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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第二章 闇の襲来

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1.祭りの始まり

第2章、『闇の襲来』スタートです。

第1章でパドくんが取り戻しかけた家族の絆。
しかし、あまりにも唐突にそれをぶち壊す存在が現れます。
 ラクルス村では月の初めに月始祭が開かれる。
 ちなみに、この世界のひと月は30日だ。
 前世とほぼ同じなのは偶然なのだろうか。

 祭りとっても、そんなにたいしたことをするわけじゃない。
 前世の祭りは、御神輿なるものを担いだり、夜店なるものが出たりするらしいけど、ラクルス村に余裕はない。
 そもそも、前世の祭りと違って宗教的な意味合いも薄い。

 広場にてみんなで肉や魚、パンなど普段食べられない食事をするだけだ。
 村長一家だけでなく、村のみんなが数日前から食材や調理の準備をする。
 食事をするだけとはいえ、普段麦粥と野菜しか食べられない僕らにとってはとても楽しみなイベントである。
 村民皆で自宅からお皿を持って集まり、配られる料理を楽しみに待つ。

 僕の隣にはお父さんとお母さんがいる。
 まだわだかまりが完全に解けたわけじゃないけど、いつもよりお母さんの表情が明るい。

 と。

 僕の方にジラが駆け寄ってきた。

「パド、一昨日はゴメン」

 ジラはそう言って手を前で合わせた。

「怪我、もう大丈夫か?」
「はい」
「俺さ、あの後母ちゃんと父ちゃんにスゲー怒られて、げんこつもらった。年下の子を殴るなんてとんでもないって。ホント、ごめん」
「もう、気にしていませんから」

 これは本当。
 ジラとのことよりも、お母さんとのわだかまりが解けたことの方が、僕にとっては意味のあることだった。

「そうか、ありがとう」

 ジラがほっとした顔を浮かべたのと同じタイミングで、村長が家から出てきた。

「みんな、今月も無事月始祭を迎えられたことを嬉しく思う。これから食事を配るので楽しんでほしい」

 村長の言葉に、村長の娘さんが食事を配りはじめる。

「はい、パドくん」

 出来るだけ公平に配ろうとしても、獲物の数に限りがあるため肉や魚はどうしても隔たりが出来る。
 だからこそ、配られた内容に文句を言うのはタブーとされている。
 言い出したらキリがないし、村の中に禍根が残るからだ。
 とはいえ、やっぱり自分のお皿になにが配られるかはドキドキだ。

 僕のお皿にはラビの腹の部分が2かけらが乗った。
 お父さんとお母さんの皿にはコックの足が2本ずつ、ジラの皿にはレコの足が1本だ。
 他、全員に麦パンと野菜の煮物が配られる。

「うー、おれ、足だけかよぉ。いいなぁ、パド」

 コックはともかく、ラビやレコの足はあまり肉がついていない上に固い。いわゆる『ハズレ肉』である。
 ちなみに僕のお皿にのったラビのお肉は柔らかく油もほどよい『当たり肉』だ。

「これに懲りたら年下の子には優しくすることね」

 肉の配分は平等が原則とはいえ、ある程度『罰』とか『ご褒美』という意味合いもあるのだ。
 そういえば、浮気事件の次の月始祭の時、お父さんの皿に乗ったのはラビの足が1本だけだったっけ。

「チッ、わかったよ」

 ジラは舌打ちしてレコの足にかじりつく。

「僕の少し食べます?」

 僕がおずおずと言うと、ジラは僕の方をにらみ――

「いらねーよ!!」

 叫んで自分の家族の方に走って行った。

「お前がジラともめる理由がよく分かった気がするな」
「え? なんでですか?」

 お父さんのつぶやきに、僕は心底不思議に感じた。
 お肉をわけようかって言っただけなのに。

「好意が必ずしも相手の心に直接そのまま届くとは限らないってことだ」
「よくわかりません」

 僕のその言葉に、お父さんは小さくため息をついた。

「ま、そのうちわかるさ」

 お父さんはそう言って、コックの足を口にした。
 僕もラビの肉を口に入れる。
 味付けは塩だけだ。塩以外の香辛料はこの村では本当に貴重品だからね。

 2年ほど前、初めて月始祭で肉を食べようとしたとき、僕は緊張した。
 正直、肉に対する忌避感があったのだ。
 別に動物の命を奪うことに対してではない。
 肉食そのものが怖かったのだ。

 桜勇太の身体は肉や魚を受け付けなかったからだ。
 調子が良いときに、肉そぼろをほんの少し口にしたことがあったが、すぐに胃の中のモノを全部はき出してしまった。
 もちろん、おいしいなんてかけらも思わなかった。

 だから、転生して初めて肉を食べるときも全く期待していなかった。
 ところがどうだろう。
 パドの身体は肉を受け入れた。
 しかも、ものすごくおいしく感じた。
 結局、食べ物の好き嫌いは、自分の肉体が受け入れるかどうかということに大きく左右されるらしい。
 前世の時と違って今の僕はお肉が大好きである。

 前世――そうか、前世か。

 僕は1つ思いつき麦パンを手に取った。
 半分にちぎり、その間にラビの肉と野菜を挟んだ。

「おい、パド、なにをしているんだ?」
「サンドイッチです」
「なんだそれは?」

 この世界――ではどうかしらないが、ラクルス村ではパンと肉と野菜は別々に食べるのが常識のようだ。
 そもそも肉や魚自体が月に1回だけの特別な食べ物だから、さらに工夫するという考えが浮かびにくいのかもしれない。
 でも、前世ではパンの間に肉や野菜を挟んで食べる文化があったはずだ。

 ……まあ、できあがったのはサンドイッチというよりも、バーガーに近いかもしれないけど。
 肉と野菜を挟んだパンにかぶりつく。

 うん、おいしい。
 別々に食べるよりもさらにおいしい!!

