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神様、ちょっとチートがすぎませんか? 作者:七草裕也

ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です

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6.僕の秘密、お父さんの秘密(前編)

ジラに殴られ家に帰ってきたパドくん。

(どうして僕はみんなの中に溶け込めないのだろう?)

そんなパドくんを心配するお父さん。

「パド、お前、何か隠していることが無いか?」

お父さんのその質問に、パドくんはどう答えるのでしょうか?
 ジラに殴られた後、僕はキドに連れられて家に帰った。
 水くみ作業はまだ何往復もしなくちゃいけないのだけど、今日はもういいからと言われたのだ。
 ジラも家に帰されたらしい。

「お母さんを呼んでこようか?」

 たぶん、お母さんはまだ農作業中だろう。

「いえ、結構です」
「そうか……」

 お母さんと僕の不仲は村でもそれなりに有名だ。
 キドはどうしたものかととまどっているようだ。

「あの、大丈夫ですから。キドはみんなのところに戻ってください」

 心配げなキドに僕は言う。
 水くみ作業はまだ終わっていない。
 キドはみんなの元に戻らないと行けない。

「そうか、じゃあ村長にも説明しておくから。あまり痛みが引かないようだったら大人に相談するんだぞ」

 お父さんが狩りから戻れば、まず村長の家に行く。
 キドの言葉はそれをふまえたものだ。

「はい、ご心配をおかけしました」
「おう、あんまり無理するなよ」

 キドはそれだけいうと家を出て行った。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「パド、大丈夫か!?」

 しばらくして、お父さんが帰ってくるなり僕に駆け寄った。
 お母さんはまだ戻っていない。

「はい、もう痛みもほとんどありません」
「そうか……よかった」

 お父さんはホッとした様子だ。

「いったい何があったんだ?」
「それは……」

 僕はお父さんに聞かれるがまま、事情を話した。

「なるほどな」

 全部話を聞き終えた後、お父さんはため息交じりにそう言った。

「僕は間違っていたんでしょうか?」
「別にお前が間違っていたわけじゃないと父さんは思うぞ。お前の言い分は正しい」
「ありがとうございます」
「だけど、父さんにはジラの気持ちも分かる」
「……でも……いや、僕も確かに悪かったのかもしれません」

 お父さんも言葉に詰まったのか、しばらく2人の間を沈黙が支配した。
 しばらく考えた後、お父さんが言った。

「お前はとても不器用な生き方をしているのかもしれないな」
「それはどういう意味でしょうか?」
「もう少し、子どもらしくなれってことだ」

 ……子どもらしくなれ……か。
 でも、子どもらしくってどういうことだろう。
 僕の魂の年齢は確かに3歳児ではない。
 前世での11年の記憶があるからだ。
 単純計算するなら、14歳くらいの精神年齢ということになる。

 14歳が子どもか大人かは微妙なところだと思う。
 前世なら中学生くらいだから大人とはみなされないだろうけど、小学生と違って子どもというにも微妙だ。
 ラクルス村なら11歳から大人と一緒に仕事をするけど、結婚は16歳以上だ。
 いずれにしても14歳は大人とも子どもとも言いがたい微妙な年頃かな。

 桜勇太が3歳だったとき、いったいどんな子どもだっただろう。
 そのころの記憶はほとんどない。
 わずかに思い出せるのは、体中に管をつけられてずっと苦しんでいたということ。
 そして、両親に心配かけまいと無理して笑っていたこと。
 もっとも、その記憶がが3歳の頃のものか5歳の頃のものかは、今となっては分からない。

 3歳の桜勇太は子どもらしかったのだろうか?

 正直、よくわからない。

「どうしたら子どもらしくなれるんでしょうか?」

 僕がポツリとつぶやくように尋ねると、お父さんは苦笑いを浮かべた。

「そういうところが子どもらしくないんだけどな。でもまあ、それがお前らしいのかもしれないな」
「はぁ……」
「まあ、今日はゆっくり休みなさい。俺はもう1度村長のところに行ってくる」
「はい」

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 お父さんが再び家を出て行った後、僕はジッと考えていた。
 自分が子ども達の中に溶け込めていないのは分かっている。
 でも、どうしてなのかが分からない。

 ジラに言ったことは間違っていないと思う。
 言い方はよくなかったのかもしれないけど。

「はぁ」

 ため息が出た。
 いったいどうして僕は上手くやれないんだろう。
 子ども達とも、お母さんとも、なかなか仲良くなれない。

 前世では誰かと仲良くなるなんて無理だった。
 子どもはもちろん、両親とだって面会できる時間はわずかだった。
 看護師さんやお医者さんとも必要以上に話をしなかった。
 自分がもし元気だったら、たくさん友達を作って、たくさん両親と話をしたいと思っていた。

