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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第二章 闇の襲来

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26/92

26.僕が

タイトルはあえて主語と格助詞だけ。
その先に続く言葉がなんであるかは、本文を読んで各自ご判断ください。
作者としては複数の答えを用意しています。

そして、ついにあの王女が本編に登場。
「それで、お父さん、村長はなんて言っていたんですか?」

 ジラ達が去り家族だけになった家の中で、僕はお父さんに尋ねた。
 お父さんは余計なことを言わず、僕とお母さんを村から追放されることになったと告げた。

「どうしてお母さんが追放されるのでしょか。僕が追放されるのはわかります。僕が皆を騙していたから。前世の記憶や力のことを黙っていたから、その罰だっていうなら――それで村長が怒ったっていうなら、それは仕方が無いと思います。僕の力が恐いっていうのも、あの『闇』を恐れるのもわかります。でも、お母さんは何も悪いことはしていません。今のお母さんは何もできません」

 僕の言葉に、お父さんは首を横に振った。

「村長は怒ってなんていないし、罰を与える為に追放を決めたわけでもない」
「じゃあ、なんでですか?」
「村のためだ。村の皆が生き抜くためだ。3日前のことで、畑や家が壊れた。竈や食器も割れた。果実のなる木も倒れた。今の村にはお母さんを養うだけの余裕がない。そして、次に『闇』が襲来したら、今度こそ村の誰かが死ぬかもしれない。村長は村の代表としてとしてはどちらも許容できないと考えたんだ」
「そんな、そんなの、お母さんの責任じゃないっ」
「もちろんそうだとも。だが、必要な決定なのだろう」

 納得できない顔の僕に、お父さんはさらに続ける。

「パド、お前が前世で暮らした場所は、とても幸せな世界だったのだろうと思う。大人になるまで育つ可能性が低い、一生働くことが難しいであろう子どもの治療を10年間続けられるほどに。それはきっとその世界が豊かで、余力がある世界だったからだろう。だが、残念ながらこの村にはそんな余力は無い」

 今更ながらに気づく。
 ここは日本じゃない。
 憲法で基本的人権が保障されている国じゃない。
 心を失い、自立できない人間を一生保護して養えるほどに、余裕がある世界じゃない。

「村長は3日間の猶予をくれた。旅立ちの準備をしよう」

 それでも、村長や村の人たちは精一杯力の弱い人を支えている。
 テトのように体が弱くて水くみができない子でも、他の仕事を与えて見守る程度には。

 だけど、今のお母さんの状況は、そして『闇』に狙われた僕は、村が許容できる範囲の外にあるのだ。

「お父さんは……お父さんはそれで納得したんですか!? 今のお母さんが村から追い出されたらどうなるか、僕にだって想像できます」

 お父さんは僕をじっと見た。
 僕の肩に手を置き、小さな僕の瞳と自分の瞳の高さを一致させる。

「納得できるわけないだろう!!」

 お父さんが叫ぶ。

「じゃあ、なんで?」
「村長は俺に言った。恨むなら自分だけを恨め、どうしても納得できなければ自分だけを殺せと。村長の覚悟は本物だった」
「村長が覚悟が本物だったから、納得したってことですか?」
「違うっ!! 納得などしているものかっ。だが、もはや何を言っても、あるいは村長を殴り飛ばしても、決定は覆らないと理解しただけだ」

 お父さんは僕から目をそらさず、瞬きすらせずに言う。
 お父さんの顔は、悔しさがあふれている。

「パド、お前の気持ちはわかる。俺も一緒に行く。俺達親子はずっと一緒だから」
「……え、追放されたのは僕とお母さんだけなんじゃ……」
「村長が村の代表としてお前とサーラの追放を決めた。俺はこの家の(あるじ)としてお前達と一緒に村を出ることを決めた。そういうことだ」
「……お父さん……僕は、僕なんかのために……」

 自分の瞳から涙が落ちるの自覚する。

「ごめんなさい。僕のせいで、ごめんなさいっ」

 僕はもう泣くことしかできなかった。

 僕が転生なんて望まなかったら。
 僕がお父さんとお母さんの子どもとして産まれてこなかったら。
 僕が呪いのようなチートを自覚した時点で村からはいなくなっていれば。

 きっと、お父さんやお母さんは今でもこの村で幸せに生きていた。
『闇』がこの村に来たのも、きっと僕のせいだ。
 お母さんは今でもお父さんと夫婦2人で――もしかしたら、僕なんかとは違う普通の子どもと一緒に――暮らしていたに違いない。
 村の大切な竈も畑も壊れてなくて、ジラがあんなに怒ることもなくて、村長だって怪我なんてしなくて。

 全部僕のせいだ。
 僕はとっくに死んでいるべき人間だった。
 桜勇太として10年生きて、生かしてもらって、それで満足して消えるべきだった。
 おねーさん神様の言うことなんて断れば良かったんだ。

