しいけど、じゃあパドの力が恐くなくなったかと言えば、正直やっぱり恐い。
 大人達が自分達をパドに近づけさせるとも思えない。

 ――それに何より。

「だいたい、励ますったってどうするんだよ? パドのお母さんを元に戻す方法なんてわかんないじゃん」
「……ぅ。で、でも、ほら、なにか食いもんでも持ってお見舞いに……」
「村がこんな状況なのに、余分な食べ物なんて無いよ」
「……ま、まあ、そうだけど……」

 ちなみに果実のなる木が何本か倒れたが、翌日には全ての果物を大人達が回収した。
 一部を除いて干すなどして保存食にするらしい。パドのお見舞いに少し分けてなどと言っても許可されるわけがない。
 そして、食べ物の貴重さをよく知っている村の子ども達は、さすがに倉庫から果実を盗み出すなどということは考えない。誰かがそれを始めたら村全体が滅びると半ば本能的に理解してるからだ。

「ああ、もう、お土産とかどうでも良いんだよ。俺たちがみんなでパドに『元気出せよ』って言って、手でも握ってやればいいだろ」

 ジラがイライラした様子で言う。
 それは確かにそうかもしれない。
 お母さんを治すことはできなくても、パドを励ます方法なんていくらでもある。

 だが、問題は――

「そうはいっても、大人が見張っているんだぞ」
「そこはほら、こっそり忍び込むとか、誰かがおとりになるとか」
「そんなことしたら怒られるよ」
「パドと怒られるのと、どっちが大切なんだよ」

 ジラの気持ちはわかる。
 わかるが、しかし。
 大人達が禁じていることを、リーダーとして認めるわけにはいかない。

 だが。

「……俺、ジラに賛成。っていうか、ジラもパドも俺より小さいのに、一生懸命頑張ってるから。俺も2人を助けたい」

 おずおずと1人の少年が言った。

「……俺もかな……なんなら俺がおとりやってもいいよ」
「僕も」
「食いもんは無理でも花とかなら持って行けるんじゃない?」
「パドが花なんか喜ぶかぁ?」
「パドは喜ばなくても、お母さんは喜ぶかもしれないだろ」

 子ども達が口々に言う。
 いつの間にやら、キドとサン以外全員がジラに賛同してた。

「……わかった。俺もジラに賛成する」

 ついにサンまでそう言い出した。

「おい、サン、お前までそんな」
「キド、リーダーとしてお前が賛成できないのはわかる。村長達が俺達よりも色々なことを考えているってことも。だけど、それでも俺はジラが間違っているとは思えない」

 サンはそう言ってキドの瞳を見る。
 2人はしばらくにらみ合い――

 ――先に根負けしたのはキドだった。

「わかったよ。俺の負け」

 キドはため息を混じりにそう言った。

 元々、キドだって本音の部分ではジラの気持ちはよくわかるのだ。
 パドの力が恐いという思いはある。しかしパドの作業をずっと見守っていたキドには、パドがその力を必死に抑えていたということも理解している。
 ジラに殴られたとき、防御すらしなかったのもその為だろう。

「ただし、こっそり忍び込めるとは思えなし、おとりなんか使っても励ます前に連れ出されるのがオチだからそんなことはしない」
「じゃあどうするんだ?」

 サンが尋ねる。

「正攻法でいくしかないだろ」
「正攻法?」
「村長に直談判」

『ええぇ!?』

 キドの言葉に、皆が声を上げた。

「それは無理じゃないかな?」
「さすがに、ねぇ?」
「絶対許してくれないと思う」

 反対意見が続出する。

 が、キドは首を横に振った。

「お前らパドの性格を考えてみろ。自分のために俺達が大人から怒られるなんてなったら、それこそパドは自分を責めるぞ。それじゃあ励ますことにならないだろ。
 俺達の――ジラの気持ちを村長の直接ぶつける。それでダメなら他の方法を考えるけど、まずは一番まっとうな方法でやるべきだとおもう」

 キドは一度言葉を切り、全員を見回す。
 全員、複雑な顔をしつつも異論は挟まない。

「今日の作業後、代表者が村長の家に行こう」
「で、代表者って?」
「俺とサンとジラの3人だな」

 サンの問いに答える。

「え、俺!?」

 ジラが意外そうな声を出す。
 いくら言い出しっぺとはいえ5歳の自分が選ばれるとは思っていなかったようだ。

「あたりまえだろ。言い出したのはお前なんだから。
 というか、むしろお前が中心だ。大丈夫、お前の気持ちをそのまま言えば良い」

 キドだって、四日前までだったらこんなことをジラには任せようとは思わなかっただろう。だが、今日のジラになら任せてもいいと考えた。
 下手に理屈をつけないぶんジラの純粋な言葉の方が、村長にも届くのではないかと思えたのだ。

 キドの言葉に、ジラは困惑した顔を浮かべ――しかし、やがて何かを決意したように両手を握りしめた。

「わかった。俺が村長を説得する」

 ジラは力強く言った。

「よし、じゃあ、そろそろ戻るぞ」

 だが、この時、キドは想像もしていなかった。
 自分たちがこうして話しているのと同じ頃、もはやパドを励ますとか、そういう次元ではない決断を村長がしていたことに。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 雨が降ってきたので水くみを早めに切り上げ、パドを励ましたいと村長を説得するためにサンとジラを連れて村長の家に来て。
 パドの父親が村長の家に入っていくのを見て、とりあえず様子を見守ろうと聞き耳を立てていた。
 村長の娘が家から出てきたときは見つかりそうになったが、上手いこと樽の裏に隠れた。
 2人の大人の声は小さかったが幸いというべきか、家の壁が壊れ布で代用されていたおかげで、なんとか話を聞くことができた。