 それなのに。

 いざ元気に――チートが過ぎるけど――転生したら、周囲に溶け込むことが出来ない。
 いくら気を遣って話しても、全然上手くいかない。

「はぁ」

 もう1度ため息をついて、壁を拳で軽く叩く。

「あっ」

 壁にこぶし大の穴が開いた。
 ……油断した。
 自分では軽く叩いただけのつもりなのにこれだ。
 後でお父さんに穴をふさいでもらわないといけない。
 全く、やっかいなチート能力である。

「ああ、もうっ」

 僕は誰にともなく毒づいてしまった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 夜。
 お父さんとお母さんと一緒に食事。
 今日もいつもの麦粥と野菜汁。それにボンタというミカンみたいな果物。

 いつも以上にましてシーンとした食事だ。
 お母さんがしゃべらないのは毎度のこととしても、お父さんと僕の間にも会話がない。
 なんとなく、昼間のことがあって会話しづらかったのだ。

 食事が終わった後、お母さんは食器を洗いに村長の家に向かった。
 各家に配られる水は飲料水だけで、それ以外の用途の水は村長の家で管理しているのだ。
 ちなみに、洗濯物は3日に1回川で女性達が行っているらしい。
 ジラはあんなことを言っていたが、11歳になれば女性だって川まで仕事に行くのだ。

 お母さんが出て行った後、お父さんはさっき僕が壊した壁の修理をはじめた。
 釘で木の板を張り付けるだけなのでそこまで時間はかからない。
 ただ、この村では釘は貴重品なので申し訳なく思う。

「どうしたらこんな穴が開くんだ?」

 穴をふさぎ終わったお父さんは僕にそう尋ねた。

「……ごめんなさい」
「いや、ごめんなさいじゃなくてだな……」

 お父さんは少し迷った様子を見せた後、切り出した。

「パド、お前、何か隠していることが無いか?」
「そんなこと……ありません」

 本当は隠し事がある。
 前世のこと、転生のこと、チートのこと……
 でも、そんなことを告白したら、きっとお父さんもお母さんのように僕を怖がる。
 だから、言えない。
 言いたくない。

「そうか」

 お父さんは残念そうな顔をした。
 きっと、お父さんは僕が何かを隠していると気がついているのだろう。

「まあ、人間なら誰でも秘密の1つや2つ持っているもんだけどな」
「……はい」
「だけど、お前の秘密は親にも言えないことなのか?」
「……それは……」

 押し黙った僕を見て、お父さんはしばし沈黙した。

 ――そして。

「パド、明日の朝、お父さんとちょっと出かけないか?」
「え、でも仕事はどうするんですか?」
「今日獲物は十分捕れたから大丈夫だ」
「でも水くみは……」
「村長に言って休ませてもらえばいいだろう」
「でも……」
「別にサボりじゃないさ。ケンカして怪我したんだから気にするな」
「……わかりました」

 僕はうなずいた。

「でも出かけるってどこに行くんですか?」

 僕の質問に、お父さんはニヤリといたずらっ子のような笑顔を浮かべた。

「お父さんの秘密の場所さ」

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 翌朝。
 朝食を終えた僕とお父さんは、いつも川に向かう道とは反対方向から村を出た。
 途中から森の中に入る。

「川に向かう道よりも険しいからな。もしつらかったらいつでも言えよ。おんぶしてやるから」
「大丈夫です」

 僕はそう答えた。
 おんぶなんてしてもらったら、きっと僕はチートの力でお父さんの首を絞めてしまうだろう。

 とはいえ、確かに大変な道だ。
 いや、そもそも道じゃない。
 獣道ですらない。
 誰も歩かない場所を、木々をかき分けて無理矢理進んでいる感じだ。
 お父さんを見失ったら村まで戻れる自信はない。
 踏み固められていない急な上り坂なので、僕の力だと相当慎重に歩く必要がある。うっかり力を入れすぎたら大穴を開けてしまう。

 歩く。
 歩いて歩いて。
 途中で何度か休憩して。

 お父さんはいったい僕をどこに連れて行こうとしているんだろう。
『お父さんの秘密の場所』……うーん、思い当たるのは9ヶ月前の浮気現場?
 でも、そんなところに子どもを連れて行くかなぁ?

「よーし、着いたぞ」

 お父さんが前方で立ち止まって言う。
 僕もお父さんの後に続く。

「うわああぁぁぁぁぁ」

 木々をかき分けた先に広がった光景を見て、僕は思わず感嘆の声を上げた。
『お父さんの秘密の場所』とはどんなところなのでしょうか?
パドくんはお父さんとどんな話をするのでしょうか?
子ども達の輪の中には入れるのか?
お母さんは笑ってくれるのか?

そして、パドくん自身は笑って幸せになれるのか?

パドくんの運命を変える日はまもなくやってきます。
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