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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

 第一章の追録

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16.《家族の問題・前世編》僕のお兄ちゃんのこと

第2章の前に、パドくんの前世(勇太くん)の弟、稔くんのお話。
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(桜稔視点 一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(みのる)、あなたにはお兄ちゃんがいるのよ」

 僕がお母さんからそう初めて聞いたのは、小学校に入学する年の春休みのことだった。

 それまで自分は一人っ子だと思っていた僕には意味が分からなかった。
 何しろ、幼稚園を卒業したばかりの幼児だったからね。
 今ならそんなことを聞かされたら、お父さんかお母さんのどちらかが再婚なのかとか、不倫でもしたのかとか、そんなことを考えるかもしれないけど。

 いずれにしても、真実はそんな話ではなかった。
 僕の兄は間違いなくお父さんとお母さんの子どもだそうだ。

 何で僕がその存在を知らなかったかと言えば、兄が産まれながらに病弱でずっと病院で暮らしていたからだ。

「今まで黙っていてすまない。だが、お前ももう小学生になるんだから知っておくべきだと思ってな」

 お父さんがそう言う。
 当時は分からなかったけど、今考えれば分かる。
 僕の両親は、幼児の僕が兄の現状を知ってショックを受けることを恐れたのだろう。

 僕はその日のうちに兄が入院している病院に連れて行かれた。
 だけど、兄と面会することはできなかった。
 お医者さんですら素手で触れないほど、兄は抵抗力が弱いらしい。
 そのため幼稚園を卒業したばかりの僕は兄の病室に入ることを許されなかったのだ。

 その代わり小さなガラス窓からかろうじて病室の中を見ることができた。
 たくさんの機械や管があって、いかにも治療室といったかんじだった。
 何故だか幼い僕の心に得体の知れない恐怖がわいたのを覚えている。

 実のところ、このとき僕は兄の姿を見ていない。

「あれがお兄ちゃんの勇太よ」

 お母さんがそう言っていたので、もしかするとお母さんからは兄の姿が見えたのかもしれない。
 しかし、僕の背丈では病室の中は見えてもベッドに横たわる患者の姿までは見えなかったのだ。
 いずれにしても、自分に兄がいると言うことが分かっても、一緒に暮らせるわけでもない。

 病院から帰ったあとは、どちらかと言えば兄のことよりも、1週間後から通う小学校への期待や不安で頭がいっぱいだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 僕は小学校に入学後、勉強や運動を頑張った。
 病室からでられない兄に変わって、弟の僕が元気な姿を両親に見せたいと思ったから。
 テストは毎回90点以上を取ったし、地域の強豪サッカークラブで毎日ボールを追いかけた。
 それは純粋に楽しかったし、そんな僕を見てお父さんやお母さんも励まされるだろうと思っていた。

 3年生の秋。
 僕はサッカークラブの試合でベンチに入れてもらえた。
 このクラブで補欠とはいえ3年生がベンチ入りするのは異例だった。
 何しろ、4年生ですらベンチ入はほとんどありえないと皆が思っていたくらいなのだから。

 僕は喜び勇んで家に帰ってそのことを報告した。
 きっとお母さんが喜んでくれると思って。

 ――それなのに……

 それなののにお母さんは上の空で

「……そう」

 と答えただけだった。
 そのあと、お父さんが帰ってきたので同じ話したが、やはり反応はそっけない。

「ねえ、もう少し話を聞いてよっ!!」

 さすがに僕もいらだって、怒鳴った。

「いい加減にしなさい、稔。今何時だと思っているんだ。明日も学校だろ、早く寝なさい」

 お父さんはそう言って、僕を寝室に追いやった。
 確かに、23時を過ぎていたので8歳の僕は寝るべき時間だったかもしれない。
 でも、起きていたのは帰りが遅かったお父さんにベンチ入りを報告するためだ。

