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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第二章 月始祭/闇の襲来

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3.契約

自分をかばって倒れる母親。
『闇』に蹂躙される村とパド。
せめて魔法が使えれば……

そう願ったパドのもとに届いた声は、果たして敵か味方か?
「魔法、あげようか?」

 その声は耳から入ってきたのではなく、僕の脳内に直接響いた。

(だれ?)

 首を絞められていた僕のその思いは声にならなかった。

「ボクが誰かなんてどうでもいいじゃないか。キミは魔法がほしいんだろう? だからあげようかって言っているんだ」

 僕の心の中を読んだかのように、さらに声が届く。
 その魔法があれば、あの『闇』を倒せるののか?

「それは君次第だよ。だけど、あれは物理世界に具現化した虚実の存在だからね。いくらキミが殴っても効果はない。倒すなら魔法が必要だ。そしてボクは魔法をキミに提供できる」

 この相手は信用できるのか?
 いや、そんなことは関係ない。
 このままじゃ『闇』には勝てない。
 だったら……

 わかった、魔法をちょうだい。

「いいだろう」

 相手の顔が見えるわけでもないのに、その言葉の主はニヤリと笑ったのだろうと僕はなぜか確信した。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 気がつくと、目の前が真っ暗な場所にいた。
 いや、真っ暗なんていうものじゃない。真っ黒だ。

 思い出されるのは3年前、おねーさん神様と出会った場所。
 あそこは混じりっけのない真っ白な世界だった。
 ここは混じりっけのない真っ黒な世界だ。

 まさか――また死んだのか。
 お母さんを貫いた『闇』に僕も殺された?

 そう思った次の瞬間だった。

「違うよ。キミは死んでいない。いや、3年前に死んでいるけど、今回は死んでいないよ」

 突然、先ほど簿の頭の中に響いたのと同じ声とともに、僕と同じくらいの背格好――つまり、3歳前後の幼児――の姿をした少年が現れた。
 服装はラクルス村の子供とはまるで違う。
 前世の世界のテレビでみた子供服に近い。

 ……あれ? なんでこんな暗闇の中で相手が見えるんだ?

「キミの魂だけを呼ばせてもらったんだよ。魂が何かを知覚するのに光は関係ない。そもそも魂には網膜がないしね。
 ……というか、そんなことを気にしている場合じゃないだろう?」

 確かにそれどころじゃないけど。
 あ、声を出そうとしても出ない。
 3年前と同じだ。世界が白いか黒いかの差はあるけど。

「ともあれ会いたかったよ。パドくん――あるいは桜勇太くんと呼ぶべきかな?」

 やっぱり。
 こいつは僕の前世を知っている。
 いや、僕が転生者だと知っているという表現が正しいか。

「やだなぁ、『こいつ』だなんて。言葉が汚いよ。村の中では必要以上に丁寧語のくせに」

 そうはいわれても、名乗られていないからね。
 それに、僕の本能が警告する。こいつは信用ならない相手だと。

「ヒドイなぁ。せっかく助けてあげようっていうのに」

 すねたような顔を浮かべる彼。

「ま、いいや。必要な説明をしよう。
 まず、今の状況についてだ。キミと話をするためにこの世界にキミの魂を呼び寄せた。
 元の世界では時間が止まっているからここで話している間に殺される心配はない」

 ここはゆっくり話をするための空間ってことか。

「その通り。次に魔法についてだ。
 キミの――パドくんの世界には確かに魔法使いがいる。だけど魔法を使うためには神か精霊と契約しなくてはならない。言い換えれば神や精霊の示す何らかの条件と引き替えに魔法を手にすることができる。
 ま、精霊はともかく神はそう簡単に人間と契約なんてしないけど。
 キミが住んでいる国ではテオデルス信教という宗教団体が、精霊との契約方法の大部分を独占しているみたいだけどね」

 つまり、魔法をくれると言っているこいつは神か精霊のどちらかということか。

「……厳密には僕はそのどちらでもない存在だ。今はね。だが、キミに魔法をさずけることはできる」

 そう言って彼はニヤっと笑った。
 怪しい、怪しすぎるぞ、コイツ。
 コイツの説明が正しいならば、神でも精霊でもないというコイツが魔法を授けられるわけがない。
 つまり、魔法についての説明か、コイツ自身の出自についての説明か、どちらかに嘘があるってことだ。