「なんか、スゴイ食べ方ね」

 お母さんが言う。

「前世ではこういう食べ方があった……らしいです」

 前世については家族だけの秘密なので、声を潜めて応える。

「ふ、ふむ、1度に食べ終わってしまうのはもったいない気もするが……いや、しかし試してみるか」

 お父さんはそういって、僕と同じように肉と野菜をパンに挟んで口にした。

「これは……確かに美味いな。足の場合、骨が邪魔だが」

 お母さんも同じようにして食べる。

「ほんと、おいしいわ。パド、ありがとう」

 そう言って、お母さんはにっこり笑った。

 家族3人でそんなことをしていれば、周りも注目する。

「なんだ、それは……パンで野菜と肉を挟んで食べているのか?」
「俺もやってみようか」
「えー、でもちょっとそれってどうなの?」
「なんか、もったいない」
「いや、でもこれ、美味いぞ」
「魚でも大丈夫なのかな?」
「うむ、なかなかいけるな。40年生きていてこれに気がつかなかったのは迂闊だった」
「わ、私はイヤよ、パンも肉も好きだから別々に食べたいわ」
「そういわずに試してみろって」

 どうやら、村中にパンで肉と野菜を挟む食べ方が広がったようだ。

「バズ、お前すごいことを思いつくな」

 そう、お父さんに話しかけてきたのはキドのお父さん。

「いや、思いついたのは息子の方だ」
「なんとパドが。……キドから頭のいい子だとは聞いていたが」

 うわ、なんかキドのお父さん――のみならず、村のみんなが僕に注目しているよ。
 そんなにすごいことかしら。
 パンで肉と野菜を挟んだだけだよ?
 確かにこの村では盲点になっていたかもしれないけどさ。
 たぶん、この世界でも(みやこ)とかにはもっと立派なサンドイッチやハンバーガーあるんじゃない?

「そ、そんなたいしたことじゃないよ」

 僕は照れながら頭をかいた。

「そうかしら、大人ならともかく、3歳でこんなことを考えるなんて、パドは偉いと思うわよ」

 お母さんが言う。
 いや、だからそれは前世で……

 などとやっていたところに、村長がやってきた。
 そして、お父さんにこっそり耳打ちする。

「どうやら、母子(おやこ)関係は少し改善したえようじゃな」
「はい、おかげさまで」

 聞き耳を立てたつもりはないけど、近くにいたから聞こえてしまった。
 村長も気にしてくれていたんだなぁ。

 何にせよ、いつも以上に盛り上がりながら月始祭の食事は終わろうとしていた。
 食事が終われば月始祭も終わりだ。
 あっけないようだけど、畑仕事も水くみも毎日しなくてはいけない。
 女性達にはラビなどの獣の皮を干す仕事もある。それらは村の貴重な現金収入の1つになるらしい。

 祭りは終わり、僕たちは普段の生活に戻る。

 ――はずだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ではそろそろ――」

 村長が月始祭の終わりを告げようとしたその時だった。

 それまで広場を照らしていた太陽の光が薄くなった。
 曇ってきたのかな?
 僕はそう思って空を見上げた。

 だが、そこにあったのは雲などではなかった。

「なんだよ……あれ……」

 そう声を上げたのは誰だったか。

 空にあったのは――いや、空に浮かんでいたのは真っ黒な人型の存在(もの)だった。
 黒い服を着ているなんていうものではない。
 そもそも、翼の無い人間が空を浮かぶわけがない。
 人の形をした『闇』といった方が良い。
 身体全体が一切の光を寄せ付けないかのように真っ黒で、顔の部分に見える目と歯の白さだけが際立っている。
 それが太陽の光を遮っていた。

 人間――のわけがない。
 人の形をしているが、こんな人間いるわけがない。
 それは人の形をした『闇』と呼ぶしかなかった。
『闇』の瞳がギロンと回り、こちらを見た。
 そして、白い歯がニヤリと意地悪く笑う。

『闇』は村広場の中心へとスーっと降り、(ほこり)1つ立てずに着地した。

 変な話だけど――
 その時、僕は――いや、僕以外の村人達もみんな――思考が停止していた。
 わけが分からなすぎる。
 それに、いくらなんでも唐突すぎた。

 自分たちの理解を遙かに超えた存在が、あまりにも何の脈絡もなく突然空から現れたのだ。

 だから、誰も、何もできなかった。

 逃げることも、言葉を紡ぐことも、身構えることも。

 これが前世のライオンのような獣や、あるいは盗賊が現れたというのならば、村人達だって逃げるとか、対抗するとか、悲鳴を上げるとか、すくなくとも何らかのリアクションはしたはずだ。

 だが、これはあまりにも意味が分からない。
 こんな存在(もの)がこの世にあるのか。
 幽霊――おねーさん神様に言わせれば魂だけの存在とか……
 いや、幽霊だか魂だかだとしてもこんな真っ黒だとは思えない。

 ――だから。

 結果として、『闇』の行動に誰1人微動だにすることすらできず。

『闇』は明確に僕の方を見て。

 だけど、僕も何1つ動くことができず。

『闇』の右手の指先が僕を指さして。

 それでも僕はなにもできず。

 気がついたときにはその指先が凄まじいスピードで伸びて、僕の顔面に迫っていたのだった。
というわけで、あまりにも唐突かつ場違いな『闇』の襲来。
一体、何がどうなっているのか。
次回、ついにパドくんの初戦闘です。
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