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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

 第二章の追録

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【闇戦史(歴史家グランゴードル著)その1】 ラクルス村の戦い

色々考えた結果やや強引ではありますが、前章で『第2部 月始祭/闇の襲来』は終わりとさせていただきます。

理由は、早くヒロインを出したいから。
さすがに、これ以上ヒロイン不在で続けるのはよろしくないという焦りがあります。

今回は後年の歴史家による歴史書(という体裁)になります。
【歴史家グランゴードル著 『闇戦史』 第1章より抜粋】

 後に『第二次闇大戦』と呼ばれる(いくさ)は、ゲノコーラ地方の片田舎、ラクルス村で起きた小さな戦いから始まったと記録されている。

 勇者パドがこの片田舎の小さな村の出身であることは、彼の著名さに比べるとあまりにも認知度が低い。
 後年の彼の活躍があまりにも華々しく伝えられるため、小さな村の出身だと言うことを認めたがらない人間も多い(情けないことに著名な歴史家にもそのような見識の人間がいる)。

 英雄は必ずしも高貴な血筋から産まれるわけではない。
 また、彼の功績は確かに大きいが、今日(こんにち)伝えられる活躍のうち多くの部分には作り話(フィクション)誇大表現(ヒィロゥイク)が含まれることに留意すべきである。

 事実、著名な歴史著である『闇と王家の戦史(ミルガノール著)』においてもパド少年が勇者育成学校に入学するところから始まる。
 演劇や吟遊詩人の唄においては勇者育成学校を卒業した後の華々しい戦火のみを描くことが多い。

 しかしながら、歴史的事実を鑑みれば、『闇』と勇者パドの戦いはラクルス村での戦いから始まっていることは疑いようのない事実だ。
 さらにいうならば、彼が後年戦う原動力となった動機の1つにこの戦いにおいて彼の母親が傷つけられことは決して無関係ではありえないだろう。

 よって、本書は『第二次闇大戦』について記すに当たって、まずこの小さな戦いの記録をひもといていこうと思う。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 時に、テオデウス歴602年。
 その日、ラクルス村で起きたと伝わる出来事を散文的に書くのであれば、以下のような流れになる。

 月始祭の終盤、『闇』の先兵が襲来し、パド少年を殺そうとした。
 それをパド少年の母親サーラがかばい、重傷を負った。
 パド少年は自らが隠していた常人の200倍もの力をもって、『闇』と対抗したが、『闇』には通用しなかった。
 上空に連れて行かれたパド少年は漆黒の刃の魔法を取得、闇の拘束から逃れ地面に落下。
 村の子ども達に助け出された彼は、母親に治療魔法を使いう。
 地に降り立った『闇』と再び対峙し、漆黒の刃で闇を切り捨て倒した。

 文章にすれば簡単だ。
 だが、この戦いの記録は錯綜しておりかつ不完全なものが多い。

 記録が混乱している主な理由としては、

1.当事者のほとんどが識字すらできない村人であること
2.王家ならびに関係者によって記録が秘匿された形跡が其処彼処(そこかしこ)に存在すること
3.勇者パドの活躍はこれより後こそが目立ち、近年になるまで歴史家のあいだでもラクルス村での戦いはマイナーな存在であったこと

 などがあげられる。

 まず、以下にこの事件に関し証言されたそれぞれの発言とされる言葉を記載する。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

《ラクルス村長老兼村長 バル》

 私には何が起きたのかさっぱり分かりませんでした。
 あの真っ黒な人影――『闇』も、そして突然力を見せたパドも、あのときは恐ろしく感じました。
 いくら、子ども達に「パドはパドだ」と言われても、村長としてそれを受け入れて良いものだったか、いまでも悩んでいます。

 戦いそのものでございますか。
 正直、私には理解できるモノではありませんでした。
 一体、あの『闇』はなんなのでしょうか?
 またあのようなものが村を襲ったらと思うと、ただただ恐ろしく感じます。

(事件の半月後、ある事情によりラクルス村を尋ねた第四王女 アル・テオデウス・レオノルに対しての発言とされるが、出所(でどころ)不明)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

《パドの父、バズの証言》

 実はその前日に、パドが力を持ってうまれたことは本人から聞いていました。
 はい、前日です。聞いたのが直近だったことは偶然かと思います。

(以下、数行に渡り機密扱いにて記録に残らず)

