僕の名前は磐神武彦。高校二年生。ごく平凡な男子。
でも僕の姉は平凡ではない。多分非凡だ。
そんな姉が、携帯で彼氏と話をしているのが、隣の部屋から聞こえて来た。
「やっだあ、リッキーたらァ。美鈴はァ、そんなに食べられないよォ」
人格が入れ替るのかと思うくらい、姉は彼との電話では言葉遣いが変わってしまう。
ちなみに彼の名は、力丸憲太郎。柔道の有段者だ。
イケメンで、スポーツマン。姉の大好物だ。
でも、そんな憲太郎さんと比べられる僕は悲惨だ。
何かにつけて、引き合いに出され、
「あんたは、もっと強くならないと!」
と言われる。
僕は別に強いばかりが男ではないと思っている。
姉に言わせると、そんなのは弱い男の言い訳なのだ。
「あーあ」
そんな嫌な事を思い出して、僕が溜息を吐いていると、
「武彦くーん」
姉が猫撫で声で入って来た。ノックもなく、承諾を待つでもなく。
もし僕が同じ事をしたら、ハイキックが飛んで来そうだ。
「な、何、姉ちゃん?」
僕は警戒心MAXで尋ねた。
「あのさあ、姉ちゃんさあ、今度の土曜日、リッキーとデートでさあ」
土曜日は姉が炊事当番だ。多分その事なのだろうと予測する。
クネクネしながら近づいて来る姉は、少し気持ち悪い。
「悪いんだけどお、当番引き受けてくれないかなあ、なんて思ってるんだけどお」
「当番を引き受ける」という言い方が罠だ。
僕は日曜日が炊事当番なのだが、それはそれでこなし、土曜日も私の代わりに働けという事なのだ。
あくまで、「交換」ではないところが、いかにも姉らしい。
かと言って、僕は拒否などという選択肢を選べるほど度胸もないし、バカでもない。
「いいよ。僕が代わりに炊事当番するよ」
もうそう言うしか、生き残る道はないのだ。
「ありがとー、武彦! 愛してるわん!」
姉はいきなり僕に抱きついて来て、右の頬に長いキスをした。
ほっぺたが吸い取られるかと思うくらい、強烈だった。
「感謝の気持ち。ウフ」
そう言い残し、姉は部屋を出て行った。
何となく嬉しい僕は「姉萌え」なのだろうか?
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