 僕は布団に入ったものの、イライラしてなかなか寝付けなかった。
 すると、僕の部屋まで両親の話が聞こえてきた。

「勇太、そんなに……のか……」
「……せっかく少し良くなって……見えてきたのに……」

 とぎれとぎれにしかし聞こえなかったけど、何が起きたのかは分かった。
 数年前、少し回復したという兄の体調が悪くなったのだ。

「……稔はあんなに元気なのに……なんで勇太は……」
「おちつけ」
「稔ばっかり元気で。勇太のことなんて気にしないでいつもサッカーばっかり。まるで当てつけじゃない!!
 あの子は自分だけ元気なら良いと思っているのよ!!」

 お母さんは泣き声混じりにそう言った。
 その言葉は、僕の心を破壊するには十分だった。

「おい、いくらなんでもそれは……」

 お父さんがお母さんをいさめる。

 後から冷静になって考えれば、お母さんも混乱していたんだと思う。
 医者からも見捨てられる寸前の兄を支えるのにクタクタで。
 僕が起きているかもしれないなんて考えることもできず。
 だから、ついあんな言葉が口に出たのだろう。

 感情が理性を追い越せば、そういう言葉も出てくる。
 でも、その時すぐにそう考えられるほど、僕も大人じゃなかった。

 あのとき、僕はどうすれば良かったのだろう。
 たぶん、聞かなかったことにして眠ってしまうべきだったのだろう。

 だけど。

 その時、感情が理性を上待ったのはお母さんだけじゃなかった。

 結果混乱しながら僕がとった行動は、ベッドから起きて自室の扉を開き、両親のいるリビングに向かうことだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 リビングに現れたパジャマ姿の僕を、両親は固まったように見た。

「稔……お前寝たんじゃなかったのか?」

 お父さんの声は震えていた。
 僕が一体どこまで話を聞いていたのか気にしている様子だ。
 僕はそれを無視して2人に尋ねる。

「お父さんとお母さんは、僕が元気だとイヤ?」

 僕の言葉に、2人の顔が硬直する。

「僕、お兄ちゃんの分もお父さんやお母さんに元気なところを見せたいって思っていたよ。でも、それはダメなの?」

 悲しさと悔しさと寂しさと。

 いろいろな感情がごちゃ混ぜになっていた。

 知らず知らずのうちに、僕は涙を流していた。
 小学校に上がってから、1度たりとも流したことがなかった涙だ。

「僕がいない方が、お母さんは幸せ?」

 僕の声には嗚咽が混じっていた。

「違う、違うのっ、稔!!」

 お母さんが叫ぶ。

「僕は頑張ってる!! 3年生でベンチに入れてもらえることがどんなに凄いことなのか、2人とも分かってないんだ!!!」

 僕はお母さんに負けじと叫ぶ。

「違う、違うわ……そうじゃない」

 お母さんが顔を押さえて泣き出す。

「僕がどんなに頑張ったって、2人はただベッドで寝ているだけで何もしていないのお兄ちゃんの方がずっと大事なんだ!!」
「違う、違うのよ……」

 泣き崩れるお母さん。

「お父さんもお母さんも、僕のことなんてどうでもいいだろ!? お兄ちゃんが元気になれば、僕なんていらないんだろ!!!」

 僕がそこまで叫んだときだった。

 パンッ!!

 乾いた音がリビングに響いた。
 音の後、左頬が痛むのを感じて、僕はお父さんに平手で叩かれたと気づいた。

「お母さんにも問題があるが、お前も言い過ぎだ」

 お父さんは固い声で言った。

 ……そのあとはひたすら沈黙の時間が流れ、結局僕は睡魔に負けて自分の部屋に戻ったのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 翌朝。
 朝食を食べる僕と両親に会話はなかった。
 嫌な沈黙だったけど、僕は自分から話をする気にもなれなかった。

 みんなが食べ終わる頃。
 お母さんが口を開いた。

「稔、サッカーの試合、いつなの? 見学に行くわ」
「別にこなくていいよ。どうせ補欠だし」

 お母さんの言葉に僕は冷たく応じて、ランドセルを取りに自室に向かった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 半月後。