 力なく、涙を流す僕を、お父さんが体全体で抱きしめた。

「馬鹿野郎、お前は何も悪くない。言っただろう、お前が産まれてきてくれただけでうれしかったと。しかも、お前はお母さんを助けてくれた。その手も、その為に失ったんだろう?」
「でも、でも僕がいなかったら、お母さんはもっと幸せに……こんな、こんなことにならなかったのにっ!! 僕が、僕がこんな力を持って、転生なんかしたらっ。僕なんて産まれてくるべきじゃなかったんだ」

 もうわけがわからなかった。
 やり直せるならやり直したい。

『闇』が襲来する前に戻りたい。
 産まれたとき、誰にも真実を話すまいと決めたときに戻りたい。

 ――いや、違う。
 あの白い空間で転生しないかとおねーさん神様に言われたときに戻って。
 転生なんてしたくない。消滅するか、恐竜の世界のネズミにでもしてくれって言い直したい。

 今から僕が死ねばお母さんが元に戻るというのなら、喜んで崖から飛び降りたい。

「パド!!」

 お父さんは僕の体を離し、僕の頬を平手で打った。

「そんな悲しいことを言うな。お前は俺とサーラの大切な息子だ。自分を否定するな」
「でもっ」
「父親なら本当は『俺がついているから安心しろ』というべきところだろう。だが、俺はあえて言わない。村から追放されたらつらい現実が待っている。だからっ……」
「……だから?」
「お前の力が必要だ。お母さんを護るために。家族が生き残るために。俺1人ではサーラを護りきれない。だから、お前も一緒にお母さんを護れ」
「……お父さん……」

 産まれて初めて親に叩かれた頬は熱かった。
 前世を含めても、親から叩かれたのはこれが初めてだった。
 でも、その熱さは僕が僕を肯定するために必要なものだった。

 僕は手首のない左腕で涙をぬぐう。

「わかった。僕はもう泣かない。お母さんを護る。そして家族皆で幸せになってみせる」

 僕の言葉に、お父さんが大きくうなずく。

「良い子だ。それでこそ、俺の息子だ」

 そう言って、お父さんは僕の頭をワシャワシャとかき回すようになでた。
 そうやって親に頭をなでられるのも、あるいは初めての経験だったかもしれない。

 そんな僕たち父子を、お母さんは表情のない笑顔で眺めていた。

 行く先に何があるかはわからないけど、僕はお母さんを護る。そして、絶対に家族で幸せになってみせる。
 それが僕の決意だ。

 ……だけど。

 僕ら親子のそんな決意とは裏腹に、翌日『闇』とは全く別の、ある意味もっとずっと恐ろしくてやっかいな存在が、この村に襲来するとは、今の僕には想像もできないことだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(アル視点 三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ふんっ」

 その女――盗賊女帝(ロバー・エンブレス)とも呼ばれる彼女は一行の先頭で鼻息あらく馬を引っ張っていた。
 本来その盗賊女帝(ロバー・エンブレス)を乗せるはずだった白馬が、むしろ(いいかげん休ませてほしい)と訴えているかのごとく、後ろを歩く金髪の女騎士――キラーリアには感じられる。
 ――むろん、それは馬という生物と人間という生物の特性比べれば、冗談にしかならない比喩ではあるが、そう見えてしまうことは事実だ。

 夏場とはいえ虫が飛び交う山道を、胸と腰回り以外露出した姿で歩くその盗賊女帝(ロバー・エンブレス)は野蛮としか言い様がない。

 もしもここが遊楽ならば――と考えたとしても、胸よりも筋肉が目立つ彼女は、遊女でくなく盗賊(かしら)と思われただろう。
 腰にぶら下げた大剣が女の凶暴さを余計引き立たせる。
 この女を抱きたいと思うのは、よほどの特殊な趣味か、蛮勇の持ち主だけだろう。

 そんな盗賊女帝(ロバー・エンブレス)にキラーリアは声をかけた。

「アル王女。いい加減乗馬してください。他の者が馬に乗れません」

 簡易的とはいえ鎧を着込んだキラーリアの姿は、盗賊女帝(ロバー・エンブレス)――アル王女と呼ばれた女とは別の意味で迫力があった。
 もしここに剣術を極めた第三者がいれば、アル王女は暴力的な剣の最上級を極め、キラーリアは正統派剣術の最上級を極めたと理解できるかもしれない。
 形は違えど、2人ともまごう事なき達人である。

 しかし、あいにくこの場には2人の能力を測れるほどの剣士はおらず、アル王女がその気になった瞬間に全員斬り捨てられるであろう兵士が10数人と、文官が1人、馬車の御者、そして豚のような腹をした領主が1人いるだけだったが。
 ちなみに文官は馬に、領主は馬車に乗っている。
 どちらも自力で登山できるほど体力が無い。

