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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第三章 戦傷の覚悟

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【父親と村長】村長の決断

半壊した村。
左手を失ったパド。
心を失ったサーラ。
追い詰められる人々の生活。

その中で村長が下す、非情にて不可欠な決断。

パド達の運命は――

※予告より更新が遅れましたこと、お詫び申し上げます。
「やっぱり無理ですよ、村長。ここまで壊れていると専門の職人じゃないと直せませんぜ。むしろ、買い直した方が安上がりかもしれない」

 村唯一の竈の中に頭をつっこんでいたガラが言った。
 もっとも、その竈も半分割れて、この3日間は本来の用途に使えていないのだが。
 ガラはこの村で最も手先が器用な男だ。村で使われている食器の多くも彼が木を削って作ったものだ。
 とはいえ、竈を直すのと食器を作るのではまるで話が違う。

「やはりそうだろうな」

 ラクルス村の村長バルは、藁布団の上に横たわったまま言った。
 ため息が漏れそうになるのおさえられたのは、長年村の(おさ)をつとめてきた経験故の僥倖(ぎょうこう)だろう。
 ここで村長がため息などをついてしまえば、ガラも今の村では竈を再建することが出来ないと理解してしまう。その情報が広まれば、村人達はさらに落ち込み復興の妨げとなってしまう。

「それより、村長、お体は大丈夫なんですか? みんな心配していますよ」
「大事ない。逃げようとして転んでひねっただけだ。年は取りたくないものだな」
「そうっすか。じゃあ、俺はこれで」

 ガラが家を出て行った後、奥の部屋から娘のマーリがやってきた。

「やっぱり修理は無理みたいね」
「ああ」

 マーリの顔も暗い。
 3日前の『闇』との戦いで、村は様々なものを失った。
 家々もそうだし、畑の一部もそうだ。
 厳密には村のものではないが、果物がとれる木々も倒れた。
 そして、村唯一の竈が壊れた。

 この3日間は幸い雨が降らなかったので外で火をおこして麦粥を作ることは出来たが、数ヶ月後の雨期になればそうもいかない。
 いや、雨期でなくとも、雨は降るのだ。火がたけなければ満足な食事など作れない。
 昔、まだバルが幼い頃、村には竈がなかった。
 それゆえ、雨期は麦粥すら作れず、保存しておいた固いパンを細々と食べるしかなかったのだ。

 割れた竈は先代の領主が村々に一つずつ提供したものだ。前の領主は天候が悪い年は税を免除するなど人々によりそう考え方をする人だった。竈を提供する施策はその最たるものであろう。
 だが、今の領主にそれは望めない。
 彼は領民を家畜と同じように考えている。竈が壊れたことを訴え出ても何もしてくれないだろう。下手をすれば先代の恩に反する行為だなどと難癖をつけて税を上げようとするかもしれない。
 街の職人に竈の修理を頼んだり、新しい竈を買うような金は村にはない。
 それどころか、ダメになった畑の分、これからの村の食糧事情はいっそう悪くなるだろう。

「そろそろ、潮時かもしれんな」

 バルはつぶやいた。

「お父さん?」

 マーリが首をかしげる。

「村長の代を村の誰かに譲るべきだろうとな」

 今回、バルは逃走中に転んで右足を骨折した。
 たかが石につまずいただけで骨折など、十年前には考えられなかったことだ。
 しかも、骨折のためか心労のためかはわからないが、この3日間微熱が続いていている。
 正直、いつ神の使いが迎えに来るかもわからないと思う。
 その前に、次の村長を決め、最低限の引き継ぎをするのは自分の義務だろう。
 新しい村長には税の納め方、食料の保存、識字や計算など教えなければならないことは山ほどある。

「1年前、デラが死んだのは痛かった」
「ええ」

 デラとはマーリの夫である。
 バルは次の村長としてデラを教育していた。
 ところが、昨年風邪をこじらせてあっさり死んでしまった。
 医者のいないこの村ではよくあることであるが、次代のまとめ役を新たに考えなければならなくなった。
 次の村長を誰にするか。
 デラはこの1年考え続けたが結論は1つしかなかった。

 いまさら、他の者に読み書き計算を含む村長業務を一からたたき込む時間は無い。
 村長はマーリに継いでもらうしかなかった。
 女であり、実の娘であるマーリに、時に隣人から恨まれてでも村を護らなければならない村長という役目を託すのは心苦しいが、他に手はない。