 ベンチ入りした僕は、残り時間わずかで試合に出してもらえた。
 すでに3点差で負けていたので僕たちのチームは初戦敗退がほぼ決まっていた。
 僕のチームもこの地域では強豪だが、相手チームは全国大会出場経験もあって、さらに次元の違う実力者揃いだった。
 監督にしてみれば、次の大会に向けて僕にも経験を積ませようということだろう。

 試合時間ぎりぎり、僕のチームは1点だけ返した。
 シュートをしたのは僕ではなかったけれど、FW(フォワード)の先輩へ上手くパスを出せた。
 先輩達や監督が僕のことを褒めてくれたくらいのナイスプレーだった。

 試合終了後、帰り支度をしていると他の保護者に混じってお母さんが現れた。
 僕の口からは試合日時を教えなかったけど、チームから保護者に伝わっていたらしい。

「頑張ったわね、稔」

 お母さんがそう言ってタオルを差し出してくれたけど、僕はそれをあえて無視した。
 この頃になると、お母さんに対する感情は『意地』が大半を占めていた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 それから半年経って、僕は4年生になった

 僕の家の中は気まずい雰囲気が流れたままだ。
 お母さんは僕に気を遣って色々話しかけてくれるし、お父さんも僕の心を溶かそうとしてくれている。

 それは分かっている。
 今、この家の中が気まずいのは僕の子供じみた『意地』のせいだ。
 いいことじゃないと理屈では分かっていても、心はそれに従ってくれない。

 そんなある土曜日。

「明日は勇太の誕生日だな」

 夕食を食べながらお父さんが言った。

「あなた、今は……」

 お母さんが僕をチラっと見た後、咎めるような声で言う。
 あの日以来、なんとなく僕の前で兄についての話はタブーみたくなっていた。

「いつまでも、このままじゃよくないだろう。稔、お前もそれはわかっているはずだ」

 お父さんの言葉に、僕は顔を背ける。
 頭では分かっていても、感情は反発したままだった。

 と、その時。

 固定電話のベルがなった。
 お母さんが受話器を取り、何事か話す。

「……そんな……」

 お母さんが膝から崩れ落ちる。
 それは、兄の危篤を知らせる電話だった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 電話を受けて両親はすぐに病院に向かった。

「僕も……」

 言いかけたが、お父さんに「お前は家にいなさい」といわれた。
 1人家に残された僕は、ゴチャゴチャの感情をもてあましながらベッドの中で悶々とするしかなかった。
 ほんの少しだけ眠って、なんだかすごく怖い夢を見た。
 夢の中身は思い出せないのに、恐ろしい内容だったということだけは分かった。

 翌朝。
 お父さんとお母さんは帰ってこなかった。
 昨晩、もし2人が帰れないようだったコンビニでお弁当でも買って食べなさいとお金を渡されていたけど、買い物に出かける気力もわかなかった。
 台所の片隅にクリームパンが置いてあったので、それをかじるだけで朝食にした。

 午前10時頃。
 電話が鳴った。
 表示されている番号をみると、お母さんの携帯からだった。

「もしもし」
「稔、ご飯は食べた?」
「うん」

 僕が答えると、お母さんは一瞬沈黙した。

 ――そして。

「お兄ちゃんが……勇太が亡くなったわ」

 その言葉を聞いて、僕の頭の中は真っ白になった。

「とりあえず、稔は家にいて。もし困ることがあったらお隣の奥さんに……」
「僕も行く」
「え?」
「僕も病院に行くから」
「ちょっと、稔、待ちなさい」

 僕は受話器を置いて、家からかけだした。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 自宅から病院までは電車を2本乗り継ぐ必要があった。
 朝食代としてもらったお金がなかったら、電車賃が足りなかったかもしれない。
 正直、道中のことはよく覚えていない。
 ただ、頭の中をグチャグチャな感情が暴走していた。