「私は馬は()かん。腰が痛くなる」
「でしたら馬車に」
「ごめんだ。それも腰が痛くなるし――なによりあの豚と一緒の空間にいたら反射的に斬り捨てかねん」
「まあ、後半は賛同しますが……」

 普段のアル王女の言動を見ている限り、豚領主と2人きりで馬車に乗れば本当に斬り殺しかねないと、キラーリアも知っている。
 ……もっとも、そういう王女の言葉に賛同してみせる彼女も、それはそれで良い性格をしているといえるのだが。

「豚領主とレイクは馬車や馬に乗っているのだから問題はあるまい」
「兵士や私が乗れません」
「この国の兵士や騎士はこの程度でへたばるのか? 足腰を鍛える良い訓練だろう」

 挑発するようなアル王女に、キラーリアはお手上げとばかりに首を振る。
 ちなみにレイクというのは文官の名前である。

「騎乗して山道を進むのも兵士の技能のひとつですが」
「なら勝手に乗れ。私は走る」

(アル王女なら本当に騎乗した兵士と同じ速度で山道を走りかねないな)

 キラーリアはそんなことを思いながらも、結局自分達は歩くしかないと覚悟を決める。
 仮にも王女が歩いているのに騎士や兵士が馬に乗るわけにもいかないだろう。
 正直なところを言えば、彼女も山道を進むなら騎乗するより馬を引っ張った方が楽ではあるのだ。
 周囲の兵士達のうんざりした顔は無視するしかあるまい。

「で、その教会が狙っているというガキのいる村まではまだあるのか?」
「……今朝、麓で地図を見ながら説明いたしましたよね?」
「忘れた」
「……忘れないでください」
「お前とレイクが覚えていれば問題あるまい」

 それは大ざっぱな性格のアル王女らしい言葉であったが、任せられるほどにはキラーリアとレイクを信頼しているという意味でもある。
 こういうぶっきらぼうな言葉で信頼を表す人なのだと、キラーリアも最近ようやく理解できてきた。
 故に、その信頼に応える。

「おそらくこのままのスピードだと、あと2刻ほどでつくかと」

 その言葉にうなずいたアル王女は、兵士達が泣きたくなるような言葉を告げた。

「では、1刻ほどでつくな」

 それはつまり、ここからは倍の速度で進むという宣言だった。
 周囲の兵士のうんざり顔が深まる。
 人間の言葉が理解できないはずの馬たちまで、嫌そうな顔をした――というのは、さすがにキラーリアの考えすぎだろうか。

「そこまで急がなくても良いかと思いますが」

 いつの間に近づいてきたのか、馬の上からレイクが言った。
 本来なら仮にも王女に対して騎乗から文官が声をかけるなど、それこそその場で殺されても文句が言えない無礼である。
 が、アル王女の場合、進言のためにレイクが馬から下りたら『いちいち下りるな、他人(ひと)に支えられなければ騎乗もできないくせに』と逆に不機嫌になる。

「さんざん急かしたのはお前だろう」
「それは日数単位のことです。ここで刻単位を急いで事故を起こしては本末転倒だと申し上げているのです」
「ならば事故を起こさず急げば良い。事故を起こしかねないのは馬に乗るお前だけだ」
「……馬車も山道を急ぐと危険ですが」
「あの豚領主が馬車ごと崖から落ちたら祝い酒を用意しよう」

 周囲の兵士達が顔をしかめる。
 彼らの本来の城主は、その豚領主なのだから当然だ。
 もっとも、腐敗した領土の兵士に王女たるアルの発言をとがめるような気骨はないようだが。

「さあ、いくぞ。めざすはラクラス村だ」
「ラクルス村です。王女」
「どっちでもいい」

 そういうと、王女は馬を引き連れ駆け出す。
 キラーリアもレイクとヤレヤレと顔を見合わせた後、それに続いた。
 兵士達と豚領主を乗せた馬車が着いてこれるかどうかは、正直キラーリアもどっちでもいいと感じていた。
 それよりも、ラクルス村にいるという、パド少年のことを考える。

 別世界の記憶を持ち、世界を滅ぼしかねない力と魔力をもつ少年。神託を受けた教会が抹殺しようとするのもうなずける。
 もしも自分達に協力するなら『勇者候補』になりうる。自分達の目的のためにも、是非仲間に引き入れたい。
 だが、自分達に御せないならば、今のうちに排除する必要があるだろう。自分達の目的は世界の破滅ではないのだから。

 キラーリア、アル王女、そしてパド少年。

 後に第二次闇大戦において後の世まで『勇者』にて『破壊者』と伝えられる者達の出会いまで、あと少しである。
……というわけで、前半と後半でまったく別のお話を一つの章に押し込めました。
アル王女については外伝もご参照ください。
http://ncode.syosetu.com/n8810dl/

これまで村の中で小さな話を書いてきましたが、アル王女の登場で一気に物語の枠組みに『拡張』と『破壊』が訪れます。
そして、パドくんは……
+注意+
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