 漆黒の刃については、パド曰く、魔法がほしいと願ったら手に入ったと……それ以上は私にも話しません。
 それよりも、親としてはパドがショックを受けていることが気になります。
 それに、パドがこのままこの村で暮らしていけるのかどうか、そのことも気がかりです。
 (みな)、口には出しませんが、『闇』の襲来がパドのせいではないのかと思っているようです。

 あの子は優しい子です。幸せになりたいと願っているだけの、普通の子です。
 私は父としてそう信じています。

 傷を負い、心を壊してしまったサーラ(注:バズの妻にてパドの母)と同じく、私はパドを護りたいと願うのみです。

(事件の半月後、ある事情によりラクルス村を尋ねた第四王女 アル・テオデウス・レオノルに対しての発言 / 『聖テオデウス王国 戦史 付随第7巻』)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

《パドの友人 ジラ》

 パドについて?
 パドはさ、あの事件より前から変なヤツだったよ。
 今から思えば『良い子』なんだろうけど、ガキだった俺から見れば『生意気』としか言いようがなかったね。
 はっきり言えば、『不気味だなぁ』とすら思っていたよ。

 具体的に?
 だって、3歳の時にいつも丁寧語でしゃべっていたんだぜ?
 この村じゃ大人でもあんなしゃべり方ほとんどしないって。

 ガキのくせに遊んだりしなし、笑うこともしなかったな。
 まあ、今思えばとんでもない力を持っていて、必死に自制していたんだって思う。
 だけど、そんなこと俺には分かりようがなかったしさ。

 力を見たとき?
 うーん、怖いとかは思わなかったな。
 何しろ、その数日前に、俺、パドのことぶん殴っているんだぜ。
 それなのに、あいつは反撃1つしなかったからなぁ。

『闇』のこと?
 俺には未だにあれがなんなのかサッパリだ。
 でも、あれを切り捨てたパドはかっこよかったぜ。

 俺がパドを助けた? 
 何のことだ?
 ああ、落ちてきたパドを引っ張り上げたことか。
 別に深い考えなんてねーよ。
 ガキだったしさ。自分よりチビのい子を助けたいって思っただけ。

 事件後、1番むかついたのは、親父達だな。
 村を護ったパドを、まるで化け物かのごとく言うんだ。
 俺にもパドには近づくななんて命令して。
 だから、俺ら子ども達だけでもパドの味方でいてやりたいって思った。
 今なら親父達の気持ちも分かるけどさ。

 王女様が来て、パドを勇者育成学校に連れて行きたいと言ったときも、内心穏やかじゃなかったよ。
 だって、パドはまだ3歳だぜ。
 親元から引き離して(みやこ)に連れて行くなんてひでーじゃん。
 それなのに、親父達は大賛成でさ。
 まあ、最終的にはパド自身も望んだみたいだから、俺から何か言うことはなかったけど。

 まあ、いずれにしても、あいつはスゲーヤツだよ。
 力がどうこうじゃなくてさ。
 あいつと同じ力があったら、当時の俺が『闇』と戦えたかって思うと、やっぱ、それは無理だと思うんだ。
 っていうか、今でも無理だ。

 この間、俺が初めて盗賊と戦った時なんて、両手両足震えて何の役にも立てなかったからなぁ。
 命がけの戦いって言うのは、そう簡単にできるもんじゃないよ。

 それにしても、パドもついに勇者かぁ。
 やっぱり、俺とは持ってうまれてもんが違うのかね。

(10年後 ゲノコーラ地方領に傭兵職につき、仲閒に語ったとされる言葉。ただし、酒の席での言葉ともいわれ、正式に記録されたわけではない為、後年の創作の可能性も高い)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

《パド》

 パド少年がこの事件に関して証言した言葉は、実のところ正式には残っていない。
 むろん、その後、彼が知り合いにこの最初の事件について語ることは何度もあったが、それらの記録は断片的にしか残されていないのだ。
 また、少年時代の証言を後年になってから翻している例も多く、その後『王家の勇者』となった彼の複雑な環境が垣間見られる。

 それでも彼の証言に共通するとしては、以下の3点があげられる。

1.パド少年が魔法を得たのは戦いのさなかであったこと。
2.自分が何故力を持って産まれたのかは分からないということ
3.戦いの時は、母親を傷つけられ頭に血が上っていたということ

