僕は磐神武彦。高校二年。
凶暴な姉と、気の強い幼馴染に囲まれて生きて来た。
姉が何故か機嫌が良く、
「武くーん、お小遣いあげるゥ」
などと言って来た。
これには間違いなく裏がある。僕はそう推理した。
実は推理小説が大好きで、結構読んでいるのだ。
「はい」
「あ、ありがとう」
小遣いをもらうにも、とんでもない緊張感が漂う。何しろ、万札を渡されたのだ。
「それで、僕は何をすればいいの?」
反射的にそう尋ねてしまう。
だって、一万円も何の見返りもなく姉がくれるはずがないからだ。
「何の事よ?」
姉はそう言って笑った。ますます気味が悪い。
「それ、ダーリンから武君へって渡されたのよん。あんた、明日誕生日でしょ?」
「ああ……」
久しく忘れていた気がする。そうだ、二月八日は僕の誕生日だ。
「それで何か好きなもの買ってってダーリンが言ってたわ」
彼の話の時は、姉は基本的に言葉遣いが穏やかだ。
「そ、そう。憲太郎さんにお礼の電話しようかな」
「ああ、いいよ! 姉ちゃんがあんたの分までお礼言っといたからさ」
姉は妙に慌ててそう言った。
「そうなんだ。ありがとう、姉ちゃん」
「へへへ」
姉は照れ臭そうに笑った。
昔からそうだ。
僕が困っていると、助けてくれた。お礼を言うと、どうしていいのかわからないように慌てる。
姉ながら、そんな時だけは可愛いと思ってしまう。
そして、誕生日。
僕は何故か、同級生の都坂亜希さんと町を歩いていた。
「ど、どこ行くの?」
都坂さんは、僕に何も告げず、ずっとここまで歩いて来た。
逆らうと怖いのは、ある意味姉よりランクが上だ。
別に彼女は暴力を振るったりはしないけど。
「いいから」
都坂さんは、ニコニコしながら先を歩く。
僕は溜息を吐いてそれに続く。
「ここよ」
あ。ここは確か、誕生日の人がいると、ケーキをサービスしてくれるレストランだ。
「お誕生日のお祝いしましょ、武君」
都坂さんはそう言うと、僕の手を握り、ドアを押し開けた。
夢のようだった。
都坂さんとは幼馴染だけど、こうして二人っきりでレストランで食事なんてした事がない。
彼女は可愛いし、成績優秀だし、陸上部のエースだしで、気後れする事だらけだけどね。
「お誕生日、おめでとう、武君」
「あ、ありがとう」
僕はロウソクの火を吹き消した。
「でね」
都坂さんが椅子をずらして僕に近づいた。
「な、何?」
都坂さんは小声で、
「私と付き合って下さい。ずっと好きでした」
「!」
衝撃の告白だった。僕は蝋人形のように固まり、動けなくなった。
な、何で僕なんかと? そう訊きたかったが、何も言えない。
「ダメ?」
都坂さんが小首を傾げて尋ねて来る。
「ダ、ダメなんてとんでもないよ。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「良かった!」
都坂さん、涙ぐんでる。僕も泣きそうだ。
そして、そんな衝撃的な食事を終えて、僕達は腕を組んで歩いた。
僕は恥ずかしかったけど、都坂さん、いや、亜希ちゃんが積極的で……。
「あ」
すると、前から見覚えのある男の人が歩いて来た。
「誰?」
僕が会釈したので、亜希ちゃんが尋ねた。
「ああ、姉ちゃんの彼氏だよ」
「そうなの」
憲太郎さんは、僕に気づき、近づいて来た。
「やあ、武彦君。デート?」
「はあ、まあ」
僕は照れて答えた。
「都坂亜希です。武君とは幼馴染なんです」
「そうなんだ。いいねえ、幼馴染同士の恋愛ってさ」
憲太郎さんの言葉に、僕と亜希ちゃんは顔を見合わせて微笑んだ。
「あ、そ、そうだ、憲太郎さん、昨日はどうもありがとうございました」
僕は顔を合わせたのに何も言わないのは変だと思い、礼を言った。
「え? 何?」
憲太郎さんはキョトンとしている。亜希ちゃんが、
「今日、武君のお誕生日で……」
と言い添えてくれたが、憲太郎さんは、
「ああ、そうなんだ。美鈴の奴、何も言ってくれなくてさ。ごめんね、知らなくて」
「あ、いえ、いいんです」
僕は全て理解した。そして、憲太郎さんにそれ以上詮索されないうちにと、
「じゃ、さよなら!」
と亜希ちゃんを引っ張るようにしてその場を離れた。
「どうしたのよ、武君?」
「う、うん、別に」
亜希ちゃんも気づいたようだ。
「そうか。なるほどね。美鈴さんらしいわね」
「うん」
姉は、僕にお金を渡すのが照れ臭いので、憲太郎さんからと嘘を吐いたのだ。
「いいお姉さんね、武君」
亜希ちゃんがグイッと腕を組んで来た。
「そ、そうだね」
僕はやっぱりそんな姉ちゃんが大好きだ。
今は亜希ちゃんの次だけど。
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