「マーリ、次の村長はお前だ」
「……はい」

 彼女も覚悟はしていたのだろう。
 一瞬言葉に詰まったが、決意の表情と共に頷いてくれた。

「だが、村長の代を譲る前にやっておかねばならぬことがある。マーリ、すまないがバズを呼んできてくれないか」

 多くは説明しなかった。
 説明しなくても、マーリはバルがこれから行うことを理解しているだろう。

「……わかりました」

 マーリは暗い表情ながらもしっかりと頷いて、家を出て行った。

 バルは思う。

 ――自分はもうじき村長では無くなる。そして数年の内に天に召される。
 ならば次代の村長になる娘のためにも、恨まれ役は去りゆく者が請け負うべきだろう。

 外は雨が降り始めていた。
 明日は外では火をおこせないかもしれない。
 パンも麦粥もなければ、村人に食べさせられるのは倒れた木から採取した果実くらいしかないだろうと考え、バルは気持ちが落ち込むのを抑えきれなかった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「バズ、村長が呼んでいます。一緒に来てはもらえませんか?」

 村長の娘マーリに呼び出され、バズは村長の家へと歩んでいた。
 村の中は酷い有様だ。
 広場の近くを中心に半分の家は壊れかけている。
 バズとパドの家が無事だったことが、なんだか申し訳なく思えるほどだ。
 壁の壊れた家の修理をしているのは大半が女性だ。
 男性は畑の作業を優先している。

 おそらく、村長の用事は先日のパドの件だろう。
 ありえない力を発揮したパドの能力は一体何なのか。
 そして『闇』との関係は。
 村長としてはその事情聴取をしないわけにはいくまい。
 どこまで正直に答えるべきかにわかには判断がつかない。
 いや、そもそもパドのことはまだしも、『闇』についてなどバズもまったく解らないのだが。

「どうぞ」

 マーリに促され、村長の家に入る。
 村長の家だけあって最優先で修繕をしたのか、壊れた壁の半分は元に戻っていた。残りの半分は布で代用しているようだ。
 一方、村唯一の竈は未だ割れたままだ。簡単に修繕できるものではないだろうが、この雨が明日まで降り続けたら、明日はパドやサーラに麦粥を食べさせることができないかもしれない。

「おお、バズ、よく来たな」

 村長は椅子に座ってバズを迎え入れた。
 足を骨折した上に発熱もしていると聞いたが、意外に元気そうに見えた。

 が。

「お父さん、まだ起き上がっては……」

 マーリが慌てた様子で村長に駆け寄ったのをみると、無理矢理元気に見せているだけなのかもしれない。

「心配はいらん。バズ、とりあえずそこに座ってくれ」

 バズは促されるまま椅子に座った。

「マーリ、悪いが畑の様子を見てきてくれないか。1刻くらいじっくり(・・・・・・・・・)と、な」
「……でも、お父さん」
「頼む。ワシはこの通り足が悪いからな」
「……わかりました」

 マーリは心苦しげな表情で頷くと、立ち上がった。
 学のないバズにだって今の会話の意味は理解できる。
『1刻ほど席を外して欲しい。バズと2人きりで話したい』と言ったのだ。
 むろん、畑の復興状況の確認も必要ではあるのだろうが。

「竈は直りませんか」

 マーリが出て行くのを確認してから、バズは村長に尋ねた。

「ガラにもお手上げだそうだ。ガラに無理なら村民の誰にも無理だろう」
「そうですか、残念です」

 竈を失うことによる村の食生活への影響くらい、バズにも想像できる。

「さて、時間も無い。単刀直入に言おう」

 バズの瞳をジッと見つめる村長の顔には悲壮な覚悟が見えた。
 このときになってようやく村長はただ事情聴取をしたいだけではないと、バズは悟った。

「ワシは村長として3日前のことを踏まえ、決断した」

 村長はそこで言葉を句切る。
 よりいっそう険しい顔を浮かべる

「サーラとパドを村から追放する」

 バズは言葉を失った。

 何も言えず、村長の顔をにらみ返す。
 冗談だと言って欲しかった。
 だが、村長の表情は真剣そのものだ。

 身体が震える。
 両手を膝の上で握る。
 頭の中が真っ白になり、やがて真っ黒に変わる。

 今すぐ村長の首根っこを掴んで『ふざけるなっ』と怒鳴りたい。
 かろうじてそうしなかったのは、病床の老人相手だという理性が働いたからだ。
 ゆえにバズは一瞬押し黙り、妻と息子への村長の仕打ちに対して、発するべき言葉を探した。

 抗議の声はバズとはまったく違う、別の人間が上げた。

「なんだよそれ!! 何考えているんだよ!?」

 そう叫んで家の中に飛び込んできたのはジラだった。
 5歳の少年は、その幼い全身全霊で怒りを表明し、バズと村長をにらみつけていた。
 右手を骨折したため木の棒を布で巻き付けて固定されているが、その右手すら振り上げている。

