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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第二章 月始祭/闇の襲来

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2.闇

月始祭に現れた『闇』
パドくんが『村の子どもA』でいられる時間は終わりを告げます。
 後になって色々なことを後悔した。

 なぜ『闇』が現れたときにみんなで逃げなかったのか。
 なぜ『闇』に対してああも無防備に呆然としてしまったのか。
 なぜ『闇』の攻撃をよけようとすらしなかったのか。
 なぜ『闇』を即座に危険な存在(もの)だと判断できなかったのか。

 ――いや、そもそもなぜ、チートを持って産まれてきたのに、戦う(すべ)も魔法も学ぼうとせず、それまでのんきに暮らしていたのか。

 後から考えればいくらでも後悔はできた。

 でも、それは『後から考えれば』だ。
 平和な村に、突然人型の『闇』が降りてきて、いきなり攻撃を仕掛けてきたときに、ただの村人がそうそう反応できるものじゃない。
 チートがあろうがなかろうが、戦う訓練を受けていなければとっさの判断なんてできない。

 結局、眼前に迫った『闇』の指先を認識してなお、僕はそれが自分たちの命を脅かすものだと認識できず棒立ちしていた。

「パド!!」

 僕を我に返らせたのは、僕を突き飛ばしてお母さんが上げた悲鳴ような叫び声だった。
 お母さんが突き飛ばしてくれたおかげで、僕は『闇』の攻撃を受けずにすんだ。

 だけど。

 地面に転がって、あわてて開けた僕の目に飛び込んできたのは、闇の指にお腹を貫かれたお母さんだった。

「お母さん!!」
「サーラ!!」

 僕とお父さんが叫ぶ。

『闇』の指はお母さんを指した後、スルスルと縮まる。
 その人差し指からはお母さんの血がしたたり落ちていた。

 僕とお父さんがお母さんに駆け寄る。
 お母さんの服がどす黒い血痕に染まっていく。

「お母さん、お母さん、しっかりして!!」

 僕は叫ぶ。

「……パ……ド……」

 お母さんは苦しげに言う。その口からも血液が漏れる。
 それを見て僕は理解してしまった。

 お母さんは、もう、助からない。

 前世の世界なら――桜勇太が入院していた病院の医療技術があれば――今すぐ治療すれば助かるかもしれない。
 輸血して、抗生剤を点滴して、緊急手術をすれば、まだ助かる見込みは0じゃないかもしれない。
 もちろん、あの『闇』が邪魔しなければという条件付きだけど。

 だけど、この世界にそんな医療技術はない。
 お母さんの傷を縫うことも、輸血することも、点滴で抗生剤を入れることもできない。
 おねーさん神様が言っていたようにこの世界に『魔法』存在するのだとしても、この村にベ○マみたいな便利な魔法を使える人なんていない。

 だから――こんな傷を負った人間は――もう、助からない。

「……ごめん……なさ……い……あなたを……きらって……わけじゃ……い……の……」

 お母さんの声が徐々に小さくなる。
 お母さんの身体から、徐々に力が抜けていく。

 僕は『闇』に向き直った。
『闇』は再び僕に向けて指を伸ばそうとしていた。

「お前、なにをやった……」

『闇』の白い歯がニヤリと笑う。

「なにをやったかって聞いているんだ!?」

 僕は叫びながら、思いっきり地面を蹴った。
 パドとして転生して、こんなに強く地面を蹴飛ばしたことはない。
 いつも、慎重に力を抑えていた。

 だけど――今はそんなこと気にしない!!

 僕が踏み込んだ地面が崩れる。
 お父さんがお母さんを抱きかかえたまま、崩れた地面に巻き込まれないよう待避してくれたのはありがたかった。

 一蹴りで5メートルは離れていた『闇』の眼前へとたどり着く。
 それでも、『闇』の歯はへらへらと笑ったままだ。

「やっと笑ってくれたんだぞ!!」

 僕は右手を振りかぶり、『闇』の顔面に叩き込む。

 誰かを殴るなんて初めての経験だった。
 3年間――いや、14年間生きていて、誰かを攻撃しようなんて考えたこともなかった。

 でも!!

 お前は!!

 僕の拳は『闇』の頭を地面に押しつけ、さらに地面に大きなクレーターを作る。

 かまうものか!!

「やっと、やっと、笑ってくれたんだ!! それを!!」

 僕は自分の作ったクレータの中心部で、『闇』の首に馬乗りになり、左手でもう1発殴る。
 さらにクレーターが大きくなる。

 それでも、『闇』の顔はつぶれない。
『闇』は声を立てずに笑い続ける。

「許さない!!」

 再び右手を振り下ろす。
 お前が何者だろうと許さない!!
 僕が皆にどう思われようと知ったことか!!