「いいや。ボクは嘘はつかない。神や精霊、それにボクのような存在は人間に対して嘘をつくことができないように作られているんだ」

 言われれば言われるほど怪しい。
 嘘をつくことができないということ自体が嘘くさい。

 そもそも、コイツは『会いたかった』と言った。
 でも、それにしてはあまりにもタイミングが良すぎる。
『闇』が襲いかかってきて、ボクが殺される寸前になって『初めて会えた』なんて、明らかに『狙ったタイミング』だ。『狙ったような(・・・)タイミング』とすらいえないだろう。

「それには理由があるんだよ。魔法を心から欲している人間にしか魔法を授けることはできない。そして、ボクのような存在が人間に会える状況は限られていてね。その数少ない例外が魔法を授ける時なんだ」

 ……一応、理屈は通っている……か?
 しかし、やっぱり信用できない。

 おねーさん神様とは違う。
 彼女は僕のことをを想っていたけど、コイツは別のことを考えている。

「おねーさん神様――ああ、キミを転生させたマヌケな下級神か」

 マヌケ?

「まーね。彼女は色々やらかしているけど、なにより2倍のつもりで、間違ってキミに200倍の力と魔力を与えるっていうのは致命的なミスだったよね。
 ミスっていうか、もうギャグでしょ。ボクも久々に笑わせてもらったよ」

 200倍――やっぱりそうだよなぁ。どう考えても2倍じゃないよなぁ。

「あ、そこだけは信じるんだね」

 まあ、実感がこもっているから。

「とはいえ、今のキミにとってそれは朗報ともいえる。
 ボクの与える魔法は一般人の魔力ではとても扱えるモノじゃないけど、キミの魔力があればどうにかなるだろうからね。
 ついでに死にかけているキミのお母さんを助ける魔法も与えるよ」

 お母さんを助ける!?

「お、食いついたね。キミのお母さんはまだわずかに生きている。ボクは彼女の傷を回復させる魔法と『闇』を倒す魔法をセットでキミに渡す用意がある」

 本当に!?

「もちろん、キミがボクと契約してくれたらだけどね」

 そう言って彼が浮かべた笑みは、幼児の見かけにはまったく似つかわしくない邪悪に満ちているように感じられた。

 契約って、一体なにをしろって言うんだ?

「キミの大切なモノをボクに捧げてほしい」

 大切なモノ……?
 何のことだ?

「キミの家族の命だよ」

 彼はニヤニヤしたまま言った。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ふざけるな!!

 瞬間、ボクの頭の中が沸騰した。
 お母さんを助ける魔法をくれると言っておきながら家族の命を捧げろ!?

 助けたお母さんの命をよこせって言うのか?
 それともお父さんの?

 そんなこと絶対にうなずけない!!

「まあまあ、落ち着けよ。キミの家族はその2人だけじゃないだろ?」

 そうはいわれても、僕の祖父母はすでに他界しているし、この世界には兄弟もいない。
 もちろん、いたとしてもその命を差し出したりしないけど。

「そうかな? キミのは他にも両親と弟がいるはずだ。前世の世界にね」

 僕ははっと目を見開く。
 こいつが言いたいことがようやく分かったのだ。

「今生の家族を大切に思うなら前世の家族の命を捧げれば良い。父親か母親か弟か。誰か1人でいいよ」

 僕の頭の中に転生する寸前におねーさん神様が見せてくれた3人の姿が浮かぶ。
 桜勇太の遺体にすがって泣くお母さん。
 お母さんを支えるお父さん。
 2人をしっかりと抱きかける稔。

 あの3人の誰かの命を捧げる?

 ふ、ふざかるなっ!!
 そんなことできるわけないだろう!!

「そうかい、じゃあ、今の家族の命にする? ボクはどっちでもいいけど?」

 耳の裏をカキカキしながら告げる彼。
 神でも精霊でもないというコイツは、もしかすると悪魔かなかにかじゅないのか!?

「ひどいなぁ、ボクみたいな純粋無垢なお子様を悪魔よばわりだなんて」

 いや、なんとなくだけど、コイツの真の姿は幼児じゃないような気がする。

「ま、ボクみたいな存在に『真の姿』なんてないけどね。
 で、どうするの? 誰の命をくれるの?」

 だから、そんな契約は絶対にしない!!

 僕の言葉に、そいつは笑い出す。

「クククっ、なるほどねぇ。つまり魔法はいらないと。じゃあ、キミはこのままヤツに殺されるね。
 もちろんお母さんも助からないし、お父さんや村のみんなも殺されるかもね。
 せっかくボクが助かるかもしれない力をあげるっていっているのに断るということは、つまりキミが村人全員を殺すってことと同じだね」

 ……それはっ。

「ボクに捧げるなら死ぬのは1人だけ。でもこのままなら30人以上死ぬ。キミ自身を含めてね。どちらを選ぶべきか単純な算数の問題(・・・・・・・・)だろう?」

 こいつ……!!