 話の内容はキド達の想像を超えていた。
 パドとパドの母親を村から追放する――それが村長の決定だった。

「なんだよそれ!! 何考えているんだよ!?」

 村長の決定を聞くなり、ジラが家の中に飛び込んで叫んだ。

 キドがとっさに思ったのは『まずい』ということだった。
 自分達の考えは甘かった。甘すぎた。大甘だったのだ。
 村長の決定を前に、パドを励ますとかそういう話をするような余地などどこにも無い。

 大人ならまだしも、子どもや心を失ったパドの母にとって、村からの追放とはほとんど死を意味する。
 軽々に決断できることではない。
 村長がそう決定したということは、自分達の意見など取り入れる余地などもはや無いと言うことだ。
 決定が覆る余地があるのならば、村長はパドの父親に伝えたりはしない。

 今自分達が騒ぐのは非常にまずい。
 これはもう、子どもが口を挟めるような問題ではない。

 あまり強弁に反対すれば、ジラが、あるいは自分達が罰を受ける。
 怒られるなどというレベルではない罰を。

「ジラ!!」

 キドは慌てて後を追い、サンと共にジラを押さえる。
 その後、村長と交わした言葉は正直覚えていない。
 とにもかくにも暴れるジラを村長の家から引きずり出した。

「俺は納得しなからなっ!! パドは村を救ったんだぞ!!」

 ジラは家から出ても叫び続ける。

「もうよせ、ジラ!!」

 キドがジラの腕をつかんだまま言う。

「こんなの納得できない!! できるわけないだろっ!!」
「俺だってそうだ。だけどこれはもう俺たちにはどうしょうもない!!」
「うるさいっ!!」

 ジラは叫ぶと、キドの右手に噛みついた。

「痛っ、おまっ!!」

 さすがにキドも驚き、一瞬手が緩む。
 ジラはそのスキにキドの拘束から逃れた。
 そして駆け出す。
 村長の家とは反対方向だ。

(一体どこに?)

 一瞬考え、すぐに気づく。
 ジラの向かっている先はパドの家だ。

「おい、ジラ待て!!」

 キドとサンが慌てて追いかけるが、ジラは脇目も振らない。
 周囲の大人達が何事かという顔をしている。

 ジラはあっという間にパドの家の前までたどり着く。

「おい、ジラ、なにをやっているんだ!?」

 パドの家を見張っていたのは、サンの父親だった。

「どけよっ!! パドに合わせろ!!」

 ジラは完全に頭に血が上っている。

「ダメだ、戻りなさい」

 そう言ってジラの行く手を阻むサンの父。
 ジラは真っ正面からつっこみ、ジラの父の向こうずねを蹴飛ばす。

「……このっ」

 5歳児に思いっきり蹴飛ばされ、さすがにサンの父も怒りを顔に浮かべる。
 そして、キド達の方を向いて叫ぶ。

「おい、キド、サン、お前達もジラを捕まえるのを手伝って……」

 最後まで言うことはできなかった。
 ジラの近くに駆け寄ったサンが、あろう事か自分の父親の腹に向かって思いっきりタックルしたのだ。

 子どもの力とは言え、完全に不意を突かれた父親はその場に転がる。

「お、おい、サン、お前何をっ!!」

 親子で地面に倒れながら、サンの父が叫ぶ。

「ジラ、気にするな。親父は俺が押さえておくから、パドのところに行け!!」
「サン、お前!!」
「早くしろ、ジラ」

 親子でもつれ合う2人を見ながら、キドは動けなかった。
 まさかサンが自分の父親に対して体を張ってジラを助けるとは思わなかった。
 予想外の事態を前に、キドは自分が何をするべきなのかとっさに判断できなかったのだ。

 その間に、ジラはパドの家に飛び込む。

「サン、いいかげんにっ!!」

 さすがに9歳の子どもがいつまでも父親を押さえておけるわけもなく、サンの父は息子をふりほどきジラを追ってパドの家に向かおうとする。

(くそっ)

 キドは内心毒づく。
 サン、もう少し粘れよ。
 せめて、ジラがパドに話をするくらいの時間……

 そこまで考えて気づく。
 俺だって、本当はジラの事を応援しているんじゃないか。

 このままパドやその母親を村から追い出すなんて、やっぱりおかしい!!

 キドはサンの父に肩から全力でつっこむ。

「なっ、おい、このガキども……」

 サンの父は再び倒れる。

「お前達、何を考えているんだ!?」
「わかんねーよ」

 叫ぶサンの父に、キドは叫びかす。

 本当に自分でも何をやっているのかわからなかった。
 こんなことをしても、村長の決定が覆ることなんて無い。
 パドを助ける力なんて自分達には無い。
 それでも。
 それでも、今、パドのために必死になるジラを助けたいと、それだけは心の底から思った。

 サンと2人で、サンの父ともみ合う。

 そりゃあ、村長には自分達には思いもつかない考えがあるのだろう。
 きっと、村全体のことを考えた、大人としての苦渋の判断だろう。
 理屈で言えば村長の決定の方が正しいのかもしれない。

 それでも。

 それでも納得なんてできない。
 パドもジラも、自分達の仲間だ。

 ――結局、キドもサンやジラと同じ子どもだった。
 子どもだから、仲間を助けたいと、純粋にそう思った。

 他の大人達が駆けつけてキドとサンが取り押さえられるまで、それほど時間かかったわけではない。
 2人が稼いだ時間はほんの少しだ。
 だが、そのほんの少しの時間は、ジラがパドに話しかけるには十分な長さだった。
いいかげん、薄暗い話から脱出したいのですが、あと数話おつきあいください。
外伝の方は本編にアル王女が登場してから更新することにしました。
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