「絶対に許さない!!」

 左手、右手、左手、右手……

 何発も何発も、僕は『闇』の顔面に拳をたたき込み続けた。
 クレーターはすでに大人の背丈以上の深さを持った大穴になっていた。

 村人達が巻き込まれないかどうかなど、僕の思考にはすでになかった。

 こいつを許さない!
 絶対に許さない!!

 殴る、殴る、殴る、殴るっ!!

 チートの力で何度殴りつけても骨折していないのだから、きっと僕の身体の丈夫さにもチートが働いているのだろう。
 それでも、少しずつ拳に痛みを感じてくる。
 徐々に皮がむけ、僕の拳からも血がにじむ。

 でも、こんな痛みなんでもない!!
 前世でいつも感じて痛みに比べれば。
 さっき、お母さんが感じた痛みに比べれば。

 殴って、殴って、殴って。

 それでも、それでも、『闇』はニヤニヤ顔をやめない。

 ――と。

 僕の首に何かが巻き付いた。

 何!?

 首を起点に僕の身体が持ち上がる。

 これは――『闇』の指!!??
 背後から指が伸びてきていたのか!?
 僕の首にお母さんの血液がついたままの『闇』指が僕を締め上げる。

「離せっ!!」

 首を絞められかけた僕は『闇』の指を掴んでもがく。
 だが、ヤツの力も強い。
 僕を持ち上げた『闇』は穴の中心部で立ち上がり、再び空へと浮かぶ。

「くっ」

 なんとか『闇』の束縛から逃れようとするが、『闇』の指の力はものすごい。
 首を絞められても窒息せずにいられるのは、僕のチートの力で必死に抵抗しているからだ。

 だけど――もう――

 すでに上空10メートルには達しているだろうか。
 眼下を見ると村全体を見渡せた。

 3年間、僕が暮らしてきた村。
 水くみに通った川も、お父さんが(みやこ)に向かって放尿した崖も見える。
 こんな状況で無ければ絶景に感動したかもしれない。

 そして、村の中心部の広場には大きなクレーターができ、村人達が呆然と上空の僕と『闇』を見上げている。
 お父さんが倒れたお母さんを抱きかかえて何事かを叫んでいる。

 僕は再び『闇』をにらみつけた。
 ヤツはまだニヤニヤと笑い続けている。

 ちくしょうっ!!
 どうしたらいい!?
 どうしたらコイツを倒せる!?

 僕のチートでいくら殴っても、コイツはダメージを食らった様子がない。
 ただ殴るだけじゃダメなんだ。

 なら武器?
 武器――おねーさん神様は、この世界を『剣と魔法の世界』だと言っていた。
 鉄の剣があれば『闇』の指を切れる?
 でも、そんなもの村で見たことが無い。
 この村にある武器なんて狩りに使う弓と木剣くらいだ。
 それで倒せるなら僕の拳で倒せているはずだ。

 だんだん『闇』の指の力に耐えきれなくなる。
 首を絞められて窒息してしまえば、それで終わりだ。
 いくらチートがあろうと、息をせずに人間は生きられない。

 剣でなければ――そうだ、『魔法』
 おねーさん神様は、僕に2倍の力と魔力をくれると言っていた。

 でももらった力は2倍どころじゃなかった。
 だったら、魔力だってそうなんじゃないのか?
 とてつもない魔力を、僕の魂は秘めているのでは?

 確証なんてないけど。
 でも、もしも僕がそんな魔力を持っているなら。
 魔法が使えるなら。
 コイツを――お母さんを貫いた『闇』を倒せるかもしれない。

 でも、一体どうしたらを使える?
 前世の知識を思い出す。
 病室から出ることができなかった桜勇太だけど、テレビやゲームの知識なら少しはある。

 魔法を使う方法――
 たとえば、前世でやったゲーム――ドラ○エなら……
 呪文?
 だけど、どんな呪文だ?

 少なくとも『メ○』と唱えたら炎が飛び出したり、『ホ○ミ』と唱えたら傷が治たりするほど簡単に使えるのではないだろう。
 もしそんなに簡単に魔法が使える世界なら、いくらラクルス村が田舎とはいえ魔法の使い方くらいは伝わっているはずだ。

 呪文が長い?
 それとも、魔法陣とかが必要なのか?
 あるいは――

 ――わからない。
 いくら考えても、分かるわけが無い。
 僕はこの世界の魔法についてなんて何も知らないのだから。

(魔法、魔法、魔法――魔法の使い方――誰か、教えて!!)

 僕が叫び声にも似た悲鳴を心の中で上げた瞬間だった。

『魔法、あげようか?』

 無邪気な子どものようで、だけどとても冷たく残酷にも聞こえる声が、僕の頭の中に響いたのだった。
『闇』によって蹂躙されようとする中、突如パドの頭の中に響いた声の主は、救いの神か、破滅を呼ぶ悪魔か。

究極の選択を迫られたとき、パドが選ぶ道は!?

次回、『契約』、お楽しみに。

(あ、なんか今回アニメの予告編みたいだ^_^;)
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