 病院で看護婦さんに自分の名前を名乗るとある一室に案内された。
 以前扉の前まで訪れたことがある兄の病室ではない。
 後から聞いたところによると霊安室だったらしい。

 部屋に入ると、兄の遺体があり、母が兄の身体にすがって泣いていた。

 変な話だけど、僕はその時、産まれて初めて兄の顔を見た。
 兄の顔はまるでミイラみたいだった。
 頬はやせ細り、他の部分も皮だけで肉が存在しないかのようだ。
 骨の形がそのまま分かるような顔で、とても昨日まで生きていたとは信じられない。
 顔だけじゃない、前で組まれた手も、ズボンの端から除く足も骨と皮だけだった。

 その姿は、兄が必死に戦ってきた証のように感じられた。

 兄はベッドの上で寝ているだけだと思っていた。
 僕は一生懸命、勉強や運動を頑張っているのに、寝ているだけの兄の方が両親の愛情を受けているのは不公平だと。
 だから、ずっと意地になっていた。

 だけど違う。違ったんだ。

 兄は――お兄ちゃんはベッドの上で何もしていなかったわけじゃ無い。
 生きるために必死で戦っていたんだ。

 どんな言葉よりも雄弁に、お兄ちゃんの遺体はそう語っていた。
 そして、そんな絶望的なお兄ちゃんの戦いを、お母さんとお父さんは必死に支えていたんだ。

 お兄ちゃんの遺体にすがり無くお母さんを、お父さんがそっと抱く。
 お母さんが顔を上げる。
 2人は泣いていた。

 僕は涙が出ない。
 その時の気持ちは悲しいというのとは少し違った。

 それは決意。

 お父さんとお母さんを守る。2人を支える。
 お兄ちゃんができなかった分まで。

 もう、子どもっぽい意地を張る時間は終わりだ。

 僕は2人に近づき、後ろからそっと抱きしめた。
 座っている2人と経っている僕の顔はちょうど同じくらいの高さで。
 だから、3人で抱き合った。

 その時だった。

『稔、お母さんとお父さんを頼むぞ』

 僕の心のどこかに、そんな声が聞こえた。

(……お兄ちゃん?)

 もちろん、ただの錯覚だったのかもしれない。
 他の人に話せば、僕の思い込み、あるいは幻聴だと言われるだろう。

 何より、僕はお兄ちゃんの声なんて聞いたことがない。

 ――だけど。

 僕はその時、その声がお兄ちゃんのものだと、なぜか確信していた。

(大丈夫、僕が2人を支えるから。だから、お兄ちゃんは安心して旅立って)

 僕はそう心の中で祈るのだった。
……というわけで、勇太くんの転生直前の思いは、ちゃんと届いていたよというお話でした。

主人公が異世界に転生している以上、この話は本筋には関係の無いことなのかもしれません。
実際、数多ある『異世界転生モノ』では前世の家族のフォローはあまりされていないことも多いです。

ですが、勇太君が転生しようがしまいが、前世の家族にとっては、兄(あるいは息子)が11歳で生涯を閉じたことに変わりはありません。
そうである以上、彼らもまた『家族』を作り直さなければいけません。

勇太くんがパドくんとして『家族』を作り、幸せになることを求めるのと同様に、作者としては稔くんも幸せを目指してほしいなと思うわけです。

異世界転生モノを読む読者がこういう章を読みたいわけではないことは分かっています。
それでも、作者としてはこの話を無視してパドくんのお話を進めることはできませんでした。

実はこの話はプロローグ直後に書くつもりだったくらいなのですが、さすがにそれは自重してここに挿入させていただきました。

※なお、本文中の稔くんの一人称の中で、勇太くんのことをずっと『兄』としているのに、最後の場面で『お兄ちゃん』と変わっているのは、
稔くんの心の変化を表すための意図的な演出です。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

次話より、ラクルス村編第2章が始まります。
パドくんがやっと手に入れが幸せを無残に破壊する存在の襲来です。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ここまでの人物紹介等を設定集にまとめました。
ご興味のある方はご覧ください。
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