 だが、3はともかく、1と2の証言は真偽は怪しい。

 第1に疑問とされるのは、いかにしてパド少年が魔法を得たかである。
 当時聖テオデウス王国においては、精霊との契約は教会が統一的に管理していた。
 ラクルス村には教会がなかったし、当時3歳の村人に過ぎない彼に教会が精霊と契約させるわけがない。

 むろん、当時においても教会の管理外の魔法がわずかながら存在した。
 たとえば、今日(こんにち)でも伝統的にエルフ族や獣人族としか契約しない精霊の存在が確認されるが、これらは当時の教会も管理できていなかった。
 なにしろエルフ族や獣人族は排他的であり、人間族とはある程度不干渉であることが暗黙の了解である。
 だが、勇者パドは人間族であるから、この例には当たらない。

 実は勇者パドはエルフ族であったのではないかという説もあるが、様々な記録を見る限り信憑性に欠ける(後年の彼の仲閒にエルフ属や獣人族がいたことは事実であるが)。

 歴史をひもとけば、精霊ではなく神と契約したとされる大魔法使いの存在も描かれるが、これは歴史家や魔法学研究者の間でも意見が分かれる。
 はたして、全知全能たるべき神が人間と契約などするものであろうか。
 強力な精霊と契約した魔法使いが、自身の箔をつける為に神と契約したのだと言い張っていただけではないかという論も根強い。他ならぬ筆者もその意見に賛成である。

 そして、周知の通り、精霊との契約は祭壇において何らかの対価を払うことによってのみなせる(場合によっては儀式も必要)。
 戦いの最中に魔法を得るなどということはどだい無理な話なのである。

 戦いが月始祭の日であったことから、月始祭こそが魔法の契約の儀式であったのではないかという説を唱える者もいる。
 が、この説を唱える者は当時の農村の実態を知らないと断じざるをえない。

 当時の農村ではパンや肉類は滅多に口にできるものではなく、月始祭は数少ない肉を食する機会であった。
 逆に言えば月始祭とは月1回肉やパンを食べられるお楽しみの日という以上の意味は無い。これは周辺の村々の文化を見ても明らかである。

 そもそも、パド少年は何を対価に魔法を得たのか。
 彼の使う『漆黒の刃の魔法』は他に類をみない強力なものであるが、これだけの魔法を得るからには相応の対価が必要であったはずだ。

 これに関してはいくつかの説があり、戦いの後壊れた母親の心とする説と、失われた左手首だとする説が根強い。
 だが、果たして3歳の子どもがとっさにそのような対価を払うことを選択できるであろうか? 筆者にはとても信じられない。

 ここで、筆者は大胆な説を読者に提示したいと考える。
『漆黒の刃の魔法』は、王家が秘匿していたものではないのかという考察だ。
 もちろん建国時、自身の知る王家は全ての魔法を教会の管理に置くことに同意したとされている。
 が、初代勇者にして初代国王テオデウス一世が残した魔法を、王家が密かに伝承していたとしたらどうか?

 勇者パドが王家と関わったのはこの戦いの後であるので、この場合彼が魔法を契約したのも後日のことである可能性が高い。
 後年、彼が魔法の契約に関して言葉を濁しているのは、王家の機密に関わることであるからと考えれば納得もいく。
 むろん、『闇』を倒すのに魔法が不可欠であるとする記録と矛盾するが、その記録自体王家が残したものである。

 私は魔法学の専門家ではなく、また本書は魔道書ではなく歴史書であるから、この件に関するこれ以上の考察は他に譲るが、いずれにせよ勇者パドが愛用したとされる漆黒の刃の魔法に関しては不明点があまりにも多く、王家によって何らかの秘匿があったと考えるべきであろう。

 疑問点の第2は勇者パドが産まれ持った力についてである。
 彼の異常な怪力については様々な記録から疑う余地はないが、自分はその理由が分からないという証言ををそのまま信られるかは微妙である。

 彼が勇者育成学校で同級生に『自分が力を持っているのは"テンセイシャ"だからだ』と語ったとされる記録が非公式ながら存在する。
 彼の力の秘密は『テンセイシャ』だったからではないのか。
 だとすれば彼は自分が力を持って産まれた理由を知っていたことになる。
 もっとも、この記録は王家の検閲を奇跡的に逃れて今日(こんにち)まで伝わったものであり、詳細は不明である。

