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ケモ喫茶

作者:henka
 私は無類の動物好きだ。人間よりも動物の方に興味がある。就職活動で動物園など動物と触れ合える事を仕事とする会社にいろいろアタックしてみたものの……どうも縁が無いらしい。そんな時、インターネットで不思議な喫茶店を発見した。それが『ケモ喫茶』だ。ケモ喫茶のホームページを見ると、ネコ、イヌはもちろんのこと、ライオンやトラといった猛獣とも触れ合うことができるらしい。掲示板にある利用者の書き込みはどれも楽しそうな感想ばかりだった。私のインスピレーションが働いた。これは行ってみるしかない!


 私は翌日、朝一でケモ喫茶に入った。すると、店長?らしい男性が一人いるだけで、後はなんとすべて動物だった。私はアイスカフェを頼み、店内にいる動物達を眺めた。ネコ、イヌ、サル、ライオン、トラ……いろんな動物がいる。ライオンやトラは最初少し怖かったが、男性に聞くと、触っても大丈夫だというので触ってみた。ふさふさとしたたてがみ……ビックリするくらい大人しく、就職活動疲れが出てきた私の心を癒してくれた。

 アイスカフェを待っていると、なんとちょこちょことリスが両前足でおしぼりを抱えて持ってきてくれたのだ。よくこんなこと教えることができたなぁと心底感心した。おしぼりを持ってきてくれたリスはこっちを窺っているように見えたので手を出してみると、指に顔を擦りつけてくれて何とも可愛かった。オプションで動物に餌をあげることもできるらしく、私はリスにドングリをあげてみた。すると、目の前で器用に前足を使って、カリカリカリとドングリを食べてくれた。何個か一緒にあげると、頬袋パンパンに詰める行動もして、とても心が和んだ。

「あの……ここって、新卒採用とかやっていないのでしょうか?」
 久々のまったりとした時間を過ごした私は、帰り際にダメもとで男性に訊ねてみた。
「君は就職活動中なのかい?」
「はい。私、こういう動物と触れ合える仕事がしたいんです! でもどこを受けても落ちてばっかりで……」
 私は将来のことを考えると不安になった。
「……。君、動物は好きかい?」
 男性は私を探るように質問してきた。
「はい! 好きです!」
「動物と触れ合うのには体力や精神力がいる。楽しいこともたくさんあるけど、つらいこともたくさんある。それでも君はやっていける自信はあるかい?」
「……はいっ!」
 動物園従業員は休日がほとんど無いと聞く。しかし、私はそんなことで諦めるような性格では無い!
「何でもがんばります! お願いします!」
 私が頭を下げてこう言うと、男性は顎に手を当てて、少し思案する仕種をした後……
「わかった。君を仮採用しよう。今度ここでやる業務を実体験してもらう。それがこなせるようなら、本採用しよう」
「え……本当ですか!?」
 私はビックリした。後でわかったことだが、この男性はケモ喫茶の社長だったのだ。

「よ、よろしくお願いします」
 スーツを着て、再びケモ喫茶に私はやってきた。
「あらまぁ、スーツなんて着て来なくてもいいのに……うーん。スーツは汚れるとあれだから、ラフな服に着替えてもらうか」
「え? あ、はい」
 気合い入れてスーツを着てきたのにこう言われると何だか悲しい。そして、社長が出してきた着替えとは、浴衣だった。
「え? なんで浴衣……?」
「その方が変身しやすいからね」
「変身?」
「まぁ、後でわかるよ。それじゃあ、大神さん、この子をよろしく~」
 社長はそう言って、店の奥から女性を呼んだ。イマイチ謎めいた部分があるが、他に就職口が無いので、ここはがんばらなければならない。
「貴女が新人の子ね。よろしく。早速だけど、貴方の好きな動物って何かしら?」
 会って早々、不思議なことを聞かれる。飼育担当を決めるのだろうか?
「あ、はい……私は……リスが好きです!」
「リスね。わかったわ。ちょっと待っててね」
 大神はそう言うと、奥に引っ込んでいった。
 サクサクと物事が進んでいく。これでいいのだろうかと自分でも思ってしまうほどに。

