僕は磐神武彦。高校二年。
最近、生活に劇的な変化が訪れた。
幼馴染でクラスメートの都坂亜希さんと付き合うことになった。
しかも、彼女に告白されてである。
確かに昔から可愛かったし、小学生の頃は一緒にお風呂に入ったりした仲だった。
でも、中学生になってから、彼女はどんどん遠い存在になってしまい、話す事も少なくなった。
亜希ちゃん。小学生の時はそう呼んでいた。
都坂さん。中学生の時。
高校に入学してからは、一年の時もそうだったので、ずっと「委員長」。
今はまた、「亜希ちゃん」。
名前を呼んだのは、一体何年ぶりだろう?
僕は学校では内緒にしようと言ったのだが、亜希ちゃんが泣きそうな顔で抗議したので、諦めた。
今日は一緒に通学。亜希ちゃんは嬉しそうだ。
今でも疑問なのだが、どうして僕なんだろう?
彼女には、たくさん告白して来る連中がいたのに。不思議だ。
亜希ちゃんは教室に入るなり、仲がいい女子達に僕と付き合う事にしたと話した。
「へええ」
女子達は、僕を軽蔑の眼差しで見るかと思ったが、そうではなかった。
「良かったね、亜希。ようやく願いが叶ったね」
何故か皆おめでとうとか言っている。どういう事なのだろう?
亜希ちゃんは照れ笑いをして、僕を見た。
「隠してたつもりらしいけど、わかりやすかったよね、亜希って」
そんな声も聞こえた。わかりやすかったのか? 思い当たらないけど。
「そうなの?」
亜希ちゃんも知られていたとは思っていなかったらしい。
「磐神君、亜希と仲良くね」
「バレンタインも近いしね」
僕まで祝福された。面食らったけど、嬉しかった。
但し、男共にはちょっとだけいじめられた。
冗談半分だったけど。
「何でお前なのかなあ」
どいつもこいつもそう言って溜息を吐いた。
僕はそんな幸せな気分を放課後まで持ち続け、下校の時も、亜希ちゃんと帰った。
「ヒューヒュー!」
とか、冷やかしの声もしたが、気にならないほど浮かれていた。
そして、家に着いた。
「只今ァ」
僕は奥のキッチンにいると思われる姉に言って、そのまま二階へと階段を上がり始めた。
「武彦くーん」
姉の猫撫で声が聞こえた。
「た、只今、姉ちゃん」
姉はキッチンから顔を出し、階段の脇に来た。
「ちょっといいかな?」
「え?」
何も後ろめたい事はないはず……。でも嫌な汗が出る。
「座って」
姉と対面で椅子に腰を下ろした。まるで尋問される容疑者みたいだ。
「あんた、リッキーにお金のお礼言ったでしょ?」
う! そ、それか……。まずいぞ、まずい……。
「まあ、私が嘘吐いてたんだから、仕方ないけどね」
ニッコリとして言う姉。あれ、拍子抜けした。
「でもね」
急に顔が険しくなる。な、何? 僕は思わず後退りした。
「どうして私に話してくれないのよ、亜希ちゃんと付き合ってる事を!」
「え?」
あ、しまった、そっちか。憲太郎さんが話したんだ……。
「お仕置きよ、武!」
「わわ!」
姉は素早く僕の背後に回りこみ、スリーパーホールドの態勢に入った。
「ね、姉ちゃん、く、苦しい……」
「うるさい!」
そう言いながらも、姉は嬉しそうに極めて来ている。
何故笑顔で僕の首を絞めるの?
「亜希ちゃんを泣かせたら、こんなものじゃすまないからね!」
姉は僕を解放して言った。
「泣かせたりしないよ、絶対」
それは姉に言われるまでもない。
「そうか、わかった」
姉はニコッとしてキッチンを出て行った。
あの笑顔、どこか寂しそうだったと思ってしまうのは、僕が姉を大好きだからだろうか?
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