 ボクは確信する。
 コイツを信用してはいけない。
 人の命を『単純な算数の問題』といいきったコイツは、ボクとは絶対に相容れない存在だ。

 前世の僕は病室から出る見込みがなかった。
 それこそ『単純な算数の問題』として考えれば、完治の見込みがない桜勇太に医療費をかけるなら、もっと助かる見込みのある人間の医療費にまわすべきだという意見だってあるだろう。
 だけど、それでも僕は――桜勇太は11年間戦った。

 だから、僕は信じている。
 人の命は『単純な算数の問題』で語れるようなものではないと。

「はぁ、やれやれ」

 彼はわざとらしくため息をつき、両手を広げて首を左右に振った。

「正直、ボクには理解しかねるね。キミは『パド』として今の世界で幸せになりたいんだろう? 前世の家族がどうなろうと、今のキミには一切関係ないじゃないか。
 それともいつかは前世の家族とも再会できるとか期待しているの? 断言しても良いけど、人間が世界を渡るなんて不可能だよ」

 そんなこと、期待していない。

「だったら、今の家族と村のみんなを大切にするべきだろう? 前世の家族の命なんてどうでもいいじゃないか。」

 そんなわけないだろ!!

「なぜ? キミの言い分は全く論理的じゃない。前世の家族の命は『パド』の人生においてなんら意味を持たないはず。それなのに、なぜキミは前世の家族に義理立てする?」

 心底分からないという表情で彼は言う。

 たぶん、彼は本心から不思議がっているのだろう。
 そして、僕が何を言っても彼は理解しないだろうとも思う。

 彼の価値観を僕は受け入れられないし、彼は僕の価値観を理解できない。

「じゃあ、しょうがない。これが最後の提案だ。家族の命が嫌だというなら、別の捧げ物をもらおう」

 ――別の捧げ物?

「そうだなぁ……キミの左手首でももらうか」

 ――左手首。

「心配しなくてもサービスで止血処理はするし、痛みも感じないように切り取ってあげる」

 僕は自分の左手首を見る。
 彼の言葉を信じるなら、今の僕は魂だけの存在だ。
 しかし、確かに左手が認識できる。
 左手を握って、開いて、もう1度握った。

「これ以上ボクは譲歩するつもりはない。
 今のキミには3つの選択肢がある。

 1.今の家族の命をボクに捧げて魔法を手に入れる
 2.前世の家族の命をボクに捧げて魔法を手に入れる
 3.自分の左手首をボクに捧げて魔法を手に入れる

 さあ、どうする?」

 目の前の幼児の顔は今までで1番不愉快な笑みに彩られた。

「あ、4つめの選択肢として、せっかくの魔法を手に入れる機会を逃して、このままヤツに殺されて、お母さんも助けないっていうのもあるね」

 僕は彼をにらみつける。

「念のため言っておくけど、殺されるまでに僕以外の精霊やら神やらが他の魔法を授けてくれるかもしれないとか、突然勇者様が村を都合良く訪問して救ってくれるかもしれないとか、実は村人の中に強力な魔法使いがいたとか、そんな非現実的な期待は抱かない方がいいよ。
 僕と契約しないなら、キミに待っているのは自分と、家族と、村の人間達の死だけだ」

 本当にお前と契約すればお母さんを助けて、『闇』を倒せるのか?

「保証はできないよ。
 ボクは回復系の魔法は専門外でね。お母さんの傷をふさぐ魔法はあげられるけど失った血液を与えることはできないから、手遅れになる可能性はある。
 攻撃系に関しても、あくまでも戦うのはキミ自身だから、勝てるかどうかもキミ次第だね。
 でも、このままならお母さんが助かる可能性も、キミがヤツを倒せる可能性も0%だ。
 ボクと契約すれば0%が50%になるくらいに考えれば良い。こっちの算数の問題はキミも理解できるだろ?」

 ここまで言われれば、僕の選択肢はもう1つしかない。

 わかった、僕の手首をやるよ。だから魔法をよこせ。

 ボクのその言葉に、彼はニッコリほほえんだ。

「よし、それじゃあ契約成立だね」

 彼はそう言って、ボクの額に指を当てた。
そんなわけで、怪しさムンムンの存在と契約を結んだパド。
果たしてどうなる!?
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