 また『テンセイシャ』という言葉の意味が不明である点は留意すべきだ。
 これに関して、多くの歴史家、言語学者によって研究されているが、今なお答えが出ない。

『意味が分からない言葉なのであるから、この発言自体が創作であろう』とする乱暴な意見もある。
 しかしながら、私は異なる見解を持つ。
 歴史学的な常識からすれば、『創作された事実』であるならばこそ、一見『意味の理解できるもっともらしい言葉』で語られるケースが多い(ただし、詳しく調べればボロが出ることも多いのだが)。
 人は全く意味不明な言葉を創作して事実だと後生まで伝えようなどとは考えないものである。

 先述したパドの父親、バズの証言に機密扱いにて記録が消去されている部分があったことを思い出してほしい。
 文章の流れを見れば、パド少年から受けた『力に関する説明』を語った部分だと考えられないだろうか?
 だとするならば、削除したものとはなんだろうか?
 答えは『力を持ってうまれた理由』であろう。

 とはいえ、私にも『テンセイシャ』という言葉の意味は解釈できていない。
 長年様々な可能性を検討してきたのだが、どうにも結論が出ないのだ。
 この結論を出さずに本書を執筆することは、1人の研究者として忸怩(じくじ)たる思いがあるのだが、私の存命中に本書を残すことを優先したいと思う。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 実のところ、ラクルス村での戦いを直接目撃した人間の記録はこれ以外に残されていない。
 先にも述べたとおり、戦いの当時ラクルス村には文字を書ける人間が1人もいなかったのだから、文章として記録が残ることは難しい。
 上述のそれぞれの言葉も伝聞によるものが多く、どこまで信頼に値するか難しい。
 特にパドの父、バズの発言は王家によって改竄されている可能性が極めて高い。

 後年、この戦いについて王家や教会が示した見解はある。
 気になる読者諸氏は『聖テオデウス王国 戦史 付随第7巻』、並びに『経典 付随第2巻』を参照されたい。

 しかしながらこれらの書物は、率直にいって虚実が入り交じっていると断じざるをえない。
 むしろ、私からすれば『実』よりも『虚』の方が多いと感じるほどだ。

 なにしろ、『聖テオデウス王国 戦史』によれば、勇者パドは初代勇者であり初代国王テオデウス一世の生まれ変わりであるなどと堂々と書かれているし、『経典』には勇者パドは神の使いだと書かれているのだ。

 しかしながら一般常識的に考えれば、生まれ変わりだの神の使いだのといったことが非現実的で、迷信じみた話しであることは疑う余地もない。
 このような前提に立っている文章を歴史家として信ずることはできない。

 この二つの書物からは王家、教会それぞれが勇者パドの活躍を自分たちの支配力に都合良く結びつけるための記載が多く含まれていることは明らかであり、王家、教会それぞれの政治的意図が透けて見える。
 これらの記述が後年の王国政治史においてどのように使われたかという意味では極めて重要な資料ではあるものの、『第二次闇大戦』の真実を紐解くという本書の趣旨からすれば到底参考にしがたい書物である。

 以降においても、本書ではこの『聖テオデウス王国 戦史』並びに『経典』の記載は参考程度以上には扱わないこととする。
 バズの発言が王家によって改変されている可能性を示唆したのも、発言の出展が『聖テオデウス王国 戦史』であるからである。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 以上のようにラクルス村の戦いには謎が多い。

 いずれにせよ、この数日後に教会が重大な意味を持つ『神託』を公表し、王家がそれに対抗するように第四王女 アル・テオデウス・レオノルをラクルス村に送り出したことは事実である。
 次章では当時の王家と教会、そして貴族の複雑な政治背景を述べると共に、王家による勇者育成学校などという我々の時代から考えれば馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない施設が作られるに至った道筋を解説したいと思う。
というわけで、パドくんは『闇』に勝ったものの、お母さんは心を壊してしまいました。
……といったようなことを、本来なら5話くらいかけて書くつもりだったのですが、やや強引な方法で終結させていただきました。
(当初、お母さんは幼児退行したとしていましたが、連載再開前の2016/08/14に訂正させていただきました)

『闇』との戦いのパドくん視点での現実の描写については、後でフォローしますので、今はこれで許してください。

第三部からはラクルス村の外へと話が広がります。
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