「ジラ!!」

 慌てるようにジラを追ってきたのはキドとサン。

「何だ、お前達、水くみは終わったのか?」

 村長が3人を睨む。

「いえ、雨が振り出しのでいったん戻ってきました」

 キドが答える。

「そうか。だが大人の会話に聞き耳を立てるのは感心しないな」
「すみません、でも……」

 キドが言いよどむ。

「いいからお前達は家に帰りなさい」

 そう言われても、彼らは納得していない様子だ。

「ふざけんなよ!! なんでパドとパドのお母さんが殺されなきゃいけないんだ!!」

 ジラが叫んで村長に駆け寄ろうとする。慌てて彼を抑えるキド。

「殺すなどとは言っていない。村から追放すると言った」

 村長は冷静な声で言う。

「おんなじことだろっ!! 村から追い出されて、今のパドとサーラさんだけで生きていけるかどうかくらい、俺にだってわかる!!」

 キドの拘束から逃れようと暴れながら、ジラがさらに叫ぶ。

 ジラの言うとおりだった。
 村という最低限の保護を失って、子供と心を壊した女だけで生きられるわけがない。
 集落からの追放は健康な大人でも死に直結する。運良く生き残れたとしても盗賊か浮浪者といった人間扱いされない存在に身を落とすしかない。

「キド、ジラ達を連れて戻りなさい」

 村長が命じる。

「ですが……」
「戻りなさい」
「……はい」

 キドは落ち込んだ顔でジラを引きずるように出て行った。

「俺は納得しなからなっ!! パドは村を救ったんだぞ!!」

 子供達が出て行った後も、ジラの叫び声がバズの耳まで届いた。

「バズ、お前も納得は出来まい。なにしろ妻と息子のことだ。だが、今のこの村にはあの2人をかばう余力が無いことは理解してほしい」

 村長は静かに言った。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 子供達が聞き耳を立てていたのは迂闊だった。
 彼らが、そしてバズが納得できないのはよく分かっている。
 それでもなお、バルは村長として決断しなければならなかった。

 怒りに震えるバズに、バルは言葉を続けた。続けなければならなかった。

「3日待ってもサーラは回復する様子がないと聞いた。今のこの村には一切の余裕無い。将来にわたって働けない者を養うことはできん」
「回復しないとは限りません」
「回復するとも限らん」

 バズとバルはにらみ合う。

「……だとして、パドは? 確かに片手を失いましたが仕事が出来なくなったわけではない」
「あの力は普通ではなかった。パドを村に置くことでどんな災いがあるかわからん」
「それは理屈になっていません。パドの力は確かに普通とは違いますが、だからといってそれが村に災いをもたらすなど断ずることは出来ないはずです」

 バズは必死に抗弁してくる。

「だが(げん)に3日前災いはやってきた」

 バルは努めて冷静に言おうとした。上手くいったかはわからないが。

「パドが『闇』を呼び寄せたとでもいうのですか!?」
「そうはいわん。だがヤツはパドを狙っていた。再びあのような存在が村を襲うリスクは無視できん」
「……ですが!!」
「これは村長としての決定だ」
「……っ!!」

 沈黙が流れる。
 バズの顔はゆがみ、怒りと悲しみがあふれかえっている。
 悲痛なバズの顔をから目をそらしたい誘惑を、バルは必死に抑える。
 バズの憎しみは、自分が死ぬまで背負うべきものだ。
 村の将来のためにも、マーリのためにも。

 バルにとって、村人は全員子供のようなものだ。
 バズも、パドも、サーラも、ジラも、キドも、他の誰もを自分の子供のように想っている。

 それでも――いや、だからこそ村を護らなくてはならない。
 村を護るために、切り捨てなければならない現実があるのだ。

「バズ、恨んでくれてかまわん。だが、恨むならワシだけを恨め。どうしても納得いかなければ、ワシを殴れ、ワシを殺せ。どのみちワシは長くない。後のことはマーリに任せよう」

 その言葉に、バズはうつむいた。
 うつむいて、膝に涙を落とした。

「でしたら……でしたら私も村を出ます。一家の(おさ)として私は妻と子を見捨てることだけはできません」

 やはり、そう言うか。

「それを止める権利はワシにはない。だが、3日以内に準備をして欲しい」
「……わかりました」

 答えると、バズは立ち上がり背を向けた。

「これまで、お世話になりましてた」

 振り向かぬまま、バズは言った。

「……村にとって、お前の弓の腕は貴重だった。これまでありがとう。そして、すまない」

 バズはその言葉に返答せず、家から出て行った。

 死後に天国と地獄があるというなら、自分は数年後地獄に送られるのだろうと思う。
 それでも、地獄に招かれる前に、村の損傷を少しでも回復させ、(みな)の生活を安定させるために全力で戦わねばならない。
 それが、この年まで無駄に長生きし、バズ達3人を切る決断をした自分の役目であろう。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 こうして、バズは覚悟を決めた。
 だが、期限の3日が過ぎる前に想像もしなかった人物が村に訪れることを、バズもバルも想像だにしていないのだった。
薄暗い話が続いて申し訳ないです。
村長は悪人でも嫌な人間でもありません。
ただ、『憎まれ役』を買って出ているだけです。

今の村に2人をかばう余裕がないのはもちろんです。
それだけでなく、いみじくも、かつてジラがパドに言ったとおり、働けない者を村に置いておけば不平不満の原因となります。

次回は子供達の話。
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