「はーい、おまたせ。それじゃあ、まずはビデオを見ましょう」
「え? ビデオですか?」
「まずはリスの動きを覚えなきゃね」
「?」
 大神は意味深な笑みを浮かべるが、私にはその真意がわからなかった。

 二人で一緒にリスのビデオを見る。特に何の変哲もない普通のアニマルビデオだった。これで何か審査されているのだろうか? 私は内心ドキドキして落ち着いてビデオを見ることができなかった。
 一時間ほど、いろんな動きをする野生のリスのビデオを見た後、私達は別の部屋に移動した。
「さて、さっきいろんな動きをするリスのビデオを見てもらったから、リスがどう動くかわかったかしら?」
「え、えぇ、たぶん……」
 これから何をするのかの説明が無いので、私は曖昧に答えてしまった。
「まぁ、最初はそんなもんね。とりあえず、なってみたらわかるわ」
 私はどういう意味だろうと思っていると、大神が透明なドリンクを二つ持って来た。
「さあ、これを飲んで鮮明にリスの姿を思い浮かべて」
「あ、はい」
 私と大神はそれぞれドリンクを飲んだ……その途端、急に体が熱くなってきた。
「な……に……これ……」
 もじゃもじゃと茶色い毛が体中から生えてくる。
「いいわ。その調子よ」
 大神も私と同様の変化が起きている。
「!」
 もこっとお尻が盛り上がる感覚があった。恐る恐るお尻の方を見てみると、ふさふさの大きなしっぽが生えていた。鼻と口先が前にでっぱり始め、耳が丸く小さくなって頭の上にあがっていく。体全体が縮み始め――もしかしてリスに変身しようとしているのではないだろうかと私は気付いた。
 体中が毛で覆われると共に、体がドンドン小さくなっていく、来ていた浴衣は崩れ落ち、前歯がにょきにょきと長くなった。
「はぁはぁ……」
 私は予想通り、リスに変身していた。体が熱くてしばらく横になっていた。

「さぁ、早速練習よ」
 そう声がして、前を見てみると、一匹のリスがいた。
「大神さん……?」
「そうよ。ビックリした? ここの動物達はみんな人間が変身しているの。でも、普通の動物に見えるでしょ? みんな、動物の動きを何度も練習して、表にデビューしていくわ」
 そうだったのか。それで猛獣があんなに大人しいのか。
「さぁ、まずは木登りよ」
 大神はそう言って、近くにある木を器用によじ登っていく。
「そんなのできませんよ」
「練習よ、練習。やってみて」
 私は木登りにチャレンジしてみた。しかし、初めてリスに変身し、体の動かし方がイマイチわからない。それでもがんばって、木を恐る恐る登ってみた。しかし……
「怖いです!」
 下を見るとダメだった。私は高いところが苦手。怖いと感じて木にへばりついた私は、後ろ足を滑らせて落ちてしまった。
「うぅ……痛いよぉ……」
 思わず、涙が出た。こんなに体を張らないといけないなんて。
「みんなこの練習を耐えているの。がんばって」
 大神は優しく私に言ってくれた。
 それから私達は、木の実を前足で抱えて食べる練習、頬袋にもらった餌を詰める練習、四足で走る練習、ジャンプする練習など、リスと同じ動きや仕種を何度も何度も、時に失敗したら痛いこともあり、涙を零しながらも練習した。
「よーし、君はやっていけそうだな。採用しよう。リス担当が慣れたら、他の動物にも挑戦してもらうよ」
 こうして私はとりあえずリスに変身して務めることになった。理想とは違うお仕事だけど、これはこれで楽しくやっている。

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